タイトル:バリカンロリスマスター:凪魚友帆

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/29 00:50

●オープニング本文


 バリバリバリバリ
「ぎゃあああああああ!」
 それは、闇夜に響く男の絶叫。
 全てが終わった後、そこに残っているのは‥‥。


「ハゲです」
 つとめて冷静な顔で、男は、傭兵たちにその事実を伝える。
 資料に添付された写真。そこには、綺麗に剃り上げられた頭が、いくつも並んでいた。
「これらは、UPCに協力するある研究所にて撮られたものです」
 その研究所では、バグアに対抗する新兵器の開発を行っていたという。研究者たちはみな優秀で、士気も十分にあった。だが今では、彼らの気力は底を突き、研究は遅々として進んでいないという。
 その原因を、作り出したものは。
「断片的な情報から推測するに、敵はキラーロリスです」
 キラーロリストは、リスのような姿をした、鋭い歯が武器のキメラである。
 しかし。この禿頭の列と、リスのキメラが、何の関係があるのだろうか。
 一拍おいて。男は、恐るべき事実を傭兵たちに伝える。
「敵は、人の髪の毛を刈り取ることを、任務として与えられています」
 ざわり、と周囲が騒がしくなる。咳払いをした男は、写真の禿頭を順番に指さした。
「彼らは、UPCに協力する優秀な技術者であり、激務によるストレスにも負けない、豊かな髪を自慢としていました。しかし、髪を奪われた今、彼らは失意の底に沈んでいます」
 たかが髪、されど髪。今はまだ髪のある技術者が狙われているが、もし、髪切りキラーロリスの狙いが、残り少ない髪を必死に保とうとする技術者に向けられたとすれば。
「自体は一刻を争います。キラーロリスは、研究所のどこかに潜み、豊かな髪の持ち主の男性を狙っています。これ以上の被害を出す前に、ぜひ」
 淡々と礼をする男から感じる、必死な気配。広い額が、汗にテカっていた‥‥。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
弓亜 石榴(ga0468
19歳・♀・GP
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
エルガ・グラハム(ga4953
21歳・♀・BM

●リプレイ本文

●作戦会議
「‥‥酷いことをするものだ」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)の呟きに、深く頷く一同。
 キラーロリスの潜む研究所へやってきた能力者たちは、研究室の一角にスペースを借り、今後の作戦を練っていた。
「キラーロリス再び‥‥ね」
 研究所の見取り図を確認しつつ、しみじみと呟く緋室 神音(ga3576)。過去にキラーロリスと闘った際には、それはもう、酷い目にあったのだ。
「髪を切るなんて、恐ろしいキメラです。心してかからないと」
 気合いを入れる石動 小夜子(ga0121)は、敵を誘い込む『罠』の中での待ち伏せを担当していた。しかし、そのためには、囮を使わなくてはならない。
「お寺に行ったら切ない事になったんだろーなー」
 のんきに呟く弓亜 石榴(ga0468)には、囮集めの秘策があるらしい。仲間たちもそれに期待しつつ、それでも、囮が集まらなかった時のことを考え‥‥。
「駄目ならやむを得ん。うちの髪で釣ろう」
『いやいやいや!』
 全員からのツッコミを受けて、少し残念そうなエルガ・グラハム(ga4953)。腰まで伸びた自慢のストレートヘアも、暑い夏には少々辛いらしい。
 ともあれ。各自の役割分担を確認して。能力者たちは、それぞれの持ち場に散っていった。

●囮捕獲
 研究所の休憩室。紫煙くゆる雑然とした場所に、エルガの姿があった。
「頼む。餌役になってくれ!」
「せめて囮役と言って下さい。餌じゃ食べられるの確定じゃないですか!」
 そういうのは、まだ二十台前半の、新人らしい研究者。もちろん、髪はフサフサである。
 研究所内での立場、髪の量、再生する可能性を考えて、白羽の矢を立てられたのが、この青年だった。ただ、どう考えても貧乏くじを引いたのは明らかなので、こうしてゴネられているのだ。
 押し問答がしばらく続き。ため息を付くエルガの背を、誰かがつついた。
「ピッチャーこうたーい」
 そういって現れた石榴は、さっきと違う服を身にまとっている。ゆるい作りの服の胸元は大きく開き、年にそぐわない豊満な谷間が、はっきりと覗いていた。
 青年の視線が、思わず釘付けになる。その隙をついて、石榴は、上目遣いで手を合わせた。
「お兄さんに危ない目がないように、私がぴったり付いてるから。ね、おねがーい」
「ぴ、ぴったり、ですか」
 ごくり、と唾を飲む青年。その隣で、エルガがこほんと咳払いする。
「どうしても無理というなら、やはり自分が囮を‥‥」
「いやいややります、やりますから!」
 確かに言質を取って。エルガと石榴は、こっそり目配せをかわした。

●詰まりの間
 同じ頃。ホアキン、小夜子、神音の三人は、敵を囲い込むための、空き部屋作りをしていた。
「大物はだいたい運んだぞ」
「データディスク類も、残らず運び出しました」
 チェック表を見ながら、運んだ品物の点検をするホアキンと小夜子。じんわり汗をかいた二人の前に、アイスコーヒーのグラスが差し出される。
「お疲れさま。ごめんなさい、私だけ動かないで」
「いえいえ。それで、何かわかりましたでしょうか?」
 こくり、と頷いて。神音は、片づけられたテーブルに広げられた、研究所の詳細地図を指し示す。
「監視カメラや目撃情報によると、敵の逃走経路は、だいたい同じ方向に向かっているの。映像から見て、敵は一体。逃げた先に、何か、重要なものがあるかもしれない」
「敵が一匹なら、こちらで退治している間に、探索するという手もありますけど」
「男の俺は、狭い場所の探索は無理だ‥‥」
 ホアキンの前で、小夜子と神音の視線が交錯する。微笑んで頷いた神音は、剣と、地図の縮小版を手に、部屋を出ていく。
「大丈夫でしょうか‥…」
「それは俺たちも一緒だ。早く準備を整えよう」
 それぞれが、それぞれの出来ることをする。それを再確認して、二人は、運び出した物の最終チェックに回った。

●這い寄る足音
 そして、作戦が始まった。
「白衣とか着てみたりして。似合う?」
 そう呟く石榴は、囮役の青年と腕を組んで、研究所内を練り歩いていた。せめてもの防備にと帽子を被った青年は、押しつけられた膨らみの感触に、囮の緊張も何も吹き飛んでいる。
 ぼうっとした青年と歩くこと十数分。音は、天井から聞こえた。
 ──カリ。カカカ。
 足音。いや、それはまるで、刃の切っ先を、研ぎ石で削っているような音だった。
「来た」
 小さな呟きは、のぼせ上がった青年の耳には届かない。小さく苦笑を浮かべた石榴は、さりげなく、戦場として選んだ会議室へとエスコートを始める。
 その、直後だった。
 ──カリ‥‥キィン!
 金属の切断される耳障りな音と共に、小さな塊が、青年の頭上へと落下する。
 鋭い前歯を持つそれは、青年の頭にとりつくと、ひと噛みで帽子を破り、その下を目指す。
 そこに割り込んだのは、鋭い手刀だった。
「やらせない!」
 物陰に隠れていたエルガの、飛び出しての攻撃。瞬時に飛び退いた敵の代わりに、青年の頭に手刀が直撃したが、髪を切られるよりはましだろう。恐らくは。
「髪を取られる前に逃げるぞ!」
「うん!」
 気絶した青年を二人がかりで担ぎ上げ。走り出したその後ろを、茶色の弾丸が猛追する。
 息切れ寸前まで加速して。なんとか青年の髪を守った二人は、敵もろとも、会議室の入り口の中に飛び込むのだった。

●剣と栗鼠
「バトンタッチ!」
 そう言うが否や、エルガと石榴は、青年もろとも床に倒れ込む。その背後で、会議室の戸が、がっちりと閉まった。
「ああ」
「はい!」
 方や直刀、方や刀を構えたホアキンと小夜子は、その切っ先を敵へと向ける。
 慌てて逃げ出そうとした敵は、壁に張り付き、一気に天井まで抜けようとする。だが、しっかりと塞がれた通気穴の前に、一瞬動きを止め。
「てい!」
 薙ぐように振り抜かれた小夜子の刀が、敵を床へと追い落とす。起きあがった敵の前に、ホアキンが剣を突きつけた。
「避けてみろ」
 次々と繰り出される剣は、牽制としてのものだ。闘牛士として、野性に対する扱いは慣れている。敵の中に、次第に溜まっていくフラストレーション。小さな瞳に怒りの炎が宿るのを、冷静に感じ取り。
 瞬間。飛びかかってきた敵の身体を、大きく弾き飛ばす。
 空中を転がるリスの身体。その下に、小夜子が、一陣の風となって迫る。
 一瞬の間。満月のように切り上げられた切っ先が、敵の身体を両断した。
 ――ギャ!
 最期にそんな悲鳴を残し。研究所を恐怖に陥れたキメラは、その生涯を閉じたのだった。

●巣
 その頃。刀を携えた神音は、研究所の奥、しばらく使われていない倉庫の中に居た。
 薄暗い室内に舞うものは、無数の髪。そして、倉庫の中央に作られた、毛造りの巣。
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
 この中に、何が潜んでいるかはわからない。しかし。
「夢幻のごとく、血桜と散れーー剣技・桜花幻影」
 この髪の本来の主のためにも。これは、絶対に消さなければ。
 粉々に砕かれた巣は、ただのチリとなり、清掃装置の中に消えていくのだった。

●戻らないもの
 事件は解決した。しかし、それで全てが戻ってくるわけではない。
「先輩! 元気を出して下さい。あの憎きキメラは居なくなったんです!」
 そう言われても、丸刈りにされた心の傷は、そう簡単に治るものでもない。髪は女の命というが、男にだって、自身の源であるのだ。
 すすり泣く男を、無言で見つめる能力者たち。その中から、エルガがずいと進み出た。うなだれた男に近づき――その禿頭に、軽く口づけする。
「ッ!」
「タデ食う虫も好き好きといってな‥‥いろんな趣味の女がいるぜ」
 彼女らしい無骨なフォローに、男と、その背後で沈痛な顔をしていたスキンヘッドたちが、ハッと我に返る。
「明るく生きろ」
 しばしの間。そして。
 ――男たちは、小さく、しかし、しっかりと頷いたのだった。