タイトル:ハニハニチョイス!マスター:凪魚友帆

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/17 14:12

●オープニング本文


 きゅいーん。
「はっ、はあ、はあっ」
 きゅいいいいいいん!
「く、来るな、う、うわああああ!」

「逃げると追う。そういう性質なのかもしれませんが‥‥」
 街の地図。その各所に示された点は、犠牲者が『それ』に襲われた場所を示している。
「敵の数は三体。それぞれが高速移動し、強烈な体当たりを行う」
 ‥‥。
「ハニワです」
 しばしの沈黙。疑いの目。
 だが、ディスプレイに表示されたピンぼけの写真は、たしかに、砂埃を巻き上げながら走るハニワの姿を映していた。
「形はハニワでも、油断なさらないように。ヤツは‥‥とにかく、早い」
 そもそも、彼らにどのような移動能力が備わっているのだろうか。そんな疑問を感じつつ。
「このハニワは、目の前を走る人間を追いかける性質があります。なぜか、車両などには反応せず、人の足だけを追いかけるのですが」
 その意味はともかく、人を追いかけている間、ハニワは攻撃を行えない。更に資料には、ハニワは、より早く走る人間を追いかけるとも書いてあった。
「もちろん、追いかけられる人間にも危険が伴います。敵の出没地点は、大方の予想がついていますので。そこから、上手く連携して、敵を攻略してください」
 ハニワとの追いかけっこなど、悪夢以外のなにものでもない。が、これ以上の犠牲者が出る前に、敵を倒さねばならぬのだ。
「我々の手で。古代のものは、土に返して上げましょう」
 皆が見上げる先。写真の中のハニワが、にやりと笑った気がした。

●参加者一覧

ネイス・フレアレト(ga3203
26歳・♂・GP
赤村菜桜(ga5494
23歳・♀・SN
遠見多哉(ga7014
26歳・♂・SN
アルト・ハーニー(ga8228
20歳・♂・DF
蓮角(ga9810
21歳・♂・AA
美空(gb1906
13歳・♀・HD

●リプレイ本文

●ウォームアップ
「それにしても、ハニワですか‥‥。バグアの考えることはよくわかりません」
 赤村菜桜(ga5494)の呟きは、もっともなものだろう。だが、バグアとはそもそも、正体不明の存在なのだ。だから。とはいえ‥‥。
「まあ。なにはともあれ、キメラは倒さないとな‥‥そういや、一応キメラの仲間なのか‥‥」
 隣に並んだアルト・ハーニー(ga8228)の頭上に浮かぶ『?』マーク。キメラとはそもそも、生物の改造体ではなかったか。つまりあれだろうか、ハニワを破壊すると、その中には‥‥。
「いや、考えないことにしよう」
「そうですね」
 半眼になった二人をよそに。仲間たちの間で、顔合わせと、作戦の打ち合わせが行われる。
「空色の悪魔といえば美空のことなのでありますよ」
 あどけない顔立ちにキリッとした笑顔を浮かべ。美空(gb1906)は、仲間たちに敬礼を送る。
「宜しくおねがいします。ああ、早くハニワに会いたいですねえ」
 おっとりと笑うネイス・フレアレト(ga3203)は、ハニワ見たさに任務に加わったクチである。だが、高速移動するハニワを引きつける囮として、十分な能力を持っている。
「鬼ごっこなんて何年ぶりでしょうかねえ」
 一方。どこか緊張感のない口調で答える蓮角(ga9810)も、バラバラに現れるハニワを一カ所に集め、一網打尽にするという任を得ている。未だハテナモードから脱していないアルトを加え、三人の囮と、ハニワを待ち受ける、菜桜、美空の迎撃組。相手とさして人数が違わない以上、各個人の活躍が、作戦の成功にかかっている。
「では、作戦開始なのであります!」
 美空の号令と共に。傭兵たちは、それぞれの持ち場に散っていった。

●レディ
「うまくいくとありがたいですけど‥‥」
 通信機での通話を終えて、菜桜はそう呟く。
 ハニワの出現予想地点の周りは、コーンや看板などで一応の交通規制を敷いている。しかし、道路の封鎖を長引かせれば、街の人々の生活に支障が出る。
「とりあえず何とかするであります」
 鈴の鳴るような声でささやきながら、美空は、おびき出し先の裏路地に網を張る。キメラ相手にそう長く保つものではないが、数分でも足を止めれば御の字だ。
 迎撃組が着々と準備を進める中。囮組の三人は、それぞれの持ち場に散り、準備運動を始めていた。
「さて‥‥」
 その一点。ネイスの背後に、ただならぬ気配が現れる。
 ゆっくりと振り返ったネイス。彼が見たものは、地上数センチに浮遊する、土気色をした――埴輪。
「あれが噂のハニワさんですねぇ‥‥」
 視線を合わせ、息を整え。
「私の足がどこまで通じるか、ちょっと楽しみですねぇ‥‥」
 呟きが終わるか終わらぬか内に。ネイスの髪と瞳が、血潮のごとき紅色に変じる。
「ではッ」
 助走もそこそこに。常人を越える早さで駆けだしたネイスの背を、かすかな駆動音を立てながら、ハニワが追いかけ始めた。

●GO!
 同じ頃。蓮角とアルトの元にも、ハニワの姿があった。
「ほんとにハニワ型キメラなんだな‥‥お持ち帰りしては駄目か?」
 そんな冗談を発しつつ。アルトの背後に――ハニワが現れる。
「それ、付いてこい!」
 ハニワ型のオーラをまとったアルトの背後から、静かに追いすがるハニワ型キメラ。シュールな光景も、本人たちは大まじめなのだ。
 そして。最後のハニワの前を、髪を振り乱し走る青年が一人。
「しっかりついてこいよハニワ共ぉ!」
 言うまでもなく追いかけてくるハニワを背にしても、蓮角は実に楽しそうだった。追いかけられた苦労の分、破壊はとても楽しかろう。覚醒の効果で好戦度を増した頭でそう考えながら、足を振り上げる。
 別々の場所から始まった、空滑るハニワとの追いかけっこ。やがて、走る三人の道筋が、だんだんと寄っていき――。
「よっし、合流成功!」
「ハッ。ハニワのヤツラ、飽きずに付いてきてやがる」
「さあ、後一息ですよ‥‥!」
 肯きあった男たちは、交互に先頭を走りながら、ハニワたちを誘導していく。
 やがて、囮組とハニワは複雑な路地に入り込む。なるべくスピードをころさないよう道を曲がる囮組に対して、ハニワは、未確認飛行物体のように、直角にコーナリングを行ってきた。
 次第に縮まっていく差。囮組の中にも、やや疲れが見え始めた。その機を感じ取ったのか、追いかける速度を上げるハニワ。
 ハニワの影が、最後尾を走る蓮角にかかるーー直前。
「よっしゃ!」

●ゴール
 前列の二人が横に飛び退いたのと、蓮角が高く跳躍したのは、ほぼ同時だった。
 綺麗な前方宙返りを描き、着地する蓮角。その背に、ハニワたちが殺到――する寸前。
「よし、かかりました!」
「作戦成功であります」
 蓮角が飛び越えた網にかかり、みっしりと抱え込まれる三体のハニワ。その周囲に、能力者たちが輪を作った。
「圧倒的ではないかわが軍はなのであります」
「逃げる前に始末をつけてしまいましょう」
 大口径ガトリングを準備する美空の前で。ネイスがファングを構え、大上段から振り下ろす。
 ――ギィン!
「く、硬いですね」
「俺にもやらせろ!」
 ザッと一歩を踏み出して。蓮角が刀を振り上げる。
 ――ギッ!
「ちっ」
「いいや。二人のおかげで、破壊点ができた」
 アルトの言うとおり、ハニワの表面には、小さいが深いヒビが入っている。その一点めがけ、クロムブレイドが振り上げられ。
「こんないいハニワをたたき壊すのは勿体ないが‥‥仕事なんでね‥‥!」
 ――ギャン!
 悲鳴のような音と共に。ハニワが、大きく砕け散る。
「おお!」
「なるほど。やり方は分かりました」
 しかし。今までの攻撃の余波で、網は大きく破れてしまった。このままでは、ハニワが逃げ出してしまう。
「みなさん、離れて下さい!」
 その声に飛び退いた先。長弓を構えた菜桜の右手に、オーラの影がたゆたう。
「――そこッ!」
 気合いと共に放たれる、さみだれ撃ちの矢。しかし、その一本一本は、残った二体のハニワの身体を繋ぎ、がっちりと固定していた。
「後は美空に任せるであります!」
 菜桜が退いた後。威容を誇るガトリングの銃口が、接着させられたまま動けないハニワに向けられて。
「フェードイーン」
 その声は、周囲を揺らす轟音にかき消され。
 一射撃五十発という圧倒的な火力の前に、ハニワたちは、土へと返されてしまったのだった。

●クールダウン
「それにしても速かったですね。危ないところでした」
 覚醒を終え、落ち着いた蓮角は、今頃になって噴き出した汗を、服の袖で拭う。
「あ。写真でも撮っておけばよかったですねえ」
 ネイスはそう呟き、ハニワがあった場所を見る。そこにはもう、欠片になった破片のみが残っており‥‥。
「赤村さん、なにをしてらっしゃるので?」
「え! あー、えっとお」
 振り返りざま、カニ歩きで去っていく菜桜。その手の中に握られたハニワの欠片は、その後、アルトの部屋に飾られることになったという。
 そして、ここにも。
「なにをしているでありますか?」
 美空の問いに、泡を食って立ち上がった蓮角は、手元の欠片をなごりおしそうに見ると、そっと地面に置いた。
「いや、何となく。お守りになるかな〜と思いまして」
 なにせ、動くハニワなのだ。これで御利益がないと思うわけがない。バグアがそこまで考えてキメラを作っていたとすれば、恐ろしいことである。
「げに恐ろしきはハニワなり、であります」
 もっともらしくうなずく美空の手には、どこからか手に入れたのか、ハニワのレプリカが握られていた。