タイトル:模擬試合inファイターマスター:中畑みとも

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/25 16:39

●オープニング本文


 竜生九子。それは、中国に伝わる伝説上の生き物で、竜が生んだ九匹の子の事を指す。
 彼らは九匹とも性格も姿も異なり、各々の性格に合わせた場所でそれぞれの活躍を見せたと言われている。
 そして、ここにその名を冠する、一つの傭兵グループがあった。
 メンバーがそれぞれ各々の得意を持って活躍することを思い、その名を付けられたグループは、新人の育成を目的としており、その為、指導メンバー以外は殆ど新人である。その上、一人前になった傭兵は、そのグループを抜けさせられるという、なんとも珍しいグループであった。

 そんな竜生九子が本部として使っているビルに、傭兵達が思いっきり戦闘訓練が出来るようにと、新しくバトルルームが作られた。大人数が入り乱れての戦闘をも想定された広さと、覚醒した能力者の全力の攻撃にも耐える強度。上階から安全に戦闘訓練を見守れるように作られたモニタリングスペースも設置されており、訓練には最適な環境である。
「よーし。最終点検も終わったことだし、タイプ別に模擬試合でもやってみっか」
 バトルルームで気持ちよさそうに伸びをしながら呟いたのは、竜生九子のリーダーである劉・飛(リュウ・フェイ(gz0062))だ。ぐるりとバトルルームを見回して、上階にあるモニタリングスペースに目を移す。そこには竜生九子のメンバーであり、グループの秘書的立場でもあるサイエンティストの女性がいた。上機嫌で手を振る飛に、女性は少し肩を竦める。
「そんじゃ、ルール作成とか宜しく」
『了解しました』
 スピーカー越しに返された声に、飛は持っていた槍を楽しげにぐるりと回した。


●模擬試合のルール
 今回の模擬試合は、『ファイター』タイプ同士で行って頂きます。
 参加条件は、自身が『ファイター』タイプであることです。参加条件に満たない者は試合に参加することが出来ませんので、ご注意下さい。
 なお、もし参加者の数が奇数であった場合は、特別に飛も(武器は対戦相手と同じもの、スキルは一切使用しない状態で)参加致します。

 対戦カードは、基本的に参加者の中で『能力値』が近いもの同士で決められます。
 カード内容は事前に参加者に伝えられますので、これによる『対戦相手の作戦・スキル等を探る行為』を認めます。(ただし、その行為によって相手が不快な思いをしないように注意して下さい)
 このとき、もし自分が戦ってみたい相手がいた場合は、その相手が試合を承諾した場合のみ、飛に申し出て対戦カードを変更出来ることとします。
 なお、バトルルームの使用時間の関係上、『一人一戦のみ』と致します。トーナメントまたはリーグ戦形式ではありません。
 試合が長引いた場合、飛の判定で勝者を決める場合があります。

 使用武器は『銃・弓以外の近接・長距離武器であれば何でも良し』とします。ただし、武器は二つまで装備可能ですが、『携帯品からの武器の持ち替えは禁止』と致します。
 その他装備に関しては、原則制限はありません。武器・装備のレベルも傭兵としての能力と考え、高レベルな武器・装備の使用も認めます。

 模擬試合中、使用出来るスキルは『一種類のみ、一回まで』と制限させて頂きます。なお、戦闘時間が長引くことを考え、『回復系スキルは禁止』と致します。同等の理由で、『携帯アイテム全般の使用も禁止』させて頂きます。
 模擬試合中に受けた負傷は、試合終了後に竜生九子で回復致します。ただし練力は回復出来ませんので、ご注意下さい。

 最後に、これは本物の武器を使っての試合とはいえ、あくまでも模擬試合であり、殺し合いではないことを理解して下さい。よって、『武器による急所等への致命的な攻撃は禁止』と致します。攻撃する際は寸止めとし、それを見た飛が『この攻撃をこのまま続ければ、相手は避けれずに致命的なダメージを受けただろう』と判断した場合、その時点で攻撃した方を勝者と判定致します。
 もし上記に記した禁止事項のうち、一つでも参加者がその行為を行った場合、飛が爽やかな笑顔でその参加者を半殺しに致しますので、ご了承下さい。


「うん。こんなものかしら。まあ、判らないことがあったら飛に聞いて貰えばいいわね」
 モニタリングルームでパソコンに向かっていた女性は、片手で凝った肩を揉みながら満足気にエンターキーを押した。

●参加者一覧

緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT
鳥飼夕貴(ga4123
20歳・♂・FT
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA

●リプレイ本文

●千影vs神音
 能力者同士の模擬戦の為に建設されたバトルルーム。
 初戦は、緋室 神音(ga3576)と蓮沼千影(ga4090)の二人で、彼等は、既にそれぞれの得物を手にバトルルームに並んでいた。
「さて、今回は基本に戻っていくわ」
 月詠を鞘から引き抜く。
 自分の中で自信のあるものを生かす。それが彼女なりの戦い方。ルールはきちんと確認しておいた。あとは原点回帰。基本的な戦い方を生かすまで。
「宜しくお願いします」
 千影は神音を前にゆっくりと頭を下げ、蛍火とバックラーを構える。
 神音とは、幾度か依頼を一緒している。依頼を通じて見てきた神音は物凄く心強い傭兵であり、彼が胸の内で尊敬する一人だ。女性相手には語弊のある言い方かもしれないが、胸を借りるぐらいの心積もりで全力であたる――彼はそう決めていた。
『3‥‥2‥‥1‥‥模擬戦開始!』
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
 呟く神音。つま先に力を込める。
(来る‥‥!)
 千影が身構えた。
 直後、彼の身体を衝撃が襲う。
「くっ、流石重てぇ‥‥!」
 一撃目を誘発するまでもなく、神音は機動力を生かし、直線的な機動を避けながらも、一気に距離を詰めてきた。そしてこの一撃だ。だが。
(‥‥足りない)
 表情には出さずとも、神音は心の内で舌打ちをした。
 基礎的な戦闘能力を言えば、神音は千影を引き離している。千影が得意とする防御能力に関してさえ、神音は千影のそれを上回っていた。しかしそれでも尚、彼女の斬撃では、千影の防御姿勢を崩せない。
「ちぃ!」
 蛍火を振るう千影。その攻撃を避け、神音は軽やかに引き下がる。
 そして地を踏みしめ、再度接近した。
 再び防御姿勢をとる千影。ダメージが軽微なのであれば、手数で勝負するしかない。彼女は二本の月詠を次々と振るい、千影に襲い掛かる。
(自分の『護る力』を試しに来たが‥‥それどころじゃねえな)
 生傷から滲む血を拭い、千影はじりと後ずさった。
 そして、その『引き』を見逃す神音ではない。先手必勝を発動して目にも留まらぬ反応を示した彼女は、千影の死角へと回り込む。更にはその機動に応じようとした千影の盾を睨み、彼女は素早く壁を蹴った。
 女性としては比較的大柄な彼女の身体が、ふわりと宙を舞う。
「‥‥」
 盾と剣に攻撃を阻まれるというのなら、その隙間を縫う。
 その為には、盾の死角から攻撃を仕掛けねばならない。そしてこのまま、着地し次第背中より襲い掛かる――筈だった。
「まだまだぁ!」
 千影が、蛍火で切り上げる。
 紅蓮衝撃を発動したそれは、彼の放つことが出来る限界の攻撃だ。
 その一撃が神音の胸をしたたかに打ち据える。
 しかし、それだけだった。
 衝撃に弾かれ、壁に叩き付けられる神音。だが、彼女はすっくと立ち上がり、先ほどと何ら変わらぬ様子で二刀流を構えてみせた。
(少し痛かったっわね‥‥)
(あれで平気って、マジか‥‥)
 もはや、勝敗は決していた。奇襲で仕掛けた一撃ですら、神音にさしたるダメージを与えられない。ダメージが軽微である事そのものは両者同じだが、スキルを併用してまでの千影と普通に攻撃しているだけの神音では詰めがたい開きがある。
 結局、そのまま数手やりあった後、千影は降参した。
「勉強になったぜ。さんきゅ、神音ちゃん」
 攻撃を受け止め続けて痛む関節をほぐしつつ、彼は精一杯の笑顔を向ける。
「こちらこそ、良い訓練になった」


「あらら‥‥兄さんらしくないなぁ」
 ビデオカメラから目を離す宗太郎=シルエイト(ga4261)。そんな彼に、シーヴ・フェルセン
ga5638)が鋭い目を向ける。
「そうは言っても、あれ以上やりあっても逆転の可能性なんてねぇだろ、です」
「まぁ、それはそうかもしれないけどね」
 残る四人は、バトルルームを見下ろせる部屋でその戦いを観戦していた。
 戻ってきた神音と千影が治療を受け始めると、代わって他の二人が部屋を出た。


●夕貴vs刑部
 再びバトルルーム。
 次にこの部屋へ足を踏み入れたのは、鳥飼夕貴(ga4123)に榊 刑部(ga7524)の二人だ。
「一人の戦士として純粋に立ち会いを行えるような機会など、滅多に無い事ですからね。存分に刃を振るわせて頂きます」
 刑部の長身が、蛍火を抜き放ち、構える。
 対する夕貴の得物も蛍火だ。無銘の刀も一本手にして二刀流の構えを取り、彼は深呼吸した。普段は女装姿で過ごしている彼も、この時ばかりはそれらの印象を封印。顔付きが違う。クールに振舞ってこそいても、心の奥底は戦いを前に打ち震えている。
「試合を始める前から勝敗を決められたら、困るしね」
 誰に告げるとでもなく、彼は呟く。
 二人が構えた事を認めて、劉はマイクに顔を近づけた。
『始め!』
 刑部は仕掛けない。
 先に仕掛けたのは、夕貴だ。覚醒状態へと移行した彼は、ピンク色の髪を揺らし、大柄な榊の懐へと迫って蛍火を振るう。そうはさせじと地を蹴る刑部。紙一重で、蛍火は彼の胸元を裂いた。
 もう一歩踏み込んでいれば直撃コースとして寸止めであったろうし、或いはもう一瞬早く飛びずさっていれば、かすりもしなかったろう。
 両者共に、一言も発さない。
 刑部が相手の隙を窺って手を出さぬ一方、夕貴はひたすら攻撃を仕掛けた。
(攻撃は最大の防御‥‥!)
 彼は刑部の実力は、自分の能力を大きく超えていると判断していた。神音を前にした千影と同じように、胸を借りるつもりで勝負に臨んでいる。
 しかし、負けるつもりで戦っている訳ではない。ならばだ。実力で劣るというのであれば、隙を作らぬ為にも、手数で攻め立てる――企図した作戦は単純であったが、彼の作戦は的中した。
「ム‥‥」
 刑部としは、相手の隙を突いて一撃で勝負を決める考えだった。
 しかし、その隙が見つけられない。二撃、三撃と回避を試みるが、一撃目と同じく、紙一重の差で避けきれない。自然、ダメージは蓄積していく一方で、相手の隙を突くだけの余裕を得られなかった。
 四回目の攻撃を、彼は大きく引き下がって回避すると、その場で体勢を立て直し、防御手段を切り替える。
 回避に拘らずに防御姿勢をとり、迫る刃を払いに掛かったのだ。
 夕貴の刀を打って払う刑部。
「くぅ!」
 負けじと、夕貴は深く踏み込む。蛍火が空を切るも、その一撃が刑部に届く前に、刑部の蛍火に跳ねられる。跳ね退けられた刃が、刑部の肩を裂く。それでも、その瞬間、夕貴の姿勢は大きく崩れていた。
 今こそ好機。
 防戦一方で攻撃を捌いて来た刑部が腰を落とす。
 払ったままに横に飛んでいた蛍火を強く握り締め、利き足と共に腕を振るう。流し斬りの体勢だ。横薙ぎに、抜き打たんと迫る。
「‥‥」
 気迫の塊となって迫る刑部。
 彼を前に胴体を晒した夕貴は、苦し紛れに足を持ち上げる。
 腕や胴ががら空きなのだ。足でも出すしかない。しかしそれも苦し紛れの蹴りでしかなく、刑部の素早い動きには、到底追いつけるものではなかった。
(負けた!?)
 覚悟する夕貴。
 だが――刃は夕貴の元に届かなかった。
「――ッ!?」
 蛍火の切っ先が、障害物の壁を砕いていた。
 彼らしからぬミスだった。目測を誤ったからか、或いは単なるミスからか――まったく、不運と言う他無い。
 身体全体のバネで相手を打つのが刀、剣術というものだ。
 だがその刀が障害物に足を止められてしまっている。能力者の振るう刀であるが故に辛うじて突破したものの、その剣筋は既にバランスを崩しており、直後、夕貴の足が顎を蹴り上げた。

 一瞬の攻防に、観戦席の傭兵達も息を飲んだ。
「はぁっ‥‥はぁっ‥‥」
 肩を揺らす夕貴。
 眼前に突きつけられた刃を睨み、刑部が溜息をつく。夕貴の勝ちを告げる劉のアナウンスと共に双方は刀を納め、深く一礼した。
「有難う御座います。とても参考になりました」
 敬語で応じる夕貴。
「いや、私も、まだまだ修行不足です」
 そう言って、刑部は軽く目を伏せた。


●宗太郎vsシーヴ
「良い試合だったぜ」
 戻ってきた勇気の背中を叩く千影。
 神音は腕を組んだまま先ほどの動きを脳内でシミュレートし、如何に動くべきであったか、自分であればどう動いたであろうか、と想像力を働かせる。
「二人とも準備は?」
 劉のアナウンスに、観戦席の四人が窓際へ集まる。
『見れば解りやがるだろです』
 ユンユクシオを掲げ、声をあげるシーヴ。
『こっちも準備オーケーだ』
 宗太郎もまた、長さ3mはあろうかという長槍を掲げ、問いかけに答えた。
「では‥‥始め!」
 その言葉と共に覚醒する双方。
 シーヴが、ぺこりと頭を下げた。
「宜しくしやがってくれ、です」
「あぁ。けど悪いが、火傷は覚悟しといてくれ。爆炎の加減は出来ねぇからよ!」
 双方が身構え、間合いを計る。
 二人とも、積極的な攻勢に出るつもりは無いようだった。宗太郎は槍を手に歩み寄って威嚇するものの、シーヴは剣でそれを払う。かといって、宗太郎の攻撃も所詮は威嚇。シーヴがそれを払ったからといって、そこに乗じるだけの隙も無い。
 宗太郎としては、これで良い。
 一歩踏み出すと共に牽制。例え当たらずとも、その牽制でシーヴが引き下がれば、彼の狙い通りという事になる。
(困った事になっちまった‥‥です)
 じわじわと後ずさりながら、シーヴは歯噛みした。
 宗太郎の得物は槍であろうと、彼女は、そう『信じて』いた。自分自身が、普段と変わらぬ自分のスタイルで挑むのと同じように、宗太郎も自身が最も得意とする戦法で模擬戦に臨むであろう、と。そう考えて対策を立ててきた。
 そして、それは正しかった。
 ならば何故、彼女が困っているのか。
 二人の戦いは、今のところ互角に見えたかもしれないが、少しずつ後退を強いられている以上、シーヴは、何時か追い込まれてしまう。それも、相手が大きな一撃を繰り出してこないので、攻撃時の間合いを測るに測れない。
「てやぁ!」
 そんな最中、宗太郎が飛んだ。
 シーヴの背後には壁が迫っており、彼は、今ならばいけると睨んだ。
「くっ!」
 目の前を掠めていく槍の穂先。飛びのいたシーヴの足元目掛け、宗太郎は足払いを仕掛ける。直後、火花が散った。
 シーヴのユンユクシオだ。
 鍔で穂先を受け、彼女は床を蹴って駆ける。
 剣はそのまま。槍から離さず、接近する彼女の動きに合わせて柄を走り、ガリガリと擦れる音を立てている。
「俺の懐は弱点じゃねぇ!」
 叫び、身構える宗太郎。
 その警告にも関わらず、シーヴはそのまま突っ込み、足を止めない。
 弱点ではない、と言われた所で、今更作戦を変更する余裕も無い。
 宗太郎の片手が槍から離れたかと思うと、肉薄するシーヴ目掛け、掌が鋭く叩き込まれる。鳩尾に沈み、独楽のように回転する掌。シーヴは暫し表情を歪めたが、普段通りの表情を崩さず、剣を走らせた。
 能力者相手に素手では、どうにも分が悪い。
 宗太郎は続く蹴りで翻弄しようとするも、剣は逆袈裟に走っている。狙った通りの蹴りが飛ばない。
(まずい‥‥!)
 たまらず、引き下がる宗太郎。
 剣の切っ先が覚醒状態故の金髪を掠めていく。直撃ではなかった。なかったが、シーヴの作戦通りだった。
 彼女が握り締めるユンユクシオは両手剣。
 彼女の剣は、今来た剣筋を戻るかのように振り下ろされる。
 当たる筈も無い距離だ。
 それでも彼女は、もう一歩を踏み込まない。宗太郎の懐で、剣が空を切った。そしてそのまま動きを止めるシーヴ。息を飲んで、宗太郎は暫く動かなかった。
「む〜‥‥ハァ」
 唸っていた彼は、冗談交じりに首を傾げた。
「ソニックブーム、かな?」
「よく解りやがったな、です」
「やっぱり」
 そっと剣を下ろすシーヴ。
 達人は達人を知る――と言えるだけの達人かどうかはともかく。宗太郎は、シーヴがあえてもう一歩を踏み込まなかった理由を理解したし、シーヴはそれに気付くだろうと思って動きを止めた。
『そこまで、シーヴの勝ち!』
「うーん、負けちゃったな」
 覚醒を解く宗太郎。髪や肌の色が元に戻っていく。
「有難うでありやがったです」
 劉のアナウンスを耳にして、シーヴは宗太郎に頭を下げた。

<代筆:御神楽>