●リプレイ本文
ふわふわと空に浮かぶフェアリーの足元で、アーミー服の男達はぽかーんと口を開けていた。
目の前に立つ2人の女性に、目が釘付けである。
「ニャンコー! ニャンコちゃーん!」
「うおおおお! 妖狐萌えー! 巫女萌えー!」
異様な熱気に、雪野 氷冥(
ga0216)は『してやったり』と満足気に口角を上げた。襟や胸などの主な箇所にふさふさのファーがついた黒い全身タイツと、猫耳に猫尻尾を装着した雪野は、ノリノリでアーミー服に手招きしたりしている。
一方でその隣にいる、狐耳と尻尾に巫女服を着た夕凪 沙良(
ga3920)は、アーミー服の良過ぎる反応に戸惑っていた。恥ずかしそうにさり気なく尻尾を隠す様子に、アーミー服が更にヒートアップする。
「これは行けんじゃねぇーの?」
アーミー服の様子に、蓮沼千影(
ga4090)がにやにやと腕を組んだ。と、アーミー服らの後ろにいた隊長が、怒ったように声を張り上げる。
「惑わされるな! あれはただのモンスターのコスプレ! 着ているのは人間に過ぎん! それに比べて、フェアリーちゃんを見ろ! こちらは本物モンスター! 偽者に騙されるな!」
その言葉に、部下達がハッとして隊長を見上げた。
「そ、そうでありました、隊長!」
「申し訳ありません隊長!」
「謝る相手が違う!」
「申し訳ありません、フェアリーちゃん!」
一斉に叫んで、フェアリーに向かって敬礼をするアーミー服に、レーヴァ・ストライフ(
ga1925)が哀れそうな目を向ける。
「駄目だこりゃ。とんだマニアだな」
「引き篭もりよりマシ‥‥いや、周囲に迷惑をかけている時点で、引き篭もり以下ですね」
無表情に吐き捨てたのは夏影 優樹(
ga3767)だ。隊列を組み直すアーミー服に、雪野と夕凪も肩を竦める。
「まあ、とりあえず‥‥ユダ達を注目させるってのには成功したか」
レーヴァの言葉と共に、アーミー服の頭上に影が舞い降りた。
太陽を遮り、二挺の拳銃を構えながら現われたのは、獣耳のカチューシャを付けた御影・朔夜(
ga0240)だった。着ているメイド服のリボンを翻しながら、引き金を引く。
「うわわわわわっ! た、退却ー!」
悲鳴を上げ、アーミー服達が慌てて逃げ始めた。散り散りに駆け出すアーミー服に、隠れていた漸 王零(
ga2930)が眉を顰める。
「む、これはいかん」
漸が近づいてきたアーミー服を剣で切り付け、逃げようとする者の襟首を掴んで引きずり倒した。見れば、物凄い脚力を発揮して遠くへ逃げ出している者もいる。
「逃がさないよ」
水着のような服に蝙蝠の羽と細い尻尾をつけた遠石 一千風(
ga3970)は、瞬天速を使ってアーミー服に追いついた。顔を引き攣らせるアーミー服ににやりと笑って、ファングを振り上げる。
瞬間、殺気を感じた遠石は咄嗟に後ろへ飛んで避けた。目の前を光弾が通り、土を抉る。ちっ、と遠石が舌打ちをした。頭上に、3体のフェアリーが浮かび、こちらへ向かって両手を掲げている。
「キメラは任せろ!」
両手に光を集めるフェアリーを、レーヴァがロングスピアを振り回して散らした。そこに小銃を構えた夏影が、フェアリーに向かって引き金を引く。弾丸が羽を掠り、フェアリー達の目が夏影を睨みつけた。その間に、夕凪が村人達の避難を促している。
フェアリーの両手から発射される光弾を避けつつ、夏影がフェアリーの動きを分析する。動きは素早いが、知能は低いのか単調だ。光弾も直線的な動きなので、角度さえ判れば避けるに難しくない。
それでも、レーヴァと夏影はフェアリーの射程範囲から離れることなく、かといって積極的な攻撃をするでもなく、撃ち落される光弾を避けるだけに留まっている。村人を避難させた夕凪が戻ってきても、そのスタイルは変わらなかった。次第に、フェアリー達もイライラしてきたのか、高度を下げて近距離で光弾を撃ち始める。
「っ! おい、さっさと片付けろ! こっちはキメラ相手だ‥‥手加減する余裕も意味も、本当はないんだぞ!」
「判ってるけど足速いのよ、こいつらー!」
ジリッと服の裾を焼いていった光弾に舌打ちして、レーヴァが声を上げた。それにヴィアを構えた雪野が叫び返して、逃げるアーミー服を追いかけ、その背中にとび蹴りを喰らわせた。
「愛するキメラを残して逃げるか‥‥笑わせてくれる」
御影が広がるスカートの裾を蹴り飛ばすように地面を蹴り、アーミー服の足元を狙って二挺拳銃を構えた。足首を撃たれたアーミー達が転げ回る。
「全く、愚かしい奴らだ。人間の風上にも置けん。少しは抵抗しろ」
つまらなそうに漸が呟けば、風を切る音と共にヴィアが翻った。アーミー服の悲鳴と共に、血飛沫が舞う。
「さあて、じゃあ女性型モンスターらしく、容赦なく攻撃させて貰おうか」
キメラの光弾は、レーヴァ達に防がれているお蔭か、こちらまではやってきていない。その間に、遠石は逃げるアーミー服を引き摺り倒しては拳を叩きつけ、次々と気絶させていく。
「ははっ! すげぇすげぇ! うちの女性陣の戦いっぷりの方が、よっぽどときめくぜ!」
ソードを振り回し、蓮沼が豪快に笑う。しかし、アーミー服はその言葉に対抗する余裕もないのか、わぁわぁと逃げ惑うばかりだ。
そんなアーミー服に対し、フェアリー達も自分達に攻撃してくる者を排除することを優先し、アーミー服達を守ろうとする素振りを見せない。見捨てられたとも言っていいアーミー服達だが、彼らも『愛する』と言っておきながら自身の命惜しさにフェアリー達を置いて逃げようとしているので、五十歩百歩だろう。
既に乱戦と化してしまっている中で、レーヴァは飛び掛ってきた一体のフェアリーを避けつつ、ロングスピアを振り回した。確実にフェアリーを叩き落せると思ったが、上から光弾を落とされ、軌道を変えられてしまう。ロングスピアは折れることはなかったが、衝撃はレーヴァの腕を伝わり、痺れさせる。その隙を見つけたのか、体当たりを避けられたフェアリーが両手を翳した。
「右に飛んで下さい!」
鋭い声に、レーヴァが咄嗟に従うと、空を切って矢が飛んで来た。矢はレーヴァの胸を掠り、フェアリーの腕に突き刺さる。声にならない悲鳴をあげたフェアリーに、次々と弾丸が打ち込まれた。蝶を思わせる可憐な羽が見るも無残な姿になり、フェアリーの小さな身体が地に落ちる。
それにレーヴァが振り向くと、弓を構えた夕凪と、小銃を構えた夏影が立っていた。
「ユダの確保が終了するまで待っていられません。もうやってしまいましょう」
夏影が言えば、夕凪が新たな矢を番える。レーヴァも、了解したように頷いた。アーミー服達は散り散りになっていて、既に追いつけない程にまで逃げてしまっているのもいる。当初の作戦としてはユダを掃討してからキメラに向かうつもりだったのだが、全員を捕まえるのを待っていたら、こちらの体力が持たない。
「仕方あるまい。ユダは逃がしても、キメラは必ず倒さねばならんからな」
大事の前の小事なし、と言わんばかりに、今まで追いかけていたアーミー服から身を翻し、漸がフェアリーに襲い掛かる。両手を翳すフェアリーに刀を薙ぐと、小さな指が斬り飛ばされた。痛みに甲高い声を上げて、フェアリーが光弾を乱射する。
「うわっとと!」
突然向かってきた光弾に、蓮沼が慌てて飛び退った。アーミー服の襟首を捉えた雪野も、腕スレスレに飛んで来た光弾に冷や汗を掻く。
「ちょっとこれは面倒かも? 捕まえたユダだけでも縛っといて、キメラ殲滅に向かおうか」
「その方が良さそうだな」
捕まえたアーミー服を足蹴にして地に這わせていた御影が、雪野の提案に従ってアーミー服を蹴り飛ばす。痛みに呻くアーミー服達を蓮沼が一ヶ所に纏めた。アーミー服達は怪我が痛いのか、逃げる気もなくしたのか、力なく呻くだけで動かない。
「ユダは弱い奴らだったが、キメラは楽しませてくれるんだろうな!?」
既にユダに飽きてしまったらしい遠石が、喜々としてフェアリーに向かって駆け出してファングを繰り出す。一体を執拗に追う遠石に、もう一体のフェアリーがその攻撃を妨害しようと光弾を繰り出すと、ヴィアを掲げた雪野がそれを防ぐ。
光弾を繰り出した後で隙の出来たフェアリーに、御影の撃った弾が飛んで来た。咄嗟に避けるも弾は片羽を貫き、空を飛べなくなったフェアリーの身体が傾ぐ。そこに、蓮沼のソードが翻り、フェアリーの身体が両刃に斬り飛ばされた。
最後の一体になってしまったフェアリーは、遠石のファングによって追い詰められていた。ファングが羽を掠めてバランスを崩した瞬間、レーヴァのロングスピアがフェアリーの胸を突いた。小さな体は、それだけで呆気なく両断される。
ぼとりと、まるで壊れた人形のように、フェアリーは地に落ちた。
任務終了の旨を本部へ告げれば、ユダの連行の為に直ちにそちらに向かうと返答がやって来た。それを受けて、夕凪は安心したように溜息を吐く。が、その目がアーミー服の山へと向けられると、怪訝そうに小首を傾げる。
「‥‥隊長って服何色でしたっけ‥‥?」
「え? オレンジじゃなかった?」
「黄色だろ」
夕凪の言葉に、同じく小首を傾げて雪野が答えれば、覚醒時の興奮がすっかり収まった遠石が訂正した。それに夕凪が困ったように振り替える。
「全部‥‥緑なんですけど‥‥」
「なにぃ!?」
その言葉に、蓮沼がアーミー服の山を蹴飛ばした。うーあーと呻き声を上げながらバラバラと落ちるアーミー服を見下ろし、蓮沼が愕然と叫ぶ。
「マジか! あんにゃろう、部下を見捨てて自分だけ逃げやがったっつーのか!?」
「とんでもない奴だな」
憤慨する蓮沼に、漸が不快そうに眉を顰める。
「ちきしょう‥‥絶対次は捕まえてやるっ。今度は俺が女装してやらぁっ!」
「何? セーラー服でも斬る? 用意してるよ?」
悔しそうな蓮沼に、雪野がにやにやと近づけば、遠石と夕凪が顔を見合わせて苦笑した。それに、夏影が無表情に振り返る。
「‥‥お疲れ様でした。実にマニアックな敵でしたね」
「確かにマニアックな‥‥」
夏影の言葉に答えたレーヴァが、少し離れた場所に立つ御影を見る。
「‥‥何だ」
「ククッ‥‥ハハハッ! あー、いや、良く似合ってるぜ? マジで女にしか見えねぇよ。まさか、お前がそんな格好するとはねぇ」
にやにやと笑うレーヴァを、御影が不快そうに睨みつけた。
「はー、今日は良いもん見せて貰ったぜ。精々、その綺麗な顔を傷付けられない様にするんだな」
言って、未だに笑い続けるレーヴァに、御影は鼻で息を吐くと、獣耳のカチューシャを乱暴に取る。
「今度はもっとまともな相手がいいな‥‥色んな意味で‥‥疲れた‥‥」
はぁ、と溜息を吐いた遠石の呟きは、場違いなほど爽やかな風に流されていった。
■フェアリーの退治
■任務終了!