タイトル:村長の息子を救出せよ!マスター:中畑みとも

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/17 17:16

●オープニング本文


 カサリ、カサリ。嫌な音が聞こえてくる。
 狭い暗闇の中で、1人の男性は身を縮ませて息を潜ませていた。頭に過ぎるのは大切な友人達、大事な両親の顔。
 ああ、父さん達は無事に逃げられただろうか。怪我はしていないだろうか。

 しかし、そんな事を考えている余裕は、男性にはなかった。そぉっと目の前にある穴から外を覗く。そこには、体長が人間ほどもある虫のようなキメラが村を闊歩しているのが見えた。
 そう、男性の村は、キメラによって侵略されてしまったのだった。
 男性は、村長の息子である。もう老体である村長に代わり、村人を助けて逃がしていたところ、自分だけ逃げ遅れてしまったのだ。
 男性はキメラがウロウロと歩き回る危険極まりない村の中で、1人取り残されてしまった。

 ああ、神様。助けてくれ。

 キメラがうろつく村の、ほぼ中心にある1つの小屋。
 そこに、食料が入っているらしい沢山のダンボール箱が重なって置かれていた。
 その1つ。引っ繰り返った空のダンボール箱の中で、男性は祈るような気持ちで両手を握り締めていた。

●参加者一覧

シェリル・シンクレア(ga0749
12歳・♀・ST
一条 真白(ga0971
17歳・♀・GP
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
ジェット 桐生(ga2463
30歳・♂・FT
醐醍 与一(ga2916
45歳・♂・SN
ラマー=ガルガンチュア(ga3641
34歳・♂・FT
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT

●リプレイ本文

 ──どれ位こうしていたか判らない。
(「いけない‥‥」)
 外から見えないようにと自分の周りに積んだ段ボール箱の山の中で、何時の間に寝てしまっていたのだろう。
(「あれから何時間経ったのかな? キメラはいなくなったのだろうか?」)
 村長の息子は、何か物音を聞いたような気がしてビクリと体を緊張さる。
 小屋の天井から大きな物が這い回る音が聞こえて来る。
 咽の奥から競り上がって来る悲鳴を、口を両手で必死に押さえていた。

 ***

「ある程度予想していたけど、全くUPCの貸出係ってなんて役に立たないのかしら」
 耐熱・対赤外線スコープを貸し出せないと言われたシェリル・シンクレア(ga0749)は、断れた事を思い出しがっかりと言う。
「村に入る前に、村長さんたちから村の地理を教えて貰えれば、きっと大丈夫ですよ」と一条 真白(ga0971)が肩を竦めて言う。
「そうですね。地図では判らない場所とか教えてもらうのが必要でしょうね。あと、保護対象の男性の目撃情報も必要ですね」
 新居・やすかず(ga1891)も同意する。
「人家の少ない山野や田畑なら、キメラが分散していて、逃げられてしまうだろうしな。できれば村の中心地、商店や集会所のある所で陽動作戦をしたいものだ‥‥」
 ジェット 桐生(ga2463)が頷く。

 現在、能力者達に齎されている情報では、保護対象の男性が村の中にいると言う事とビートルらしい昆虫型キメラが数体いると言う事だけである。
「下手に陽動を起こすと救いに来たはずの男に跳弾に当たるとか可能性あるしな」
「その冗談は、笑えないよ〜」
「最優先は人命救助ですからね。これまでになく緊迫した仕事になりますよ。焦らず、それでいて迅速な行動が必要になりますね」
 やすかずが頷く。
「男性を村の外に送りだした後、余裕があるならば村に残ったキメラの殲滅。これがベストだな」
 静かにフォルトュナ・マヨールーの手入れをしていた醐醍 与一(ga2916)が口を開く。
「ああ、キメラが徘徊する中で一人なんて危なくて仕方ねぇぜ。早く助け出してやねえとな」
「そうだね‥‥そんな勇気のある青年は絶対に死なしてしまう訳にはいかないよ‥‥!」
「全くだ。その勇気と責任感は大いに見習うべきだろうな。そういう気概のある男にはこれからも生き残って村人達の為に是非働いて貰わないといけない。必ず助け出してやろうぜ!」」
  ラマー=ガルガンチュア(ga3641)の言葉に威龍(ga3859)が頷く。
「しかし、要救護者は頑丈な建物に立て篭もったか、村の中央へと追われて身動きが取れなくなったか、そんな所が考えられますね」とやすかずがいう。
「何にせよ。今俺達の手元にあるのは、可能性でしかない。村長達に確認するのが第一だな。村長の息子が隠れそうな場所に目星をつけ迅速な救出が必要だろう」と蓮沼千影(ga4090)が言う。
「そうですね。到着までの間、もう一度作戦内容を確認しておきましょうか?」

 ***

 村長達から村の様子を確認する為に避難所に能力者達はやって来た。
「村を放棄してもいい?」
「はい」
 村長が答える。
「生きていれば、こんな時代です。大変かも知れませんが新しい村を起こす事もできるはずです‥‥」
 こんな時代だからこそ命を大事にしたい。と村人達が言ってくれたのだと言う。
「俺達は神様じゃねぇが、能力者だ。絶対に息子は助け出してみせる。勿論村も、な」
 力強く千影が言う。

 ***

 村の地図と村人達の証言から目撃されたビートルの数は、5匹。
 双眼鏡等を利用して村の外から確認出来たレベルでも特に目立ったキメラの動きはない。
 そして村長の息子が隠れていそうな場所は、村のほぼ中央にある村の倉庫として使われている小屋だと予測された。
 だがその小屋は、緊急時の備蓄用倉庫なので村の中心に3ケ所あるのだという。
「不安はあるが、協力しあえば決して倒せない数じゃないな」
「ビートルには何種類かいるらしいですが、どのビートルかは不明だそうです。それを考えるとどれだけ迅速に要救護者を避難させるかが大事ですね。‥‥時間を置くと虫が増えている。なんてことがあればこちらが不利になりますからね」
「それは勘弁して欲しいかも。私、虫『嫌い〜〜〜〜〜〜〜っ!!』だから」
 シェリルの言葉を聞いて、ぷるぷると真白が言う。
「虫、嫌いなんですか?」
「虫って潰すと虫の血みたいな黄色っぽい液体っぽいが嫌い〜‥‥気持ちわるぃー‥‥ビートル潰しても絶対かかりたくないよね〜‥‥」
「虫って『白、黄、紫』に寄ってくる確率が高いらしい。黄色い布でも纏っていこうかな。実際に効果あるかわかんねぇが、気休め程度に」と千影が言う。
「ええ、白に寄るの?! 本当?」
 思わず髪を押さえる真白。

 ***

「目視出来た虫の数は、4匹です。要救護者のいる小屋付近に2匹。村の入り口に付近に2匹。あと、1匹の位置が不明です」
 今回全体の指示を担当する事になったシェリルが全員を見回し乍ら言う。
「ビートルは統率された軍隊。群れのように動いてはいなさそうだな」
 そう、ジェットが言う。
「そのようですね。なので、まず村の入口付近の虫を退治していき、村の一番大きな通りで残りの虫を誘き出しましょう」
「一部に攻撃を仕掛けるだけで大勢の注意を引けない場合もあるだろう。積極的に攻勢を継続する必要があるか‥‥俺は、路地の間など、大通りから外れたキメラも積極的に釣るか?」
「確かに理想はそうだと思いますが、ビートルの戦闘能力が明確に判らない今、それは得策じゃないと思います」
「そうだな。皆で協力し、一体ずつ確実に撃破するほうがいいだろう」
 千影が同意する。
「僕は、与一さんと一緒に先行して偵察と捜索をしますね。1人が周囲を警戒し、1人が捜索すれば安全でしょうから」とやすかずが言う。

 話し合いの結果、班分けは次の通りになった。

 陽動班:シェリル、ジェット、ラマー、千影
 捜索班:やすかず、与一
 救助班:真白、威龍

「わしらが村長の息子を見つけたら、まず照明弾を上げて全体に知らせればいいんだな?」
「そうです」
 与一の言葉を肯定するシェリル。
 捜索班と救助班は、陽動班がビートルを引き付けている間に村に入り、村長の息子を捜索するのだ。
「じゃあ、あたしは陽動に引っかからないでうろうろしてるの相手に暴れるわよっ!」と真白。
「照明弾が上がったら、陽動班も一旦、体制を立て直しと情報交換を兼ねて村の外へ退避。合流後、村にいる虫の数と戦闘能力。要救助者を高速艇に送り届けた後の残り時間。体力と錬力。それらを鑑みて殲滅可能かを判断しましょう」
 こうして村長の息子の救出作戦が始まった。

 ***

 千影が黄色い布を通りに大きく広げる。
 向日葵柄やら水玉模様のハンカチやスカーフ、ペールイエローからサフランイエロー。村長の息子を助けたいと村人達が、避難所でかき集め縫い合わせた布である。
「さあさあ、寄っておいでよ! 何匹だろうと薙ぎ倒してあげよう!」
 ラマーがビートルを誘き寄せようと大きな声を張り上げる。
 人の気配を感じた人の大きさのビートルが2匹モゾモゾとやってくるのが見える。
「意外と動きが鈍いか?」
「そうですね。でも油断は禁物です」
「さあ、もっと寄って来い。おまえの相手は俺だぜ」
 千影がソードを構える。
「背中は硬そうだが、脚や関節、腹はどうだ? 敵の動きをよ〜く見て攻撃だぜ」
「まず、手前の少し小さい虫を攻撃しましょう」
 シェリルが指示を出す。
 ファイター達が手前のビートルとの間を詰める間、シェリルが後方のビートルを牽制する為に超機械一号を発射する。

「この場はドドメにこだわらず、移動と攻撃が出来ないようにすれば良いだろう」
 スコーピオンから刀に切り替えたジェットが言う。
「勿体無い。どうせならここで撲滅する気でやろうぜ」
「体力を温存したい所だが、そうも言っていられないようだしね。多少の無理なら覚悟しているよ‥‥!」
 ソードを振う千影の言葉にラマーも同意し、バトルアクスを振り下ろす。
 SES搭載武器の力は能力者が覚醒して、武器にエネルギーを付与して初めて能力を発揮する物である。
 覚醒しなければ、幾ら能力者が持っていても旧式の武器と変わらないのである。
 能力者の持つSES搭載兵器を能力者以外が使用出来ないと言われているのは、その為でもある。

 陽動班がビートルと接触した連絡を受けた捜査班と救助班が村の中に入る。
「何か見える?」
「いや‥‥」
  フォルトゥナ・マヨールーを携え隠密潜行を使いながら先行する与一の後ろを守るようにやすかずが後ろを着いていく。村の中心部から村人達から教えてもらった点在する小屋の位置を村の外へ向かって捜索していく。
 真白が村の中心部、大通りに待機し、威龍は与一達の捜索から外れるその他の部分をあたっていく。
「出たな‥‥」
 威龍がビートルと接触した事を仲間に連絡をする。
「まだ、こちらには気が着いていないようだ。1人で倒せるかどうか、攻撃を仕掛けてみる」
『応援いる? すぐ、そっちにいけると思うよ』
「無理だと思ったら、すぐに撤退する。不味いと思ったら瞬天速で逃げるさ。このまま真白さんは与一さん達のカバーをしてくれ」
 無線を切り、ファングを構える威龍。
「さて‥‥俺の力がどれ程通じるか試させてもらおう」
 ビートルの前に飛び出す威龍だった。

 ***

 ──ガタ、ガタガタガタ。
 小屋のドアが激しく揺れる。何者かがドアを揺すっているのだ。
 慌てて、ドアを押さえる村長の息子が、外から強い力にドアごと吹き飛ばされる。
 飛び込んで来た大きな2つの影に驚き、村長の息子の口から大きな悲鳴が上がる。
「うわぁあああああ!」
「おっと大声出さないでくれよ」
 頭を抱えて蹲る村長の息子は、掛けられた言葉に驚き、恐る恐る顔を上げる。
「人間‥‥?」
「能力者だ。わしはあんたを助けに来たんだ。もう大丈夫だぜ。今すぐこっから出してやるからな」
 厳い与一が笑う。
 村長の息子を発見した印にやすかずが照明弾を打ち上げる。
 これを目安に陽動班は事前に打ち合わせていた合流場所に一度撤退する。

 与一とやすかずに合流する真白と威龍。ビートルの情報を確認し、脱出である。
「威龍さんの方は、どうだった?」
「単独で倒すには、無理だったな。脚1本が限度だ。他のキメラは、撤退中に見ていない」
「という事は、手負い1匹に。無傷が2匹で居場所が不明ですね‥‥僕が先行して退路を確認しましょう」とやすかず。
「じゃあ、私は前衛ね。守るために頑張るよーっ! 護衛、大変だもんねっ!」
「なら俺は殿だな」

 村長の息子を中心に隊列を組み、突入をした村の入り口とは反対側にある村の出入り口を目指す。
 先行していたやすかずの手がさっと上がり、物陰に隠れるように指示が出る。
 指差す方に1匹のビートル。
「脚が全部揃っているから威龍さんが遭遇したやつとは違いますね」
「後ろに戻るのは危険だな。敵は1匹だ。このまま進んだ方が早いだろう」
「そうと決まれば蹴散らかす迄だ」
 スコーピオンのマガジンを確認するフルバーストでビートルの動きを牽制する与一。
「おらおらおら! こっちは急いでんだよ! 邪魔する奴は蜂の巣にしてやるぜ!」
 やすかずに連れられて村長の息子が先を急ぐ中、威龍と真白のファングが、ビーストの腹を引き裂いた。

 ***

 やきもきして待っていた陽動班と捜索・救出班が合流したのは1時間後であった。
「これで最低限は達成だ‥‥さぁてさて‥‥」
「故郷がなくなることほど悲しいことはねぇ。もうひと頑張りだ」
 抱き合って喜ぶ村長と息子の姿を横目に村奪回の作戦を練る能力者達。
「残りは後、2匹ですね。内、1匹は威龍さんが脚を切っているという事ですから、村の中から出ていないと思います」
 シェリルが敵と遭遇した場所を地図に書き込んで行く。
「体力・練力的に余裕のあるうちに敵の主力を片付けたい所だが‥‥最後の1匹の行方が知れないのは気になるな」
 ジェットが不機嫌そうに言う。
「何処かに入り込んでしまったか、それとも逃げたか‥‥」
「どちらにしても他にもビートルが入り込んでいないかの確認も必要ですから、家を一件ずつ当たりましょう」

 銃を持つ者は弾を補充し、刀やファングを持つ者は刃毀れがない事を確認すると再び村へと向かう。
「必ず、村を皆の元に返すぜ!」
「これでも食べて待っていて下さい」
 ラマーが持っていたケーキバーを村長の息子に渡す。
「本気で暴れちゃうよーっ♪」
 後ろを気にしないで良いから気分も楽だしねっ♪
 真白がウィンクする。

 能力者達が総出で探した所、威龍が傷を負わせたビートルと行方の判らなかったもう1匹のビートルもすぐに発見された。
「さて‥‥村も返して貰おうかな!」
 そう言うとラマーがバトルアクスを最後のビートルの頭に叩き込んだ。

 ***

「ありがとう‥‥本当、ありがとう」
 高速艇に乗り込み、ラスト・ホープに戻ろうとする能力者達に礼を述べる村長を始めとする村人達。
 村長の息子は能力者、1人1人に礼を述べ、握手をする。
「村長の息子さん」
「はい」
「皆を先に逃がすその心意気、勇気‥‥あんたが次の村長なら村は安泰だな」
 千影にそう言われて、照れたように笑う村長の息子。
「はい。皆さんに助けて頂いた命です。頑張って村を守っていきます」
 ですが、もうキメラはこりごりです。そう笑う。
「その辺は俺達能力者に任せてくれ。皆がキメラに脅える生活が早くなくなるよう‥‥俺達も頑張らないと、だぜ」
「はい」

 小さくなっていく高速艇にいつまでも手を振る村長の息子だった。

<了>