タイトル:【紅獣】遊地:恐怖?マスター:中路 歩

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/11 13:26

●オープニング本文


 本来、『何でも屋』というのは戦闘ばかりやっている訳ではない。もっと言うと、戦闘関連の仕事の方が少ないのだ。
 その主な理由、そういう危険な仕事はLHに回されるからだ。
 『紅獣』の実力を知っているものならば彼女達に仕事を回すだろうが、そうでない人から見れば野良能力者の溜まり場としか見えないのだろう。それに、『軍』というバックがついているLHの方が、いざというときの保障は確実だろう。
 
 そんな理由があり、今日も『紅の獣』に回される仕事は、平和的な物ばかりだった。

 
●某遊園地 とある小さな建物

「よし、アンタはそこにいるだけでイケる!」

 利奈は、暗がりで立っている女を見て満足げに頷いた。

「何がいけるのですか‥これではお化け屋敷にならないでしょう」

 その氷のような冷たい声の持ち主、咲は『檻の中で椅子に座っていた』。
 
 咲の言ったとおり、現在「紅の獣」は遊園地でお化け屋敷を営む仕事を請け負っている。もっと言うと「遊園地を盛り上げる何か」だったのだが、利奈と咲は何故かこれをチョイスしたのだった。

 確かに、元々虐殺者の彼女が殺気を放ちながらそこにいるだけで、常人にはかなりの恐怖となるだろう。しかしそれではお化け屋敷ではなく、恐怖屋敷だ。更に彼女しかいないとなると、屋敷ではなく部屋となる。
 
「いやいや、これでも十分いけるって。アンタと五分間密室トーク! 多分一回来た奴は一週間くらい悪夢を見るわね」

 傍から聞けば、失礼極まりない言い様だ。
 咲はそのことに関しては無反応だが、流石に一日中座るだけというのもつまらない。

「しかし、私だけではやはり限界がありますよ?単純なだけに飽きも早いでしょう」

 と言ったものの、これが現状で一番稼げる手段と言うのも咲は解っていた。何しろ、現状二人しかいないのだ、やれる事も限られてくる。
 賢い利奈もこればかりはどうしようもなく、頭を捻らせていた。

「‥仕方ありませんね、ここは臨時に人数を調達するとします」

 檻の鍵を解除しながら、咲は利奈に言った。
 当然、どうやって調達するのかと利奈は聞く。すると彼女は、

「拉致ですよ」


●一時間後
 仮お化け屋敷の裏手には、咲に脅されて拉致されて来た数人の人物が縛られて座っていた。 
 皆が皆、数少ない休暇に心を癒そうと遊園地にやってきていたLHの能力者である。

「‥‥本当に集めやがった」

 利奈は状況が状況だけにあまり喜べなかったが、この際仕方ないだろう(仕方ないと思える思考も凄いが)。
 かくして、能力者達によるお化け屋敷が設立されたのだった。

●参加者一覧

稲葉 徹二(ga0163
17歳・♂・FT
赤霧・連(ga0668
21歳・♀・SN
雪兎(ga8884
13歳・♂・ST
イスル・イェーガー(gb0925
21歳・♂・JG
アキ・ミスティリア(gb1811
27歳・♂・SN
しのぶ(gb1907
16歳・♀・HD
RENN(gb1931
17歳・♂・HD
高橋 優(gb2216
13歳・♂・DG

●リプレイ本文

「ちょっと! 事情説明してから拉致りなさいよ!!」

 しのぶ(gb1907)は縄で後ろ手を縛られたまま座らされ、ブーブーとこちらを見下ろしている咲に突っかかる。
 彼女は友人と遊びに来ていたのだが、トイレに入った所を待ち伏せしていた咲に手刀を首筋に叩き込まれ、意識が飛んだところを拉致されたのである。
 他の面々も似たような経緯で拉致されており、項垂れていたり咲を睨みつけたりと、とにかく好感情を持っている人はいなかった。いるわけなかった。

 一人を除いて。

「お腹が減ったのです‥お昼ご飯はまだですか? ‥アレレ、ここは何処です?」

 唯一、今の今まで幸せそうに寝息を立てていた赤霧・連(ga0668)が目を擦りながら起き上がった。寝ていたため、彼女だけは縛られていない。
 
 とりあえずは緊張の糸が切れたのを確認し、利奈が全員に事情を説明する。そして、報酬を支払うとも明言した。

 説明を聞き、露骨に嫌な顔をした者もいたが、乗りかかった(乗せられた)船と言う事で全員参加することになった。

●準備
 洋風で三階建ての古びた屋敷。それが今回、利奈達がお化け屋敷の舞台として使うために借りた建物である。見た目の割りに頑丈なつくりをしており、多少なら壊しても良いという許可も取っている。
 能力者と咲は、お化け屋敷として成り立たせるために、色々と準備を行っていた。
 ちなみに利奈は、自称監督のため参加しない。単純にめんどくさいだけなのだろうが。

「せっかくの休みだから‥本屋にも行きたかったのに」

 イスル・イェーガー(gb0925)はしっかり準備を手伝いつつも、どこか不満そうだった。
 他の面子は不満そうかと言うと‥全くそうではない様である。
 柿原 錬(gb1931)はやる気満々で準備に勤しんでいるし、最初は突っかかっていたしのぶも楽しそうにメイクをしており、しかもかなり力を入れている。

「ボク人を驚かしたりするの好きだし」

 そう言って台詞を確認しているのは高橋 優(gb2216)。彼の場合は初めから嫌がっては無かったようだが。
 そして、一番やる気を出しているのが、稲葉 徹二(ga0163)だった。
 彼の動機はきわめて単純。

 金である。

 別に守銭奴と言うわけではない。

「いやいいぢゃぁありませんか傭兵なんだから。戦争には金が掛かるんですよ!」

 などと力説した辺りから、結構切り詰めて生活しているようである‥南無。


●一組目
「うっし、アンタらぁ! お客様第一号が来たわよぉ!」

 屋敷中に利奈の声が、アナウンスで響き渡った。同時に、皆がそれぞれの配置へと散っていく。
 
 第一の客:若き男女のカップル。

「ねぇ、お化け屋敷なんてやめようよ」

「何言ってんだ、俺が守ってやるよ」

 そういう言葉を発しながら、若い男が女を引きずりながら屋敷内へと入ってきた。どうやら、男は彼女にいいところを見せたいらしいが‥なんと古臭い方法か。
 なんだかんだ言いながら、結局受付の所にやってくる。そこには監視カメラに写るこれからを想像してニヤニヤしている利奈が、机に足を投げ出して待っていた。

「ん、フリーパスね。どうぞ」

 利奈の表情に不吉な物でも感じたのか、男女は顔を引きつらせる物の、屋敷内に入っていく。
 

 入ってすぐ、目の前の大きな絵画がテレビと化し、一人の男を映し出した。
 アキ・ミスティリア(gb1811)である。紳士的な風貌に、少し牙が長い。

「ようこそ人間の諸君」

 別に怖がらせるわけでもなく、歓迎しているような口ぶりで話す。その内容は、この屋敷の逸話(設定)だ、何気なく話している分、恐怖も増しているらしい。
 そして、最後の一言。

「ただし気をつけてくれ給え。永遠に留まって頂きたく思っている者も多いようだ」

 その言葉が終わると同時に画面がただの絵となり、入り口が音を立てて閉まった。
 余談だが、入り口を閉めたのは裏方の稲葉である。

「ボクがあなた達を案内しましょう」

 そう言って、執事服の高橋が客二人を迎えに来たのは、映像が終わってすぐだった。
 明らかに恐怖の布石だが、ついていかないことには進みようが無いので大人しく彼の後に続く。
 進み始めてすぐ、前方に人影を発見する。
 客の男は思わず女の後ろに隠れた‥‥どうやらこの男、かなりの臆病者らしい。

「おや、あれは。お二人とも、ご紹介しましょう。この家でメイド長を勤めているのが彼女ですよ」

 ニコヤカに説明する高橋とは裏腹に、客二人(主に男)の顔がどんどん蒼白になっていく。
 ゆっくりと歩み寄ってくるメイド、明らかに不自然な体勢で、何やらうめき声を上げている。
 そして‥‥

「お゛がえ゛り゛な゛ざい゛ま゛ぜ〜〜」

 無駄に完成度の高いゾンビメイクをしたしのぶが、肺から搾り出す声でぺこりと頭を下げる。
 女は一歩後退しただけだったが、男はそうもいかない。
 何やら喚きつつ、すっかり女の後ろで縮こまっている。

 しばらくして、ゾンビメイドしのぶは静かに去っていった。

 
 それから十分後、ちょこちょこと細かい仕掛け(裏方とサポートの稲葉と赤霧の連携プレー)で客二人を驚かしていた。その間、女の中での男に対する評価は大暴落している。その評価は、次の恐怖で完全に0となる。
 
 直角の曲がり角を過ぎた瞬間、高橋の姿が消えた。
 残された二人は慌てて周囲を見渡すが、どこにもいない。
 幸か不幸か、一直線の廊下のため迷う危険は無いが、それでも恐ろしい物だ。
 やがて、意を決したように二人は歩き始めた。

 しばらくして、彼らは再び高橋と出会う事が出来る。
 だが、それは恐怖への扉でしか過ぎなかった。

 彼らが通り過ぎた扉が、ゆっくりと開かれる。驚いて振り向いた二人の前に、血まみれの高橋が、茫洋とした目で二人を見つめる。

「ハヤクニゲテ‥」

 彼がそう呟いた瞬間、その背後から騎士の鎧が姿を現し、客二人に襲い掛かった。
 この騎士、柿原がリンドブルムを変形させた物である。
 一声叫び、男女は逃げる。それを追う騎士。当たり前だが、一般人が能力者から逃げられるはずも無い。
 振り上げられるハルバード、恐怖の瞳で見上げる二人。
 
 そこでなんと、男は女を突き飛ばし、一人で逃げてしまった。

 
 その後、男は途中でリタイアし、女は最後まで通過した。
 二人が破局したのは言うまでも無い。

●二組目
 第二の客:老人と子供
 
「‥‥なのですよ、雨戸もカーテンも締め切っているので、僕達はいつも懐中電灯を使っています。あと‥」

 興味津々の子供と、それに続くように歩く老人。その二人を連れながら、柿原は明るい口調で屋敷内を歩いていた。
 先ほどとは若干驚かせるポイントを変えてある。よって、案内役も交代しようということになっていたのだ。
 
 長い廊下を歩いている途中、ふと子供が後ろを振り返った。

「ねえ、案内役さん。後ろのお兄さんはだあれ?」

 その言葉に、老人と柿原も振り返る。
 そこには、特にメイクはしていない物の、虚空を見つめた瞳で雪兎(ga8884)が立っていた。
 そして、にこりと笑い。

「‥大丈夫?‥」

 と言った。
 訳も分からず、子供は気味悪そうに見つめた後、視線を引き剥がすように前を向いた。そして、柿原と老人を促すように歩き始める。

 数分後、子供がまた振り返ると、雪兎はまだそこにいた。どうやら、後をつけているらしい。

「‥大丈夫?‥」
「‥大丈夫?‥」
「‥大丈夫?‥」
「‥大丈夫?‥」

 それ以外何も言わない。
 とうとう子供は涙目になり、走り去ってしまった。それを慌てて、柿原と老人が追っていく。


 またしばらくして、柿原の持つ懐中電灯の電池が切れてしまう。

「すみません、代えを取ってきますので‥とりあえずは、この食堂で待っていてください」

 返事を待たずに、彼は行ってしまった。
 二人は、勝手に進むわけにもいかず、言われたとおりに部屋に入る。

 すると、その食堂の真ん中に、コックの格好をした一人の男が立っていた。

「あぁ、丁度いいところに。実は今食材が足らなくてね、誰かに仕入れを頼もうとしていた所なんだよ」

 何故か左手を背後に隠したまま、コック然の男、イスルは気軽に近づいてくる。子供は固まったまま動かない。
 イスルは一定の距離を取り、立ち止まる。そして、二人を上から下まで品定めのごとく見つめる。
 やがて、満足したように頷き。

「お肉無いから‥仕事できない‥。ネェ、キミノオニククレル?」

 殺人コックは、包丁を振りかざし、逃走を始めた二人を追いかけ始めた。


 出口が近くなり、イスルからも逃げ切った二人は、安堵したようにため息をつく。
 と、そこへ最後の恐怖がおとずれる。

「あーあ、バレちゃったんだ‥」

 その声に足を止める客二人。
 聞き覚えがある声、柿原の物だろう。
 だが、妙に先ほどと違う口調に違和感を感じていた。
 そして、二人が振り返ると‥

「ちっ、アトモウスコシダッタノニ‥」

 死神(の格好をした柿原)が、大鎌を振り上げていた。


 その後、少年が冗談でもお化け屋敷に行きたいとは言わなくなったそうな。


●三組目
 
 第三の客:女子高生二人

「これは手強そうねぇ」

 利奈は、受付を終えて通り過ぎた客を見ながら呟いた。彼女達は、幽霊を全く信じておらず、今回も冷やかし半分できたようだ。
 そして、無線機に向かって叫ぶ。

「アンタら、プランBよ!」

 

「ようこそ当病院へ、実に美しい方々だ」

 アキは医師の格好をしながら、微笑みつつ女子高生に語りかけた。
 
 プランBとは‥簡単に説明すると設定変換である。
 設定変換とだけ聞くと、かなり簡単に聞こえるが、実際には難しい。
 内装もある程度変えなければならないし、メイクも変えなければならない。
 なので、稲葉が一生懸命現在も部屋の作り変えに奮闘している。サポートの赤霧も客の現在位置を把握しながら、メンバー達に適宜報告する。まだその部屋の準備が出来ていなければ、後に廻さねばならない。なので、位置把握は重要なのだ。
 それに合わせ、稲葉も準備の優先順位を変えている。
 今回のお化け屋敷は、ある意味この二人が最も重要な部分を支えているともいえるだろう。


「あはははははは!! もっと!! もっと刻ませてぇー!!!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 絶叫しながら逃げる客、それを笑いながら追うしのぶ。演技抜きでたのしんでいる様にも見える。 
 彼女のコンセプトは「恐怖の看護婦。白衣を返り血で染めて、ノコギリないしチェインソーをもって、ノリノリに狂気的に」である。
 最初の不機嫌さはどこへ行ったのやら、もはやノリノリである。


「カエシテ‥ボクの、ナカミ」

「いやぁぁぁぁぁあ!」

 またもや絶叫しつつ走り去る客。
 部屋から逃げていった二人を見送り、高橋は満足げに頷いた。
 臓器をとられた子供の霊、それが彼のコンセプトだ。
 死人のようなメイクをしており、這いずり回って移動する‥怖いと言うのもあるが、不気味だ。



「温かい‥ね」
 
 いきなり現れ、女子高生の手を掴んだ雪兎。彼女達は悲鳴も上げられずに顔が引きつっている。
 雪兎は予め手を冷やしていたので、相手には死人の手のようにも感じられるだろう。そして止めに、霧発生装置を起動。
 混乱している客を無視し、彼はいつの間にか姿を消す。
 女子高生達は、あまりの不気味さにしばらくは動けなかった。 

 
 その後、彼女達は一切幽霊を馬鹿にしなくなったという。
 
●最後の組
 この最後の客が大問題だった。
 
 最後の客:LHの能力者男女

 元の仕事が仕事だけに、何をしても怖がらない。
 八人は一生懸命自らの役割を行ったのだが、一向に怖がるそぶりすら見せないのだ。本来は姿を現さないはずの赤霧も、少し焦って一瞬姿を現してしまったほどである。

「セーフです!?(ドキドキバクバク)」

 全然セーフではない。

 そして、結局一つも怖がらないまま、出口に近づいてきた。
 ここで、稲葉が最後の決断を下し、イスルにとある伝言をする。
 
 出口の目の前に来た能力者の前に、一つの扉が開いた。

 

 
 丁度5分後。
 顔面蒼白にして、冷や汗を多量にかいている能力者が飛び出してきた。

 最後の部屋、そこにいたのはただ一人、「残間咲」だったのだ。

●その後
 こうして、能力者達によるお化け屋敷は幕を閉じた。あの4人目の後、客がどんどん入って来て、大盛況に。結果として仕事は大成功である。
 利奈は八人に謝礼金を渡し、咲と共に去っていった。結局、咲の口から謝罪の言葉は一つも無かったのだが‥。

 その後姿を眺め、高橋が一言。

「もしかして素のまま怖いんじゃないの!? 歩く恐怖人間だし」

 一本のナイフが、飛来してきた。