タイトル:【紅獣】見えぬ鎧マスター:中路 歩

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/02 12:53

●オープニング本文


「‥‥来た‥」

 大剣を抱え、目を閉じて座っていたリリスが、突然立ち上がる。
 時刻は深夜、焚き火を囲んでいたLHの傭兵達は怪訝そうにリリスを見つめた。
 そんな彼らを、逆にリリスがジッと見つめる。

「敵‥だよ‥? ‥‥起きて‥‥」

 その言葉に、一人が辺りを見渡す。
 周りは一面の草原。かなり遠くに町の明かりと思われる光が点々としている他は、これといったものも見当たらない。

 だが、リリスは真直ぐ、迷わず一点を見つめていた。
 皆がその視線を追うように、その方向へ向く。

 そして、皆が敵の存在を確認した。

 漆黒の鎧集団がこちらに歩いてくる。当然だが、キメラだ。
 いや、漆黒と言うより保護色に近い。なぜなら、暗闇を背にしている所は黒く、足元近くは地面と同色をしているのだ。
 少し目を離しただけで、風景と同化してしまう‥それほどまで、保護色は完璧なのだ。

 だが、近づいてしまえば関係ない。
 リリスは仲間(本人が仲間と思っているかは定かではないが)に何も声をかけず、一人突撃した。

 大剣を扱っていると言えど、彼女もグラップラー、その俊敏性は半端な物ではない。
 あっという間にその集団に距離を詰め、先頭の一体に死の刃を振り下ろした。

 甲高い音。

 リリスが珍しく、息を呑む。
 大剣は刃を鎧に少し埋没させただけで、その命を断ち切るまでに至っていない。
 急いで刃を引き、リリスは大きく後ろに飛びずさった。それを追いかけるように槍の穂先が伸びてきたが、辛うじて避ける。

 彼女が着地すると同時に、追いついてきた傭兵達が集まった。
 一同、キメラのその硬度に少し驚いているようである。
 だが、リリスは再び、キメラの突進した。

 今度はその名の通り「突進」である。
 大剣を突き出し、瞬天速を利用しての突進。
 流石に、今度の一撃は頑丈な胸板を突き砕き、切っ先が鎧の破片を撒き散らしながら背中から抜ける。
 
 と、その突き抜けた 切っ先の先端に、なにやらグロテスクな固体があった。
 よく解らない物体は、恐らくキメラのコアだろう。その証拠に、本来命が無いはずの鎧が、再びただの鋼の塊と成り果てている。

 リリスは、剣の一振りでそれを打ち捨て、再び大剣を構えた。

●参加者一覧

鳳 湊(ga0109
20歳・♀・SN
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
旭(ga6764
26歳・♂・AA
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
優(ga8480
23歳・♀・DF
神無月 るな(ga9580
16歳・♀・SN
立浪 光佑(gb2422
14歳・♂・DF

●リプレイ本文

「これで存在位置が分かるといいが‥」

 目を良く凝らさないと未だに見る事が出来ない鎧の集団に向け、八神零(ga7992)は照明弾を構える。その際ちゃんと仲間に警句を発しておく。

 そして、集団の中央に向けて発射した。

 誰かに合図を送るわけでも、敵の目を眩ませるわけでもない照明弾の使用。普段ならば唯の無駄撃ちだが、今回はちゃんとした意味があった。
 視界一杯に光が満ちる‥同時に、そこにいる全ての物質、生き物の影が映し出された‥無論、キメラの影もである。
 そして当然、一瞬でも景色の色が変われば保護色も変わろうとする。だが保護色がその光の満たされた世界に色を合わせた時には、既に光は消えている。
 と、言う事は‥今現在鎧キメラ達の姿は、丸見えという事なのだ。
 
 八人はそれぞれ、思うままに敵に攻撃を仕掛け始めた。

●近接スナイパー
「FRの技術応用でしょうか‥気になりますね」

 手近な一体を標的と定め、神無月 るな(ga9580)は覚醒しつつ、ショットガンを向ける。同時に、相手も弓に矢を番え。こちらに向けてきた。
 彼女は自身でも明言している通り、このキメラたちの保護色をFRにも使われている技術の応用だと仮定している。
 そうだという確証はどこにも無いのだが、そうでもないと言う証拠も無い。
 神無月は、僅かな期待を胸に、横っ飛びに移動した。
 
 その、たった今神無月が立っていた位置を通り、ペイント弾がキメラに向けて放たれた。
 ギリギリまで神無月の体で隠れていた為、キメラは咄嗟の反応が出来ず、無様にペイント塗れになる。これで保護色の意味は完全に無くなった。

 攻撃を成したのは周防 誠(ga7131)。彼はこのキメラだけでなく、他全てのキメラにもペイント弾を撃ち込んで来たところだった。少なくとも、これで暫くは敵を捕捉し続けることが出来る。

「自分の攻撃では、装甲にはじかれて大した効果を上げる事が出来ないでしょう」

 周防はアラスカ454に収められていたペイント弾を全て抜き取り、実弾に入れ替えながら、神無月に視線を飛ばす。

「なので、撃破よりも援護を優先させてもらいます‥頼みましたよ」

 そして、敵の手元に向け、正確に射撃放った。
 この隙に神無月に向けて矢を放とうとしていたキメラは、僅かに照準がぶれてしまう。
 それを見越し、神無月はサーベルを構えつつ、キメラに向かって走り始めた。照準が曖昧となった矢を余裕で回避し、更に走る。

「そんな攻撃に当たるもんですか」

 接近してきた神無月に向け、再び矢を番えるも、またもや周防の援護射撃に阻まれてしまう。
 今度は武器そのものを撃ち抜き、弓を大きく遠くへ吹き飛ばした。
 そのときには既に、神無月は間合いへと踏み込んでいる。

「私も結構、接近戦は得意なのよ?」

 そう言いつつ、流し切りにて鎧の胴を薙ぎ払った。
 
 しかし。

「神無月さん!」

 周防の警句に、再び飛びずさる神無月。
 強力な攻撃を受けたにも拘らず、鎧は平気な様子で剣を振り下ろしていたのだ。

 どうにか隙を作りたかった神無月だが、これでは隙など作れない。
 だが、一人で作れないのならば、二人で造れば良い話だ。

 期を読んだ周防が、スキル急所突きを発動させる。
 そして、再びキメラの手元に向けて発砲した。

 急所‥つまり弱い所。
 鎧の手首の関節に潜り込んだ銃弾は、そこで威力を爆発させる。 
 鋼が大きく弾ける音と共に、キメラは片手を後ろ手に引かれる用に、大きく隙を作る。
 これこそ、神無月が待っていた物だ。

 素早く接近し、キメラに近距離から銃口を向けた。

「うふふ‥油断したわね。さようなら‥」

 轟音、轟音、轟音、轟音、轟音‥。

 度重なるショットガンの近距離射撃に、流石の鎧も耐久度に限界が近づく。
 そして、大きく鋼が爆ぜる音と主に、キメラのコアは銃弾に蹂躙され、屍‥いや、鋼の塊と化した。
 どうやら‥FRの技術の応用ではなかったようだ‥。 

●銃と剣
 既に周防によってペイント弾が付着しているキメラに向け、念のため再びペイント弾を放つ立浪 光佑(gb2422)。

「敵はかくれんぼが得意そうですね」

 自身で言ったその言葉とは裏腹に、キメラは度重なるペイントで既に全身があらわとなっていた。
 キメラの胸部に付着しているペイントが、火花と共に少し弾ける。
 鳳 湊(ga0109)によるライフル射撃だ。ライフルと言っても、超遠距離射撃攻撃ではない。敵の攻撃範囲ギリギリまで接近しているのだ。
 神無月も行っていたが、確かに接近すれば攻撃を受けるリスクが増える代わりに、威力も増すだろう。これは妥当な策である。
 
 しかし、かなりの強度を誇るこの鎧、若干へこんではいるものの、決定打には至らないようである。
 一度は、敵が武器を振り上げ、もしコアが露出すればその場所を狙おうと相手を中心に素早く移動していたのだが‥‥やはり、そんなに上手くは行かなかったようだ。
 
「スナイパーだとて近接が出来ない訳ではない事を示さないといけません」

 そう言いながら、更に一歩踏み込んだ。
 当然、ギリギリで敵の間合いに入ってしまう。
 そしてこれも当然、鎧も剣を振り上げ、そして渾身の力で振り下ろしてきた!

「きかないなぁガラクタ、お前とはボディのできが違うんだ」

 甲高い音が響く。
 この音は、立狼がその剣を、壱式で受け止めた音だ。
 踏鞴を踏んだキメラに、容赦なく鳳は銃を向けた。

 鋭角射撃を発動。
 一時的に強化された視界で見抜くのは、一点の弱点。
 先ほどの銃撃で生じた、鎧の窪み。
 更に、その中でも一番ダメージが大きい場所。
 これらを、瞬時に見抜く。

「ライフルだとて近くで撃ち抜けます」

 銃声。
 その言葉どおり、銃弾は鎧に見事に食い込む。
 そして、蜘蛛の巣のように、ひび割れが胸部装甲に広がった。

 慌てたように、キメラは両腕でその傷を隠そうと動く。
 だが、少し遅い。

 それより先に、機会を見計らっていた立狼が、その亀裂に向けて壱式を捻じ込んだのだった。
 割れる鎧、コアが露出され、それに刃が埋没する。

「これじゃあ避けようがないな」

 体を半回転させ、両断剣を発動。
 埋没させた剣を肩に担ぐように持ち、そのまま一気に振り下ろした!
 砕け散るコア、同時に鎧も唯の鋼と化し、砕け散った。

 鳳はそれを満足げに見届け、周囲の援護をしようと見渡す‥と、その視線の隅で、立狼が鎧をかじっているのを見てしまう。

「これ、食えるかなぁ」

 食べられるわけ、無い。

●3本の月詠
「先ずは逃がさない戦いをする事を第一として‥」

 そう呟きながら、優(ga8480)はキメラを中心として、円を描く様に走っていた。その後ろには、後を追うように次々と矢が刺さっている。
 彼女は真っ先に、一番遠くで弓を番えていたキメラに向かっていたのだ。一人でも援護射撃を牽制しておけば、他者の戦闘がかなり有利に運ぶ。そう考えた結果の行動だった。
 しかし、一番通りと言う事は相手にかなりの準備期間を与えてしまうという事。なので、優は降り注ぐ雨を掻い潜れず、かなりのスローペースで逃げながら接近しているのだ。
 だが、長期戦となるのは見越していたので焦ってはいない、それ以前に、弓を持つ相手にはひとりでは立ち向かわない、援護を待つと決めていたのだから。
 
 そして、待ちに待った援軍は、降り注ぐ矢を切り落しながら参上する。

「手伝おう‥早々に片付けるぞ‥」

 双舞とも呼べる二刀流で矢を切り落し、優の援護に入ったのは八神零(ga7992)だった。
 当初の想定通り援軍を得られた優は、月詠を構えなおし、キメラに向き合った。
 同じく、短距離決戦を狙う八神もまた、二本の月詠を構える。
 
 そして、反撃に転じた。

 なにやら得体の知れない殺気を感じたのか、キメラは矢を番え、矢継ぎ早に放ってきた。
 だが、それを無視して走り始める二人。
 八神が前に出て、二刀流の乱舞で作る壁で次々と矢を落とす。
 その後ろでは、優が八神に、どこから矢が飛んでくるかを、正確にナビゲートしている。

 見る見るうちに距離が詰まる、キメラもやがて矢が尽きてしまい、斧と盾を両手に持ち、待ち構えていた。

 キメラとの間合いに入るまでもう少し‥と、そこで急に八神が速度を緩め、飛び出してくるように優が敵に切りかかる。
 それに対処しようとするキメラだが、盾が防ぐ前に、斧が薙ぎ払われる前に、優は流し切りを使用し、側面に回りこんでいる。
 優に気を取られていたキメラは、八神の攻撃に最後まで反応できない。

「大した硬度だが‥この『双月』が獲物を仕留め損ねた事はない」

 二段撃+紅蓮衝撃+急所突きを併用‥恐ろしい攻撃力だ。
 その双刀の攻撃は、キメラの得物どころか、両腕を完全に吹き飛ばした。

「これで終わりです‥八神さん!」

 優が声を掛け、八神が合わせる。
 三本の月詠による波状攻撃は、鎧の装甲さえ耐えうる事は出来なかった。
 再び凶悪三乗スキルを放ち、キメラの装甲を打ち砕いた八神。
 その合間を塗り、優が見事に、コアを刺し貫いた。

●1対1
 唯一、鎧キメラと一人で対峙しているのは須佐 武流(ga1461)。
 誰かが一人で受け持つ事になるのは、人数の都合上仕方ない‥だが、須佐はそれを率先して引き受けていた。

 キメラが振り下ろす双斧を辛うじて避け、ジャックで捌く。
 そしてカウンター気味に、ジャックを突きこんだ。
 だが、キメラはその攻撃を須佐と同じく捌き、間合いを取る。

 やはり、須佐一人では少し荷が重いようだ。
 証拠に、彼の体には深くは無いものの、傷が刻まれている。

 それでも、彼が怯む事は無い。

 刹那の爪による連続蹴りを放ち、怯んだ所へジャックで薙ぎ払う。
 打ち合う両者、だが最後には戦士としての力が決着を付ける。

 とうとう、須佐の連続蹴りを受けきれなくなったキメラの手から、双斧が弾けとんだのだ。
 ニヤリと笑い、須佐は胸部の一点に向け、蹴りを叩き込む。

「この世に無限に存在するものなどない! お前の装甲もそうだ!」
 
 再び胸部に蹴りを叩き込む、更に叩き込む、もっと叩き込む。
 鋼が打たれる甲高い音は、やがて金属が悲鳴を上げる音へと変わっていく。

 過剰なほどの連続一点攻撃は、鎧に亀裂を生み出した。

「優れた特徴は最大の武器になるが‥時にはソレが最大の弱点にもなりえる!」

 そう叫ぶと同時に、スコーピオンをその亀裂に捻じ込む。
 そして、連続で引き金を引いた。

 上述どおり、かなりの硬度を誇る鎧キメラ。
 当然、銃弾すら弾き飛ばすが、それが仇となる。
 鎧内部に撃ち込まれた銃弾が、跳弾で内部を飛び回っているのだ。
 
 そして、自身のアドバンテージを逆手に取られたキメラは、ゆっくりと崩れ落ちた。


●優しき青年
 最後のキメラは、リリスが圧倒的に押していた。

 いくら硬度があるとはいえ、倒す方法がある限りリリスに取ってはどんなキメラも変わった物ではない。
 怒涛の嵐の如く、大剣が見る見るうちに鎧を埋没、変形させていく。

「これ以上頑張られると僕らの仕事がなくなってしまいます‥」

 武器を構えながらも、旭(ga6764)がため息をついた。
 一体の目標を果たしている上、弱点の発見と敵の接近を感知、もう十分以上に活躍をしているリリスには休んでいて欲しかったのだが、彼女自身が突撃しているのだから仕方が無い。
 とりあえず、彼女に任せておけば大丈夫‥と思った矢先だった。

 リリスが、唐突に旭の傍らまで跳躍してくる。
 旭は一瞬驚くも、彼女の有様を見て更に驚いた。

 リリスの両手首は大きく腫れており、柄を握る手からもポタポタと血が滴っている。
 何度も何度も全力で振り下ろしている大剣が弾かれ、その返って来る衝撃に、完全には耐え切れないようだった。
 今思えば、一番最初の攻撃は、体重を乗せた攻撃‥それで、やっと埋没させられたくらいだったのだ。
 その場で振るうだけでは、ろくにダメージは与えられないだろう。
 オマケに、肩から胸に掛けて、剣による裂傷も刻まれていた。

 向こうからは、ベコベコに全身を変形させつつも、確かな足取りでキメラが近づいてくる。

「‥ふぅ、結局のところ、子供が戦っているのを放っておけないだけですね」

 そう呟いた後、悔しげに自らの手を見下ろしているリリスの頭にポンと頭を乗せる。
 そして、自らはキメラに向かって走り始めた。
 
 それに相対するキメラの動きは、鈍い。
 当然だ、関節含め体中痛んでいるのだから。

 旭は容赦なく連続で急所突きを多様、唯でさえ崩れかけていた体に、更なる亀裂を生む。
 加えて、豪破斬撃+紅蓮衝撃+急所突きの痛烈な一撃を、渾身の力で放つ。
 耐え切れなくなった鎧は、上半身を粉々にし、コアだけを下半身に引っ掛けた状態で、ヨロヨロと後退する。

 必殺の瞬間を見極め、小銃を構える。
 銃弾はコアの中心をぶち抜き、四散させた。

 今相手をしたキメラ、及び周囲のキメラが全て掃討されたのを見て、旭はリリスの下へ駆け寄った。
 手と裂傷から血を流しながら、リリスは近づいてきた旭を見上げる。

「援護がいるのは悪いことじゃないでしょう?」

 旭が笑いかけ、手を差し伸べた。
 リリスは一瞬困惑した物の、手を握り返そうとして‥崩れ落ち、気絶した。

●お礼
 仕事が終れば、後は帰還するだけ。
 だが、リリスは中々目を覚まさなかった。
 旭や彼女に面識のある人物の強い要望もあり、リリスが回復するまで、街に待機する事となった。
 まぁ、LHに戻って傷を癒すより、こちらの方が手間が省けるので、皆も快く承諾する。
 その日は全員で宿に泊まり、それぞれ練力と体力を回復させた。

 翌朝。

 リリスの姿が消えていた。
 一瞬全員に戦慄が走ったが、枕元に置かれていた財布と、置手紙を見て、安堵する。

『リリスは、お迎えが来たから、先に帰るね。宿代はみんなの分出しておいたよ。それと皆が使ったペイント弾と照明銃は、このお金で補充してね。借りは返しなさいって、何時も言われてるから』

 そして、紙面の下のほうに一言。
 それは、最後の最後に付け足したような一文だったが‥丁寧な文字で書かれていた。

『ありがとう』