タイトル:デッドヒートハイウェイマスター:中路 歩

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/15 14:50

●オープニング本文


「キメラ、更に加速しました!!!」

 仮設兵舎の中で、オペレーターがスクリーンを見つめつつ叫んだ。
 スクリーンにはとある地区のかなり広域の地図が映し出されており、光点がその地図上を動いていた。
 地図の上ではその動きはかなり遅い‥だが、実際の速度はありえないほど速いのだ。
 それは、今回の依頼を最初から担当していたオペレーターの焦りようを見るだけでも一目瞭然だろう。

「UPCの傭兵はまだ来ないのか!」

 軍の指揮官らしき男は、デスクを思い切り叩く。その視線は地図の最も上を向いていた。
 そこには、街がある。
 人口は1000人にも満たない小さな街だが、それでも人は住んでいる。その街にはキメラの接近を知らせられているのだが、果たして全員が街から避難できているのだろうか?
 このままだと、大変な事になる。

 今回のキメラは四足の巨大な狼である。数は六匹。
 まず特徴として、移動速度が異常であり、それは常人には残像すら残している錯覚に陥るほどだ。
 それだけならばまだ良いのだが、その身体には爆薬が巻かれており、恐らく街に到達した瞬間爆発するのだろう。外部からの攻撃は受け付けず、キメラ自体を止めるしかない。
 今キメラが走っているのは一本の道、俗に言う高速道路だ。
 キメラは高速道路上を爆走しており、その終着点にある街に向かっているのだった。

 その時、オペレーターが若干の喜色を交え、再び叫んだ。

「今連絡が届きました!能力者達、配置についたそうです!」


●とあるサービスエリア
「もう一度、簡単に説明しておきます」

 その場にいる軍服の男は、配置されている車を指し示した。

「あなた方の車、或いは我々が準備した車は、今回だけ改造を施させてもらいました。アクセルを深く踏み込むだけでMAXスピードまで一気に到達するかなり危険な改造です。当然、ブレーキ機構も弄らせてもらいましたが、完全に停止するにはそれなりの時間と距離が必要でしょう」

 そこで一息つき、今度は資料に目を落とす。

「簡潔に言うと、今回はキメラとのレースと言っても過言ではありません。疾走するキメラに追いつき、撃破してください‥なお、終着点近くまで接近した場合、深追いする必要はありません‥人的被害は、できるだけ少ない方が良いですから‥」

●参加者一覧

奉丈・遮那(ga0352
29歳・♂・SN
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
早坂冬馬(gb2313
23歳・♂・GP
クリス・フレイシア(gb2547
22歳・♀・JG
七ツ夜 龍哉(gb3424
18歳・♂・GP

●リプレイ本文

 超高速での世界。
 景色を遥か後方に置き去りにし、押し留めようとするが如くの向かい風を突き破る。
 だが、それは決して容易なことではない。
 生半端な覚悟では、瞬く間にこの世界に飲み込まれてしまう。

 ハンドルを取られる。
 Gに耐えられない。
 集中力を乱す。
 気を逸らす。

 ほんの少しの油断が、死に直結するのだ。
 その極限の世界の中、12人の戦士たちは命を晒し、戦場を駆ける!
 
「見えた! このまま射程に入り次第攻撃移る」

 聖・真琴(ga1622)が駆るファミラーゼの助手席で、月影・透夜(ga1806)は叫ぶ。
 リア・ハッチゲートをあえて開いており、車内にまで凄まじい風が吹き荒れている為、他の皆に聞こえていたかは定かではない。しかし、隣の聖は力強く頷き、ハンドルを握りなおす。

「考えは何も無く、ただ速く疾く駆け自爆するのみか‥こういう相手は割合手を焼かせる」

 アラスカ454とブラッディローズの最終点検を行いながら、南雲 莞爾(ga4272)ボソリと呟く。
 その隣で先の二人と同じくファミラーゼの運転を行っている緋室 神音(ga3576)は苦笑しつつ、少し前方を走っている例のキメラに目を馳せる。

「情報どおりだけど‥大きいわ。だけど‥止められない相手じゃない」

「あぁ、その通りだ」

 緋室の言葉に反応したのは南雲では無い。これは無線機の向こう側からだ。

「俺たちは止めないといけねぇ。っとと‥」

 緋沼 京夜(ga6138)もまた、武器を点検しながら決意の言葉を口にしていた。それが遮られたのは、向かい風とは別に横風が吹いて車が若干揺れたからだ。
 だが、揺れたのは本当に若干であり、実際制御を行える者が運転していなかったらハンドルを取られていた可能性もあるほどの強風だったのだが、それは全く感じられない。

「ふふ、地震が来ても安定させて見せよう」

 かつて地元で『峠の巫女神様』とまで称された藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)は、不敵な笑みを浮かべた。
 敵に回すと不気味な笑みかもしれないが、味方の視点で見るとかなり頼りに出来る。

「あぁ、お前さんのテクを信じてるからな」

 緋沼は信頼のこもった声で、伴侶であるディートリヒに言った。
 ちなみに、それらは無線から筒抜けだ。

「いやはや‥」

 妙なカップル率の高さに、思わず苦笑の笑みを浮かべる早坂冬馬(gb2313)。

「ま、なんにせよ仕事である以上、当然、キメラは倒しきりますけれどね」

 最後の『ね』の部分は傍らに向けられている。
 彼に反し、カップル関係には無頓着‥或いは無頓着の振りか‥いずれにしろ、運転に集中しているクリス・フレイシア(gb2547)は、ただ前方のキメラを見つめている。

「疾走するキメラ、か‥。車両からの射撃。難しい依頼だね」

 ジーザリオを操りつつ、頭に叩き込んだ地形図を常に辿っている。
 地形を知っておくだけで、何処で曲がるか、何処で加速するか。それが大体予測できる。高速戦闘に置いては、重要な事の一つだ。

 そして、それぞれの思いを口にする。或いは胸に秘めた所で、キメラが射程内に入る。

 戦闘、開始だ。

「それでは皆さん、気を引き締めて‥生きて帰りましょう!」

 奉丈・遮那(ga0352)は無線機に叫びつつ、S−01を手に取った。
 その隣の如月・由梨(ga1805)はブースト稼動させた。

「レースで修練した運転技術を生かしたいところです」

 彼女のジーザリオをに続くように、他の車両もキメラを包囲するように動く。
 キメラ前方に展開し、半包囲を行うのが今回の作戦だ。スリップなどをすると危険が伴うがその反面、攻撃には適しているとも言える。

「っ!!」

 っと、その過程で一台の車両がガクガクと揺れる。
 ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)が駆るジーザリオだった。
 彼は車体を安定させる事を最優先にしていたが、それでもハンドルがこの高速空間に奪われてしまう。

「すぐに安定させる‥! 時間をくれ!」

 下手すれば思い切りスピンして投げ出される危険もあったが、彼は細心の運転テクニックで若干交代しただけで終わらせる事に成功する。
 流石に冷や汗が流れた彼だが、無事な事に安堵し、再びトップスピードに乗る。

「‥車に乗ってでの戦闘とははじめての事だね、これも良い経験になりそうだよ」

 助手席で弓を用意していた七ツ夜 龍哉(gb3424)は、揺れた車内を何とか耐え切り。苦笑交じりに言う。
 そして軽く頭を振り、再びキメラを睨みつけた。

「ユーリ、弓お借りしますぜ、大切に使うからな」

 弓を握り締め、呟いた。

 一台後方に遅れたものの、スリップ等の危険は承知の上だ。他の皆はその穴を埋めるべく、素早く動く。
 そして、一台が遂に敵を射程内に捉える。

「捉えた――そこだっ!」

 緋沼はラゲッジルームから、この位置から狙える部位‥足の付け根に向け超機械を放った。
 雷光鞭と銘された機械から発せられた電磁波が、キメラに襲い掛かる。

 しかし。

 この高速世界の最中でもまともにヒットしたはずなのに、キメラは全く気にした様子は無い。

「やはり、情報にもあったが‥脚は丈夫のようじゃのう」

 手ごたえの無さは運転席にも伝わったのか、ディートリヒが悔しげに呻く。

「待っておれ、一気に抜き去る!ブースト‥オン!」

 彼女の車は、一気に加速し、今度こそキメラの前に躍り出た。
 その車に併走するのは、フレイシア機だ。

「OK。良い感じだよ、お願い」

「意地でも止めるさ。止めますとも」

 トルネードの銘を持つ超機械を起動させ、早坂はキメラの前方から的確に放った!
 高速世界に置いて、風は強敵の一つに数えられる。
 それは先のヴェルトライゼンの事態でもいえることであると同時に、疾走するキメラ自身にも言えることだ。
 生身で風を感じる分、ある程度制御できるだろうが、人工的に風が起こされた場合、どうなるだろうか。
 
 キメラはガクリとバランスを崩し、あっという間に後方に飛んで行った。
 道路を跳ねながら転がり、やがて高速道路から落下‥その先は、見れなかった。

 後、五匹。
 キメラも馬鹿ではない。もうこの風での攻撃はあまり効果をなさないだろう。

「貴様等は、黄泉路でも疾り続けていろ‥」

 南雲は冷徹に言い放ち、銃に『貫通弾』を込める。
 狙いは頭部含んだ上半身。
 緋室は冷静な操縦で、有力射程内に車を近づける。それに合わせ、先に仕損じたディートリヒ機も銃口を向ける。

「南雲‥頼んだわよ」

「あぁ、任せろ‥ケリは付けてやる」

 簡潔なやりとり。
 だが、南雲の声色には、普段より若干信頼の色が混じっているようであった。

 放たれる銃弾、そして電磁波。
 血の霧が生じ、キメラの身体を濡らす。
 それでも、キメラは走るのを止め様としない。

「私たちも援護します、早期撃破を狙いましょう」

 無線から聞こえるは如月の声。
 その声の通り、彼女の車両が援護の為に接近してきた。その車から奉丈は身を乗り出し、高速で吹き荒れる風に耐えながらも、銃口を合わせる。

「覚悟なさい」

 短い言葉と共に放たれた銃弾は、見事にキメラの目を穿った。
 
 キメラはバランスを崩し、傍らの仲間に接触してしまう。
 そのキメラも倒れかけようとして‥持ち直した‥かに見えた。

 このチャンスを見抜いた南雲が、貫通弾を使用し、そのもう一匹に向かって打ち込んだのだ。
 虚を突かれたところへの更なる不意打ち。
 二匹のキメラはもつれ合い、先の一匹と同じ末路を辿る。
 高架下へと落下し、やはり見えなくなった。

 残り、三匹。

「皆! 曲がるよ!」

 地形図を頭に叩き込んだ、フレイシアの声が聞こえる。
 高速道路と言っても、多少は曲がり道がある。普段は気にならなくとも、この高速空間では厄介なものだ。

「う‥! ごめんなさい、ハンドルが‥!」

 如月が悔しげな呻きを漏らす。
 キメラへの接近に集中していた為、カーブに気付くのが遅れたのだ。
 それは彼女だけではない、ディートリヒ機、緋室機も同様だった。

「クソ‥! ただで引き離されるかよ!」

 ディートリヒの巧みなハンドル制御で揺れは少ないものの、見る見る減速する車。落ちう事は、キメラからあっという間に引き離され‥る寸前に、緋沼は動いた。

 番天印に持ち替え、貫通弾を装填‥そして距離をとられる前に発射した。
 この銃は、『狙った獲物は逃がさない』というのが説明書きに存在する。
 そして、今回はその大役を見事に果たすことに成功した。

 斜め後方から撃ち出された銃弾は、真直ぐキメラの首筋を貫いた!

 ディートリヒ機含めた3台は引き離されてしまったが、まだ3台前線に残っている。

 首筋を撃ち抜かれた一匹からは、出血が多い。
 だが、それでも唯一与えられた使命を全うすべく、走り続ける。
 
 すかさず、早坂がトルネードでバランスを崩させようと動いたが、それにも何とか耐え切った。
 聖機も何とか接近したいのだが、出血による血の霧が逆に邪魔となり、近づけない。

 と、そこへ一台の車が遅ればせながら追いついてくる。

 ヴェルトライゼン機だ。

「遅れてしまったが‥依頼に参加したからには、役に立たせてもらおうか」

 そのまま突き進み、血の霧奔騰する右側面へと車を走らせる。
 もう街まで時間の猶予は無い、ここは一撃必殺などの短期決着が一番だ。
 攻撃の為に弓を用意している七ツ夜もまた、それを承知の上である。

「七ツ夜。チャンスは一度だぞ」

「判っていますぜ。足を引っ張るつもりはないからよ」

 爆弾矢を番え、身を乗り出す七ツ夜。
 やがて、車にも血の霧が影響し、みるみる紅く染まっていく。

 それでも、ヴェルトライゼンはアクセルから脚を離さない。

 そして、出血部位のすぐ横に車を付けた‥そのとき!

「いまだ!」
「あいよ!」

 的確に、正確に、爆弾矢は傷口に潜り込んだ。

 爆発。

 絶命した‥と見て判るような凄惨な有様で、キメラは高架下へと落ちていった。

 残りは二匹。

 もう少し、もう少しで全滅できる。
 誰もが一縷の希望を持った時だった。

 全員の無線機から、声が聞こえる。
 例の仮設兵舎からだった。
 その声は‥不気味なほど、静かだった。

「阻止限界点まであと少しです‥皆さん、退避してください」

 皆に、戦慄が走った。
 敵の数は二匹‥事実上依頼は成功だが、果たしてこの二匹が搭載した爆弾とは如何程のものなのだろうか‥。




 せめて後一匹、せめて、せめて‥。


 

 全員を叱咤するかのように、声が響き渡る!


「まだ阻止限界点じゃないでしょ!? 掴まって!」

 聖機が一気に加速する。
 キメラを追い抜き去り、更に前方へ。
 ハンドルを握りつつ、聖は生唾を飲み込む。
 高速世界での更にその上へ。当然、危険も倍増だ。
 震える腕、脚。
 それを抑えたのは、温もりだった。
 そっと絡められる腕。
 横に目を向けるわけには行かない、だが、不思議と震えは収まった。
 誰の腕かはすぐ判る。
 ここにはあの人しかいない。大切な、聖の愛する人物だ、
 聖は、深呼吸する。

「舌噛むなよぉ!」

 180度スピンターン。
 ブースト付加のフルスロットル。
 この芸当を行える者がいようとは。この高速下である。

 追いかける形でなく、相対するキメラと聖機。
 身を乗り出し、恋人のルベウスを持ち、身構える月影。

 交差は一瞬だ。

「行くぞ!」

 血煙が上がる。
 
 『二人の』攻撃は見事だった。
 車での加速を含めた紅蓮衝撃+急所突き+ソニックブームの一撃。
 腕にかかる負荷も大きかったが、相手に伝わるダメージも強大だ。

 バックリと頭を殆ど真っ二つにし、キメラは絶命した。
 
 これで後一匹だ‥しかし‥。

「阻止限界点‥突破‥」

 減速していく車の中で、奉丈はフロントを思い切り殴った。
 歯を食いしばり、耐えるように‥。

 そして、傭兵達の遥か前方で‥爆破は起こった。

「僕達は‥この光を見ないために頑張ったんだけどね‥」

 爆破の光を見つめつつ、フレイシアは呟いた。
 皮肉にも、闇夜に写るその光は、凶暴性を除けば美しいものだった。


●その後
 本来ならば、彼らの仕事はここで終わりだ。
 しかし、ディートリヒの提案でその街へと向かい、救助活動を行うことになった。
 幸い、キメラを一匹にまで抑えられたため、街の大体は無事ではあった。そして、怪我人や重傷者は出たものの、死人はゼロである。
 それでも、キメラを全滅させられなかった事には変わりない。
 彼らは、今回の失態を踏み越えつつ、これからも人々を守っていくのだろう。