タイトル:【紅獣】迷子?マスター:中路 歩

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/16 15:27

●オープニング本文


「‥‥‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥あの、お嬢ちゃん?」

「‥‥お嬢ちゃんじゃない‥‥リリス‥‥」

「そ、そうか。それでリリスちゃん、お姉ちゃんがどうしたって?」

「‥‥‥迷子‥‥」

「いや、だから具体的に」

「‥‥‥‥お姉ちゃんと‥‥‥街の中で‥‥はぐれたの‥‥‥」

「だからね‥‥」

 男性能力者は、ふぅとため息をついた。
 先程から彼が話しているのは、金髪ふわふわウェーブを持つ、10歳ほどの人形みたいな女の子だ、しかし極端に無口で、中々対話が成立しない。背中には、その容姿には似合わない「大剣」を背負っている、地面に剣先が引きずっているが。
 別に、その女の子が無口な事が問題なのではない。

 今、彼らがいるのは‥‥キメラの闊歩する「元」街、つまり廃墟。これこそが最大の問題なのである。

「ねぇ、どうするのよ。この子」

 そう男性能力者に言ったのは、傍らに立っていた女性能力者だ。
 彼らはこの危険地帯に遊びに来たわけではない。当然仕事でやってきたのだ。
 仕事の内容は、ありがちな「キメラ退治」。依頼はすでに完遂しており、後は帰るだけ‥‥その矢先にこの少女と出会ったのである。どうやら、この少女は

「‥‥‥ねぇ‥‥手伝って‥‥‥」

 じ〜っと純粋な目で見上げられては、断る物も断れないし、子供を危険地帯に置いていくつもりも無い。
 だが、そのお姉ちゃんとやらを見つけない限りはリリスも動きそうになかった。

「仕方ないな‥‥そのお姉ちゃんの格好と特徴を教えてくれないか?」

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
遊馬 琉生(ga8257
17歳・♂・AA
使人風棄(ga9514
20歳・♂・GP
ゴリ嶺汰(gb0130
29歳・♂・EP
神浦 麗歌(gb0922
21歳・♂・JG
クイック前田(gb1201
20歳・♂・DF
朔月(gb1440
13歳・♀・BM

●リプレイ本文

「お姉ちゃんの名前は‥‥零‥‥茶髪のポニーテールで‥‥ジャージのズボンに‥‥ブラウスを着てる‥‥」

 いやいや、その服装はどうだろう。

 と、数人がツッコミたかったが、そういう場合でも無いのであえて口をつぐむ。
 リリスを含めた九人は現在、これからどう行動すべきかを相談している。LHの能力者たちはあまりにも情報が少ない為、彼女に色々と質問しているのだ。

 ところが。

「どこら辺ではぐれたか憶えてる? 案内してもらえると助かるんだど‥‥」

 例えば、鐘依 透(ga6282)が上記の質問をした時だ。この質問は人を捜索するにおいてかなり重要な情報である。だが、リリスの返答は。

「わからない‥‥ねぇ‥‥そんな事より‥‥早く探しに行こうよ」

 この通り、殆どの質問が「わからない」、「覚えていない」なのだ。
 これはこちらを信頼していないのか、それとも本当にわからないのか。いずれにしろこれでは無駄に時間が過ぎるばかりだ。
 リリスもリリスで、次第にイライラしているようである。

「さ‥‥さぁはじめますか。早いとこ見つけたいですね。」

 これ以上無駄な時間を過ごしても意味が無いと判断したのか、クイック前田(gb1201)は皆に提案した。
 他の面々も同意見なのか、誰も口出しはしない。

「うん」

 そうリリスが頷いた刹那、前田の傍らから彼女が消えた。
 慌てて全員が周りを見渡すと、遥か彼方でリリスと‥‥使人風棄(ga9514)が疾走していた。どうやら彼は、最初からリリスにだけ興味があるらしく話など聞いていなかったようだ。よって、リリスと同じグラップラーである彼はすぐに反応する事が出来たのだろう。

「おい、待ってくれよ!」

 使人と同じく、リリスの行動に合わせようとしていたゴリ嶺汰(gb0130)だったが、彼はちゃんと話を最後まで聞こうとしていた姿勢と、元もとの敏捷値の差が仇となり、かなり遅れて彼女達の後を追っていた。

「‥‥俺たちも、行くか」

 須佐 武流(ga1461)はため息をつきながら、残りの皆を二班に分ける提案をする。それにも異を唱えるものはおらず、各々零の捜索をするために散らばった。


●いきなりの発見と問題
「皆‥いきなりだけど‥、目標を見つけた‥」

 それは捜索が始まって僅か二十分後の事だった。
 鐘依、遊馬 琉生(ga8257)、朔月(gb1440)の三人は、零が屋内に逃げ込んでいると考え、廃民家や物陰など、見落としやすい場所を中心に捜索していたのだ。
 結果、その予想は見事に的中し、一軒の家屋であったものの中で蹲っている零を発見したのである。

 鐘依が全員に無線を入れている傍らで、朔月と遊馬は急いで零に駆け寄った。

「おい、無事か?」

 朔月はぶっきらぼうながらも、優しさを滲ませた声で言いながら、蹲ったまま動かない零の頬をパチパチと叩いた。その間に遊馬が彼女の容態をザッと見てみる。
 
 左肩と左腕に引っ掛かれた様な傷、右腕は何処かで打ちつけたのか痣があった。それ以上に大した怪我はなかったが、足の筋肉が強張っているのと履いている靴がボロボロなのを見る限り、かなりの距離を走ったのだろう。

 数秒後、零はうめき声を上げながら、むくりと起き上がった。

「ん〜‥‥おはよ〜」

 第一声がそれだ。ギャグマンガの様にガクリと転びかけた二人を他所に、零はマイペースで辺りを見回した。そして、しばらくして状況を思い出したのか、急に目を輝かせて朔月の手を取る。

「もしかして、助けに来てくれたの〜? ありがと〜。私、零って言うの〜、あなたは?」

 ややマイペースに押されながらも、朔月は自分の名前と身分を名乗る。それに追従して、

「俺は遊ぶ馬って書いて、アスマ。アスマ・ルイだ。よろしくな」

 ニッコリと笑う遊馬に、同じくニッコリと笑う零。
 朔月は思わず眉間に指を当て、なんだか現在の状況とこの雰囲気がズレているようなズレていないような、妙な感覚に襲われていた。そして、すぐに立ち直ると、零に応急処置をし始めた。

 そこに、通信を終えた鐘依も零たちの元へやってくる。

「僕は鐘依透‥、今皆に連絡したから‥後三十分もすれば全員揃うと思うよ‥あ、それと‥」

 彼は、懐からミネラルウォーターを一本取り出す。

「これ‥葉の売れんより、四葉の栞です。受け取ってくれますか?」
 
 差し出されたペットボトルを、零はお礼を言って受け取る。そしてキャップを開け様としたその時!
 
 殺気を感じた。

●戦闘開始

 周囲に現れた影は全部で四つ。
 人間の上半身に蜘蛛の下半身を持つ異形。その手には棍棒が握られている。
 間違いない、キメラだ。

 意外にも慌てなかった零だが、スパークマシンαを構えるその格好はあまりにも心配すぎる。戦場には慣れているが、戦いには慣れていない口だろう。

「とりあえず、ここから離れた方が良さそうだな。零はさっさと逃げな、俺たちがキッチリ守ってやるよ」

 そう言いながら、朔月は真っ先に飛び掛かろうとしていたキメラに、一気に間合いを詰めた。
 目を見開くキメラ、ニヤリと笑う朔月。
 ファングの一撃は間違いなく腹腔を抉り取り、返す刃が首を撫で斬った。

 零の近くで別のキメラと相対しているのは遊馬。彼は繰り出される棍棒を上手く捌きながら、一撃の隙を狙っている。

「‥俺はキメラを倒す為に作られた道具に過ぎないけど‥、使い方はある。与えられたのは悪魔の力‥だけど、俺は、守る為に使う!」

 そう叫ぶと同時に、流し切りを発動。
 かなりの力で振り下ろされた棍棒を余裕を持って避け、カウンター気味に繰り出されたロエティシアは、キメラの頭の上半分を吹き飛ばし、血の海に沈めた。

 鐘依は、零の最も近くに陣取っており、そこからフォルトゥナ・マヨールーでキメラに応戦していた。
 彼は巧みに避けようとするキメラの行動力を奪う為、主に下肢を狙って銃撃する。無駄弾は使用せず、冷静に狙いを定めて放たれた銃弾は、キメラの前足を吹き飛ばした。
 そこで素早く接近し、ファング・バックルを使用した蛍火の一撃が、キメラの急所を捉えた。

 そして肝心の零は‥逃げていた。
 それはもう速い速い。本当にサイエンティストかと思えるほどの足の速さである。恐らく逃げ足だけ速いというオチなのだろうが‥。
 丁度、逃げていた零が朔月の傍らを通り過ぎた、キメラは追いかける事に夢中なのか、彼女に気付いていない。
 朔月は、また眉間を指先で押さえつつも、ちゃんとすれ違い様にキメラの首を刈り取った。

●バトンタッチ
「本当に‥しつこいね‥」

 鐘依は辟易しつつも、零を守りながら路上を走っている。彼だけではない、朔月と遊馬も同様だ。ちなみに、零は何故か逃げ足だけは速いので、かなり前方を疾走している。
 彼らがあの四匹を倒した後、更に後から後から敵が現れたのである。これは構っていられないと判断した三人は、現在路上を走りながら、追いかけてくるキメラを牽制していた。

「どうする、俺達だけじゃちょっと厳しいぞ」

「それとも、行きがけの駄賃ってことで倒しちゃう?」

 朔月と遊馬が口々にそう言った時、前方で悲鳴が上がる。
 驚いて前方を向き直ると、何故か零が立ち止まっていた。いや、もう少し付け加えればその場で暴れながら立ち止まっていた。
 訳が分からない三人だが、それは彼女に接近するにつれ解って来た。

 蜘蛛の巣。それが彼女を捕らえていたのだ。

 そして、その巣を伝う様に、別のキメラが零に向かって忍び寄っている。彼女は気付いていないのかただじたばたと暴れているだけだった。
 
 三人と零の距離はかなりのもの、鐘依はダメもとで、銃を構えた。

 と、次の瞬間。零が蜘蛛の巣から消える。
 同時に、蜘蛛の巣が引き千切れ、這っていたキメラは次々と落ちて行く。

「おい、無事か!? 助けに来たぜ!」

 零を蜘蛛の巣から救出したのは、恐らく本依頼の最高の実力者であるグラップラー。須佐だった。彼は瞬天足と限界突破を使用し、一気に彼女を救い出したのである。
 その助けられた零は、少し頬を赤らめていた。もちろん、怒りとは逆方向の感情で。

 
「これを使える日が来るとは、うれしいですね。」

 感極まったように呟きながら、抜き身の刀を引っさげ歩み寄ってきたのは、前田だ。

 蜘蛛の巣が細切れになったのは彼の仕業である。ソニックブームを使用し、見事に役目を果たしたのだった。役目を果たした事とは別に、スキルを使用できたことに関しても、彼は少し嬉しそうだ。
 
 そして、蜘蛛を的確に打ち落とした男、神浦 麗歌(gb0922)は、なにやら無線機に「ははは‥真面目にやってくださいよぉ〜。了解です!」などと言いながら、辺りを警戒しつつ駆け寄ってきた。
 急所突きと狙撃眼を併用した彼の矢は、遠距離にも拘らず狙い通り空を貫いていた。その技量は大したものだ。

 鐘依達は、ようやく須佐達と合流できたのである。

●逃走戦
 とは言うものの、キメラの脅威が去っているわけではない。それに、元々キメラ殲滅の依頼できたのだから、無視して逃走できる訳もなかった。
 なので、ここは敏捷性の高い須佐班に零を任せ、鐘依班はキメラの殲滅に力を入れる事にした。

「もし途中、キメラに遭遇したら、バックアップしていただけると助かります」

 前田は、傍らを走っている零に微笑みかけながら言った。先の事の反省もあり、零の走るスピードは皆に合わせる事となっている。
 これまた零は意外にも、(根拠無く)力強く頷いた。どうやら、度胸は据わっているようである。

「ところで神浦、さっきの通信は何だったんだ?」

 先頭を走っている須佐は、一番後方を走っている神浦に向かって叫ぶ。その声は周囲の廃ビル街に若干木霊した。神浦は少し苦笑し。

「ゴリさんですよ。リリスさんと使人さんに追いつけなくて奮闘しているようです」
 
 まぁ、リリスと使人はグラップラーなのでそれは仕方が無いだろう。
 と、急に先頭の須佐が立ち止まる。
 少し遅れて他の二人も立ち止まった意味を悟り、走るスピードを緩めつつ得物を手にした。ちなみに零はずっこけた。

 周囲のビルの窓が、割れる。

 そこから降り立ったのは五匹のキメラ。タイプは先と同じく蜘蛛人間だ。

「さて、敵さんのお出ましだな」

 須佐は若干緊張を高めつつも、リラックスした口調で前に出る。既に得物は装着している。
 と思いきや、次の瞬間にはキメラの目の前に立っていた。
 驚いて反応が遅れるキメラの顎を、刹那の爪で蹴り上げる。若干浮いたその身体の鳩尾に、ジャックでコークスクリューをお見舞いした。

「須佐さん! 一撃でしとめましょう!!」

 須佐が攻撃を開始すると同時に、前田もまた行動を開始する。
 彼はは一瞬沈むと反動を利用し地面を蹴り一気に加速、刀を振りぬいた。それを棍棒の洗礼で迎えるキメラ。ダークファイターにはグラップラーほどの俊敏性は無い、だが、その分力強さがある。
 棍棒を流し切りで回避し、敵の側面に回り込む。
 キメラがそれに気付くより先に、刀はキメラの命を刈り取っていた。その後バックステップで距離を取り、次の獲物へと向かう。

「リリスちゃんに会わせる為にも、彼女は守ってみせる」

 神浦は呟き、長弓を構える。
 前田に言われたとおり、一生懸命スパークマシンを使って援護している零だが。一番弱いのを既に見破られているのか、執拗にキメラに狙われていた。一応、一匹は倒したらしいが、かなり押されている。
 援護している人物を援護すると言うのも変な話だが、そんな事に構って入られない。

 じりじりと零に近づいていたキメラは、脳天を穿たれて地に伏した。

 キメラ五匹は、あっけなく屍と化した。
 零は思わずホッとして、地面にへたり込む。
 それが隙となった。

 いきなり零の周囲の道路を突き破り現れる四つの影。
 それら、キメラは、現れると同時に、零に襲い掛かった!
 
 須佐たちが気付いたのは、一瞬遅い。

●リリス班
 だが、そのキメラが零に触れる事は無かった。
 須佐たちより先に、その間に割って入った者がいたからである。

「嬢ちゃんを心配させるなよ。泣き出しそうな顔をしていた」

 その零を助けた人物、ゴリは蛇剋を構えつつ、彼女を安全地帯に突き飛ばしていた。

 突き飛ばされた零はほぼ無傷だが、ゴリの腕には浅くない打撲傷が生まれていた。

 須佐たちは、次にキメラが行動を起こす前にと、先に仕掛けようとして‥やめた。その必要がないと悟ったからだ。
 押しつぶされたキメラは二匹、その上に落ちてきたのは二つの人影。

「ほら、こうすれば良いでしょう」

 ビルの高層から飛び降り、その勢いでルベウスを突き出し、キメラの首を吹き飛ばした使人は、満足そうにリリスに言った。
 リリスもまた、彼と同じく高層ダイブを行い、自由落下の勢いでキメラ一匹を両断していた。
 どうやら、この三人はこのビルで待っていたようだ。
 彼女は使人の言った事を無視し、更には唖然と固まっているキメラも無視し、ゴリに向き直る。

「お姉ちゃんを‥庇ってくれて‥ありがとう」

 無感情ながらも、何故か気持ちがこもっていると分かる言葉だった。

「さぁ、綺麗に壊してあげますよ」

 その会話の間に、使人はキメラを狩っている。残り二匹の末路もあっけないものだった。
 一匹はルベウスに心臓を抉りだされ絶命、そしてもう一匹は首を『捻り切られて』絶命した。
 二匹を『壊した』後、彼は須佐たちに向き直り、

「ふふ‥すいませんね、いいとこ取りをしちゃって」

 使人の軽口に、須佐はただ肩をすくめただけだった。

●その後
「ほら嬢ちゃん、りんごジュースいるか?」

「うん‥」

 ゴリの差し出したりんごジュースを、リリスは何のためらいも無く受け取った。どうやら、彼女の中ではゴリが一番の貢献者と思っているようである。零曰く、自らの目で見たことか、信頼した人の言った事でないと信じないのだと言う。そして優先順位は、自らの目で見たことだ。
 この方式で言うと、リリスの目の前で零を庇ったゴリが一番の貢献者に見えてもおかしくは無いだろう。

 だが、それを咎める者はいなかった。
 なぜなら、他の面子は『気を失っている須佐』の様子を見ていたからである。
 敵の攻撃による物ではない。
 須佐が冗談半分で零をでこピンした所、リリスが敏感に反応し、彼を大剣で思い切り殴打したのだった。全く身構えていなかった須佐は、まともに喰らい、この通りである。

「零の存在の重要性を一番判ってるのは、リリス本人だろうね」

 その朔月の言葉どおりなのだろうが、行きすぎな気もする。

 少し離れたところで、遊馬が一枚の紙切れを弄んでいた。
 零たちに、「零さん達が所属している組織って、なんていうところなの?」とダメもとで聞いた結果、アッサリともらった名刺である。
 その名刺にはこう書かれてあった。

『何でも屋:紅の獣』