●リプレイ本文
※この報告書を読むにあたりの注意事項。この報告書は私、零によって実際の出来事から大きく改変されています。よって、ここに書かれていることと実際の人物像は大きく違いますので、そこは注意して読んで下さい。
なお描写の都合により作者本人は書かれていません。
零
村が燃えていた。
悪の組織『バグアン』によって生み出された極悪怪獣『バッタイ』が、目に付く限りの家を、人間を襲っているのである。
果たして、罪も無き一般人達はこのまま死に絶えてしまうのだろうか。
いや、そんな事はありえない。
なぜなら、彼らがいるからだっ!
「‥樹断奥義・木枯らし‥!」
その言葉は大きくは無かった。しかしっ、殺戮の限りを尽くしていたバッタイには死の恐怖を、逃げまとう人々には天使の賛歌として、確かに聞こえていたっ!
少年が巨大な剣を手に、天から降臨するっ!
振り下ろされた樹の刃は地面を大きく穿ち、周囲10メートルにわたる大地を大きく吹き飛ばした。さらにその場で大回転することで、木枯らしどころか台風レベルの強風が、バッタイたちを吹き飛ばしていく。
「‥俺達が居る限り、お前達に安息の時は無い‥」
「そのとおりっ!」
その声と共に一台の車が唐突に躍り出る。数多のバッタイを薙ぎ倒しながら、車は番 朝(
ga7743)の近くに停まり、車内から6人の戦士が飛び出してきた。
「我らLHに選ばれし7人の戦士っ!」
「地球の平和、人々の安息を取り戻す裁きの刃ぁっ! バグアンの手先め、その首俺が掻っ捌いてやるわぁっ!!」
朔月(
gb1440)は一声叫ぶと同時に、弓を片手に間近なバッタイに接近した。だが、バッタイも黙って攻撃を受けたりはしない。ガパァと口が開いたかと思いきや、そこから真紅の光が放たれる!
破壊、光線だ!
大地を焼き焦がし、空間を灼熱させるっ!
だがっ!
「あまいっ! あまいんだよっ! その程度の攻撃が俺に通用するとでも思ってるのかっ!?」
その光線の真正面に立ち、朔月は矢を番えたっ!
「かっとびなぁっ! 光穿矢っ!!」
破壊光線を相殺するのは、破壊光線だ。
本当に一本の矢か、と疑うほどのぶっとい光の束が収束し、一気に解き放たれるっ! 破壊光線をも飲み込み、驚愕するバッタイは光の中に溶けていった‥。
「よっしゃぁ、俺の勝ちぃっ!」
「まだ油断するな。敵は残っている」
ガッツポーズを取る朔月の隣を駆け抜けて言ったのは、ヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)だ。凶々しいともいえる漆黒の巨大鎌を携え、戦場を駆る死神のように敵陣に突撃している。
鎌で易々と斬り飛ばし、走っていた彼だが‥どうやら周りを見ていなかったらしい、周囲を取り囲まれてしまっていた。
だが、ヴァレスは物騒なオーラを放ちつつ、ククッと笑った。
「俺を殺すのか? 殺せるのか? 下っ端如きが調子に乗るなよ‥」
そう呟きながら、大鎌のギミックを発動させた‥そう、その仕掛けこそが、このバッタイ達を恐怖のどん底に陥れるとともに、黄泉への渡し舟となるだろう。
鎌が黒く、鈍く輝いた。
そして黒き光が収まった時には、先ほどよりもはるかに恐ろしい鎌‥いや、両鎖鎌が誕生していた。一本の柄の両方に刃が着いており、更にそれぞれが鎖でつながれているため、縦横無尽の殺戮を行えるのだ。
「じゃあな、身の程知らずの愚か者達」
ヴァレスが、回転した。
同時に二本の鎌が‥いや、血に飢える獣が解き放たれ、好き放題暴れ始めた。
頭を喰らい。
首を撥ね。
胴を引きちぎり。
四肢を裂断させ。
腹腔を破る。
獣が檻に収まった時、その場に立っているのは死神が一人だけ‥。
「次は、あの世で殺してやるよ」
死の宣告‥いや、更なる殺戮の宣告だった。
「敵‥まだいるのか‥」
番はうんざりしたように呟いたが、表情は依然無表情のままである。
無表情に叩き壊し、無表情に叩き切る。
ある意味、恐ろしい。
だが、我慢にも限界はあるようだ‥。
「鬱陶しい‥」
ぼそっと呟く。
樹を握る力は強くなり、大地が揺れる。
「鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しいっ! 鬱陶しいんだよぉぉっ!」
突如として、番の周囲の大地が爆砕したっ! そこからうごめく『何か』が、バッタイたちを捕らえ、地面に引きずり込んでいく。
「俺の邪魔をするな、するなっ、するなあぁぁあっ!!」
番の思いに呼応して暴れているのは、『樹の根』である。
この世のあらゆる所に存在する『根』が収束し、番のために戦っているのだ。
やがて、雄雄しき生命はバッタイたちを片っ端から大地へと還し、収まった。
「はぁっ‥はぁ」
がくりと膝を付き、息を荒げる番。どうやら今の攻撃は、かなりの精神力を使用するようである。
と、そんな彼女の背後から一匹のバッタイがっ!!
「あぶないっ!」
飛び出したのは藤村 瑠亥(
ga3862)だっ! 彼は番を庇い、爪による攻撃をざっくりと身に受けてしまう。
「藤村!」
そのバッタイを樹で吹き飛ばし、番は藤村に駆け寄った。
仰向けに倒れている藤村の胸からはどくどくと血が溢れており、決して浅い傷ではないことを物語らせる。
だが、藤村自身は別のことで不安を抱いていた。
(「っ! このままではっ‥!」)
体の中で、何かが蠢いているのを感じる。
それは確かな意思であり、力であり、恐怖でもある。この自身の状況では、その力に耐え切れそうにもなかった。
「番‥はなれろ」
「でもっ―」
「いいから、離れろ!!」
半ば払いのけるように番を退け、ふらふらとその場に立ち上がる。だがすぐに、頭を抱えて蹲り。
「く‥だめ‥だ、抑え‥きれない!」
藤村は脈打つ自身の体を抱き、そして天を仰いだ。
――うぁおああああああアあアアアあアっ!!!
ボコッと藤村の背が盛り上がったかと思うと、肉を割いて漆黒の帳が現れた。翼である。さらに爪や牙が悪魔のように伸び始め、体の節々が鋭利化を始めた。
「こ‥コノチから‥タマラない‥」
口調さえくぐもったものとなり、その姿はもはや人間ではなくなってしまっている。紅に光る双眸は、近くで驚いている番ではなく、遠巻きに見つめているバッタイに向けられた。
「エモの‥獲物だっ‥!!!」
藤村が、消えた。
いや、消えたのではない。もはや人間の動体視力では追いつけないほどの速さで動いたのだ。
コマ落としのように一瞬の出来事であり、気がついたら全身が粉々になった五匹のバッタイが宙を舞っていた。
血煙が吹き荒れる中、更に渇望するかのごとく藤村は叫んだ。いや、啼いた。
「つぎのエモのヲぉっ! ヨコせェっ!!!」
その藤村にすがりつく、可憐な一人の女性が‥。
「だめっ‥、藤村さん‥。自分を見失わないで‥」
鳴神 伊織(
ga0421)だ。
ほろほろと涙を流し、豹変している藤村を見上げる。
「あなたは、あなたはもっと優しい人のはずよ‥。 忘れたの!? 私達があのサクラの木の下で約束した‥あの出来事をっ!」
藤村の中に押し込められた、本来の藤村がその言葉に反応する。
そう、あれは数年前の出来事だった。
その日は生憎の土砂降りであり、外に一歩出てしまえば全身ずぶぬれとなってしまうほどだったのだ。藤村と鳴神の二人はそれぞれが外出途中であった為、とある巨大なサクラの木の下で雨宿りをしていたのだった。
「あら、こんばんは。酷い雨ね‥これじゃあ、帰れませんよ」
綺麗な着物が雨に濡れ、なんとも艶かしい姿の鳴神。藤村は一瞬見惚れてしまっていたが、すぐに正面に向き直り、顔を真っ赤にして返事をする。
「そ‥そうだなっ! これじゃあ帰れないなっ!」
同じことを復唱している。
鳴神はおかしそうに笑い、藤村に寄り添った。
「これも何かの縁‥こんど、お食事でもいかが?」
「え? あぁ、しかし‥」
視線を合わせないようにしている藤村の顔を、ぐいっと無理やり捻らせる。
「約束です‥一週間後、またこのサクラの木の下で会いましょうね」
その後、二人が同じ仕事に着いているとは夢にも思っていなく、鉢合わせした時には驚いたものだった。
藤村が鳴神の話を聞いて自己と葛藤している間にも、バッタイたちは次々と押し寄せてきた。鳴神は涙をぬぐい、剣を構える。
「この方には、指一本触れさせないっ!」
最も接近してきた一匹に剣を突き立て、いきなり柄を握る手を離す。そして元来持つ攻撃力を武器に、バッタイを掴み、地面にたたきつけたのだっ!
更に、回し蹴りが頭部に炸裂したかと思えば、その部位が炸裂し。背後から襲いかかろうとしていた一体は、裏拳を受けて吹き飛んでいく。
一体ずつでは叶わぬと見たか、三匹が三方向から彼女に襲い掛かる‥しかし、彼女は極めて冷静だ。
「はぁっ!!!」
どんっ! と大地を殴りつけると、まるで爆弾でも破裂したかのような衝撃波が周辺に轟いた!
岩は砂と化し、バッタイは塵になる。
豪風が吹き荒れ、すべてのモノを押し流した。
「二人とも、大丈夫かっ!?」
番はようやく疲労から立ち直り、今度は逆に倒れている二人に寄り添った。片方は内なる力と、片方は疲労で蹲っている。
「もう無茶だ、ここは一度引こう」
「いや‥」
藤村は、ゆらりと立ち上がった。
すでに翼は消え、爪も牙も引っ込んではいるものの、体のいたるところが脈打っている。それでも、鳴神を支え、残った敵に向かい直った。
「ここでやられたら‥逃げたら‥約束は果たせないっ!」
藤村は銃を構える‥その手に、鳴神の手が重なった。
「二人の約束は、二人で果たす‥っ!」
「行きましょう‥あのサクラの木の下にっ!」
銃が突如として変形し、神々しくも美しい形となった。
それが、桃色に光り始めるっ!
「「神の飛礫:飛花弁豪天弾っ!!」」
――その時天を貫いた光の剣は、その後、番によって永遠に語り継がれたという‥。
「うぐあっ!」
ヴァレスの鎌が弾き飛ばされ、その場に倒れた。
朔月が急いで駆け寄り、庇ったが‥その敵の強大さに息を呑む。
残ったバッタイは一匹。
しかし、紅き月の恩恵により、急に巨大化したのである。
「ばかなっ! こんなこと、俺は聞いていないぞ」
放つ矢はすべて弾き飛ばされ、一つとして通らない。
表情が無いはずのバッタイは、ニヤリと笑ったような雰囲気を出し、口元に破壊光線をチャージし始める。
「くっ‥くそっ!」
恐怖の光は、二人に襲い掛かった。
――そんなものっ!
強大な光は突如として霧散し、無くなった。
なんと、旭(
ga6764)が素手でそれを受け止めたのである。
「どうやら、間に合ったようだなっ!!」
旭の隣に出現したのは、天(
ga9852)である。手には超巨大なビームキャノンを持っており、それをビシッとバッタイに突きつけた。
「アンタの行い、すべて見させてもらったZEっ! 神仏が、この大地が、すべての人がお前を許そうともなぁっ! この『天』だけは、絶対にお前を逃がさねえっ!!」
天の肩に乗っていた犬っぽい人形がバッと背を向けた。すると、その背には『天』の一文字がっ!
「行くぜ旭っ! こいつに生きる価値はねぇっ!!!」
「おうっ! 見せてやろう、いや魅せてやろうっ! 僕達のちからをっ!」
そう旭が叫ぶと、唐突に地面から巨大なビーム砲台が姿を現したっ! その上に天が華麗に着地し、ビームキャノンを設置する!
「俺とぉっ!!!」
エネルギーが装填され、スロットルが上昇していくっ!
「お前のぉっ!!!!」
砲身が黄金色に輝き、エネルギータンクが雄たけびを上げたっ!
「「ソウルブラスタァァァアアアアアアア!!!」」
スロットルがオーバーロードし、轟音が空間を揺るがしたっ!
銃口から黄金色の光が満たされ、巨大バッタイを天に打ち上げる!!
「今だっ‥飛びやがれぇぇええええ! ‥AMATU!」
旭は叫んだっ!
天がとんだっ!
「受け取ったぞASAHI! ‥あんたの全力全壊!」
天が空中でビームキャノンを構え、旭がガトリングキャノンを取り出したっ!
「「佃煮にな‥」」
「まてっ!」
その間に、朔月が跳躍して、割り込んだ。
しかし、すでに弾は放たれ、朔月もろとも、バッタイは光に包まれた‥。
「どうして‥どうしてだっ! 朔月っ!」
ヴァレスは彼女にすがりつき、涙を流した。
朔月はボロボロの手で、ヴァレスの頭を撫でる。
「だめだ‥ダメなんだ‥殺してばかりじゃ、連鎖するだけだ‥どこかで、連鎖はとめないと‥ダメなんだ‥」
鋼の心にも、優しき心。
朔月はいとおしむ様に空に手を伸ばし‥力尽き―。
●報告書は途中で破り捨てられましたとさ
朔月は報告書をびりびりに破り捨て、紅の獣事務所に突撃したっ!
「れーーーいーー!! なーんで俺が死んでんだよゴルァっ!」
「きゃー!! ごめんなさい、ごめんなさいっ!!」」
もはや予見していたかのように、脱兎の如く逃げる零。勿論、朔月は許すわけが無い。
「まったく‥勝手に恋愛話を作っているかと思ったら、最終的には無理やりな感動展開か‥」
藤村は呆れたように呟き、隣で複雑な表情の鳴神を見た。
「だけどさ、俺は面白かったぜ。違う俺を見れたしな♪」
番はなにやら満足そうに、何度も報告書を読み返していた。
「まぁ‥とりあえず良いんじゃないか? なぁ」
報告書どおり、天印の人形を格好良くポーズを決めさせながら、天は呟いていた。