タイトル:【紅獣EX】幻で舞う戦人マスター:中路 歩

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/28 22:11

●オープニング本文


 その場所は公民館のようなものだ。申請さえすれば、かなり広いスペースを借りられることが出来、今まで数多くの用途に使用されてきた。
 普段は体育館のように何も無いこの場所なのだが‥今日は何らかのイベントが行われているらしく、大量の得体の知れない機械が置かれている。それは角ばった巨大なカプセルのようなもので、中には人間が一人すっぽりと入れるほどのスペースがある。
 そんな機械たちが置かれている会場には、その機械と同じだけの人数が雑談を繰り広げている。それぞれの手には、一枚のパンフレットが握られていた。

『R.E.I.』
 リアル エンターテイメント イマジン。
 レイ。

 どうやら、次世代ゲーム‥か何かの、パンフレットらしい。
 パンフレットの中身はこの場所への招待状と、ゲームの概要と説明、そして製作者の話と『何でも屋【紅の獣】』の広告が書かれている。

 このゲームは、ゲーム上に形成された仮想空間で対戦するオンラインゲームのようだ。総勢100人を50:50のチームに分け、まさに大規模作戦の如く闘うのである。
 本当に戦闘を行っているかのような臨場感だけでなく、実際に痛みまで生じる(傷は付かない)らしい。

 と、唐突に会場の電気が落ちたかと思うと、会場最前部の舞台に一人の女性の姿が現れた。
 茶髪にポニーテール。そしてよくわからないが、近代風アニメのコスプレをしている。

「みんなーっ! 今日は私のゲームのテスターとして集まってくれてアリガトー!」

 零(gz0128)の大声が、会場中に木霊する。しかしマイクを持ったまま叫んだ為、凄まじいノイズが響き渡った。会場の全員が耳を塞ぎ、不快気に顔をしかめた。
 零は咳払いし、今度はちゃんと普通の音量で挨拶を始める。

「みんなこんにちはー。何でも屋『紅の獣』の雑用係、及び『R.E.I.』の作者でもある零でーす。ハイ拍手ー」

 物凄く、まばらな拍手が起きた。

「このゲームを考え付いたのはー、まぁぶっちゃけ言うとなんとなく思いついたから組み立てると出来ちゃったって言うのが本当なんだけど、それ言っちゃったら夢も何も無――。あぁっ! いっちゃった!」

 勝手に慌てふためく零だが、会場の皆はこう言うときの観客特有の顔、『さっさと終われ』の表情をしていた。
 しかし、零は構わずに嬉しそうに演説を続けている。

「物事はねー、何事もインスピレーションが大事なんだよー。え? インスピレーションの意味? あはは、判らなーい。まぁ、10パーセントの思いつきと、40パーセントの努力、そして50パーセントの予算さえあれば、誰だって可能性はあるっ! それでそれでー‥あぐっ!?!?」

 唐突に鉄パイプが飛来し、零の顔面に直撃した。
 それを成したのは、紅の獣リーダー、雨在 利奈(gz0124)である。彼女は舞台袖で長ったらしい演説を聞いていたのだが、そろそろ我慢できなくなったようだ。

 零はどくどくと流れてくる鼻血を抑えながら、鼻声で高らかに宣言する。

「そ‥それじゃあ、皆さん各ゲーム機に着いて下さーい」


●ライバル

「‥もう少し、判りやすい位置を書いていて欲しいものです‥A−13‥A−13‥」

 残間 咲(gz0126)はぶつぶつと文句を言いながらも、自分に割り当てられているゲーム機を探す。彼女もまた、零に頼まれてこのゲームのテストを行うことになっているひとりだ。興味は無いと断ったのだが、高級海鮮を使ったフルコースを振舞うといわれては、断るわけにも行かないだろう。

 3分くらい歩いただろうか、やっと目当ての機種を見つけることが出来た。やれやれとため息を付きつつ、認証キーを差し込む。
 と、後ろから唐突に声をかけられた。

「あの、ごめんなさい。A−23機はどの辺にあるのか知らない?」

「‥悪いですが、私も自分のを探すので手一杯でし――」

 振り返った咲は、思わず言葉を切る。
 そこには同じ紅の獣のメンバーであり、咲のライバル。清総水 栄流(gz0127)が立っていたのだ。

「‥永久にでも迷っててください‥それにしても、何故私とエイルが同じAチームなのですか‥」

「そこは同感ね。ただでさえ四六時中顔を突き合わせてるって言うのに、仮想空間でもそれは耐えられないわ」

「‥それはこちらの台詞です‥ちょっとそこの人」

 咲はたまたまそこを通りかかった能力者に声をかける。

「‥あなた、どちらのチームですか?」

「え? あぁ、俺はB−35だけど‥まだ見つからなくてな」

「それでは、私のと交換してください‥A−23機はこれですから」

 別に断る理由も無く、機種を探す手間も省けた能力者は、喜んで交換してくれた。
 その能力者が機械に乗り込み、扉を閉めたところで、栄流が声をかける。

「今日という今日は、白黒つけさせてもらうわ‥幸いにも、仮想空間だから何やっても死なないしね」

「‥そう簡単に私を倒せるとでも? ‥あなたの絶望に歪んだ顔が楽しみですよ‥」

「ならこっちは、咲の苦痛に泣き喚く所でも楽しみにしてるわね」

「‥出来るものならご自由に」

 結局毎度のこと物騒なやり取りを追え、それぞれが機種を探しに走り始めた。
 とりあえず、両者とも機体を見つけないことには始まらない。


●審判=無差別攻撃者?

「えっとー、じゃあ二人とも、お願いねっ」

 舞台の袖、同じくそこには二台の機体があった。C−1、C−2と彫られている。

「へいへい、いい暇つぶしになりそうだし。適当に暴れさせてもらうわ」

「‥暴れる‥」

 利奈はともかく、リリス・グリンニル(gz0125)もちょっとわくわくしているようだ。まぁ、身体能力云々以前にまだ子供だから、それは仕方ないだろう。
 しかし、零は‥。

「あ‥あのね、一応言っておくけど、二人にはゲーム内のバグを見てもらったり、リアル空間ゆえに非人道行為に走る人の取締りを‥」

「わかってるわかってる」

 絶対判っていないだろうが、利奈はリリスを引きつれ、さっさと搭乗してしまった。
 まぁ、利奈はともかく、リリスはちゃんとしてくれるだろう‥零のその考えは少しまずかった。

 機体に乗る直前、利奈はリリスに恐ろしいことを吹き込んでいた。

「いい? 戦うって事事態が非人道行為なんだから、参加者全員取り締まっていい‥つまりぼっこぼこにしていいってことだからね」

 そして当然の如く、素直なリリスは頷いた。

 この3軍入り乱れる中、一体最後の勝利者は誰となるのだろうか。

●参加者一覧

藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
旭(ga6764
26歳・♂・AA
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
Mk(ga8785
21歳・♂・DF
秋月 九蔵(gb1711
19歳・♂・JG
美環 響(gb2863
16歳・♂・ST
冴木 舞奈(gb4568
20歳・♀・FC

●リプレイ本文

●リアルワールド〜イベント会場
「殺人をゲームにするとはねぇ‥‥」
 ルール説明のパンフレットに目を通しつつ、秋月 九蔵(gb1711)はハァ〜っとため息をもらした。
 今時、単なる「バーチャル体感ゲーム」というだけなら珍しくもない。しかしこの『R.E.I』は負傷や死亡時の痛みまでリアルに再現し、しかも相手は仮想世界のモンスターなどではなく同じ「人間」の能力者だという。
 ただでさえ長引くバグアとの戦争で殺伐としたこのご時世に、わざわざ娯楽目的で人間同士が殺し合うゲームなんか作らなくてもいいじゃないか――という気もする。
「‥‥いや、新人の研修には丁度いいかな? 仮想世界だから死ぬ事はないし」
 九蔵は考え直した。要するに軍の施設にもあるバーチャル訓練システムと同じ、実戦さながらの軍事演習だと思えば良いのだ。
 それに(いささか不謹慎な考えかもしれないが)能力者ならば誰しも己の実力がキメラではなく「同じ能力者」に対してどこまで通用するか試してみたい――こういう願望は多かれ少なかれ持っているはずだろう。むろん現実に実行すれば犯罪だが、ゲームの中で発散させる分には何ら問題はない。
「ま、今日はどうせ暇だし‥‥ひとつ楽しませてもらいますか?」

「――私はいつの間にテスターなどになっていたのだろうか」
 アンジェリナ(ga6940)は自問自答しつつ首を傾げた。
 たまの休日、のんびり過ごそうと街を歩いていると、会場前でバイトの呼び子からパンフレットを渡され、「何やら面白そうなイベント」と思いふと気がついたら参加者の列に並んでいたのだ。
 零(gz0128)のスピーチを聞き、バーチャル戦闘ゲームのテストだと知ったときはさすがに驚いたが。
「まあ良い。バレンタインの一件では全力で戦う事ができなかった‥‥傭兵相手に真剣の殺し合いができるならば望む所」
 そう思い、不敵に笑うアンジェリナ。
「バレンタイン中止」論争に端を発するあの模擬戦イベントでは本物の武器の使用が禁じられたうえ、後々傭兵同士の遺恨が残らないようにという配慮から様々な制約が科されていたため、大がかりな「お祭り騒ぎ」ではあっても「戦闘」と呼べる内容ではなかった。
 同じ傭兵同士の模擬戦なら、よりリアルなこちらのゲームの方が自分向きといえる。

「たかがゲーム、されどゲームだね」
 やはり零から『R.E.I』の説明を聞きつつ、樋口 舞奈(gb4568)は我が意を得たりと頷いた。
 カンパネラ学生として将来の正規軍士官を目指す彼女としては、このゲームが100人同時参加で集団戦の勝利を争う、すなわち単なる個人の力比べだけでない「戦略レベルのシミュレーションバトル」というのが気に入ったのだ。
「普段の訓練の成果を実地で試すいい機会だね。きっと大規模作戦の参考にもなるよ」

 ――とまあ動機は様々であるが、結局ゲーム参加を決めた総勢100名にも及ぶ能力者達は各々割り当てられたブースに向かい移動を始めた。
 いくら「バトルロイヤル」といっても、100名の能力者が仮想世界で好き勝手に戦い始めたらそれこそ収拾がつかない騒ぎとなる。そこでこの『R.E.I』にもそれなりの「ルール」が設定されていた。


・それぞれのチームに100ポイントの値が存在し、誰かが倒されるたびに1Pずつ減っていく。ポイントが残っている限り、何度でも復活できる。

・ポイントが0になっても、その時点で生き残っているメンバーは戦い続けられる。相手チームを全滅させた方が勝ちだが、人数が減るたびにエリアは縮まる。エリア外に30秒以上出ていた場合、強制死亡扱いとなる。

・能力についてはプレイヤー(能力者)のものがそのまま転用されるが、他にゲームバランスのため『味方補正』がある。 高レベルのプレイヤーは単独でもそれなりに戦えるが、『その動きに味方がついていけない』ため、味方が多くいても能力補正は少ない。その代わり味方が減ってもあまり自己の能力値は変わらない。 しかし、低レベルの場合は『味方のバックアップや援護の力が大きい』とのことで、高レベルでも倒せるようになる。それはレベルが低いほど効果が大きい。ただし味方が減った場合の能力低下も大きい。


 何やらややこしいが、要約するとこうだ。

・原則プレイヤーはA・B2チームのどちらかに属し、どちらか一方が全滅した時点でゲームセット。
・低レベルのプレイヤーであっても、仲間を集めて共闘することで高レベルプレイヤーに充分対抗できる。

 なお、死亡後に復活する地点は当初「死亡時と同じ場所」に設定されていたが、参加プレイヤーからの指摘により急遽プログラムを修正、「復活場所はランダム設定」に変更された。
 でないと先に敵プレイヤーの復活地点を発見したプレイヤーが「死亡→復活→集中砲火」のループで一方的にポイントを奪えてしまい、あっという間にゲームオーバーになってしまう怖れがあるからだ。

「パンフレットにもう1つ『Cチーム』って書いてあるけど、これは?」
 参加者の1人、藤村 瑠亥(ga3862)が零に尋ねた。
「あ、これはうち(「紅の獣」)のメンバーから雨在 利奈(gz0124)とリリス・グリンニル(gz0125)の2名が担当します。審判役というか‥‥まあゲームプログラムにバグがないか、仮想空間内でマナー違反を行うプレイヤーさんがいないか等をチェックするのが目的で‥‥」
「審判役? ということは、この2人は戦闘に参加しないんだな?」
「ええと、まあ‥‥その‥‥はずです」
 答える零の方も何となく自信がない。
 本来なら「厳正中立な立場」からゲームを監督するべきCチームの2人だが、利奈の方は「適当に暴れさせてもらうわ」などと物騒な事を口走っていたし、相棒のリリスに向かって何やらひそひそ耳打ちしてる場面を目撃してしまっているからだ。
(「ふ、2人とも‥‥くれぐれも自重してくださいよ〜」)
 内心、冷や汗もので祈らずにはいられない零。まあその祈りが果てしなく虚しいことを知っているのも、他ならぬ彼女自身であったが。

●仮想空間〜バトルフィールド
 各人に割り当てられたブースに入り、システム起動と共に一瞬軽いめまいを覚えた100名の能力者達は、次の瞬間にはゲームステージである仮想空間の「市街地」へと転送されていた。
 L・Hのハイテク居住区に比べると、やや古めかしい印象を受ける高層ビル街である。
 とはいえその街並みやビルの間を吹き抜ける風、コンクリートの路面を踏みしめる感覚は実にリアルで、ついゲームの仮想空間であることを忘れてしまいそうなほどだ。
 ただ「現実」と違うのは同じチームに属するプレーヤー同士がテレパシーのごとくチャット通信で会話できること、そして視界の隅にA・B・C3チームの残りポイントが小さく表示されていることである。
 スタート開始時点で『A:100/B:100/C:10』となっていた。

「何で審判役‥‥戦闘に参加しないはずのCチームにもポイントがあるのかな?」
 旭(ga6764)は不思議に思ったが、初期出現地点は各人ランダムなので、まずは同じチーム同士で集合する必要がある。
 テスターという事もあり、今回のゲームに参加する能力者達はそれなりのベテランが集められていた。そのためか、いきなり不用意に戦闘を始める様な真似はせず、慎重に敵チームの動向を見定めながら各陣営の元へと粛々と移動していく。
 ちなみに主催者の「紅の獣」からはAチームに清総水 栄流(gz0127)、Bチームに残間 咲(gz0126)が参加している。同じ傭兵組織の仲間でありながら、日頃は互いに強烈なライバル意識を燃やしている事でも有名な両名である。自ずと参加者達は彼女らをそれぞれのチームの「大将」と見なし集まっていく流れとなった。

「久しぶりだな、よろしく頼む」
 瑠亥はまずアンジェリナと通信を取り合い、他のAチームメンバーにも声をかけつつチームの「本陣」であるビルの一室へと集合した。
 そこには栄流の他、舞奈、九蔵、ヒューイ・焔(ga8434)、Mk(ga8785)の姿もあった。
「私は咲と決着がつけられれば良いのです。作戦の方は、皆様にお任せしますわ」
 栄流がそういうので、舞奈はさっそく出現地点のオフィス内で拝借してきたノートPC(実際はデータ上の仮想オブジェである)を広げ、総勢50名に及ぶAチームメンバーの確認、及び両軍の配置状況などについて分析を開始した。
「おっと。僕は1対1の決闘が好みなんだ。これはゲームなんだし、好きにやらせてもらうよ?」
 片手を挙げて宣言する九蔵。
「それは自由にしていいよ? でも同じチームなんだから、できれば戦闘の状況や敵の位置情報なんかは舞奈の方に報せてもらえると助かるな」
「OK。なら、そういうことで」
 九蔵を始め何名かの能力者は、単独戦闘により純粋に「戦いを楽しむ」べくその場を離れていった。
 舞奈の方も強いて止めない。同じチームだからといってルール上必ずしも「行動を共にしなくてはならない」わけではないからだ。
「俺はみんなと行動するよ。自分のレベルじゃ、単独戦闘はちょっとリスクが高そうだし」
「俺もだな。どうせゲームを楽しむならチームプレイの方がいいや」
 Mkとヒューイはそういって、Aチームとしての作戦行動を選択する。
 結局、その場に残った能力者は30名余り。
 その間、アンジェリナと瑠亥は集団戦にあまり乗り気でない栄流を説得、チームから選抜した精鋭部隊による先制攻撃を検討している。
 舞奈は改めてチーム行動を共にするメンバーの人数やクラス、各自の戦闘能力等の把握にかかった。
「さて、盤上の把握は大体出来た。向こうの指し手は一体誰かな?」
 PCのキーボードに指を走らせつつ、移動中のコンビニで失敬したチョコレートを囓る。
「あ、ホントに甘い‥‥細かいトコまでよく出来たプログラムだね」

 一方、Bチーム陣営も状況は似たようなものだった。
「‥‥私はあのエイルとケリをつけたいだけです‥‥チームの勝敗には興味ありません」
 咲はそういって、大将としてチームの指揮を執るのをきっぱり拒んだ。
「困りましたね。残間さんが動いてくれないんじゃ、こちらは圧倒的に不利ですよ」
 辰巳 空(ga4698)が同じチームに属するカルマ・シュタット(ga6302)に相談する。
「この状態でどこまで戦えるか‥‥その為にはあらゆる手段を吟味して取っていくしか無いでしょう」
 その場には旭や美環 響(gb2863)の姿もある。
 Aチームの九蔵と同じく単独戦闘を望んで別行動を取った者を除き、チームの総勢はやはり30名余り。
 傭兵としての実戦経験、及びあのゾディアック「牡牛座」撃墜者としての名声から、Bチーム内では自然とカルマをリーダーとして推す気運が高まっていた。
「敵も手練れの傭兵達‥‥下手に市街戦を挑めば各個撃破。籠城すれば包囲殲滅に遭う怖れがあり、か‥‥」
 思案の末カルマが提案したのは、いわば「複合拠点での籠城作戦」だった。
 具体的にはL字型に曲がった道路の外側2箇所に位置するビルをそれぞれ拠点1、拠点2と定め、二手に分けた部隊を籠城させる。
「これなら片方の陣地が攻められたとき、もう片方から打って出て挟撃することが可能になります」
「斥候隊で敵情を探る必要もありますね。俺がチームから隊員を選抜しましょう」
 と空。
「拠点の1階にはバリケードを築いて、近接攻撃クラスとサイエンティストにそこの守りをお願いしたらどうです?」
 旭も提案する。
「俺は拠点周辺の巡回にあたります」
「とにかく、ゲームは熱くなりすぎた方の負けです。まずは皆さん、気を落ち着けて行きましょう」
 出陣前の息抜きとばかり、響が得意の奇術でポンと手の上に花束を取り出す。
 各人の戦闘能力だけでなく「特技」までキチンとデータ化してあるらしい。
 ――つくづく、よく出来たゲームである。

●戦闘開始!
 ゲームスタート。
 といっても、A・B両チームの主力は互いの出方を探り合うかのように、また各々の拠点の防備を固めるためか、暫く大きな動きは見せない。
 最初に戦闘の火蓋を切って落としたのは、あえて単独戦闘を選んだ傭兵達だった。
 彼らの目的はチームの勝敗とは関わりなく、ゲームそのものを楽しむこと。つまりは決着がつくまで、少しでも長い時間戦っていたいのだからこれは当然だろう。
 その一人、九蔵は隠密潜行で身を隠し、予め用意したトラップに足を取られたBチーム能力者をサプレッサー付きのフォルトゥナ・マヨールーで狙撃した。
 相手は自分より実戦経験豊富そうな傭兵だが、対キメラ戦に慣れてしまうと却ってこうした人間的な罠に鈍感になってしまうものとみえる。
「残念だったね、弱い奴には弱い奴なりの戦い方があるのさ‥‥慢心には気を付けて下さい、先輩?」
 立ち直る隙を与えず素早く背後から接近、フォルトゥナの弾丸を至近距離から後頭部に叩き込む。
 銃声と共に血と脳漿が飛び散り――と思いきや、「戦死者」の姿はかき消すようにその場から消滅した。ゲーム制作者の零も、さすがに視覚的な残酷描写の再現までは自粛したのだろう。
「戦死」した能力者は所属チームのポイントが残っている限り、無傷の姿でこの街の何処かに復活し、また戦い続けることになる。
「ハッハー、命を賭けずに命がけなんて、癖になりそうだ」
 再び隠密潜行で気配を消した九蔵は、手近にいた別の能力者の背後に忍び寄るや、得意のコマンドサンボで関節を極め、片手で抜いたアーミーナイフで肝臓をひと突きした。
 2人目の「敵兵」が消滅し、Bチームのポイントがまた1点減る。
 バグアのヨリシロや強化人間ならこう簡単にはいかないだろうが、能力者といえフォースフィールドを持たない人間は、同じ能力者の攻撃に対して案外脆い。
「徒手空拳も使えるものだね、今度は鍵爪でも使ってみようかな?」
 すっかり「殺人ゲーム」の虜となった九蔵は、新たなターゲットを求めるべくコンクリートのジャングルを移動し始めた。

 Bチーム拠点のバリケード構築が済むまで、周辺警戒のため数名の仲間と共に巡回にあたっていた旭を予期せぬ敵が襲った。
 大剣を構えた幼い少女。リリスである。
「ま、待って下さいよ! グリンニルさんは審判役じゃないですか!?」
 少女は旭の言葉など聞いていない。ただ無表情のまま素早く間合いを詰めると、手にした剣を振り下ろしてくる。
 旭は内心で困惑した。
 なぜ審判役のCチームが自分を攻撃してくるのかさっぱり判らなかったし、それ以上に「小さな子供に剣を振う」ことに抵抗がある。
 辛うじて初撃をメタルガントレットで凌ぎ、たまたま持っていた飴玉を放り出す。
 わずかにリリスの気を引ければ、その瞬間に離脱するつもりだったが――。
 少女は灰色の双眸を光らせ、無言のまま瞬即撃による刺突をかけてきた。
「うわっ!?」
 ――ザシュッ! 肉を裂く鈍い音。
 旭は思わず目をつむったが、覚悟していた「痛み」がない。
 恐る恐る目を開くと、そこにリリスの姿はなく、代わりに同じ巡回班のグラップラー2人が立っていた。
「ダメだよ、お兄さん。相手が子供だからって油断しちゃあ」
 瞬天速で回りこんで助けてくれたらしいグラップラーの男が忠告した。
「ゲームだからいいものの、相手がヨリシロや強化人間だったらどうすんだい?」
「しかし今の子供、確かCチームの審判員だろ? 何で俺達を攻撃して来たんだろう」
 もう1人のグラップラーが首を傾げる。
 それは旭にも答えようのない質問であったが。

 それからわずかの後。
 先手を取るべくAチームの拠点を出撃した瑠亥、アンジェリナを含む精鋭の切り込み部隊の前にも想定外の「敵」が立ちふさがっていた。
「っち‥‥聞いていないぞ、賢狼の参戦などな!」
 問答無用で斬りつけて来る利奈の刀を紙一重でかわし、瑠亥が怒鳴る。
 まあゲーム開始前、Cチームの役割について質問した際に狼狽した零の様子から、何となくこうなるような気もしていたが。
「面白いじゃないか? 彼女は仮にも『紅い獣』リーダー。相手にとって不足はない」
 滅多に体験できない「能力者との真剣勝負」を期待していたアンジェリナは、むしろこのアクシデントを歓迎するかの様に笑い、氷雨を構え直した。
 その言葉に瑠亥も腹を括り、仲間達にも呼びかけ一気に集中攻撃をかける。
 確かに利奈は強かった。とはいえその強さはあくまで「人間の能力者」の範囲内での話ある。
 また「味方補正」というゲームシステムも幸いし、間もなく満身創痍となった利奈の姿は瑠亥達の目の前から消滅した。
 同時にCチームの残りポイントが「8」に変わる。
「やれやれ‥‥初っ端から賢狼と戦うはめになるとはな」
「まあゲームだからこういうサプライズもありだろう? それはともかく、味方の方も大部やられてしまったな」
 利奈に倒され、半分以下に減ってしまった友軍部隊を見回し、アンジェリナがため息をついた。このままBチームの拠点を襲撃するにはどうにも戦力不足だ。
「一度拠点に戻って体勢を立て直そう。‥‥やはり栄流にも同行してもらわねばな」
 実は出発時、栄流からは「咲とは1対1で決着をつけたい」との理由から、徒党を組んでの出撃を断られていた。しかし「審判役のCチームがルール違反の攻撃をかけてきた」と知れば、同じ「紅い獣」の栄流としては責任上協力しないわけに行かないだろう。

「え〜? Cチームの2人が無差別に攻撃を仕掛けてくる?」
 Aチーム拠点で仲間からのチャット通信を受け、舞奈は驚いて両チームの残りポイントを確認した。
 言われて見れば、まだ本格的な集団戦も始まらないというのにA・B両チームのポイントがグングン減っている。
 いち早く拠点から出た単独戦闘組、及び斥候部隊が次々とCチームに食われているのだ。
「う〜ん、予想外の展開‥‥でもこの状況は逆に利用できるかも?」
 機転を利かせた舞奈は直ちにAチームメンバーに通信で呼びかけ、復活した利奈、及びリリスは極力やり過ごして交戦を避けること、またBチームの傭兵を発見したら、うまく利奈達のいる方向へ誘導するよう指示を送った。
 要するに無差別殺戮者と化したCチームを「動くトラップ」として利用、Bチームのポイントをいち早く削らせようという戦略である。
「無駄死にはするな。そして何より無駄死にさせるな。これを徹底すれば勝てるよ」
 この作戦は見事に当たり、当初は同じ比率で発生していた両チームの損害が、やがてBチームの方へとしわ寄せされていく。
 だがそれから間もなく、状況は新たな変化を見せた。
 利奈やリリスから不意打ちを受けて「戦死」した能力者達――特に真っ先に犠牲になった単独戦闘組が激怒。復活後に互いに通信を取り合ってA・Bチーム間の対戦を一時停戦、徒党を組んでのリベンジを開始したのだ。
 まあ当然の成り行きだろう。
「紅の獣」と個人的に交友がある者ならまだしも、何も知らずに参加した傭兵達にしてみれば審判役から「騙し討ち」を受けたも同然なのだから。
 舞奈の視界の隅でCチームの残りポイントがみるみる減り、やがて「0」になった。
「あらら‥‥」
 しかし利奈とリリスの反撃も凄まじかったようで、その頃にはA・B両チームの残りポイントも「0」。
「‥‥ってことは‥‥?」
 すなわち、これ以上の復活はなし。現在仮想空間に生き残った面子だけで対戦を続けることになる。
 しかもルールに従い、人数が減るごとに戦闘可能なフィールドは狭まってくるのだ。
 Cチームはいち早くリタイア。残るA・B両チームも短期決戦を余儀なくされることになった。

●拠点攻防戦
「これ以上の籠城は時間の浪費だ。一気に打って出る!」
 今度は栄流も加えて戦力を再編成したアンジェリナと瑠亥は、Aチームの残存戦力をとりまとめて拠点を出撃した。
 ノートPCを抱えた舞奈、Mk、ヒューイもその後に続く。
 Bチームの拠点近くと思しきL字型道路の角へ差し掛かったとき、L字の外側両辺にあたる2箇所のビルから凄まじい十字砲火が浴びせかけられた。
「いかん、拠点を分散していたか!?」
 友軍のメンバーが次々銃火に倒れる中、使用される銃器の数や総合火力を舞奈が分析、咲のいる「本陣」と思しき拠点を割り出す。
 銃火をかいくぐり一方の拠点に接近すると、バリケードの向こうから近接系の能力者達が迎撃に飛び出してきた。
 ヒューイがすかさず照明銃を撃ち込み目眩まし。怯んだBチームに向けスコーピオンの弾幕を張る。
「やれやれ。せっかく俺達の拠点に色々トラップを仕掛けておいたのに、無駄になってしまったか‥‥」
 ぼやきながらも、Mkはカデンサの槍を構え、流し斬り・両断剣などスキルを活用して斬り込んでいく。
 Bチーム側からは空がスナイパー・グラッブラー・ドラグーン・ビーストマンより選抜した精鋭「ブルーバード小隊」を率いて出撃。拠点に残った友軍からの援護射撃も受けつつ、迂回機動によりAチームの後衛を切り崩しにかかった。
 予め路上に移動させておいた空の車両を遮蔽物に、瞬速縮地で移動しつつ真音獣斬でアウトレンジ攻撃。一撃離脱で確実にダメージを与えていく。
「倒す」よりは負傷により「戦闘不能」にすることを優先、相手チームの総合戦力低下を狙った戦法だ。
「物凄く卑怯な戦い方ですが‥‥やるしか無いのです」
 また響はこれも得意のメイクアップで体格の似た栄流に変装、味方と油断したAチーム能力者に対し先手必勝で小銃「S−01」の銃弾をお見舞いする。
「汝の魂に幸いあれ」
 旭もまた、射程に応じて月詠と小銃を使い分け、敵チームの陣形を崩そうと奮戦。
「ブルーバード小隊」を始めBチームも善く戦ったが、緒戦で「紅獣」リーダーの利奈を倒し、しかもリーダーに栄流を擁したAチームの方に時の勢いが味方していた。

 Bチーム拠点ビル内。
「‥‥エイルが来ましたね‥‥」
 ナイフの刃を軽く指で撫でつつ、咲が立ち上がる。
「先に俺が挑ませて貰って良いですか?」
 そんな彼女を止めようと声をかけるカルマ。
 咲が栄流と個人的に戦いたい気持は判る。だがチーム全体の勝利を思えば、咲の存在は「切り札」として最後まで温存しておきたい。
「咲さんにはその後に行って貰いたいです。それまでは陣に残っていて貰えないですか?」
「もう復活のポイントは残っていないのですよね? ‥‥それなら、実質的にチームのリーダーであるカルマ、あなたが残るべきでしょう」
 微かに笑みを浮かべ、咲がいう。
「‥‥御武運を、すぐに帰って来て下さいね」
 カルマはそう答えるしかなかった。

 ビル内からゆらりと現れた咲の姿を目にして、Aチームメンバーに緊張が走った。
 友軍の傭兵達も多くが倒れ、残っているのは栄流、アンジェリナ、瑠亥、舞奈、ヒューイ、Mkのみ。
 またBチームでその場に立っているのも空、旭、響の3名のみだ。
 アンジェリナと瑠亥が互いに目配せし、頷き合う。当初の計画とはやや違う形となったが、ともあれ「咲が現れたら全力で撃破する」――これがBチーム一同の合意事項だった。
「さて、最初で最後かもしれない、全力で終わらせる!」
「殺戮の氷人形」が放つ投げナイフをかわしつつ、瞬天速で肉迫、二刀小太刀「花鳥風月」で斬りかかる。
 その斬撃を手持ちのナイフでさばいた咲が路面を蹴り、同様に瞬天速を発動させた。
 ただしその狙いは数十m先にいる栄流!
 最初から他の傭兵は眼中になかったのだ。
 栄流も槍を構え直すが、如何せんダークファイターだけに一瞬出足が遅れる。
 槍の穂先をかいくぐった咲のナイフが栄流の胸元に突き立つかと見えたが――。
「――なにっ!?」
 代わって刃を受けたのは、再度の瞬天速で追いすがった瑠亥だった。
「これが、チームとして、ゲームのルールとして勝つための一番の手だろう?」
 微笑みを浮かべたまま、仮想空間から消えていく瑠亥。
 一瞬動きを止めた咲の肩に、アンジェリナの流し斬りが食い込む。
「今だっ――栄流!」
「は、はい!」
 閃光のごとく繰り出される槍の一撃。
 ――咲の姿も消滅した。
 時間にすれば瞬きするほどの刹那。しかし凄まじい対決にチーム戦も忘れて見入っていた傭兵達の視線が、再びビルの入り口に注がれた。
 セリアティスの槍を携えたカルマが現れたのだ。
「順番が逆になりましたが‥‥一手お相手願えますか?」
 穏やかな声で栄流に問いかける。
「お受けしましょう。あなたも槍を使われるのですね?」
 合意の上とはいえ、やはりライバルと1対1で戦えなかった事に釈然としなかったのだろう。咲とカルマを重ね合わせる様に栄流は頷き、Aチームの仲間達にも「手出し無用」を願い出た。

 生き残りの傭兵達が遠巻きに見守る中、2人の槍使いが路上を走り、互いの穂先に火花を散らす。
 セリアティスを大きく振うカルマは突きよりむしろ払いを重視。時折蹴りなどの挌闘術をフェイントとして交えつつ、積極的に栄流を追い込んでいく。
 栄流の槍の腕も相当なものだ。だが、咲との対戦を意識しすぎていたせいか、戦闘スタイルの異なるカルマとの戦いにやや戸惑っている事が伝わる。それでもわずかに手を抜けば敗れるのはカルマの方――それほどまでに力の拮抗した決闘なのだ。
 気合いと共に槍を繰り出す栄流の姿に、かつて自らの手で倒したあの「牡牛座」の勇者が重なった瞬間――。
「全てをこの一撃に‥‥賭ける」
 先手必勝・流し斬り・紅蓮衝撃――持てる全スキルを同時発動し、炎のオーラをまとったカルマの全身全霊を込めた槍の一閃が栄流を貫いた。
「‥‥お強いですわ」
 口許に笑みを湛え、桜が散るごとく消滅する栄流の姿。

『あーあー、聞こえますか〜?』
 死闘の直後にえらく場違いな零の呑気な声が、傭兵達の耳に響いた。
『お楽しみの所申し訳ないんですがぁー、人数が減ってかなりフィールドが狭くなりましたぁー。あと審判役がいなくなっちゃいましたのでー、テストバトルはこれにて終了とさせて頂きまぁ〜す』

●リアルワールド〜イベント会場
「ふー、参った参った。まさかゲームで3回も殺されるなんてな〜」
「俺なんか5回だぜ? しかもうち2回は、あの小さいのに頭をバッサリ‥‥」
 口々にボヤキをもらしつつ、能力者達がイベント会場を後にする。

「も〜っ、何やってんですか2人とも! 今回のテストが好評だったら、このシステムULTに売込もうと思ってたのに〜!」
 零からこっぴどく叱られ、シュンとなって項垂れるリリス。
 一方利奈はといえば、
「ハイハイ。そうカリカリしなさんなって。何だかんだいって、傭兵さん達も結構楽しんでたみたいじゃない?」
 何やら清々した表情で酒瓶をぐい飲みしている。
 どうやら、最初から勝ち負けは度外視して「思いきり暴れる」のが目的だったらしい。
「まあいいんじゃないですか? みんな格好の訓練になったんですし」
 今回の戦闘記録を忘れないうちにと、こちらは本物のノートにせっせとメモりながら舞奈が笑う。
「プログラムは完璧でしたからね。一般人向けに修正して、どこかのゲーム会社に持ち込んでみたらどうです?」
 参加賞のオレンジジュース(紙パック式)をストローで飲みつつ、九蔵がいった。
「ただ殺人ゲームはヤバいですよねえ‥‥本当に癖になりそうで怖いし」
「あれ? 残間さんと清総水さん、まだ戻ってないんですか?」
 やはりジュースを飲みつつ談笑していたヒューイが、ふと尋ねた。
「ああ、あの2人はねえ‥‥」

●仮想空間〜バトルフィールド
「テストも無事済んで傭兵さん方も帰りました。さあ、今度こそ心ゆくまで『決着』をつけようではありませんこと?」
「‥‥望むところです‥‥」
 零に頼んで再びゲーム空間に舞い戻った栄流と咲は、今度こそ「サシの勝負」を行うべく互いの槍とナイフを携え向かい合っていた。
 その傍らでは、自ら「見届け人」を志願した響がどこか楽しげな表情で2人の対決を見守っている。
「どうやら仲の悪いお二人みたいですが、この機会にお互いたまっている物を吐き出すべきですね。そのことによって相互理解が深まると思いますし‥‥何より、女性にはできるだけ笑顔でいてもらいたいものです。美人ならなおさら、ね」
 そういうと、奇術で両手から取り出した鳩の群を飛ばし、にこやかに決闘開始の合図を告げるのだった。

<了>
<代筆:対馬正治>