●リプレイ本文
●本日は晴天なり
快晴。
雲一つない真っ青な空。
晴天の下、9人の能力者がその場に集っていた。
各自準備は万端、いつでもいける。
9人はそれぞれの思惑を胸に秘め、思い思いに目の前の建物へ視線を向ける。
そう――――巨大百貨店へ。
「ママー!」
良く見るといたるところに家族連れの姿。
カップルの姿。
子供同士のグループ。
まさに、街の憩いの場の一つでもある百貨店らしい人種の集い。
その入り口にででーんと構えるのは今回の依頼(?)の参加者だ。みなそれぞれ自己紹介等しつつ心なしかわくわくしている感がある。
「はじめまして。 銀細工師兼フェンサーのセシル・シルメリア(
gb4275)です。 よろしくお願いします」
「初めまして、俺番朝(
ga7743)だ。 今日は宜しくだ」
セシルの礼儀正しい挨拶に続いて、屈託のない笑顔で今回の依頼人に自己紹介を済ませる朝。
今回の依頼人は、『紅の獣』のメンバーの一人である清総水 栄流(gz0127)。依頼内容は―――
―――「私に似合う私服を見立てて欲しい」
わざわざ報酬を払ってまでも依頼する辺り、本人にとってはかなり真面目なのだろう。
「とりあえず、さっさと中入ろうぜ?」
そういって須佐 武流(
ga1461)は先頭を切って百貨店の自動ドアをくぐり抜ける。一同も後に続く。
「さて、どんなものにしますかね‥‥」
カルマ・シュタット(
ga6302)はとりあえず手近なお店に入り服を物色しつつ栄流に合う服装を選んでいく。
彼の中でのイメージは、かっこいい。だけどそれじゃなんとなく面白味がない。
「ので、ここは敢えてかわいい、女の子らしいという物を推薦してみますか」
そう言って手に取ったは白系統のロングスカート。続いて髪の色と対比させた青系統のレース付きブラウス。栄流の髪の色と女の子らしさを前面に出そうとコーディネートされたカラーコントラスト重視だ。デニム系など、かっこいい物のほうがいいとは思うが、ここはやはり可愛い系で!
早々にお勧めする服は決まったので、ちょっと遊びも。
「栄流さん、これなんかどうでしょう?」
そう言ってピラっと差し出されたのは十二単。
「栄流さんの実家は相当の資産家らしい、ということは栄流さんはお嬢様と言うことで俺のお勧めは‥‥五衣唐衣裳、つまり十二単!」
栄流だけではなく、その後ろに控えてたアンジェリナ(
ga6940)も口をぽかーんと開けた。
「‥‥なるほど」
顎に指を添えながら十二単をじっと見つめる栄流、本気か?
「‥‥いやいや、 冗談ですから」
カルマ、慌てて苦笑しながら前言撤回。真面目モードの時の栄流にその手の冗談は通じないらしい、いやはや。
「さてさて、俺はどーすっかなーっと」
そういって大人らしさ、男性でも女性でも着れるような服が集められた売り場へと足を運んでいたのは那間 樹生(
gb5277)。紅獣に興味のある彼が今回の依頼を受けたのは必然だったといえよう。
「なー栄流」
「はい?」
自分の名前を呼ばれ、視線を樹生へと向ける。
「とりあえずさ、その髪、整えてきたらどうだ? どうやらここには美容室もいくつか入ってるようだし」
「び、美容室、ですか」
なぜかどもる栄流。どうやら彼女はファッションやら美容やらが頭に付く施設に入るのが恥ずかしいらしい。
「それはいい案ですね! ついでですし、私も一緒にいきますからっ!」
セシルの声に、自分も付いていくとの意思表示にアンジェリナも頷く。
「俺も行こうかなっと」
「何事も経験ですし、ね?」
武流の申し出に、セシルがぐいっと後押しをする。さすがにそこまで言われて拒否することもできず、栄流は少し赤くなりながらも合意してくれた。
そんなみんなのやり取りを遠巻きに見つめるは番 朝。彼女は、見聞にと知人にこの依頼を薦められ今回この依頼に参加していた。自分の命を軽視する傾向にある彼女に、生に執着するものが見つかればというのが知人の本心だが、果たしてどうなることやら。
服選びの参考にと、栄流の居る輪を彼女ごと観察していたが、なんとなく、楽しげなその情景に居た堪れなくなっていた。そして朝は、そっとその場を離れ店内を一人で散策することにした。
自分が好む自然物のアクセ工房等に立ち寄り、いくつか物色してはまた次の店へ。
「俺がいなくても困らないだろうけど、依頼内容に反してるよなぁ‥‥」
途中からちょっと不安になり、皆がいそうな店を片っ端から覗いていく、が、会えない。
なかなか、会えない。
「あれ‥‥」
百貨店というものは、数多くのお店が境目無く点在しているもの。それはまるで迷路。百貨店初体験の朝がこうなることは自明の理だったろう。
「俺‥‥もしかして、迷子‥‥!?」
誰か、彼女を見つけてあげてください。
●一息いれましょう
「整えただけなのに、結構様変わりするもんだな‥‥うん、綺麗だ」
栄流達一行は飲食外の喫茶店の中にいた。
美容室で髪を整え終わったところだ。とりあえず一服いれようという提案でここにきた。
「ど、どうもありがとう‥‥」
余り言われなれてない言葉なのか、武流の言葉に栄流は少しどもってしまう。
「‥‥」
紅茶を静かに啜るアンジェリナ、ここでふと疑問に思ったことをぶつけてみた。
「何故、そこまで咲を意識するんだ‥‥? 咲の性格を考えても気が合わないだけ‥‥とは思えない。 何がそこまでお互いを意識させているのか‥‥私には解らない」
それは武流も少し思ったところなのか、無言で栄流の言葉を待っている。
「‥‥私にも、よく、判らない」
少し固くなった言葉と共に少し顔を俯かせる栄流。彼女自身整理しきれてないことなのか、それとも本当にまだ判っていないのか。彼女の反をみてこれ以上追求するのは野暮だと武流は判断した。いずれ、彼女自身から、その時がくれが明かされるであろう。
「つまり、今回は、自分は女らしくないんじゃないかって事だろう?」
話題を変えるように、明るく言い放つ。
「こういうことを気にして相談している時点で、立派にらしくなっていると思うぞ?」
「そうですよっ、清総水さんは女性らしい方ですよ?」
セシルも明るく同意する。
「‥‥ありがとう」
そして一同は休憩もそこそこに、気を取り直して服選びを再開させた。
「テーマは女性が着てみたいであろう服っ!」
ガラガラがらがらっ!!
何故なのか、イーリス・立花(
gb6709)は清掃用ゴンドラを押してきている。そしてその上にはスター・カプロイアにその身を包んだ、旭(
ga6764)の姿。頭にはなぜかイーリスが調達してきたパーティーグッズの王道、ちょんまげカツラ。
「というわけで、こちらなどいかがでしょう?」
誰も突込みができないまま旭の活き活きとしたトークは続く。
そしてバサッと皆の前に躍り出たのは‥‥ウェディングドレス。
「‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥‥」
あ、あのー、そんな目でこっち見ないでー‥‥。そんな目をしながらおずおずとゴンドラを降り、スタッフに怒られながらそれを返却する旭と立花。
その姿に、少し遅れてどっと笑いが巻き起こる。場を楽しくさせようと思った彼らなりの気遣いは、どうやら成功したようだ。
「さぁ皆さん、徹底的に栄流さんと+αの服をとっかえひっかえしましょう♪」
元気よく音頭をとる立花。どこから調達してきたのか、彼女の傍らにはたくさんのパーティーグッズが。栄流の服をみんなで選びながら、合間合間で参加者のみんなにそれらを薦めて場を和ます。もちろん受け入れる人もいれば、いやだーと言う人もいる。だがそれでも、その場はいつのまにか楽しい空間となっていたのは間違いない。
「さて、そろそろちゃんと考えてきたやつを披露しますか」
旭はごほんと一つ咳払いをして、選んできた服を見せる。
明るい緑のキャミソールに濃い緑のベスト。
襟には白の羽ファーがアクセントに装飾されている。
ボトムズはローライズのダメージジーンズ。
そして髪の色に合わせた赤みがかった茶色のブーツ。
クールさと女性の華やかさをアクセントに選んだコーディネイトだ。
「私はこれですねっ♪ サンタ服と鼻眼鏡!! というのは冗談で、こちらです」
彼女が用意したのは、いたってオーソドックスな服たち。
ショートデニムにジャケット、カットソーチュニックに味の利いたベルト。そして普段とは印象をちょっと変えた、パンプス。
「栄流さんスタイルいいから何着ても似合いますよっ」
あらかじめ貸し出し申請しておいたデジカメでそれぞれが推した服装を着た姿を納める旭。こうすれば、簡単に見比べられるということらしい。
「んで、俺はこれだな」
トップをシンプルなデザインのガラTシャツと半袖のパーカー。
ボトムズには七分丈のカーゴパンツ。
少しボーイッシュなラインナップだが、背も高いし、髪型にも合うだろうという武流のチョイスだ。
一応、女性らしさということで、ボトムズにはジーンズのミニスカートのパターンも用意した。
そしてなぜか隣にはメイド服やゴスロリも。これらを栄流が皆の前できるかどうかは、答えは明らかだったのは言うまでもないだろう。
「さて、栄流さん、あそこ一緒にいきましょうっ」
セシルが栄流の手をひっぱって目指すは女性化粧品売り場。
抵抗はあったがとりあえず相手が女性らしいセシルだけだったのでとりあえずおずおずとくっついていく。
「恥ずかしいのは判りますが、何事も経験ですからねっ。 私も最初はそうでしたから」
くすっと笑みを浮かべ、化粧水やファンデーションの使い方をサンプルを使って判りやすく彼女に伝授していくセシル。
馬子にも衣装というと言い方はあれだが、なるほど、化粧ひとつで女性は化けるというのは、栄流も例外ではないらしい。
セシルが施したナチュラルメイクで、一気に女性らしさを引き立てられた栄流の姿がそこにはあった。
そしてそのままいくつか化粧品を購入して、服売り場へ。
セシルが選んだのは大人っぽさを活かした女性らしさ。
スボンタイプのボトムズにシックなシャツ。その上から羽織るロングカーディガンを。色合いは栄流の好みに合わせ、彼女に選ばせたものだ。
「よく似合ってますよ。 やっぱり大人っぽいですね」
そして他の参加者が周りにいないのをいいことに、ヒラヒラ系の可愛いドレスも試しに着せてみるセシル。セシルしかいないので、とりあえず赤くなりながらも着てみる。
「うわぁ‥‥かわいい♪」
そんなガールズカラーの中身がどんなものであったかは、ご想像にお任せします。
「あれ、そういえば朝はどうした?」
樹生が一人欠けているメンバーに気付いて声を出す。
こういうときの百貨店での有効手段は――――
ピンポンパンポーン
「お客様にご案内を申し上げます、LHからお越しの番 朝様、番 朝様、お連れ様が―――」
「うぇー、ただいまー」
「はは、おかえりさんっと」
快活に笑いながら迷子センターに朝を迎えにいった樹生が後ろに朝を連れて帰ってきた。
一同はその間にカルマと武流の提案でアンジェリナにも服を見立てていたのだ。栄流と同じ雰囲気を持つ彼女にも同じようなものを。
その時ちょうど栄流が着てたのは樹生が用意した彼女の外面と内面にあったシンプルな組み合わせ。特筆する点がないが、それが彼女の色をそのまま出していた点が、敢えて特筆するところだろう。
あらかた服を選び、後はどれにするか決めるということころだった。
そこに朝が栄流に走り寄る。
「あの、これ、せっかくだから」
彼女が手渡したのは先ほど自分が選んだ服と一緒に、首輪サイズの輪のアクセサリー。天然物をイメージさせた、どんな服にも合いそうな一品。
「あ、私からも、これどうぞ」
セシルも自分が用意してきたアクセサリーを渡す。それは自分の店の剣をモチーフにしたシルバーネックレス。朝がプレゼントしたのもと合わせるとなんともいえない幻想的な雰囲気をかもし出していた。
「ありがとう、大切にしますね?」
自然と手が朝の頭に伸びて、そのまま優しく撫でた。朝も嫌ではないのか、最初にみせた屈託のない笑顔と同じ笑顔をまた、栄流に向けた。
そんなやり取りを見て、立花も頬を緩める。
(「戦いしか見ていないなんて寂しいですし、ね。 それじゃ機械と同じです」)
やっぱりこうでこうだから、と、自分で理由を勝手につけて抑えるのは勿体無い、そうおもって今回この依頼に参加した彼女。みんなのおかげで、少しはそれも伝わったかなと、自分にくすりと笑みを零す。
みんなが選んだ服に加え、最後に朝が持ってきた明るい色合いの服装、全部で8様の服装がそろった。
特に朝の選んだものは他には無い快活なもの。
山吹色の七分袖、そしてその上に白に近いクリーム色の半袖の半透明なYシャツ。
Gパンをひざ下辺りでぱっつんっと切った感じのズボン。
それらに合わせたこげ茶のベルトに朱色のリストバンド。
靴は網目状のサンダル。すっぽぬけないよう踵にバンドがあるものを。
そして抽象的な文様が控えめに描かれているヘンプアクセ。
自然を好む朝らしいチョイスだ。
そして、デジカメと散々みんなでにらめっこして決まったのは‥‥
●ただいま
大丈夫、皆さんが選んでくれたのもですし。
何事も経験。
そう自分に言い聞かし、新たな装いで、紅の獣の出張所のドアを開ける。
「ただいま、戻りました」
「おかえりーっと、栄流、遅かった‥‥ね‥‥」
「‥‥おか、えり」
「‥‥」
静まり返る紅獣の面々。咲がこっちみてる!
それだけでもうここから逃げ出したくなるほど顔が赤くなるのが自分でもわかる。
「栄流っ! かわいい!!!」
零が間髪いれずに飛びついてくる。
それが口火を切ったのか、利奈もリリスも一様に褒めた倒す。
「あー、押し倒してぇ」
「利奈」
そして咲の冷静なチョップが利奈の後頭部を襲う。
「‥‥似合ってますよ、栄流」
そう短く言い残し、キッチンへとそのまま姿を消す咲。
相も変わらずメンバーの怒涛のスキンシップやらどうしたのやらという質問攻めにあってるが。
栄流は、なんとなく、よかったなぁ、と自分でもよく判らない安心感に身を委ねていた。
今回、栄流が身に着けていた服は。
大人っぽさを活かした女性らしさ。
スボンタイプのボトムズにシックなシャツ。
その上から羽織るロングカーディガン。
色合いは栄流の好みに合わせ、彼女に選ばせたもの。
セシル・シルメリアが選んだものだった。
その胸元にはセシルからもらったシルバーアクセと、首には朝からもらったアクセ。
後日参加者全員に感謝のメッセージが、栄流から贈られた。
戦士である前に女性。
女性である前に戦士。
どっちであっても、自分は自分。
―――そうですよね?
(代筆:虎弥太)