タイトル:【嘆戦士】渇きマスター:中路 歩

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/18 20:56

●オープニング本文


 男は死神のような長い銀髪をしていた。
 男は咎人のような真っ黒のローブを着ていた。
 男の双眸は虚無を湛えたように虚ろだった。
 男の両腕には禍々しい大斧がそれぞれに握られていた。

 男は、強者を求めていた。





「どうなって‥‥いるんだ?」
 男性能力者は、累々たるキメラの屍の前で呆然としていた。
 彼だけではない、彼の同行者である他の能力者も同じだった。
 彼らは、ラスト・ホープにてキメラ討伐の依頼を請けてこの街に来ている。
 依頼の内容は、「とある街の周辺にキメラが集まってきている、この街を襲おうとしているのは明白だ。どうにか助けて欲しい」という、最近では珍しくも無い仕事だった。珍しくは無いが、キメラは決して弱いわけではない。フォースフィールドというバリアのような物で常人では傷一つ与える事は困難だし、それを除いても身体能力面で大きく負けている。能力者でさえ、時折苦戦を強いられるのだ。
 それはさて置き、依頼が発注された日にちを考え、既に街に襲撃を仕掛けている可能性は大いにあった。そして、その予想は外れておらず、街には所々破壊された後がある。

 だが、それだけだ。

 少し破壊されているくらいで、特に被害はなく。人の屍も無い。あるのはキメラの屍だけだ。
 街の人間がキメラを倒す事は無理だろう。その理由は上記の通りである。
 そして、もう一つ気になること。

 街の住民が、誰一人見つからない。

 確かに、襲撃にあったのならば逃げ出すのはあり得るだろう。だが、家の中には湯気の立つお茶。明らかに今まで誰かが居たであろう温かい室内。まるで、自分達が来るついさっきまで誰かが居たような感じだ。
 
 キメラの屍と、誰もいない住民。
 
 とにかく能力者たちは、街の住民の手がかりだけでも見つけるために、街中に散った。


 それを一人の「男」が、建物の屋根の上から見ていることも知らずに。

「ラスト・ホープの犬どもよ、俺に噛み付いてみせろ」

 そう呟き、男は姿を消した。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
リュウセイ(ga8181
24歳・♂・PN
月村・心(ga8293
25歳・♂・DF
天狼 スザク(ga9707
22歳・♂・FT
鴉(gb0616
22歳・♂・PN
シヴァー・JS(gb1398
29歳・♂・FT
HERMIT(gb1725
15歳・♀・DF

●リプレイ本文

 この不可解な事件、色々不審な点はあるものの、最優先事項はやはり住民の捜索だ。
よって、LHの面々はツーマンセルの四グループで行動する事にした
 街の北側を捜索するのは白鐘剣一郎(ga0184)と月村・心(ga8293)。東側担当は金城 エンタ(ga4154)とリュウセイ(ga8181)。西側は鴉(gb0616)とHERMIT(gb1725)。そして南側が天狼 スザク(ga9707)とシヴァー・JS(gb1398)である。
 各々は、それぞれの思いを胸に、行動を開始した。

●北側班
「まずは住民の足取りを掴まねばな」

 白鐘はまずそう考え、以下の事を確認し始める。

1:キメラの死体の分布を判る範囲で確認
2:キメラの侵攻方向を見定め、住民が避難する方向を推測

 月心もそれに承諾し、行動を開始した。
 確かに、それらを上手く調べられたら何かしらの手がかりをつかめる可能性は大いにある。白鐘の目の付け所は決して間違っていない。

 しかし、調べてみて驚く事が多々発見される。

 まずは死体の分布だ、正直に言ってそれを調べるのに時間は掛からなかった。なぜなら、最初に屍を見つけた場所から約半径50メートル。それ以上の場所に屍は存在しなかったからだ。
 つまり、キメラが街中に散らばる前に、全て仕留めたと言う事になる。
 そうすると、「キメラの侵攻方向を見定め、住民が避難する方向を推測」というのは不可能となり、結局地道に街中を探索するしかなかった。

「まるで神隠しだが‥‥本当に街の住民全てを何の痕跡も残さず消したと言うのか」

 白鐘はそう思ったものの、それを決め付けるのはまだ早い。生き残りがいる可能性を考え、敢えて大声で呼び掛けながら捜索を進める。

「しかし、ここまで人が居ないとは‥せめて一人二人ぐらいとの接触があるものなんだがな‥」

 そして、その消えた住民に代わるモノとして‥大量のキメラの骸‥。
 白鐘と違い、月村は最悪の事態を想定していた。
 ここがキメラの実験場として使われているのならば、ありえない話では無いからだ。しかし、それならば誰がLHにキメラ殲滅を依頼したのだろうか。

「!!、おい」

 思考にのめり込んでいた月村は、白鐘の声で我に返る。
 彼が指差していたのは、よくコンクリートの道の間などに作られている小さな草地。そこには明らかに人間の足跡が複数ついていた。キメラらしきものは一つも無い。
 そして、その踏まれた部分の土が大きく散らばっている所を見ると、かなり急いで走っていたらしい。
 
「新しいな、全て」

 そう、これらの足跡は全て新しい。まだ一時間経ったか経っていないかだろう。ということは、キメラ実験場説の可能性も、神隠しの可能性も完全とは言えないが、無くなる。
 二人は、僅かな希望を頼りに、再び街中の捜索に移った。


●西班
 鴉は改めて方位磁石で磁場の狂いを確認する。どうやらありがたいことに、そういう狂いは発生していないようだ。彼は磁石を懐に仕舞い、傍らの民家に入っていった。
 HERMITと鴉の班は、人を捜索するのは当然として、建物内部まで密に調べて痕跡を探るのを重視する方法を取っている。

「住民の姿が無い‥って言うか生活感残りまくりだし」

 HERMITは机の上に並べられている食事を不気味そうに見つめながら呟いた。正しく言えば不気味「そう」ではない。彼女は実際この街自体を不気味に感じており、長居せずに早く済ませてしまいたいと言う気持ちがあった。

「おっと、疲れたのならば休憩していてくださいよ」

 彼女が気だるげなのを素早く見て取った鴉は、彼なりの気遣いを見せる。そこに他意はなく、心から彼女を気遣っているのだ。
 HERMITはそんな彼の申し出を丁重に断り、調査を続行する。正直休憩したかったのだが、それでは余計に作業の終わりが遅くなってしまう。
 疲れた身体を奮起させ、彼女は作業を進めた。

 結局その民家では何も手がかりは無く、次の建物へと進む。そしてまた次の建物へ、次へ次へしている内、十八軒目となっていた。
 
(「まさか家族と同じ‥なんてことは、ないよな」)

 そう、鴉の家族も現在行方不明なのだ。彼は今でも捜索しているのだが、全くの進展は無しである。
 
「どうしたの、疲れちゃった?」

 立ち止まってしまった鴉に、HERMITが冗談交じりで声をかける。彼は苦笑しながら「何でもない」と言い、18軒目の民家へと進入した。

 そこで、やっと手がかりらしきものを得られる。

 この民家も、他の民家と対して変わりは無い。生活感が残っており、部屋も暖かいまま。しかし、決定的な違いが一つ存在していた。

「これは、荷造りか?」

 そこには貴重品や衣服が、綺麗に袋詰めにされていた。しかも、旅行に行くのかと疑うくらいの量だ。今思い返してみれば、他の家にも衣服などが少なかったほか、貴重品の類も殆ど見つけることが出来なかった。
 これは、明らかに「理解して」いなくなっている。

 二人はそれを、他の面々に通信機を使って伝えることにした。


●南班
「あぁ、それでしたら私も気になる事があります」

 シヴァーと天狼は現在、街の緊急避難所を兼ねている街役所の一室にいた。その一室とは、街中の店などに置いてある監視カメラなどを統括して管理している場所である。
 彼らは、学校や図書館などの公共施設を重視して当たっていた。結局、人の姿は全く見かけることは出来なかったが、街役所のこの部屋で大きな手がかりを得られたのだ。

 シヴァーが通信機で連絡を取っている前で、天狼が街中の監視カメラの映像をチェックしていた。なぜ天狼が作業してるかと言うと、単純にシヴァーが苦手だからである。
 それはさて置き。
 
「現在、私たちは1時間前の街中の監視カメラをチェックしているのですが‥‥ばっちり写っていますよ、街の人々が」

 シヴァーの言うとおり、ほぼ全てのカメラに住民が写っている。それだけならば、歓迎するべき事で「気になる」という言葉はおかしい。
 その気になる理由は、住民の写り方である。

「全員、カメラを避けるようにしているのです。当然、住民すべてが完全にカメラから逃れる事が出来るわけは無いのですがね」

 そして、もう一つ。

「急いでいるのですよ、それも異常にね。キメラの死体が写っている所を見るとキメラから逃げているわけではありませんし、それぞれの表情には焦りが見られるものの、恐怖は全く感じられません」

 一体何がどうなっているのか、それはシヴァーもそう感じていたし、通信機の向こう側の仲間もそうだ。だが、その仲間達が見つけた情報とこのカメラの情報、照らし合わせれば一つの答えが導き出される。

 住民は全員生きている。

「シヴァー、どうやら住民はこの建物にいるようですよ」

 機械を操作していた天狼が一つの映像を指差す。それは町外れにある古びた公民館だった。古びてはいるが大きさはかなりのものだし、住民全員を収容するには十分すぎる広さだろう。

「皆、住民がいるのは町外れの公民館です。危険は無いと思うが注意して向かってください。私たちもすぐに向かいます」
 
 シヴァーはそう通信機で伝え、スイッチを切る。
 これでひとまずは安心だ。「東班」を除く全員がそう思った瞬間だった。


●東班・死闘
 時は少しさかのぼる。
 
「潰れた断面‥叩きつけて斬る武器みたい‥そう、斧みたいな‥? あれも‥え、これ全部!? ‥まさか、ねぇ‥?」

 死体を検分していた金城は、周辺を散策しているリュウセイに不安げに声をかける。リュウセイは「心の目で見える!」とか言いながら元気に行動していた。
 
「はは、大丈夫だろ? 俺たち二人なら大抵の敵なら何とかなるさ」

 頼れる兄貴とはこういう人物を挿すのだろう。その言葉には自己満足の響きが微塵も無い、心からそう思っているからこそ発言できる言葉だった。
 金城もそう思ったのか、幾分か安心した面持ちで周囲の捜索を続行する。

 だが、調べても調べてもそれらしい物は発見できない。それもそのはず、上記の公民館は街の西にあるのだ。そしてこの東地区周辺は民家が少なく、その分手がかりを見つけられる可能性も遥かに減ってしまう。

 そんな事を知らない二人は、健気に探索をしていた。金城が疲れたときもリュウセイが励まして自分が二人分働き、リュウセイが少し暴走気味になったら金城が上手く歯止めを掛ける。案外、息の合う二人であった。

 しばらくして、例のシヴァーからの連絡が掛かる。

「おぉ、マジかよ。わかった、俺たちもすぐに向かうぜ」

 リュウセイは通信機を仕舞うと、期待した面持ちで待っていた金城に通信内容を話す。金城も喜び、一番自分達が遠い位置にいるのだから早く行こうと提案し、走り始めた。

「おいおい、そんなに走ってたらすっころぶぞ」

 その矢先に金城はすっ転んだ。
 苦笑しつつ、金城を抱き起こそうとしたリュウセイだが‥‥。

「!!、リュウセイさん!」

 そう叫ぶと同時に、状況を瞬時に理解できなかったリュウセイを、金城は引きずり倒す。
 同時にその頭上を、大質量の物体が通り過ぎて行った。

「何だ!?」

 二人は同時に飛び起き、それぞれの得物を手にする。
 
 その視線の先には、二本の大斧を持った、男が立っていた。

「‥‥貴様らは、俺の渇きを満たせるか?」

 出てきて唐突にそれである、当然二人は困惑した。
 だが、それでも戦闘態勢は解かない。なぜなら、その男の発する殺意は本物であり、それから感じ取れる「力」もまた本物だった。

「金城、俺が時間を稼ぐ。お前は照明弾でこのことを皆に知らせてくれ」

「わかった」

 金城が一歩下がり、リュウセイが一歩前に出る。

「両手武器同士、仲良くヤロウぜ! いざ、参るってな!」

 二人は同時に、逆方向に走り始めた!
 リュウセイはバスタードソードを構えて突撃する、そして金城はある程度離れた所で照明弾を取り出した。

 瞬間、リュウセイの目が見開かれる。
 男が視界から消えたのだ。
 何かが砕ける音は、背後。

 振り返ったリュウセイが見たのもは、照明弾を打ち砕かれて、こちらに逃げてくる金城の姿だ。

「そんな玩具を、使ってんじゃねぇ!」

 男は一喝すると同時に、金城に向かって走り出す。やはり、速い!
 金城は素早く懐から氷雨を取り出す、銃を取り出す余裕は無い。

 氷雨で二対の斧を流す!

 流すと同時に金城は大きく弾き飛ばされたが、負傷はしていないようだ。

「金城!」

 リュウセイの視線が吹き飛ばされた金城に向いたのもまた、致命的な隙だった。
 
 殺気を感じて振り向いたその先には、虚無の双眸。
 斧は既に振りぬかれていた。

 肩口から大量の血を噴出させながら崩れ落ちるリュウセイ。
 男はそれはつまらなさそうに見下していた。

「くだらん、これがLHご自慢の傭兵共か」

 そこに飛来する弾丸、そして弾かれる音。
 
 金城の放った弾丸は、易々と男に弾かれてしまった。男はこれもまた下らなそうに見つめ、金城に止めを刺すべく歩き始める。

 だが、男は気付いていなかった。その余裕こそが最も大きな隙だと言う事に。

「エキスパートをなめるなぁぁ! 電光石火の一撃っ!」

 男はリュウセイが起き上がってくることには気付いていた、だが、その攻撃の速さまでは計算していなかったようだ。

 リュウセイの瞬即撃は、男の脇腹を深々と抉る。
 それを叩き潰そうと、掲げた腕は、美しい軌跡によって血飛沫を上げる。
 金城が瞬天速で一気に間合いを詰め、氷雨の斬撃を与えたのだった。

 男は舌打ちし、信じられない跳躍力で建物の屋根に逃げる。

「ふむ‥‥油断していたとはいえこの俺に傷をつけるとはな」

 二人の必死の攻撃も、男にはかすり傷程度にしか感じていないようだ。動けないリュウセイを庇うように金城が前に出る。だが男は、

「確か、金城にリュウセイだったか。その名、確かに記憶したぞ!」

 そう言い残し、視界から消えていった。

 金城は、全身の力が抜けたのか、ペタリとその場に座り込んだ。
 彼に名前を覚えられた事、それが吉と出るか、凶と出るか‥‥。それは、誰にもわからなかった。

●その後
 やはり、キメラを仕留めたのはあの男のようだ。
 そして住民は、その救ってもらった報酬の代わりに男に協力していたのだと言う。
 その内容とは、自分が能力者との戦闘をする際、巻き込まれないように避難しておいて欲しいという物だった。
 わざわざ街全ての人間が非難することもなかっただろうが、その辺りに男に対する感謝の気持ちが現れていた。

「結局、何者だったのでしょうね」

 帰りの高速艇の中、シヴァー達は、金城から聞いた「男」について、色々推測していた。リュウセイはと言うと、かなりの重傷なので手当てを受けている。

「面白い、能力者ならばこんなところで燻らせておくには惜しい‥! もっと戦いたいと思わないか?」

 月村などはそう言っており、自分が戦えなかった事を深く悔やんでいるようだ。
 金城はそれについては苦笑し、もの凄いスピードで動く外の景色を見ながら思った。
 また、僕達は男と戦うことになる。
 なぜか、そう確信を持つことができた彼であった。それは、ベットで眠っているリュウセイも同じである。


●男
「クク‥‥ラストホープか、なかなか良い猟犬を育てているな」

 男は何も無い荒野を歩きながら、一人呟く。脇腹と腕の傷は、どのような力が働いたのか、既に血は止まり、再生が始まっている。

 彼が、またLHの能力者達の前に姿を現すのは。そう遠い事では無い。