タイトル:【終焉の羽】悪夢再来マスター:中路 歩

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/26 12:19

●オープニング本文


 舞い降りる羽。
 再臨の羽。
 災厄の羽。

 純白の羽毛を持つ、美しき鳥形のキメラ。それだけならば、通常のキメラと殆ど相違は無い。
 唯一違い、そしてその違いこそがそのキメラの恐るべき所だとも言える。

 その羽毛一枚一枚は、『食人虫』のキメラなのだ。

 人サイズからKVサイズまで幅広い大きさが存在しており、今から半年以上前には多くの街、そして多くの人間が犠牲になった。
 しかし、LHの傭兵達の活躍により、その凶悪なキメラによる事件は幕を閉じた。最終的にはKVまで動かすと言う大事にまで発展したのだが、どうにかその『悪夢』を終らせることが出来たのだ


 いや、終わらせる事が出来たと、誰もが思っていた。



●喰

「イナゴだな、まるで‥」

 『被害を受けた街』の映像を眺めながら、傭兵の一人が呟いた。
 ブリーフィングルームに集められた傭兵達はまず、今回の依頼の概要を説明された後、一つの映像を見せられた。その映像とは、まるで一つの街が『食い荒らされた』ような光景になっている映像だ。
 街中の建物は、数え切れないほどの『小さな噛み痕』が残っており、路上に倒れている哀れな屍には肉片すら残っていない。骨だけが綺麗に転がっており、それを受け止めるように血溜りが広がっていた。

「今回のこの悲劇が、バグアたちによるものなのはまず間違いない。そして、過去の判例を調べた結果、今回のケースに類似しているキメラ事件を発見した。それがこれだ」

 続いて移された映像は、かつて傭兵達が倒した、あの『鳥キメラ』と、それを母艦にして遊撃をしている『蟲キメラ』だった。見かけた者があるもの、それを初めて見た者それぞれだったが、一様に顔を青ざめさせる。

「目撃情報によれば、羽毛が不自然な軌道を描いて飛び回っているのを見たものもいるらしい。だが問題は、この蟲キメラの母艦となっているはずの鳥キメラが、どの映像にも写っておらず、どの情報を聞いても見かけていない、と言うことだ」

 過去の例によると、蟲キメラはもの凄い数で襲い掛かってくるため脅威の存在ではあったものの、一匹一匹は非常に脆弱であり、フォースフィールドは張ってあるもののSES武器による攻撃でほぼ一撃で倒せてしまい、更には母艦である鳥キメラから長時間離れる事も出来ないらしい。
 しかし、今回はその鳥キメラが何処にも見当たらず、蟲キメラだけが好き放題暴れまわっているのだ。

「何故、母艦も無しに行動できるのかは定かでは無いが、放っておけば過去以上の被害が出る事は言うまでも無い。力を貸してくれる傭兵諸君は、至急準備に取り掛かってくれ」

●参加者一覧

西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
ファルティス(ga3559
30歳・♂・ER
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
美環 響(gb2863
16歳・♂・ST
美環 玲(gb5471
16歳・♀・EP

●リプレイ本文

●誘き寄せるは羽のごとき
 遠くから見てもわかるほどに荒れ果てた、街。
 そこになぜいるのかはまだ分からないが傭兵たちと過去に対したキメラがいる。
 そのキメラ、一見は純白の羽。
 一匹一匹は脆弱だが塊で襲撃してくるために一度まとわりつかれれば厄介な、蟲のキメラだ。
 このキメラが食い荒らしたものの末路を知っているため、気は引き締まる。
「逃がした獲物を‥‥また‥‥狩れるとは‥‥」
 西島 百白(ga2123)は過去に戦ったキメラの姿を思い浮かべる。
 逃がしたキメラを今度こそは、と闘志をその銀の瞳に宿していた。
「あの蟲‥‥なかなかしぶといみたいだな」
 同じく再びこのキメラを相まみえるヒューイ・焔(ga8434)も呟きを漏らした。
「蟲キメラ‥‥蟲キメラの母艦の変わりは何なんでしょうか。鳥キメラが見当たらないとなると‥‥街の施設の何かに取りついている‥‥または鳥型に変わる新しいキメラでも存在するのでしょうか」
 美環 響(gb2863)は件の蟲キメラの新たな母艦たるものが何か、どうして大丈夫なのかを考えていた。
 その隣では彼ととてもよく似た美環 玲(gb5471)が言葉を漏らす。
「純白な羽の姿をしているのに、その正体は悪食な蟲キメラだなんて詐欺のような存在ですわ」
 映像でみた蟲キメラの姿を思い出し、それに少し起こりつつ玲はむんっと小さく、かわいらしく気合いを入れる。
 一緒に戦う仲間は皆自分より戦歴が長いのだ。足を引っ張らないよう頑張らなくては、と思う。
 ファルロス(ga3559)は初めて戦うこととなるキメラを可能ならば捕まえるべく、用意してもらうように頼んでいたビンの感触を確かめていた。
 簡単には割れそうにない、丈夫そうなビンで、話を聞く限りは捕獲ができそうだが今までとは違う点がある。
 何が起こるのかわからないため、油断はできない。
「そろそろ行きますか。うまく作戦を実行しましょう」
「と、その前に、念のためだ」
 効果があるかどうかわからないけれども、とヒューイは用意してもらった虫よけスプレーをそれぞれに振りかける。
 どんな可能性でも、あるのならば念には念を、とだ。
 そして蟲キメラが、どうしてそこにいるのか、謎を解明するためにも作戦を開始すべく一行は動きだす。
 肉塊を利用し、蟲キメラたちを誘き寄せる。
 その誘い出された蟲キメラたちを観察し、母艦となるキメラがいるのならその場所を推測する。
 何回か誘い出す場所を変えつつ情報を集めつつも、その蟲キメラの数を減らすことはもちろん忘れることはない。
 ふと、響は車に向かう前に街を見下ろし呟いた。
「また厄介なことが起こりそうですね」
 待ちうけるものは、その言葉の通り、厄介なものでしか、なかった。

●白い羽毛
 街の中へと入れば、そこにあるのは静寂のみ。
 ヒューイが事前に調べておいた適度に開けた、誘い出しに良さそうな場所に用意しておいた肉塊を置く。
 それはパックされた肉塊で、血の匂いなどさせないよう工夫されたものだった。
 その肉塊を置き、封を切る。
 車ににおいがつかないように今までしていたが、封をきれば蟲キメラが気がつくのはすぐだろう。
 それぞれが息をひそめるかのように、潜む。
「‥‥」
 百白が息をつめて、肉塊の周りを観察する。
 と、視界の端にほわり、と動くものをとらえた。
 それは一つ、二つではなく個が集まり群となったもの、だ。
「きたか‥‥面倒な‥‥」
 蟲キメラたちは迷いなく真っ直ぐ、肉塊に向かう。
 そしてそれを真っ白に多い、もぞもぞと動くのが見て取れた。
「他に蟲キメラは‥‥」
 ファルロスは肉塊に群がる蟲キメラたちに注意しつつ、あたりの様子を探る。
 荒廃した街並み。
 その中におかしな点はみられない。
 やがて肉塊を喰らい終わった蟲キメラたちは、すべて同じ方向を向いてふよふよと、また戻っていく。
「あの方向はあいつらが現れた方向と同じだな‥‥」
 ヒューイは呟き、その先を見やる。
 ここで倒してしまおうか、とも思ったが母艦となる鳥キメラがいるのならばそちらも見つけないといけない。
 視線で今はまだ待とう、と確認をとりあい蟲キメラたちが移動していく方向を見る。
「ゆっくりとした動き、ですわね‥‥」
 玲は呟きながら、瞳を細めてその先を見やる。
 あの先には事前に全員で確認しておいた誘い出しのポイントがまだいくつかあったはずだった。
「急いては事をし損じる、なんてことないようにしないとね‥‥」
 やがて、蟲キメラたちの気配が完全に消えた後、肉塊のあった場所へと集まる。
 あのキメラたちは肉塊がなかったかのように、きれいにそれを喰いつくしていた。
「食欲旺盛、みたいだな‥‥」
「こちらが動かなかったこともあるが気がついていないようだった。次は攻撃をしかけてみるか」
 ヒューイの言葉にそれぞれ頷き返す。
 次に肉塊を置く場所を、蟲キメラたちが向かっていた方向の場所に定め、移動を開始。
 あたりを、注意しながら散策しつつ進むが母艦となるものがある気配はない。
 そして、どこからともなくやってきた蟲キメラがこのあたりにいる気配もないところをみると、母艦となるものがあり、やはりそこへ帰っていると見るのが妥当なところだった。

●不能の翼
「このあたりだな」
 先ほどと同じように肉塊を用意する。
 蟲キメラたちが消えていった方向を重点的に注意を向けながら、彼らは息をひそめていた。
 そして、しばらく待てば予想をつけていた方向からふよふよとやってくる蟲キメラたち。
 同じように肉塊をその白で覆っていく。
「さぁ‥‥喰らい始めようか‥‥互いの命を!」
 敵の姿をとらえ、百白は覚醒する。
 その体は金色に光り、銀であった瞳は金を帯びる。
 突然現れた者たち。
 それに蟲キメラが反応するより早く、最初の一手は打たれた。
 百白はアサルトライフルを放ちながら距離を詰めていく。
「‥‥狩りの‥‥始まりだ!」
 ぞわりと一番近くにいる敵に対するため、蟲キメラは群となって形を作る。
 それを崩すかのように、ファルロスは超機械ζで攻撃を行った。
「こんな時でもまだ、肉にまとわりついているやつがいるとはな!」
 肉塊にまだとりついているキメラは後回しにし、こちらへ向かってくるものへと番天印で攻撃を仕掛けるヒューイ。
 だがその肉塊がなくなれば、すべてのキメラがこちらへと向かってくる。
 現状、イニシアチブはこちらにある。
「玲さん!」
 響が呼びかければ、玲は頷いて同じ群を標的とする。
「燃えて無くなりなさい」
 片方だけ朱金に変わった瞳で敵を狙い、長弓「桜花」で玲は射る。
 それと同時に響の両手にある小銃「S−01」からも弾が放たれていた。
 攻撃が激しくなれば、蟲キメラは小さな群へと分かれ始める。
 そうするとはぐれる蟲キメラもでてくるもので、そこを狙ってファルロスは蟲キメラをとらえる。
 準備していた丈夫なビンに肉片とカイロ一緒に入れ、すぐさま蓋を閉める。
 ビンの中にあるものをすべて喰らい終わると、その中でキメラは大人しくなり、動かなくなっていた。
「‥‥あとで調べてもらうか」
 どうして動かなくなったのかは今、気にすることではない。
 今気にするべきこと、やるべきことはキメラを倒すこと、なのだ。
「! 逃げ始めたぞ!」
 と、うごめく蟲キメラたちは、攻撃するキメラと、後ろへ下がっていくキメラにと分かれ始めた。
 あのキメラの行く先に何かあると思い、攻撃を続けながらそれを追う。
 数を減らしつつ、減らしすぎないように気をつけながらたどり着いたのは崩れた建物だった。
 あのキメラが戻る、ということは母艦となるキメラがいるはず。
 百白はあたりを見回す。
「? 母艦は‥‥何処だ?」
「!」
 だが、その薄暗い場所でうごめくものが、あった。
 そこにいたのはあの母艦であった鳥キメラであった。
 しかし、今までの鳥キメラとは姿形が変わっている。
 そしてなぜだかわからないが手負いのようで動けないでいるようだったのだ。
 ぐったりとした様子で、弱り切っているようだった。
「手負い‥‥か‥‥」
「‥‥形が違うなんて‥‥以前までとは違う母艦かもしれませんね」
「新たな母艦が生まれようとしているとも考えられるな‥‥」
 今までも多少手こずっていたものがより強くなるということであれば、それは戦いの激しさを増すということだ。
「何はともあれ、戦うしかないですわね」
「相手は弱っているようだ‥‥だが、油断せずにいこう」
 玲の言葉に、気がつかれないよう慎重に近づき、母艦となるキメラを同じタイミングで包囲する。
 突然現れた敵にキメラはすぐ反応し、白い羽毛のような蟲キメラたちも動き始める。
「ガルルルル‥‥」
 殺気をキメラに向け、百白は前にでる。
 それと同じタイミングで、援護をそれぞれが行う。
 前に詰め寄った百白は紅蓮衝撃を使い、攻撃を放つ。
 その攻撃は母艦たる鳥キメラののど元に打ち込まれ、低い、喉がつぶれるような音が響いた。
「喰い‥‥足りねえ‥‥」
 鳥キメラを攻撃され、その体にあった蟲キメラがざわりと百白の上を這おうとする。
 だがその前に仲間たちによってそれは防がれる。
 残りは、この蟲キメラのみ。
 残しておいても良いことは、ない。
「すべて倒す、か」
「それしかないな」
 母艦を失い逃げようとしても、それは限界が見えているものだ。
 蟲キメラと近距離で対するヒューイはハミングバードをふるう。
 スキルは使えば使うほど、その首にあるエミタから噴出されるオーラの量が激しく増えてゆく。
 そのヒューイの死角を埋めるようにファルロスは動き、超機械ζにて攻撃を行う。
「貫き穿ちなさい、破邪の矢」
 玲が矢を放ち、その軌跡を追うように響の弾頭弾が飛ぶ。
 激しい攻勢により、蟲キメラたちの気配はこの場から消え去っていった。

●戦い終わり‥‥
「次は‥‥平和な世界で‥‥生きろよ‥‥」
「汝の魂に幸いあれ」
 この街で犠牲になったものたちを思い、百白は呟く。
 せめて弔いを、と虚空よりレインボーローズを現わし、響は惨劇の痕に送る。
「あたりに巣のようなものはないみたいだ。あの手のキメラはもうこのあたりにはいないだろう」
 そこへあたりを見回っていたヒューイが戻ってくる。
 色々な可能性をみて調べていたがとくに気になることはなかったようだった。
「生きているかどうかはわからないが、サンプルもある」
 ファルロスは手にあるビンをみて、これを調査にだせば何かわかるかもしれないと呟いた。
 まだまだ謎は多いまま、この場で謎は解明はされないまま、新たなる出来事が起こるのを待つしかなかった。

(代筆:玲梛夜)