タイトル:【紅獣】遊地:幻想劇マスター:中路 歩

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/22 16:25

●オープニング本文


 咲と利奈がお化け屋敷をやろうと奮闘している時。リリス、零、栄流は全く別の場所で事に当たっていた。
 彼女達が画策しているのは、「子供達に夢と希望を与える寸劇」と言うもので、端的に言えば「ヒーローショー」のような物だ。当然、その手に関しての素人が三人だけでは出来るわけ無いので、既に先日、LHに協力者要請の依頼を出している。
 ちなみに、何故態々一般人でなく、能力者を要請したのか。その理由は、『能力者ならば、本当にヒーローのような動きが出来るから』‥だそうである。
 
●某遊園地:劇場舞台裏
 狭い室内では、当事者三人が具体的にどのような劇にするかを話し合っていた。無口の一人と温厚な二人での会話なので、特に喧騒もなく話は進む‥かと思えたのだが、

「ヒロインは栄流が良い! 美人でカッコイイし、戦うヒロインって人気あるんだよ?」

「いえ、私などよりリリスの方が適任よ。無口で無愛想な女の子が、最後に心を開く。そのギャップはかなりの支持を受けると思うわ」

「‥ううん‥お姉ちゃんが‥ヒロイン‥‥だって‥お姉ちゃん面白いし‥優しいもん」

 なにやら、変な事で揉めている様だ。
 物語基盤の大体は、既に決まっている。
 コンセプトはファンタジー。最初は、最近の事情を踏まえ、王道である「キメラかバグア退治」を選ぼうとしたのだが、零の強い要望により。『童話の世界のような、そっち系の王道』となったのである。
 簡単に言ってしまえば、『悪者に捕らえられた姫君を勇者が救出して大団円』と言ったものだ。
 詳しい設定は、LHに依頼した協力してくれる能力者達と相談するとして、とりあえずは今決められる事を決めようとしていたのだった。

 そして、ふと栄流が「ヒロインは、やはり発案者の零、それともリリスかしら」と言う発言をしたことで、今の討論に至っているわけである。

 と、そこに、LHの能力者の一人がこの控え室に入ってきた。

「あ、どうも。今日はよろしくお願いしま‥」

「君!」

 丁寧に挨拶をしようとしていたその人物に、零はビシッと指をさした。
 そして、言う。

「私たち三人、誰が一番ヒロインにふさわしいと思う!?」

「え‥?」

 その能力者は、ぽかんと口をあけて固まっている。だがそれに構わずに、零は言葉を続けた。

「今回、君たちが一緒にショーをするに当たって、誰が一番ヒロインに相応しいかって事よ。主役はもちろんあなた達LHの傭兵さん達にやってもらうけどね」 

●参加者一覧

稲葉 徹二(ga0163
17歳・♂・FT
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
リュス・リクス・リニク(ga6209
14歳・♀・SN
椎野 のぞみ(ga8736
17歳・♀・GD
ゴリ嶺汰(gb0130
29歳・♂・EP
アキ・ミスティリア(gb1811
27歳・♂・SN

●リプレイ本文

 既に会場となる舞台には、客が押し寄せていた。
 客の年代層は当然ながら低い。だが、能力者の行う劇と言う事で、中〜高年齢層もあるていどは見に来ている。
 そのような中、舞台は幕を開けた。

●序幕
 始まりに、突如舞台が暗転した。
 暗闇の中、演じる事を得意と自負するアキ・ミスティリア(gb1811)の声が、舞台のスピーカーから響き渡る。
 
「新月の夜 二つの姿を持つ乙女 命を捧げる時 勇猛なる者 その剣に世を統べる力を得ん」

「今は語られる事もない程の古き時代。名も無き小国に、二人の姫君が生を受けました。幾年の時を過ごした二人の姫は、人々に愛され平和な世を過ごされていました」

 恐らくこの劇のあらすじ設定であろう詩と言葉を言い上げた。
 最後に一言、少しトーンを落とした声で。

「‥そんなある夜のことでした」

 
 場面は王城の一角。その城には火の手が上がり、あちらこちらに破壊された後も見受けられる。
 そして舞台袖から、姫に扮したリュス・リクス・リニク(ga6209)と色違いの服を着ているリリスが、何かから逃げるように(リリスは無表情で)走りこんでくる。
 その後ろから、LH以外にも手伝いを要請していた一般人協力者扮するモンスターが棍棒を持って追いかけていった。
 やがて、リリスが(わざとらしく)転び、リクスがそれを庇うように前に進み出る。

「‥り、リリス‥に‥近づか‥ないで‥ください‥!」

 果敢に言い放つも、その努力虚しく、あっけなくモンスターに拉致されてしまう。
 そして逆の舞台袖から、ヒロイン兼姫姉妹の姉役の零が現れる。

「リリス! リニク!」

 そう叫び、逃げるモンスターを追いかける所で、またもや舞台は暗転した。

●一幕
 場面は変わり、昼下がりの町の中。
 多くの住民(一般人協力者)が談笑している中、異彩を放つ男が現れる。
 ファンタジーだと言うのに侍風の服装。東洋込みのファンタジーは人気が出る‥らしい。
 その男、稲葉 徹二(ga0163)は舞台の中央で足を止め、風(扇風機)で流されてきた一枚のチラシを拾い上げる。

「これは‥お姫様が攫われちまったらしいですねぇ。賞金額は2億ゴールド‥まぁ、自分には関係無いです」

 そう言い残し、チラシを丸めてポイとその場に捨てる。そして、舞台袖の方へと歩いていこうとした。
 と、逆の舞台袖から零が疾走してきた。

「ちょっと待っ‥‥」

 本来ならばここで格好よく主人公を呼び止めるはずなのだが、その丸めたチラシを踏んでしまい、零は思いっきり、それはもう思いっきりずっこけた。
 
 当然、客席からは爆笑の嵐。

 一般人は一生懸命笑いをこらえ、談笑に集中。稲葉もクスリと笑ったが、咄嗟のアドリブで何とかヒロインとの出会いにこぎつける。
 そして、この流れを断ち切るため殆ど無理やりに、零が稲葉に仕事を依頼するところまで話を進めた。

「‥構いませんと言えば構いませんがね。こちとら腕でメシ食ってる身だ。報酬は後できっちりと頂きますよ?」

 稲葉がそう言い終え、零が頷く。
 二人は肩を並べて、颯爽と部隊袖へと消えて行った。

 舞台は暗転し、再びミスティリアの声が響き渡る。

「まだ幼き者達は、こうして旅に出ずる事となりました。数多の苦難がきっと彼らを襲う事でしょう‥さてはて、どうなる事か‥私には全く解りません」


●二幕
「幼き者達はまだあまりに未熟。少しでも実力をつけるため、そして民の安全を守るため、最近出没すると言う盗賊のアジトへと向かいます。おや、どうやら先客がいるようですね‥」

 次の場面は洞窟の中‥ここが盗賊団『鉄の爪(団員募集中)』のアジトである。盗賊団のクセに大々的に団員募集を行っているとは、度胸があるのかそれとも‥。

 それはさて置き、主人公一行(と言ってもまだ二人)が舞台袖から現れる前に、舞台の中央の方では二人の女性が果敢に盗賊(一般人協力者)達と戦っている。

それを、何だかんだ呟きながら助けに行こうとする稲葉。だが、その眼前でバッタバッタと敵を蹂躙していく謎の女戦士二人。

「五月蝿い奴ら‥じゃまだから消えて」

 大剣で次々と賊を屠って(張り倒して)いるのは椎野 のぞみ(ga8736)。

「私に武器を向ける、その意味を思い知らせてあげましょう」

 その背後を守るように槍を振り回しているのは清総水 栄流。

 二人の女戦士はあっという間に、賊達を撃退してしまった。
 一般人の協力者達は、冗談や演技抜きで痛そうである。

 賊が片付いた後、稲葉達は舞台中央、つまり椎野達に歩み寄った。
 
「えっとぉ、助けに入らないで大丈夫だったね〜」

 零がぽりぽりと頭を掻きながら話しかける。
 だが、椎野はにこやかに笑い。

「助けに来てくれてありがとう!」

 と言った。どうやら、助けに来てくれるという行動自体が嬉しかったらしい。傍らの栄流も頷いている。
 暫く、二組はお互いがここに来た目的について話し合った。そして、両者同じ目的の「盗賊団殲滅」だと言う事が判明する。

「旅は道連れ世は情け、とも言いましてね。どうでしょう、ここは一つ一緒に」

 稲葉は、その女戦士二人にそう提案した。
 椎野と栄流は一瞬顔を見合わせるが、直ぐに椎野が頷いた。
 そして、四人はそれぞれの武器を携えながら、アジトの奥へと進む。

 舞台、暗転。

●三幕
 場面はアジトの最奥部。
 高級とは言わないが、様々な調度品が置かれてあり、中央の椅子には男が一人座っていた。
 男、この盗賊団の首領、須佐 武流(ga1461)が静かに目を閉じている。
 暫くして、舞台袖から主人公一行が登場。

「見つけた、きみが首領の須佐だね!」

 静かに座っている須佐と一定の距離を保って、四人は彼を取り囲む。そして、椎野が真っ先に大剣を須佐に突きつけた。

「きみには大人しくお縄に付いてもらうよ、それともここで死にたい?」

 そこで、須佐が始めて目を開き‥稲葉を見つめる。
 そして、口を開いた。

「俺は女には手をださねぇ‥あんた、俺とサシ(一対一)で勝負しやがれ」

 つまり、稲葉と決闘したいと言っているのだ。
 もちろん、他三人(女ばかり)は納得しない。

 だが、稲葉は真っ先に文句をつけようとした零を制し、武器を構えて一歩前に進んだ。

「こんな所で倒れてちゃ、お姫様は救う事は出来ませんよ。任せてください」

 その言葉に、須佐は眉をひそめたが、それに気づいた者はいなかった。
 
 向かい合う須佐と稲葉、互いの得物を構え、勝負の瞬間を待つ。
 合図は必要ない、二人は申し合わせたように、一斉に切りかかる!

 様々な音響と照明を駆使した勝負は、中々に見ごたえがある。その上この二人は戦闘を専門としてるプロだ。自然と動きは実戦と同様になる。
 
 やがて、須佐のジャックと刹那の爪が弾き飛ばされ、彼自身も地面に叩きつけられた。体勢を正す前に、稲葉は蛍火を突きつける。
 悔しげに呻く須佐だが、稲葉はアッサリと刀を仕舞った。

「‥どうにもね、あンまり臭くねェんです。外道の剣にしちゃ綺麗すぎる」

 舞台暗転。 


●四幕
「舞台は変わり‥人知れず佇む暗き城の一室。何やら悪い予感がしてきます」


 場面は変わり、なにやら暗い一室。
 部屋の中央には黒髪の女、その左には従者のように男が一人、そしてもう一人別に男がいた。

 新月の夜、二つの姿を持つ乙女、命を捧げる時、勇猛なる者、その剣に世を統べる力を得ん。

「もうすぐですね‥あと少しで私の目的は成る‥!」

 中央の女、鳴神 伊織(ga0421)が高々に言い放ったと同時に、稲光(照明と音響)がそのくらい部屋を一瞬照らす。更に雰囲気を盛り上げる為に、荘厳なBGMまで流れ出した。
 その女の前には二人の姫、リニクとリリスが座らされている。
 縛られてはいないが、ゴリ嶺汰(gb0130)が抜き身の刀を手に、二人を下品に見下ろしていた。

「いつになったらこいつらを斬らせてくれるんだ? 構わねぇだろ?」

 ゴリは二人の姫を刀で指し示し、大仰に言い放つ。かなり役にはまっている。
 リニクは相変わらずリリスを背に庇い、ゴリを睨みつける。リリスはと言うと、無表情のまま鳴神を見つめていた。

「あんたは鳴海様の偉大なる計画を潰すつもりか。我慢しろ」

 鳴海の隣に控えていた男、南雲 莞爾(ga4272)はゴリを窘める。
 元々、人斬りが快楽のゴリは味方からもあまり好かれてはいない。だが、実力だけは持ち合わせているので、下っ端ながらも玉座まで上がってくる事を許されているのだ。
 だが、そんな彼も主君である鳴海には逆らわない。

「チッ、まどろっこしいったらありゃしねぇ」

 ゴリがそう呟いて、刀を納めた、そのときだった。

 今まで、城から連れ去られてずっと無言だったリリスが、動く。

 護身用の短剣をどこからか取り出し、真直ぐ鳴海に突撃する。
 あまりに突然の凶行にゴリどころか、リニクも反応できなかった。

 相変わらず無表情のまま、短剣の切っ先は真直ぐ鳴海の心臓に‥。
 届かなかった。

 涼しい顔の鳴海の前で、その細腕は南雲の手によって止められている。

「その度胸と武には敬意を表す。だが、残念だったな」

 そう言って、リリスの手から短剣を奪い去り、軽く突き飛ばした。
 よろめきながら後退するリリスを、素早くリニクが抱きとめる。

「力を手に入れた暁には手始めに姫の住んでいた国を焦土へと変えてあげましょうか‥」

 鳴海は冷たい視線で二人を見下ろしながら、口を歪めつつ呟く。
 
「姫に見せられないのが残念ですね‥ふふふ‥あははははは!」

 その狂ったような笑い声は、常人に恐怖を植え付けるのに十分な効果があった。

「‥リニクは…ともかく‥リリスだけでも‥逃がして‥もらえませんか‥」

 リニクが哀願している途中に、部屋中を振動が満たす。

 笑うのを中断し、鳴海は顔を冷徹な仮面に戻しつつ、舞台袖に目を送る。
 そこから、一人の部下が走りこんでいた。

「侵入者です! 二人の姫を奪い返しに来た模様‥姉である零の存在も確認されています!」

 舞台、暗転。

●五幕
 場面は、城の一角。
 主人公達四人の周りには、数多の屍(演技)が積み重ねられていた。
 周囲に目をはせる四人の眼前で、ゴリと南雲が堂々と舞台袖から歩いてくる。

 手強い。

 四人は瞬時に理解した。

「ココは僕達に任せて」

 そう言い、椎野と栄流は素早く進み出る。
 驚いた零と稲葉は何か言おうとしたが‥。

「姫達も一刻も早い救出を望んでいるはずよ。大丈夫、直ぐに追いつくから」

 栄流の心強い言葉に、稲葉たちは舞台袖へと消えていく。
 残されたのは女戦士二人と、敵が二人。

「南雲、俺はアイツをもらうぞ」

 刀を舐めながら、ゴリは傍らの南雲に目を向ける。
 南雲は月詠を構えながら。

「好きにしろ」

 と言い、栄流に向けて走り始める。
 同時に栄流も走り、両者共に一時舞台袖へと消えた。

 激突する、大剣と刀。
 武器だけを見ればゴリの方が弱そうに見える‥が、実際にはそうではない。
 ゆっくりと、しかし確実に椎野が追い詰められていた。

 やがて、大剣の刀身が、半ばで砕けた。

 驚いて目を見開く椎野にゴリは不気味な笑みを向け、思い切り蹴り飛ばす。
 隙が出来ていた椎野にそれが避けられる訳も無い。突き飛ばされ、その場で横転した。
 
「ひゃっはっはっ、震えるねぇ。楽しくて仕方ないぜ!」

 振り上げられる刀、椎野は死を覚悟し、目を閉じる。

 そこに舞い込む一陣の烈風。

 剣戟の音が響き渡る。

「ったくよぉ。俺は宝探しに来ただけだぜ?」

 盗賊団の長、須佐は刀を受け止めながら苦笑する。
 彼は稲葉に倒された後、いずこかへ姿を消していた。元々、主人公達を襲ったのは勘違いだったらしく、稲葉たちも逃がしたのだ。

 いきなりの横槍に、驚くより怒りを覚えるゴリ。
 罵倒を吐きながら、再び刀を突き出してくる。
 
 だが、怒りに捕われた剣ほど弱いものは無い。

 素早く起き上がった椎野は、折れた刀身を持ち、ゴリに突き刺した。

「ぐふっ、この、俺が、こんな小娘に!? っくしょう‥がはぁ‥」

 切っ先は胸板を突き破り(勿論本当には突き破っていない)、その命のともし火を消滅させた。

 舞台暗転。直ぐに灯火。

 舞台の中央で、南雲と栄流が武器を交えている。

「やるな‥あんた!」

 そう叫び、戦士としての最高の礼儀。『本気』を以って栄流に畳み掛ける。だが栄流も戦士としては一流、簡単には引き下がらない。

「あなたこそ、敵なのが惜しいくらいよ」

 切り結び、離れ、間合いを取り、再び切り結ぶ。

 なんというか、半分本気が入っているのは誰が見ても明らかだ。

 この場面終了予定時刻が過ぎ、流石に袖の零が合図をする。
 気がついた二人は慌てて、劇に戻った。

 間合いを取り、走りぬけ、すれ違う。

「‥ふふ‥あの方の腹心としては失格‥だが」

 前のめりに倒れる、南雲。

「戦士としては‥本望‥」

 こうして、鳴海の腹心達は、倒れた。

●六幕
「よくここまで来ましたね‥歓迎致しますよ」

 鳴海は、玉座の上から零たちを見下しつつ、言い放った。
 零は、捨て置かれていた姫たちの下へ駆け寄っている。

「儀式は、貴方達を冥途に送ってから行いますので‥早く死んでください」

 鳴海の手が横薙ぎにされる。
 意味を悟った稲葉は素早く姫と零の前に立ち、吹き飛ばされた。魔法攻撃(演技)である。

「稲葉君!」

 零が駆け寄ってこようとするのを手で静止、稲葉は刀を手に立ち上がる。
 
「どうしました? まさか、この程度ですか‥笑わせてくれますね」

 雄たけびを上げ、突進する稲葉。
 だが、やはり鳴海の魔法で吹き飛ばされる。
 それでも、稲葉は立ち上がった。

「‥雇われ者以前に、俺だって男でね。姫様二人が待ってるとあっちゃ膝つくわけにもいくめェよ‥!」

 三度突撃する稲葉。
 だが、それを鳴海はあざ笑い、手を真直ぐ突き出した。
 同時に、何かに掴まれたかのように、稲葉の体が宙に浮く(ワイヤー)。

「貴方達は苦しませてから‥始末してあげましょう!」

 鳴海の目が爛と光ったその時!
 
「か‥勝って!」

 リニクが、精一杯の声で稲葉に叫ぶ。

「勝たないと報酬は、渡せませんよ!」

 別に報酬という言葉の影響を受けたわけではない。
 ただ、その精一杯の応援に、稲葉は力をもらった。

「チェストォォォォッ!!!」

 叫ぶのと同時に、束縛を無理やり引き剥がす。
 そして、驚く鳴海に向かって刀を振り下ろした!

「この私が負けるなんて‥そんな馬鹿な事が‥!」

 舞台を白光が満たし(照明)。観客の目を灼いた瞬間、暗転する。

●終幕
 真っ暗な舞台に、声だけが流れる。

「こうして魔王の野望は、一人の勇気ある者とその仲間たちによって阻止されたのでした。これから、世界にまた悪が生まれようとも、彼の様な者が現れる事を‥私は望みます」

 一拍置いて、次の言葉で締め括った。

「それは‥君達の中の誰か‥かもしれませんね」