●リプレイ本文
「レッサーパンダか‥‥」
高速艇の中、レイード・ブラウニング(
gb8965)が呟いた。
「今までコアラ型とかペンギン型とかフザけたキメラと戦ってはきてるが‥‥あのマルチーズのバグアといい、一体何考えてんだか」
おかしな連中に不思議と縁があるのか伊佐美 希明(
ga0214)はそんな事を言った。
「まぁ宇宙人の考える事なんざ、地球人にゃ理解しようがねぇんだが」
「哺乳類なだけマシだろ、そのうち甲殻類とか爬虫類とか、いっそ昆虫とかでも俺は驚かん」
敵なら殺るだけだ、と言うのは龍深城・我斬(
ga8283)である。それに伊佐美は答えて、
「いっそ蟲型とかのが脅威として外見に説得力ありそうだけど‥‥ところでレッサーパンダって喰える?」
「喰うのか」
地球人もなかなかおかしい――と言いたい所だが、国によっては喰う者も居る。全ての動物畢竟骨肉。
「警戒されにくい姿で亡命? ‥‥とか思ったけど‥‥無線の内容聞くと‥‥何も考えてない気もするね‥‥」
一方で幡多野 克(
ga0444)はそんな事を呟いていた。
「まぁ、油断しないようにいこうか」
レイードが言った。視覚的且つ精神的な効果辺りを狙ったのなら、見た目通りの生物とは考えにくい。言動から察するに間は抜けていそうだが――そう見せかけている罠、というのは穿ち過ぎだとしても、油断しないに越した事は無い。
「‥‥ん‥‥速やかに排除しよう‥‥」
レイードの言葉に頷いて幡多野。そんな訳で傭兵達は処理の為の作戦を打ち合わせる。
「いきなり攻撃して自爆されたら大変ね。騙されているって思わせておいたほうが無難?」
レヴィ・ネコノミロクン(
gc3182)が小首を傾げながら言った。HWの自爆を防ぎつつ倒す為、一芝居打つ事にする。
「これはHW回收を利用した策なので、気配がないと疑われる虞があります」
守原有希(
ga8582)が言った。故に軍へ協力を呼び掛ける事にする。高速艇が通信可能な距離に達した事を確認し、無線を飛ばして回収隊へと援護を要請する。そこでR‐01Eの出動潜伏を求めたのだが、流石に電子戦機のKVは調達できないらしい。
「では無線でこちらに合わせて芝居を打つ、というのは可能でしょうか?」
それくらいなら可能だ、という返事が返って来たので守原は作戦内容の概要を説明し軍の隊長の協力を取りつける事に成功する。
「じゃあ、あたしは『信用』して、パン太くんの警戒心を薄めることにするわ」
とレヴィ。大まかに投降を信じる側と疑う側の二通りの配役でゆくらしい。ちなみに『パン太くん』というのはレヴィがレッサーにつけた別名である。
飛ぶ事しばし、やがて高速艇は最寄りの着陸可能な場所へと着陸した。傭兵達は高速艇から降りると密林を掻きわけて現場へと向かったのだった。
●そして現場
「私がバグア軍パイロット、レッサーである! 私はUPCに亡命を希望する者である!」
密林に不時着したHWの傍、レッサーパンダ姿のバグアがその二本の手を器用に使って白旗を振っている。
そこより少し距離をおいた円周上、覚醒した伊佐美が隠密潜行を発動させ銃を片手に偵察している。
『こちら伊佐美、周辺敵影無し‥‥ただの間抜けか』
無線にそう報告を入れる。
正面より接触担当の傭兵達はそれぞれレッサーへと動いたら撃つ、などの言葉をかけつつ武器構え接近する。レッサーはどきどきしたような表情(レッサーパンダの表情は解りにくいがそのような気配を感じた)で白旗を上げている。
「きゃ〜〜〜〜。激カワっ☆」
傭兵のうち一人、レヴィは身悶えするように歓声をあげた。
「‥‥白旗だけでは信用できんな‥‥持っている物を全て出して貰おうか?」
一方、レイードは疑わしそうにレッサーを見やって言う。
「そうだね、直ぐには信じらんない」
夢守 ルキア(
gb9436)もまた頷く。この状況だ。いきなり投降を信じても怪しい。まず所持品検査をするという事で、レッサーを木を背面に立たせて周囲を囲み、非力そうに見えるルキアがレッサーをチェックする。
(も、もふもふ‥‥!)
ルキアは感嘆の声を胸中であげた。この毛皮の手触り、極上である。レッサー君、毛並みは良いらしい。
(武器は‥‥)
どうやら毛の中に隠し持っているとかはないようだ。
(ジッパーは‥‥)
着ぐるみではないらしい。
尻尾は大変とてもふかふかであった。
レッサー、大人しく従っている。降伏を試みるのだから当然ではあるが、隙だらけだ。進退窮まってならばともかく、策とはいえ無防備極まりなく我が身を差し出すというのは、並の神経で出来る事では無い。少なくとも度胸は良いらしい。
その危険性に気づいてなかったという可能性もあるが曲がりなりにもバグアでパイロットだ。いくら馬鹿でも限度があろう――‥‥多分、きっと、恐らく。
「‥‥武器は隠し持っていないみたいだね?」
「とーぜんである!」
ルキアの問いに答えてレッサー。
「この姿‥‥嘘をついているようには見えない」
無防備そのものの姿を見て幡多野が言った。事前のミスがなければ信じやすい者ならばころっといっていたかもしれない、と少し幡多野は思った。
「OK。あ、HWの操作出来る? HW暴走すると、怪我する」
「壊れてしまったので不可能なのである」
「本当カナ?」
「悪魔の証明はできないのである!」
とレッサー。怪しいといえば怪しいが、ない事を証明できないのもまた事実。
「こんなに可愛い子が嘘を吐くはずが無いわ!」
レッサーをぎゅ〜っと抱きしめてレヴィが言った。前述の通り手触りふわもこである。
「どうして亡命したいと思ったの? きっと上司がヒドイ人だったのね。餌も貰えずコキ使われたとか、射撃の的にされたとか、襟巻きにされそうだったとか!!」
「いや餌って私、動物ではなくてバグア――」
レヴィはレッサーをなでなでしている。どさくさに紛れ、何か隠し持っていないかをさらに確認しているが特にそれらしき物は無い。何もなかったとの合図にレヴィは無言でにっこりと傭兵達へと微笑んでみせた。
首輪代わりにリボンを巻こうとしたがそれは拒否された。ペットみたいで嫌だとの事。
「投降したくせにこっちの言う事を聞きやがらねえ、絶対怪しいぜこいつ」
それを受けて龍深城が言った。イチャモンに近いが演技である。
「な、なっ」
「ふん、バグアで落ちぶれて居場所をなくしたか? いずれにせよ信用に足る物証がないな、ここで処分するべきだ」
龍深城は薄紫色のオーラを全身から炎の如く噴出させると、拳銃のセーフティを音を立てて外してみせ、レッサーパンダの眉間にその銃口を押し当て突きつける。レッサーは目を白黒とさせた。
「待て!」
幡多野が珍しく血相を変えて言った。男は龍深城の肩を掴んで言う。くどいかもしれないが演技である。
「‥‥これが、命をかけて来た相手にする事か!?」
「おい克‥‥何の真似だ?」
龍深城はぎらりと瞳を輝かせ幡多野を睨みつける。それを受けて幡多野は髪を銀に、瞳を黄金の色に変化させた。
「我斬、俺は納得していないぞ」
金色の双眸で龍深城を睨み返して幡多野は言う。
男達が睨み合い視線が激突し、飛び散る火花が見えるようであった。
「‥‥じれったいな。もう、こうした方が早いだろう?」
レイードは両手の機械拳の先端から電磁波を発生させながら言う。そして拳を振り上げレッサーへと踏み込んだ。
「駄目ッ!」
両手を広げてレヴィがレッサーの前に立った。
「何故庇う?!」
レイード、渾身の演技である。
「ごめんなさい‥‥! あたし、信じたいの!」
うるうるとしてレヴィ。
「パン太君、行くよ!」
ルキアはレッサーを抱き上げて走り出した。直後、龍深城の拳銃が焔を吹き弾丸が飛び出して、レッサーが背にしていた大木に炸裂、ベキベキと音を立てて大木が圧し折れてゆく。
「え、えっ?」
「あっちの方が強いんだ!」
レッサーを抱えてルキアは逃走し、レヴィ、守原もまたそれに続く。
「無事接触、ただ案の定衝突したんで仲裁を‥‥助かります。別隊は‥‥そうですか‥‥」
守原は無線で回収隊とそう連絡を取った。
幡多野は龍深城とレイードの足元へと拳銃で銃弾を叩き込み。二人は後方に飛び退く。
「四対二なのに?」
「あの二人は鬼のように強いんだよ!」
「そーかなー‥‥そんな差はないように見えるけど‥‥」
「二段階覚醒する伝説の傭兵なんだよ!」
少々疑惑を抱きつつあるレッサーを連れ駆ける。
守原は駆けつつ無線で回収隊と会話し『南米は人間も多い為か亡命者や余力ある兵の遠隔爆殺事案が多く、先日もバグア人亡命者死亡、救助隊にも被害がでた。HWの遠隔操作装置等装備に仕込むのが主流でヨリシロの人の憑依等での露見防止策の様だ』との内容をさりげなくレッサーに聞かせる。
レイードは四人と一匹の姿が見えなくなるのを確認すると、
「やれやれ。芝居を打つのも一苦労だなっと」
言って竜の翼で加速し、龍深城もまた迅雷で加速して予定ポイントへと先回りするべく急いだのだった。
●
傭兵達は場所を移すべく移動してゆく。
『狙撃ポジションについた、以後指示を待つ‥‥腹減ったな』
やがて予定位置に近づいた時、信用班より一足早く伊佐美はポジションについたようだった。
「‥‥狙撃?」
ルキアの腕の中、レッサーが言った。
「えっ?」
耳は良いらしい。傭兵の無線機から洩れる声を拾ったようだ。
直後ポイントに着き、そこに龍深城とレイードが先回りしている姿を確認した時、レッサーは疑惑を確信に変えたらしい。
次の瞬間、レッサーパンダの身が猛烈に赤く輝き猛烈な衝撃波が零距離からルキアへと解き放たれた。ルキアは直撃を受けて吹き飛び、密林の樹木に叩きつけられて転がる。
「貴様!」
レイードが叫んだ。
「なんか変だと思ってたんだよなぁ、気づいてたの?」
赤い光を全身から立ち上らせながらレッサーが言った。武器を持っていなくても平然としていたのは、いざとなったら生身で十分戦えるからである。
「ふん。悪いな、筒抜けだったんだよ‥‥言っている意味が分かるな?」
拳を構えてレイード。異変を感じとった伊佐美は位置の変更に移り、龍深城が拳銃をロードし構えタイミングを計る。
「南米はこそこそユダ作って‥‥恋人の故郷奪還に随分な横槍ばくれたな!」
守原が二本の太刀を抜刀する。恋人がメトロポリタンX出身らしい。
「やっぱり良い夢を見せたまま‥‥ってのは無理だったね。ごめんね」
ファルシオンを抜き放ち盾を構えてレヴィ。
「可愛いけど手加減はできないな‥‥本当、残念だけど」
幡多野もまた月詠を構えて言う。
「武器取って、殺し合う。パンダ君も大好き、でなきゃ自分の手で殺さない。心からの、笑顔だよ」
ルキアはエナジーガンと拳銃を構えて微笑した。
レッサー、囲まれている。
「むむむ、ばれていたとあっては仕方が無い。全員この場で葬ってやる!」
ふーっと毛を逆立て赤光を立ち上らせてレッサー。
「外敵なんてない、戦う相手は常に自分自身のイメージ‥‥」
射線を確保した伊佐美はレッサーへと狙いを定めるとスナイパーライフルAAS‐91sで射撃した。弾丸が唸りをあげてレッサーへと襲いかかる。
レッサー、狙撃の可能性には気づいていたが伊佐美の射撃は鋭かった。その胴体に弾丸が直撃する。
「叫べ蝉時雨!」
よろめいた所へ守原が二刀で斬りかかり、幡多野は光を腕に宿して月詠で打ち込みをかける。ルキアは電波増幅してエナジーガンより光線を爆裂させ、レヴィが曲刀を振り降ろし、レイードが右の機械拳で殴りかかる。
レッサーは四方より刀剣で滅多斬りにされ拳と光線を受けつつも転がって数発の衝撃波を放つとHWのあった方向へと走る。傭兵達はそれぞれ飛び退いて衝撃波を回避せんとしルキアは射程外、守原、幡多野、レヴィ、レイードが避けきれず直撃を受けて吹き飛び密林の樹木に叩きつけられた。
レッサーの進路上、正面、龍深城が迅雷で回り込んでいる。男は番天印を向け銃弾を叩き込むと、脚甲で蹴り抜いた。レッサーは腕で受けるも後方へと吹っ飛ばされる。
「逃げる獲物を撃つのは趣味じゃねぇんだが‥‥」
ライフルをリロードしつつ伊佐美が呟く。
「悪いな、フー‥‥いや、レッサーくんとやら。喋るレッサーパンダが生きられるのは、アニメん中だけだ!」
銃口より再び弾丸が鋭く放たれ、レッサーの頭部に突き刺さってその向こう側まで抜けてゆく。ぱたりとレッサーが倒れる。仕留めた。
「レッサーパンダが立つ所を見るの‥‥動物園だけで‥‥充分かも‥‥」
幡多野が呟いた。
「‥‥普通に可愛いし‥‥ね‥‥」
男はレッサーを見下ろしそう感慨を洩らしたのだった。
かくてレッサーパンダ型バグアは密林に沈み、HWはUPCの回収隊の手によって回収された。
もしも扱える部品が残っていたなら、それはきっと人類の役に立つ事だろう。
了
(代筆 : 望月 誠司)