タイトル:【三度】典子帰る。マスター:鳴神焔

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/24 15:03

●オープニング本文


●診療所前。
 蝉の鳴き声が辺りの木々から漏れ出し始め、一年で最も暑い季節の始まりを告げる。
 日本の某所にある、とある診療所を眼前に一人の女性が佇んでいた。
 女性はガラガラと音を立てて引いていた大きなスーツケースから手を放すと、んーっと大きな伸びをする。
「はぁ〜、やっと帰ってきたわ」
 大きな溜め息を吐き出しながら呟いた女性は、ど感慨深げに目の前の木造二階建ての建物を眺める。
「でもこことも‥‥もうすぐお別れなのよね‥‥」
 どこか寂しげな表情を浮かべた女性は、着ていた服のポケットから一枚の封書を取り出す。
 白地の封筒、その表には『退職届』の文字。
「帰ってきた途端にこんなの見せたら‥‥先生何て言うかしら」
 どこかとぼけた自分の上司の顔を思い浮かべ、思わずくすりと笑みを浮かべる。
 名残惜しい、という気持ちがないわけではない。
 しかしこればかりは自分だけの問題ではない故に変えることはできない。
 わかってはいても、いざ切り出すとなるとやはり怖気づくものだ。
「ちゃんと言わなきゃ。決して嫌で辞めるとかじゃないんだから。寧ろおめでたいことなんだから大丈夫よ典子」
 よしっと自分を鼓舞した女性―――猿渡典子は、もう一度気合を入れて手放していたスーツケースに手を伸ばし―――

「うぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」
 ドガシャァァァァァァァァァァァ―――

 悲鳴と同時に目の前の木造建物の屋根の一部が吹き飛んだ。
 巻き上がる噴煙と同時に飛び出す一つの人影。
 普通に考えればそんなところから人が飛び出すわけがないのだが、それはどう見ても一人の人間、いや、少女だった。それも無駄にピンクのフリルが散りばめられた、とてつもなく可愛らしい服装に身を包み、なにやら怪しげなステッキを持った少女だ。
「‥‥えっと」
 呆然と立ち竦む典子。
 そして再度爆砕音がしたかと思うと、今度は木造建物のあちこちから、何やら触手のようなモノが飛び出してきた。緑色をしたその触手は、良く見ると何かの植物の蔦のようだ。
 ただし、太さが人間ぐらいあるが。
 何か異世界での出来事のような光景に、典子は未だついていくことができずにいた。
 そんな典子の数メートル先で、先ほど宙を舞っていた少女がすとんと着地。
「いけない、このままじゃ宇宙生物アンタガタンが‥‥! 仕方がないわ、最後の手段よっ!」
 良くはわからないが、いきなり目の前に現れた少女は、いきなり最後の手段に出なければならない程度には焦っているようだ。
 その少女が手に持ったステッキをくるくると振りかざすと、ステッキはガチャンガチャンと謎の変形を遂げて少女の身の丈程の銃器へと姿を変える。最早物理法則を無視しているのではないかと思うその銃器を建物に向け、狙いを定める少女。
「受けてみて‥‥これが私の全力ぜ―――」
「ちょっ、ちょっと待って!?」
 明らかに危ない必殺技を撃とうとした少女を前に、典子が慌てて声を掛ける。
 人がいると思っていなかったのか、少女は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐさま視線を建物に戻す。
「‥‥なに?」
「えっと、色々突っ込み‥‥じゃなくて聞きたいことはあるんだけど、取り敢えずあの建物撃つのはやめてほしいんだけど‥‥」
「ごめんなさい、それは出来ないわ。ここでアンタガタンを破壊しないと地球の平和が護れなくなっちゃう」
「まずそのアンタガタンが何かわからないけど、あそこにはまだ人がいるはずなのよ。白衣姿の‥‥こう、やる気のないおじさんが」
 色々な気持ちをぐっとこらえた典子が、端的に自分の上司の説明をすると、今度は少女の表情が曇った。
「‥‥あの人なら、もう‥‥」
 そのまま顔を背けて涙ぐむ少女。
 焦ったのは典子だ。まさかそんな展開になっているとは思わなかった。
「うそ‥‥そんな‥‥先生が‥‥」
「勝手に殺すなぁぁぁぁぁぁぁ‥‥‥‥」
 典子が地面に崩れ落ちる寸前、空中からドップラー効果と共に聞こえてきた声はそのまま消えていく。
 思わず見上げた典子の視界に、建物から伸びる触手に絡め取られた一人の男性の姿が飛び込んできた。
 見紛うことなく自分の上司、三度源成その人である。
「って生きてるじゃない!? 何なの、さっきのもったいぶった言い方!?」
 ぐるんと顔を向けた先には、目薬をさす少女の姿。
「え? あ、ごめんなさい。コンタクトがずれちゃって‥‥あ、あの人なら捕まっちゃいました」
 あっけらかんと言う少女にがっくりと肩を落とす典子。
 その様子に小首を傾げた少女だったが、やがて気を取り直したように銃器を構えると、一言。
「というわけでアンタガタンを退治します!」
「だから人ごと撃っちゃダメだってば!」
 典子は慌てて携帯電話から最寄のULT出張所の番号を呼び出した。

●参加者一覧

辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
アルト・ハーニー(ga8228
20歳・♂・DF
天道 桃華(gb0097
14歳・♀・FT
プリセラ・ヴァステル(gb3835
12歳・♀・HD
冴木 舞奈(gb4568
20歳・♀・FC
冴木氷狩(gb6236
21歳・♂・DF
ララ・フォン・ランケ(gc4166
15歳・♀・HD
天水・夜一郎(gc7574
14歳・♂・GP

●リプレイ本文

●診療所前。
 照りつける太陽。
 聞こえてくる破砕音。
 うねる触手。
 宙に舞う悲鳴。
 そんな、診療所の夏。

「相変わらずというか‥‥変なモノに巻き込まれてるな」
「これが相変わらずなんだねー、まるでアニメとか特撮を見てる気分だよ〜♪」
 目の前の光景は見慣れたと言わんばかりに地面に埴輪を並べ始めたアルト・ハーニー(ga8228)と、その隣で普通に考えれば珍しいこの状況にカメラをパチパチ鳴らしているララ・フォン・ランケ(gc4166)。
 暫く空中を振り回されている三度 源成(gz0274) と、診療所を覆う触手をファインダーに収めていたララだったが、ふと自分の足元にまで並べられている埴輪に目を落とす。
「ねぇ‥‥これ、何に使うの?」
「わからないのか? 埴輪だよ」
「いや、それはわかってるけど‥‥並べてどうするの?」
「どうする? 心が癒されないか?」
「‥‥」
 沈黙するララ。どうやら凡人には理解しがたい何かがあるようだ。
 そんな二人の横では冴木氷狩(gb6236)がやんわりと笑みを浮かべ、その連れ添いである冴木 舞奈(gb4568)が振り回される源成をキラキラした瞳で見詰めていた。
「わぁー、氷狩君に誘われてきたけど。なにこの混沌な状況?」
「凄いやろ? いっつもこんなんやねんで」
 驚きの声を上げながらもきゃっきゃと騒ぐ舞奈に満足した氷狩は、そのまま宙を舞う源成のほうに視線を向けた。
「センセ、めっちゃ久しぶりやね〜。相変わらず愉快な趣味してるね。楽しい? あ、そうそう、センセと会わん間にウチ、結婚してん。この娘がウチの奥さんや」
「あ、氷狩君がお世話になってるようで。妻の舞奈です、よろしくお願いします」
「お前らそれより先に言うことはないのかぁぁぁぁぁっ!?」
 笑顔を貼り付けたまま悠然と結婚報告をする氷狩と、それに応えて挨拶をする舞奈に源成の絶叫が響き渡る。
 夫婦というのは、意図せずとも似た者同士になるのかもしれない。
 と、そこに今回の依頼人である典子が姿を見せた。
「あ、皆さん有り難うございます」
「うにゅにゅ、何だか大変なことになっているのねー。兎に角先生を助けることが最優先なのーっ!」
 頭を下げる典子を前にプリセラ・ヴァステル(gb3835)がぐっと拳を握る。
「それで‥‥話にあった少女というのは?」
 天水・夜一郎(gc7574)の問い掛けに典子はそっとある一点を指差した。見ればそこには大きな木が一本。そしてその頂点付近に小さな人影―――件の魔法少女である。
「あの子がそうね。見ればわかるわ‥‥あたしと同じ感じがするわっ!」
「同じ‥‥か‥‥」
 拳を握って力説する天道 桃華(gb0097)に、その少女を見ながらどこか遠い目をしている辰巳 空(ga4698)。
「同じとは思われたくないけど‥‥さすがにコレはなぁ‥‥」
 溜め息交じりに見下ろした自分の身体はセラフィックアーマーに包まれていた。
 傍目から見ればそれほど気になるものではなさそうなモノだが、本人は何故か気にしているようだ。
 と、そこで問題の少女がふわりと一行の前に降り立った。
「なに、あなたたち」
 じろりと睨むように視線を向けた少女、夜一郎がすかさず典子を庇うような形で間に入る。
「キメラごと民間人を撃てば殺人だ‥‥分かっているのか?」
 責めるような夜一郎の言葉を、少女は鼻で笑い飛ばす。
「アナタの中じゃ人間以外の生物は殺しても罪にならないのね」
「‥‥なんだと―――」
「別に何でもいいけど。兎に角アタシの邪魔だけはしないでよね」
 話は終わりと言わんばかりに視線を診療所に向ける少女。
「待って!」
 声を掛けたのは桃華。こちらも正義のヒロインに憧れているだけあって、見た目にはかなり少女に近しいものがあった。
「‥‥アナタは?」
「宇宙生物と戦ってるのはアナタだけじゃないわ」
「何ですって!? じゃあアナタはっ」
 新たな事実に驚愕する少女に、桃華は無駄に大きな決めポーズを取る。
「マジカル♪シスター桃華よっ」
「あぁ‥‥アタシだけじゃなかったのねっ!」
 歓喜に震える少女と、その手を取って一緒になって感激している桃華。
 どうやら魂的な何かが繋がったようだ。
「うにゅ、仲良しさんはいいことなのっ」
「そうだね、これなら上手く助けられるかもね〜」
 手を取り合う二人を見ながらプリセラとララが笑顔を浮かべる。
 一方ハーニー・夜一郎・空は少し離れたところで様子を見ていた。
「まぁ邪魔にならないのなら何でもいいが‥‥そっちはどうだった?」
 夜一郎の言葉に、空は静かに首を振った。
「ダメですね、所属は確認できません。高速飛行艇が使用された形跡もありませんでした」
「何者なんだ。能力者か、もしくは―――」
 アンギャアァァ!!
 診療所から再び爆発音。粉塵と共に診療所の一角が破壊される。
「‥‥先に助けるとするか」
 ハーニーの言葉に異論を挟む者はいなかった。

●救出作戦開始。

「ふ、この埴輪軍団総帥を差し置いて悪役をやるとは許せん! この俺のハンマーで叩き潰してくれる! 覚悟しろアンタが一番!」
 何だかんだと言っていつも一番ノリ気なのがこの男、ハーニーである。
 今日も黒いマントを背に意気揚々名乗りを上げる。そして直後にマントは脱ぎ捨て。
「ねぇ、それって着てる意味あったの?」
「カッコイイだろう?」
 ララの問い掛けに何を今更と言わんばかりの顔で答えるハーニー。
「‥‥じゃあ何で脱いだの」
「え、だって暑い」
「‥‥‥‥触手、お願いね」
 冷めた目でひらひらと手を振るララに釈然としない気持ちを抱えたまま、ハーニーは診療所へと向かう。
 狙いは触手のような蔓。一つでも多く自分に引き付けなくては意味がない。
 手にした100tハンマーを自在に振り回し、迫り来る蔓を見事に捌いていくハーニー。
 後ろからは緑の粒子を撒きながら夜一郎が、そして燃えるような紅の髪をなびかせ雪兎塗装の愛車を身に纏ったプリセラが、空中で振り回されている源成の元へと身を躍らせる。
「うにゅ、夜一郎さん宜しくなのーっ!」
「あぁ‥‥任せろ!」
 応える夜一郎の手から尖槍「コーカサス」が舞う。白い雪のような槍は迫り来る蔓を次々と切断していく。
 少し時間が経過した後、キメラの動きが鈍くなる――空の歌声がキメラの動きを阻害することに成功したようだ。
 勢いをそのままに夜一郎は鈍ったキメラに槍を振るい続ける。
 その後ろに控えるプリセラは源成が捕まっている蔓の根元を探すべく視線を忙しなく動かす。
「夜一郎さん、あそこなの!」
 プリセラの指差す方へと視線を送った夜一郎は「応!」と叫ぶと、そのまま身を翻し方向を転換。槍を振るい一気に駆け抜ける。
 夜一郎の目標地点到達を確認すると、プリセラは身に纏うAU−KVに練力を流す。その脚部にスパークが走ると同時に一気に夜一郎の傍へと移動。すぐさまエネルギーキャノンを構える。更に練力を流し予め合図と決めていた頭部からのスパークが発する。
「うにゅ♪ 砲撃地点かくほー、なの! 氷狩さん、準備できたのー。どかーんっといくのー!」
 声と同時にエネルギーキャノンの砲撃が蔓目掛けて放たれる。

 一方呼び掛けられた氷狩の方は、相変わらず振り回されている源成と、それを眺める魔法少女を見ながらあることを考えていた。
(この子の正体がわからん以上、あんまり野放しにしとくんも危険やなぁ‥‥敵やったら危険やし、確認しとかなあかんなぁ)
 バグア、もしくはそれに順ずる者であらばそれは敵。そして、それを簡易で調べるには――
 氷狩は気付かれないようにそっと足元の小石を拾うと、そのまま石を指で弾いて少女へと飛ばす。石は少女の頭部へと飛来し命中。
「痛っ!?」
 悲鳴を上げて振り返る少女。氷狩はひらひらと手を振りながら笑顔で謝る。
「ごめんごめん、手ぇ滑っただけや」
「貴方‥‥どういうつもりなの?」
「ごめんて、堪忍や。憂いも断ったことやし‥‥ほな、本気出すかっ!」
「あ、ちょっと待ちなさいよっ!」
 叫ぶ少女を背に氷狩は前線へと躍り出る。迫る蔓をひらりとかわし、すれ違いざまに手にしたグラジオラスを振るって蔓を切り落とす。
 と、暫くしてプリセラの声が耳に入り、直後に砲撃の音が耳を打つ。
 氷狩が視線を送ると、源成を捕縛していた蔓が次々と砲撃を浴びて切断されていく。同時に源成はその身を重力に引っ張られる。
「ララ! 頼んだぞ!」
「はーい、お任せ〜♪」
 身に纏うAU−KVの脚部にスパークが走り、助走したララの身体が一気に宙へと飛び上がる。
 落下し始める源成の身体を空中でキャッチ。着地と同時にAU−KVをバイクモードに。
「しっかり捕まっててね〜? あ、変なトコ触ったら許さないからね♪」
 パチリとウィンクしたララはアクセルを全開にしてバイクを急発進させる。急な加速にバイクの後ろで源成が白目を剥いていたりしたが、それはさておき。
 迫り来る蔓を巧みなバイク捌きで見事にかわし、ララは源成を離れた場所へと移動させる。
 その先には舞奈の姿。
「舞奈ちゃーん、後お願いねー」
 言いながらぽいっと源成を放り投げる。飛んだ源成は舞奈に受け止め――
「あ、ごめーん。舞奈今無理できないのー」
 べしゃ、と音を立てて地面に突っ伏す源成。最早声も出ない状態の源成はぴくぴくと身を震わせた後、ぱたりと力尽きた。

●殲滅開始。

 源成が地面に放り出された頃、件の魔法少女と桃華・空の二人は診療所をなおも破砕し続けるキメラに視線を送っていた。
「どうやら救出は成功みたいね」
「えぇ。これで遠慮はいりませんね」
 桃華の言葉に空が頷く。
 と、桃華は魔法少女の方に顔を向けた。
「ねぇアナタ、接近戦はいける?」
「誰にモノを言ってるのかしら? 勿論いけるわ!」
「ふふ、じゃあ零距離射撃で本体を直接吹っ飛ばすわよ!」
 力強く頷く少女に満足そうな笑みを浮かべる桃華。
 一方の空は、今だに少女の事を信用はできないものの、とりあえず強力してキメラを退治することには同意。
 こうして三人の傭兵――いや、違った、傭兵一人と魔法少女二人は診療所目掛けて駆け抜ける。
(あのキメラに子守唄は効く!)
 胸中で叫んだ空の身体が再び淡い銀色の光に包まれ、瞳が紅く変色を始めた。
 辺りを包む柔らかな歌声。同時にキメラの動きが明らかに鈍くなる。
「さぁいくわよっ!」
 叫ぶ桃華の背後に小さな虎のようなオーラが浮かび上がる。
 少女の方も淡い光を放ちながら、手にした長い砲身の銃器を構える。
「あたしが突っ込むから合わせなさい、いいわね!」
「任せてっ!」
 頷きあった二人はそれぞれ左右へと展開。
 まずは桃華。乙女桜を手に一気にキメラへと肉薄。振るった斬撃はキメラの蔓を切断。続け様にもう一閃。
 リズムに乗って徐々に斬撃速度を上げていき、更に距離を詰めていく。
 三メートル‥‥二メートル‥‥
 だがそこでついにキメラの蔓が桃華を捉える。既に斬撃を放つことで精一杯の桃華に防ぐ手はない。
 振るわれた蔓が桃華を捉えようとしたその瞬間――炎の如き紅い光が桃華を狙う蔓を切断。
「余り無茶をしないでください、よっ!」
 言葉と共に天剣「ラジエル」を横一文字に薙いだ空。瞬速縮地で一気にこちらまで詰めたようだ。
「助かったわ! さぁ‥‥もう一息よ!」
 構わず斬撃を繰り広げる桃華と、その邪魔にならないように位置取りながらも手数を増やす空。
 やがて痺れを切らしたキメラが全蔓を二人目掛けて集中させる。しかし、それこそが真の狙い。
「さぁ出番よ!」
 いつの間にかキメラの真後ろまで迫っていた少女は、その手に構えた銃器をキメラ本体に向ける。
 機械的な音声が薄っすらと聞こえたかと思うと、少女の武器からエネルギー放出のための準備発光が溢れ出した。
「これで最後よ‥‥受け取りなさい!」
 怒号一閃、少女の砲身から圧倒的な熱量の衝撃波が生まれ、目の前のキメラを飲み込んでいく。
 当然診療所もろとも。


●全て終わって。

「お〜、随分と眺めがよくなったね〜♪」
 額に手を当てながら前方遠くを見るララ。その前にはぽっかりと穴が開いて、とっても風通しが良くなった診療所の姿。
 当然その隣には呆然と立ち尽くす源成の姿。
 それを見たプリセラが元気良くぴょんぴょんと跳ねてみる。
「うにゅにゅ! と、とにかく、無事で何よりなの♪」
 言いながら喜びを身体全身で表すプリセラ。しかし、身に纏っているのがAU−KVのために可愛さは半減どころか皆無であった。
「何と言うか。形あるものはいつか壊れるものだ。余り気に――するよな」
 一応慰めを試みた夜一郎だったが、目の前の惨状が余りに酷かったため掛ける言葉を失った。
 夜一郎としては例の魔法少女が一体何者か知ってはいないかと尋ねるつもりでいたのだが、どうもそれを聞ける雰囲気ではない。
 尤も、後で確認したところでただ巻き込まれただけの源成は何も知らなかったりする。
「ほ、ほら! 青空診療所みたいな感じで新たな試みをしてみるとかどうでしょう?」
 続けてこちらは空。ただ、かえって傷口を広げたような気もしないでもないが。

 そんな放心状態の源成の後ろではこれまた異質な空間が広がっていた。
「舞奈、大丈夫やったか?」
「うん! 無理はしてないし‥‥氷狩くんも、護ってくれたから」
「当たり前やろ?」
「‥‥うん!」
 どこか背景がピンクになってはいないか!? と疑いたくなるようなとろけるような甘い空間がそこにはあった。
 そしてそれをどこか羨ましそうに見つめる、典子。
「どうした?」
 突如掛けられた声に振り向くと、そこにはハーニー。
「いえ、何でもありません」
「そうか? キメラはいつものこととして、今回はまだ何かありそうな感じだな。あんたとしては」
 ハーニーの言葉に俯く典子。
 しかし、結局それが典子の口から語られることはなかった。

 一方、件の魔法少女は、診療所の前で桃華と向き合っていた。
「まさか私以外に宇宙生物と戦っている仲間がいるなんて思わなかったわ」
 嬉しそうに微笑んだ少女に、桃華もまた笑みを浮かべる。
「世界にはもっと仲間がいるかもしれない‥‥いつかまた、共に戦える日が来ることを楽しみにしているわ!」
 そう言って手を差し出す桃華。少女は頷いてしっかとその手を握る。
「アナタの名前を教えて頂戴?」
「私は‥‥私の名はミント。まじかる☆ミントよ!」
「覚えておくわミント! またいつか会いましょう!」
 再開することを強く誓い合う二人。
 そして少女ミントは、信じられない脚力でその場を飛び去った。
「ってあぁっ!? ダメじゃないですか逃がしちゃ!?」
 叫んだのは空。少女の正体が何であれ、連れ帰るつもりでいたのだ。
「そんなことをしなくてもまた会えるわ‥‥きっと」
「いやそうじゃなくて‥‥」
 桃華は悲しそうに呟いた空の言葉をスルーしてミントの去った方へと視線を向けて、力強く頷いた。