タイトル:葱とオカマの協奏曲。マスター:鳴神焔

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2008/07/09 03:41

●オープニング本文


 すっかり日も落ちて暗くなった夜道を二人の男が歩いていた。
 どうやら軍に所属するもののようで、ラフに着こなした軍服が二人の鍛え抜かれた肉体を包み込んでいた。
「ふぃ〜、今日は飲みすぎちまったなぁ、ジョセフ」
 肩を組んで意気揚々と歩く二人の男は久々に酒を飲んで酔っ払っていた。ここのところ戦闘戦闘で息つく暇もなかったが、明日は久々の非番ということで二人は酒場をはしごしていたのだ。
「何だか久しぶりだな、こうやって笑うのも」
 ジョセフと呼ばれた男がしみじみと呟く。
「あぁ‥‥常に死と隣り合わせだからな。ま、軍に入ったときから覚悟はしていたさ。人類の未来をかけて戦ってるんだしな」
「ふ‥‥偉くなったもんだな、フロス」
 にかっと笑う男―――フロスに苦笑を浮かべるジョセフ。傍目から見ても二人の仲がいいのは一目瞭然、彼らは軍に入隊したときの同期だった。
「ま、仕事の話はやめて次の店に行こうぜ!」
「あぁ、次はどこへ‥‥ごほごほ」
 言葉の途中で咳き込むフロスにジョセフは怪訝そうな表情を浮かべる。
「大丈夫か? 風邪でも引いたか?」
「ん‥‥少し喉が痛むな。酒焼けでもしたかな」
 フロスは喉を押さえながら忌々しげに言った。その様子を見たジョセフは懐から一つの紙包みを取り出しフロスのほうへと差し出した。
「配給でもらってた風邪薬だ。効き目があるかはわからんが何も飲まないよりはマシだろう」
「‥‥すまない。もらっておこう」
 苦笑を浮かべながら頭を下げるフロスにジョセフは大きな笑い声を上げた。
「がははは、いいってことよ! まぁ昔から風邪のときは葱がいいって言うから帰ったら首にでも巻いとけ?」
「葱を首に巻く‥‥か。確か日本ではそんな風習があるらしいな?」
 ジョセフの言葉に昔どこかで聞いた話を思い出したフロス。
「そんなもん効くとは思えねぇがな」
 真剣に考えるフロスの様子にジョセフは苦笑交じりに言い放った。
 確かに日本では風邪のときに葱を首に巻くといいという言い伝えがある。実際に効くという人もいれば全く効かないと言い張る人もいる。つまりその効果は人それぞれなのだろう。まして神秘やら言い伝えやらに固執しない彼らにとっては眉唾もいいところである。
「まぁ気が向いたら試してみるとしよう」
「そんなこと言わずにせっかくだから今すぐ試してみない〜?」
 誰に言うともなく呟いたフロスの言葉に突如背後から返答が返ってくる。歩みを止めた二人は一瞬顔を見合わせてゆっくりと背後を振り返った。
 そこには夜の月明かりに照らされて妖しく佇む巨大な影が三つ。
「だ、誰だっ!」
 あまりの妖しさに少し逃げ腰になりながらジョセフは影に向かって叫んだ。
「あたしたちは」
「世の中の全ての男を癒すために生まれた」
「人呼んで筋肉妖女隊よぉん♪」
 三つの影はくねくねと悩ましげなポーズを取りながら順番にそう告げた。影の足元にいた犬のような奇妙な生き物がそれに合わせるようにゆらりとうごめいた。
 ―――ヤバイ、こいつらはヤバイ。
 直感でそう感じた二人は少しずつ影から距離をとろうと後ろに後退する。
「あら、そんなに怖がらなくても大丈夫よぉん♪」
 影の一人が野太い声で妖しく語りかけてくる。影だけでその姿ははっきりとは見えないが身長にして二メートル近くはあるだろう。そんな大男が三人、じりじりと寄ってくる恐怖といったら想像を絶するものであった。しかも影はその手に長い緑色の何かをぶら下げていた。
「お、俺たちをどうするつもりだ!」
 精一杯の虚勢を張りながらジョセフは叫ぶ。
「いやぁん、失礼しちゃうわねぇん。あたしたちはあなたたちを癒しにきたのよぉん♪」
 別の影がそう言って腰をくねくねと動かす。
「そうそう。ちゃんとした葱の使い方を手取り足取り腰取り教えてあげるわぁん♪」
 さらに別の影が嬉しそうに便乗する。
 余りの恐怖に足が竦んで二人は動けなくなっていた。
 それを見た影の一つが不気味な笑みを浮かべた。
「大丈夫よぉん。痛いのは最初だけだ・か・ら♪」
 その日、夜の空に絶叫が木霊した。

「またか‥‥」
 提出された報告書に目を落とした初老の男は大きな溜息を一つついた。
「随分お悩みのようで」
 初老の男の前で柔らかな笑みを浮かべた女性の言葉で男は視線を女性の方へと移す。
「今週で既に五件目だ」
 男は苦笑を浮かべながら手元の書類を女性の方へと差し出す。女性は書類を手に取るとその内容を読んで不思議そうな顔をする。
「‥‥お尻に葱を刺す通り魔、ですか‥‥?」
 改めて言葉にされた内容に男はこめかみに手をあてて再び嘆息する。
「何でもここら辺りの兵士やら傭兵やらが犠牲になってるようだ。その傍にキメラらしき影も確認されている」
「この報告書によれば本人たちは癒してるつもりのようですけれど‥‥」
「なお性質が悪い」
 男がそういうのも無理はない。悪意のない悪事ほど厄介なものはないのだ。
「傍にキメラがいるなら恐らくバグアに操られてるんだろうが‥‥戦闘時にこんなのに癒されたらたまったもんじゃないだろ」
「それは‥‥イヤです」
 一瞬想像してしまったことを悔やんでしまった女性はキッパリと拒否の態度を示した。
「ま‥‥傭兵たちに任せるとするか」
 男はぼそりと呟くと手元の指令書にペンを走らせた。

●参加者一覧

ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
西村・千佳(ga4714
22歳・♀・HA
九条・縁(ga8248
22歳・♂・AA
ナナヤ・オスター(ga8771
20歳・♂・JG
天道 桃華(gb0097
14歳・♀・FT
片桐 恵(gb0875
18歳・♂・SN
巽 拓朗(gb1143
22歳・♂・FT
朔月(gb1440
13歳・♀・BM

●リプレイ本文

●未知との遭遇。
 街の中を淡い闇が包み始める頃、二人の男が肩を寄せ合いながら歩いていた。
「ひ、ひ、ひっくしゅん!! う〜さぶい‥‥水浴びなんかするんじゃなかったかな‥‥」
 鼻水を垂らしながら呟いたのは巽 拓朗(gb1143)。故郷の東北から出てきたばかりの彼は傭兵としての初めての仕事に気合を入れすぎて風邪を引いてしまったようだ。
「大丈夫ですか‥‥?」
 ナナヤ・オスター(ga8771)はそんな拓朗を心配そうに見ながら声をかけた。
「とはいえ私も目が霞むし痛みますねぇ‥‥おまけに近くの物がちょっと見えにくいし‥‥そろそろ病院にでも行った方が良いのでしょうか‥‥?」
 不必要に目頭を押さえながらナナヤは辺りの気配をさりげなく探っていた。
 今回の依頼は病人の、特に男に襲いかかってくるという謎のオカマたちを捕らえるというもの。そのために必要不可欠なもの―――それが囮であった。勿論仲間たちも待機しているため合図を出せばすぐに駆けつけてくれることになっている。しかし相手が相手であるためこの状況で頼れるのは自分しかいないことは二人とも何となく気付いていた。
「先輩‥‥俺たちは本当に無事に囮で終われるんでしょうか」
 何となく感じていた不安を小声で問いかける拓朗にナナヤは力ない笑みを返す。
「あ、あはは。大丈夫ですよきっと‥‥終わった後には家族への手紙のネタになりそうですよ‥‥いや、手紙に書けるネタにしますよ、ええ」
 そして奴らはやってきた。 
 不安を隠せない囮二人の前に突如巨大な影が道を塞ぐようにして現れる。
「あはぁん、どうもお身体の調子がよろしくない子がいるわねぇん♪」
 最早言葉はいるまい。
 月明かりに照らされた二メートルはあろうかという巨大な筋肉の城。その姿より先にナナヤと拓朗の視線は自然にその筋肉の両手に移された
 ―――葱だ。
 更にゆっくりと影が近付いてくるにつれて顕わになるその姿。
 月明かりにキラリと光るスキンヘッドに顎を覆ううっすらと生えた青い髭。さらにその全身を包んでいるのは今にも張り裂けんばかりにぴっちぴちのチアガール服。
「‥‥GINYAAAAAA!!」
「あぁっ! ちょっ‥‥拓朗さん!」
 人としての何かを壊されかけたような悲鳴をあげてダッシュで逃亡を試みる拓朗に、被害が自分に集中することを恐れたナナヤが慌てて声を掛ける。
 しかし敵はそのカマ一人ではない。
 全力で走るナナヤの前に再び巨大な壁が立ちふさがる。
「うふっ♪ 嬉しさに悶えてアタシの胸に飛び込んできてっ♪」
 ナナヤの行く先で両手を広げて唇を突き出しながら構えるオカマ。こちらは日本古来の着物をいたるところではだけさせていた。余りに夢中で走っていたため拓朗が気付いたときには既にカマの腕の中にいた。
「えっ‥‥ちょ、ちょっとまっ‥‥んんっ!?」
 抗議の声を上げる拓朗の口は分厚い何かで塞がれる。
 ちう〜‥‥‥‥
 まるでバキュームのような快音が夜の闇に響き渡り、バタバタと動かしていた拓朗の手足は徐々にその動きを弱め―――途絶えた。そのとき拓朗の脳裏には田舎での楽しかった出来事が走馬灯のように流れていったという。
「むはぁ〜、なかなかおいしかったわぁん♪」
 そう言いながら唇を拭うオカマ一匹。
 拓朗は‥‥白目を剥いたままオカマに抱きしめられたままだった。

●さらば尊き犠牲者たちよ。
 囮二人がオカマと遭遇している頃、他の傭兵たちはその様子を生温く見守っていた。
「うにゃ、カマ出たけど‥‥やっぱり美しくないにゃ‥‥とりあえずもう少しみていようにゃ」
 少し気味悪そうな表情を浮かべたのは西村・千佳(ga4714)。
「あ、あの〜‥‥助けにいかなくてもい、いいんですか‥‥?」
 どもりながら尋ねたのは片桐 恵(gb0875)。囮としてオカマを誘き寄せることには成功しているため、二人は既に役割を果たしているはず。しかし誰一人として助けに行こうと言い出すものはなかった。
「まだにゃ‥‥まだ刺されて‥‥違った、アレが噂のカマかどうかわからないにゃ!」
 そう言って力説する千佳。彼女の望みはどうやら別の所にあるようだ。
「助けにいかなくてはならないとは思う‥‥思ってはいるのだがっ! 何故だかわからんがここは邪魔をしてはいけないと俺の五感がそう言っている!」
 意味不明な電波を受信したのか、手にした鰹でビシッとポーズを取る九条・縁(ga8248)。
「そうよ。それに相手はまだ葱を使っていないわ。だからまだ勝機じゃないのよ!」
 何が通じたのか縁の言葉に頷きながら拳をぐっと握った天道 桃華(gb0097)は、オカマたちの手にした葱の動きをじっと見つめていた。どうも彼女も目的が何か歪んだ方向に向かっている様子。
「ネ〜ギ、葱葱葱〜♪」
 不気味な歌を歌いながらオカマを見つめている朔月(gb1440)は既に別世界の住人になってしまっていた。
「あたしも見ようによってはあんな風に見られてるのかしら‥‥だとしたら心外極まりないわね」
 眉間にしわを寄せて呟いたのはナレイン・フェルド(ga0506)。他とは違うという意味では似通った部分もあるナレインだが、さすがに受け入れがたいその様子に少々お怒りのようである。しかしナレインの役割は近くにいるはずのキメラを倒すこと、その姿を確認するまで出るわけにもいかなかった。

 一方拓朗をやられ一人になったナナヤの前には最後のオカマが姿を見せていた。
 一際煌く舞台のヒロインのように、月明かりのライトに照らし出されたのは三つ編みおさげの無精髭、ぴちぴちチャイナドレスに身を包んだ巨大な筋肉の城。その足元には犬のような影がゆらりと蠢く。さらにナナヤを挟んでいたオカマ二人もいつの間にか隣に並ぶ。
「三人揃って‥‥筋肉妖女隊よぉん♪」
 三つの濃すぎる顔が揃ってウインクと投げキッスを放つ。
「あぁ‥‥あぁぁぁ‥‥」
 揃ったオカマの姿を目の当たりにしたナナヤは既に精神的なダメージを追って、その目には薄っすらと涙が浮かんでいた。オカマ三人は豪快に建物から跳躍して思い思いの位置に着地する。一人はナナヤの傍に、もう一人は倒れていた拓朗の傍に、そしてもう一人はそのちょうど中間辺りに。
「‥‥はっ!? 俺は一体ここで何を‥‥」
 そこで倒れていた拓朗がちょうど意識を取り戻す。しかしそれは絶望とも呼べる最悪のタイミングだったに違いない。辺りを見回そうと振り返った拓朗の視界に飛び込んできたのははだけた着物の隙間から見えるもっさもさとした胸毛。さらにそのまま抱きしめらる形で宙に浮かされてしまう。更に反対側ではナナヤも同じようにつるし上げられていた。
「いっいけません! ネギは人を刺す物ではありません! 食べたり、巻いたり、片手で持って振りながら歌うものだと教わらなかったのですか!?」
 必死に抵抗を続けるナナヤ。
「ちょっと‥‥もう‥‥勘弁‥‥」
 先程の恐怖が甦ったのか涙声で訴える拓朗。
「病気の人にはこれがイ・チ・バ・ン・よ♪」
 真ん中で構えるオカマの両手には新鮮そのものの葱が斜めの切っ先を二人のほうに向けていた。
 そして二人を抱きしめたオカマがそのまま真ん中に向かって走り出す―――

 ぷすっ。

 ―――あぁ‥‥田舎にいればよかったなぁ‥‥         by拓朗
 ―――お母さん‥‥僕は元気です‥‥             byナナヤ

●戦闘開始。〜VSキメラ〜
 そんなやり取りを建物の上から観察するように見ていたのは先程姿を現した犬のような影。その姿は普通の犬とは程遠い奇妙な姿をしており、見るものが見ればすぐにキメラだということがわかるほどのものだった。
 しばらくじっとしていたキメラだったが、ふと近付く気配に後ろを振り返った。
「街の中で悪さするのは許せないわ…悲しい事はもうやめて、眠って頂戴?」
 呟くようにそう言ったナレインは何故かその顔に悲しげな表情を浮かべていた。
 戦うために作られただけの存在であるキメラ―――その存在自体に罪はないはずである。しかし作り上げた存在は人類にとって敵だった、ただそれだけのこと。こちらが憂いてもキメラたちには伝わらない。わかっていてもやはり悲しいものだとナレインは小さく嘆息する。
「あ、あちらはあちらで‥‥も、盛り上がっているようですし‥‥こ、こちらも頑張りましょう」
 ナレインの後方から盾を構えた恵がひょっこり顔を覗かせる。
「こんなのさっさと終わらせてあっち行こう!」
 弓を構えながら何故かそわそわとする朔月。どうやらオカマのほうが気になって仕方がないようだ。
 互いが相手の出方を待ち、妙な緊張感がピークに達しようかとしたとき、彼らの足元の更に下、つまりオカマたちの方向から断末魔のような耳障りな悲鳴が聞こえ、キメラの注意が一瞬そちらに向いた。
 その隙にナレインが疾風脚で脚力を高めて一気にキメラとの間合いを詰める。
 キメラがそれに気付いたときには既にナレインの足は宙を舞い、回転を交えてキメラの横面を強打する。
「グアァァァァッ!!」
 耳障りな悲鳴と共に床に転がるキメラ。しかしすぐに体勢を立て直し、ナレイン目掛けて再び襲い掛かろうと構える。だが動こうとするキメラに数発の銃弾が飛来してその動きを止める。
「い、今です‥‥!」
 盾の後ろから援護する恵の声とほぼ同時、ナレインはキメラの後ろに回りこんでいた。
「はあぁぁぁぁぁぁっ!」
 ナレインの右足がキメラの腹部に吸い込まれるかのように命中。吹き飛ばされたキメラは軽い痙攣を起こした後静かにその活動を停止した。ナレインはゆっくりとキメラの傍に近寄ると片膝を付いて
「次に生まれてくる時は‥‥自由を感じる事が出来ればいいのにね‥‥おやすみ」
 呟いたナレインはゆっくりとキメラの元を去っていく。その跡には一輪の青い薔薇が添えられていた。

●戦闘開始。〜VSオカマ〜
 囮の二人が人として―――いや、男として何か大事なものを失ったような気がしていたちょうどその時、彼らの背後から三つの人影が踊りでた。
「そこまでにゃ!葱の間違った使いかたを世に広める悪の軍団‥‥筋肉妖女隊にはマジカル♪シスターズがお仕置きにゃ♪」
 手にしていた山芋をビシッとオカマに突きつけた千佳の名乗りにオカマ三人が振り向いた。
「あたしたちマジカル♪シスターズの前でこれ以上好き勝手はさせないわ!」
 同じようなポーズで宣言する桃華の手には美しいカーブラインを描いたネギが握り締められている。
「葱と言えば鴨と思われがちだが、鰹の存在も忘れてもらっちゃ困るぜ!」
 両手に持った二匹の冷凍鰹を振り回しながらやはり電波を受信している縁がそれに続く。
「ふふっ‥‥アタシたちと癒し勝負をしようというのね‥‥いいわ、受けて立つわよ♪」
 一体何がどうなってそうなったのか、よくわからないやり取りの後に対峙するマジカル♪シスターズ+1と筋肉妖女隊。
「皆、一人一殺にゃよー!」
 千佳の言葉に頷く傭兵たち。
 ちょうど人数は三対三―――
 千佳の前には和服姿のオカマ。
 桃華の前にはスキンヘッドのオカマ。
 縁の前にはおさげのオカマ。
 かくしてオカマ対傭兵の壮絶なバトルが幕を開けた。

「女子なんて‥‥あたしたちの敵以外の何物でもないわっ!」
 憤怒の表情を浮かべる和服オカマに山芋を構える千佳。
「先手必勝‥‥ヤられる前にヤるのにゃ!」
 叫んだ千佳の姿が瞬時にして消え失せる。
「なっ‥‥消えた!?」
 驚異的な脚力で慌てるオカマの背後に一気に回りこんだ千佳は手にした山芋にぐっと力を入れる。
「蝶の様に舞い‥‥蜂の様に刺すのにゃっ!」
 ぷすっ。
 鈍い音と共に和服オカマの動きが止まる。
 しばしの沈黙の後、オカマはゆっくりと自分の背後を振り返る。右手の山芋を突き出すような格好の千佳がにっこりと微笑んでいるのが見える。そしてその右手の先は‥‥そこは皆さんの想像に任せることにしよう。
「そんな‥‥女子に掘られるなんて‥‥オカマ失格‥‥ね。でも‥‥ちょっとイイかも‥‥」
 そんな言葉を呟きながらどこか恍惚の表情を浮かべて地に沈む和服オカマ。
「マジカル♪シスターズは無敵なのにゃ♪」
 誰とも為しに高らかに声をあげ、右手の山芋を天高く掲げてビシッとポーズを決める千佳であった。

「どっちがネギの癒し手を名乗るのにふさわしいか。女としての誇りと尊厳も賭けて、決闘を挑むわ! それともチキンなオカマ野郎にはそんなもの関係ないかしら!?」
 かなり柄の悪い言葉で挑発する桃華に、何故か腰をくねらせながら向かい合うスキンオカマ。
「うふん♪ 可愛い女の子だわ♪ アタシちょっと興味あるのよねぇん♪」
 不気味なウインクで応えるオカマに何となく嫌悪感を抱きつつも桃華は手にしたネギを構える。
 緊張が走り、まさに一触即発の雰囲気。
 先に動いたのは桃華。手にしたネギを振り上げて一気にオカマとの距離を詰める。
 突然の突進にオカマの防御は間に合わない。
 もらった―――そう確信した桃華の足元に何故かバナナの皮が。
 まるで漫画のように綺麗に滑る桃華。その動きは何故かスローモーションのようにはっきりと見えたらしい。
 しりもちをついた桃華がゆっくりと瞼を開けると、そこには迫り来る巨大な唇があった。
「‥‥いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 断末魔の叫びが夜の闇に木霊する。
 何が起きたかはあえて語るまい。
 後には満足そうなスキンオカマと白目を剥いてぴくぴくしてる桃華だけが残っていた。

 残る一組である縁とおさげオカマは互いの武器で全力で叩きあっていた。激しくぶつかり合う縁の冷凍鰹二刀流とオカマのネギ二刀流。
「ふふ‥‥鰹もなかなかやるわね」
「ふっ‥‥そういうネギもな」
 不敵な笑みを浮かべながら向かい合う二人にはある種友情めいた何かが生まれつつあった。
「でも‥‥アタシもオカマとして負けるわけにはいかないわっ!」
 そう叫んだオカマの股間からにゅうっともう一本のネギが生えて―――いや、現れた。
「ばっバカな!? 三刀流だとっ!!」
 驚愕の表情を浮かべる縁に向かい、オカマは大きく跳躍する。宙を舞い両手のネギを振り回しながら股間のネギをくねくねと動かして襲い来る筋肉のオカマの姿は縁の理性を飛ばすには十分だった。
 その後二人の間で何が行われたか‥‥それは誰の口からも語られることはなかったという。

●その後。
 キメラを倒されたことでオカマたちは正気に戻り、それぞれの生活へと帰っていった。
 もちろん彼らのしたことは許されることではないのかもしれない。
 しかし彼らもまたバグアの被害者なのだ。
 これから先も彼らのような犠牲者を出さないためにも、また今回いろんな意味で深い傷を追った者たちを増やさないためにも、傭兵たちの戦いは続くのだ。
 頑張れ傭兵たち。負けるな傭兵たち。

〜完〜