タイトル:【伝妖】口裂け女。マスター:鳴神焔

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/29 14:07

●オープニング本文


 日本には昔から都市伝説という物が存在する。
 勿論各地域によってその内容は異なり、海外にも似たような話はあるのだが、殊更日本の都市伝説は種類が多い。本当に恐ろしいものから少しの悪戯的なものまで、バラエティの豊富さは折り紙つきである。
 そしてそんな話を巧みに利用したキメラが、ここ最近出没している。

 日本某所―――
 そこには数々の伝奇・伝承・都市伝説を研究する施設が存在する。と言っても民間の団体故にその存在は余り知られているわけではないが。
「博士ー、大変ですー」
 どこか間延びしたような声が施設の中に木霊する。ぱたぱたと足音をたてながら叫んでいるのは小柄な女性。身の丈に合わない白衣を着ているために今にも踏んづけてコケそうだ。
「何だね小金井くん、私は今チーズたこ焼きとの格闘に忙しいのだが」
 口周りにソースをべったりとつけた、髪の薄い中年の男性が眉を顰めて応える。手に持っているのは発泡スチロール製の皿に乗せられたたこ焼き。どうやらチーズが熱すぎて食べられないらしい。
「もう、そんなの置いてくださいー。そんなことより、大変なことが起こりましたよー」
 興奮しながら話す女性―――小金井かおるは、手にした書類の束を男性の前にばんと叩きつけた。
「なになに? 恐怖、口裂け女‥‥?」
 書類に貼り付けられていた新聞の切り抜き、その見出しを口にした男性は訝しげな表情を浮かべる。
「これ、大風呂敷新聞の記事じゃないの?」
 大風呂敷新聞―――この手の怪奇ネタや眉唾物の財宝伝説などを中心に扱う地域新聞で、その内容の九十八パーセントは嘘だとされる新聞である。ちなみに発行会社は謎に包まれており、今までその関係者に辿り着いた者はいないという、新聞自体が都市伝説のような怪しさである。
「違いますよー。勿論大風呂敷新聞の記事も入ってますけどー、今回は一般新聞で取り上げられてるんですー」
「何だって‥‥!?」
 男性が驚くのも無理はない。実際問題そんなものが一般新聞に取り上げられるなど、ほとんどないのだから。慌てて手元の書類に目を通す博士と呼ばれた男性。しかし、読み進めるほどに表情が歪んでいく。
 記事に書かれていたのは口裂け女について。
 どうやら街中にそれが現れたらしく、人気のない裏路地で何人かが被害にあっており死者も報告されている。最早都市伝説というよりは立派な殺人事件だ。都市伝説にある通り『私綺麗?』と聞かれるようだが、どう返答しても被害にあっている。被害報告を見てみると、首が残っていたり腕が残っていたりはするもののほぼ丸齧りに近い状態である。ただし、どういうわけか手だけは残すことが多いようだ。
「どうしましょう? 取材、いきますかー?」
 腕まくりをしたかおるに、博士は静かに首を横に振る。
「これはどう見たって異常だ。こういう事件は傭兵に頼るに限るよ」
「えぇー‥‥」
 不服そうな顔をするかおるを余所に、博士はすっかり冷めてしまったチーズたこ焼きを口に放り込んだ。

●参加者一覧

ロナルド・ファンマルス(ga3268
28歳・♂・FT
キャル・キャニオン(ga4952
23歳・♀・BM
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
大鳥居・麗華(gb0839
21歳・♀・BM
綾波 蒼馬(gb6708
18歳・♂・FC
黒崎 アリス(gb6944
13歳・♀・GP
ワタタカ(gb7067
18歳・♂・DF

●リプレイ本文

●囮〜異国人の場合。
 繁華街が中心に存在するその街は、一本道を逸れれば怪しい雰囲気の場所に早変わりする。
 切れかけた電柱がチカチカと不定期に瞬き、途切れ途切れに映し出される街路には人の気配はほとんどない。当然なるべく立ち入らないようにという触れ込みがあるだけで、特に見回りなどがあるわけでもない。人を襲うには絶好の場所。
 そんな通りを今、全く似つかわしくない二人が歩いていた。
「ジャポンには恐ろしい妖怪がいマスネ。しかし、ワタシにかかれば大丈夫デ〜ス、HAHAHAHA!」
 大声で話しながら歩く影はロナルド・ファンマルス(ga3268)。ランタン片手に路地を歩くロナルドは何を思ったのか褌一丁に手作り感満載の天使の羽らしきものを背中に背負っている。手に持っているのはキューピッドアロー―――どうやら天使のつもりのようだ。
「日本にはまだまだ色んな秘密がありますのよ」
 これまた路地裏には似つかわしくない派手なドレスを身に纏ったキャル・キャニオン(ga4952)が流暢な日本語で話す。彼女の生い立ちがそれを可能にしているのだろうが、やはりギャップは否めない。
 日本という地域から見れば二人は異国人。そんな二人が薄暗い路地裏を大声で話しながら―――しかも片方はほぼ全裸で―――歩いているのだ、目立たないわけはない。
「ちょっといいかね」
 突如声が掛かりロナルドの肩に手が置かれる。
 後ろから見ていたキャルにはその声の主が警官であることがわかっていた。しかしロナルドにはそれが誰かもわからない。囮という立場にいる彼は緊張感の塊でもあったのだ。
「OH、ワタシ 日本語ワカリマセ〜ン!」
 振り返る事もしないままロナルドは手に持っていたランタンを後ろに放り投げると、一目散にその場から駆け出した。
「あ、コラ! 待ちなさい!!」
「HAHAHA、待てと言われて待つウマシカはいないのデ〜ス!」
 追う警官に逃げるロナルド。その様子を眺めていたキャルは静かに溜息をついた。彼女は今回ペアを組む男性に目一杯甘えた声で「お兄ちゃん」と呼ぶつもりでいたのだが。
「助けてクダサイ、キャルサ〜ン!」
「‥‥こんなお兄ちゃんはいらないザマス‥‥」
 天を仰ぎ班分けの神様に恨みの電波を飛ばしていたキャルは、そこで無線機の上げる声に気が付く。
「どうやらこっちは外れのようですわね。ロナルドさん! いつまでも遊んでないで行くザマスよ!」
 叫ぶと同時にキャルは無線から聞こえてくる声に従いその場を後にした。

●囮〜偽カップルの場合。
「なぁハニー、いいだろう?」
「だ、ダーリン! こんな所でそんな‥‥いけませんわ!」
 暗がりの中一組のカップルと思われる声が通りの闇に木霊する。
 薄らと浮かび上がるそのカップルは綾波 蒼馬(gb6708)と大鳥居・麗華(gb0839)。二人は囮としてカップルを演じることになったのだが、どうも揉めているようである。
「だ、ダーリン? 私たちが今どういう状況にあるか‥‥わかっていますわよね?」
 笑顔を浮かべつつもその額に何故か大粒の汗がひとつ。そんな麗華に対峙する形で立っている蒼馬、手をわきわきと怪しく動かしながらじりじりと麗華との距離を縮めていく。
「そんなことはどーでもいい‥‥カップル生活を堪能するんだ‥‥へへへ」
 ダメだ、完全に目的忘れてる―――瞬時に判断した麗華は後方に控えているはずの護衛役を探して視線を巡らせ、そして目撃する。
「いいぞ、もっとやれ!」
 何やら拳を握りながら全然嬉しくない声援を送っているのはワタタカ(gb7067)。彼はカップル役の二人を護衛するために姿を隠しているはずなのだ。が、元々暴れたいからという理由で参加したワタタカには、目の前の面白そうな出来事の方が重要のようだ。
 こいつら全然ダメだーっ!と何だか溢れる涙を抑えきれなくなってきた麗華。
「これも依頼のためですわ‥‥依頼の‥‥っ!」
 何とか自分に言い聞かせようと暗示をかける麗華、色々我慢できなくなってきた蒼馬がその隙にわしりと麗華の手を掴む。
「しまっ‥‥」
 気付いた時には既に遅く、麗華の小さな手の平は吸い込まれるように蒼馬の頬へ。
「はぁ〜‥‥この柔らかい感触‥‥堪らねぇーっ」
 恍惚の表情を浮かべたまますりすりと頬ずりする蒼馬。
 形容しがたい悪寒が一気に麗華の背筋を駆け上がると、全身の産毛がぞわわっと逆立つと同時に皮膚にき立つ鳥肌。
「あ‥‥あぁぁぁぁぁぁっ!!」
 ぶちん、と何かがキレる音が聞こえた―――ような気がした。
 突如叫び声を上げた麗華が手にすがりつく蒼馬の側頭部目掛けて放った渾身の膝蹴りは、見事にテンプルにクリーンヒット。げぼあっと奇声を上げて切り揉み状に回転しながら吹き飛ぶ蒼馬。
「痛たた‥‥っておい!? 俺たちは今カップルだろ‥‥」
 目の前に迫る麗華の後ろに黒いオーラが陽炎のように揺らめいているのを見た蒼馬は、言い掛けて言葉を詰まらせる。
「うふ‥‥うふふふ。もういいですわ‥‥口裂け女なんかよりもあなたを野放しにしておく方がきっと危険ですわ」
 瞳に虚ろな光を浮かべながらヴァジュラ片手にゆらりと迫る麗華。
「れ、麗華さーん、ここは一つ話し合いといこうじゃないですかーあははは」
 引き攣らせた笑顔で言う蒼馬。
 一瞬ピタリと止まった麗華、にこりと満面の笑みを浮かべるとそのまま右手のヴァジュラを振り上げる。
「寝言は寝て言え、ですわっ!!」
「お楽しみ中のとこ悪いが―――出たみてぇだぞ」
 麗華が鬼の形相でヴァジュラを振り下ろすと同時にいつのまにか傍に来ていたワタタカが通信機を手に声をかける。蒼馬の頭上数ミリの所でピタリと止められる刃。ハラリと前髪の一部が宙に舞うのが見えた。
「‥‥いいところでしたのに、仕方がありませんわね。すぐに向かいましょう。場所はどこですか」
「ここから見れば南東、俺たちが一番遠い、急がねぇとパーティに乗り遅れちまうぜ!」
 簡単な言葉を交わしながら走り出す麗華とワタタカ。走りながら麗華の耳が白い狼の耳に変貌し、覚醒状態に。
 取り残された蒼馬、へたりと座り込んだままがくりと肩を落とす。
「た‥‥助かった‥‥生きてるよ俺‥‥」
 半分涙目で呟いた蒼馬の言葉は温い空気と混じって路地裏に流れて消えていった。

●囮班〜当たりの場合。
 口裂け女。
 子供の頃に一度は耳にするのではないだろうか、都市伝説と呼ばれる話の中では恐らくトップクラスの知名度を誇る噂話。
「まさかこんな形で遭遇するとは、な。確かに一般人の恐怖を煽るには最適な妖怪ではあるか‥‥」
 路地裏の暗闇に紛れて呟く八神零(ga7992)は前方を歩く黒崎 アリス(gb6944)の方へすっと視線を動かした。
 一方のアリス、路地裏を歩きながら今回の殲滅対象について思いを巡らせていた。
 姉と慕う人物から受けた戦闘訓練、実戦で試すのは今回が初めてだ。勿論不安がないわけでもないが、それ以前に自分の力がどこまで通じるのかを試したいという気持ちが強い。しかも今回の相手だ。一時以前の記憶がない彼女でもその名前ぐらいは聞いたことがあるほどだ。
「日本の都市伝説、ですか。面白そうですね」
 そう言うアリスの顔は少し嬉しそうだった。
 そこでアリスはふと足を止めチラリと後方に視線を送る。薄暗い路地では視界は随分狭く数メートル先は既に闇の中だ。そんな闇の中に微かに違和感を感じる。本当に集中しなければ感じれない程度の違和感―――護衛をしてくれている零だ。
「さすがですね。頼りにしていますよ」
 アリスの呟きとほぼ同時、じっとりと肌に纏わり付くような温い空気がアリスの前方から流れ込んできた。視線を戻すアリス。チカチカと瞬く電灯の下、真っ赤なドレスに身を包んだ女性が立っていた。しかもその女性の顔には大きなマスクによって覆われている。どう考えても妖しい。周囲を見回せば路地裏にしては開けた場所。ここならば闘える―――そこで女からアノ声が聞こえてくる。
「ねぇ‥‥私キレイ?」
 間違いない―――そう確信しながらも少し間を置き、そして返答する。
「綺麗な人への冒涜ね。一度死んで出直して来いブサイク」
 瞬停止。
 恐らく言葉を理解することはできるのだろうか、怒り狂った獣のような咆哮を上げアリスに向かってくる。一方のアリスは手に瑠璃瓶を構えながら一瞬躊躇した後、少し俯き気味でぽつりと小さく呟く。
「‥‥ぽまーど」
 言葉と同時にピタリと口裂け女の動きが止まる。
「えっ‥‥嘘‥‥ほんとに効いた‥‥?」
 呆然とするアリス。しかし口裂け女の身体がカクリと動いて再び行動を開始する。相手の攻撃を何とかかわしつつ何度か「ポマード」と呟いてみるが、止まったのは最初の一回のみで後は何食わぬ顔で襲い掛かってくる。
「全然効いてないじゃないですかっ‥‥!」
 誰にともなく恨めしそうな声を上げるアリスは手にした小銃を女目掛けて思いっ切り乱射する。その顔は傍目にわかるほどに真っ赤になっていた。女は身体能力が高いようで銃弾は女に当たることはないが、乱射されている分近付けずにいた。
「やれやれ、どうやらそこが弱点ではなかったようだな」
 首をコキコキと鳴らしながら暗闇から姿を現した零が通信機を片手に苦笑する。
「連絡は終わりましたか?」
「問題ない」
 視線を女から離すことなく問い掛けたアリスに左手で顔を覆いながら答える零。指の隙間から覗く零の瞳は眩い金色へと変貌し、その背中に仄暗い炎の翼が一瞬広がって霧散する。
「では‥‥いきます」
 言葉と同時に二人は女へと駆け出した。

●集結。
 メキメキと奇怪な音を立てながら女の口元に顔を裂いたような大きな口が出現する。その姿は醜悪そのもの。既にマスクなど何の意味ももたない。そんな口裂け女は四足歩行の格好になると、一気に跳躍する―――最初の標的はアリス。
「醜いですね‥‥反吐がでます」
 手にした瑠璃瓶で中距離から牽制しつつ瞬天速で距離を取るアリス。再び口裂け女がアリスとの距離を縮めようとしたところに零の愛刀『月詠』の斬撃がその進路を阻む。怯んだ口裂け女に再びアリスの銃弾。思った以上に動きが早くダメージを与えるには至らない。しかし足止めをする分には十分。すぐに仲間が駆けつける。
「HAHAHA! ミーたちが来たからにはもう安心ネー!」
 褌一丁の変態天使ロナウドが笑い声を高らかに上げながら走りこんでくる。反応する口裂け女はその場でくるりと首だけを反転。最早人としての動きをしていない口裂け女とロナウドの視線がかち合い―――ロナウドはその場で気絶した。
「何してるザマスか、アノ人は‥‥!」
 若干舌打ちしながらキャルは倒れるロナウドの横をすり抜けると、パイルスピアを構えて一気に加速する。一瞬消えたように錯覚するほどのスピードで口裂け女の頭上に飛び上がったキャルは、そのままスピアを脳天へと突き落とす。轟音。一歩の所でかわされてスピアの先端は地面に深々と突き刺さる。口裂け女はそのままキャルの身体目掛けて腕を振り下ろす。ガギン、と鈍い音がして二人の間に割り込む影。
「綺麗ですって? あなたが? おーほっほっほ! 比べる方が間違いですけど、私のほうが数千倍キレイですわよ!」
 高笑いをする麗華が口裂け女の攻撃を盾扇で受け止め、さらに仲間の影に隠れるようにして接近していたワタタカが身を翻しながらツーハンドソードを振るう。一閃。口裂け女の右腕に裂傷が走り苦悶の声が上がる。そこでキャル、麗華、ワタタカは距離を取りアリスと零の元へ。
 口裂け女は咆哮を上げるとその口をくぱぁと開き一気に加速する。傭兵たちは同時に散開。右側に零、アリス、キャル。左側に麗華、ワタタカ。逡巡した口裂け女、すぐに目標を変更し大きく跳躍―――ターゲットは麗華。上空から襲い来る女に迎撃せんと獲物を構える麗華。その距離が二メートルに迫ったところで麗華が武器を振るう。が、女は刃をその口でガキンと挟み込んだ。さすがに全ては吸収し切れなかったのだろう、口元から体液のようなものが少量飛び出す。しかしこれで麗華は無防備。
「うぉぉぉぉっ!」
 目の前の麗華目掛けて女の腕が振り下ろされようというところで、声を発しながら遅れて到着した蒼馬が女に体当たり。転がりながら武器を構えた蒼馬、自分のヒーロー的な登場に酔いしれながら後ろにいる麗華のほうに顔を向ける。
「大丈夫か麗華っ‥‥!?」
 蒼馬の視線の先にいたのは流れる金髪に青い瞳、色白の肌の―――ロナウド。
「‥‥OH、惚れてしまいソウデ〜ス」
 無意味にぽっと頬を赤らめるロナウド。蒼馬の意識がここで途切れたのは言うまでもない。
 一方飛ばされた女、体勢を立て直そうと跳ねるように飛び起きる。しかしすぐ目の前には赤き炎を纏った零の姿が。紅二閃。両手から繰り出される連撃に身を裂かれる女。動きを止めたところに更にキャルとワタタカがそれぞれの獲物を突き立てる。断末魔のように天を仰ぐ女の視界、月光に照らされ空より降り立つ小さな影アリス。落下しながらそのまま女の口内に銃口を突きつける。
「さよなら。早く逝って」
 呟くように吐いた言葉。同時に鳴り響く連発の銃声。着地したアリスが立ち上がるのと女が地に沈むのはほぼ同時だった。

●終結。
「結局、何が苦手だったのでしょうね」
 キャルの言葉に首を傾げる一同。確かに伝承ではポマードが苦手だとあった。だが今回の相手は部分的に食い残しがあっただけ。そこにたまたまポマードがついていたとは考えにくい。
「多分、これだろう」
 そう言って蒼馬が取り出したのは銀の指輪。事前に本部にて情報を集めていたときに女が食い残した場所には必ず銀製のアクセサリがついていたようだ。まるで吸血鬼のようだが、どうも銀製品は口に合わなかったらしい。
「良く調べたな‥‥というかもう少し早く報告してくれれば」
「そうです。そしたらあんな恥ずかしい思いしなくて済みましたのに‥‥」
 苦笑する零、俯きながらブツブツと文句を言うアリス。蒼馬は頭をぽりぽりと掻きながらすまん、と一言。
「いやぁ、可愛い子と公然でいちゃいちゃできることしか頭になくて」
 一瞬の沈黙―――
「ふふ‥‥うふふ‥‥もうカップルはないですわよね?」
 蒼馬の後ろからゆらりと黒いオーラを放つ麗華、どこからか皮の鞭を取り出してピシンピシンと音を立てる。
「あ、あれー麗華さん‥‥もう依頼は終わりましたよねー?」
 冷や汗を垂らしながらぎぎぃっと首だけ動かす蒼馬。
「大鳥居さん‥‥ふぁいと」
 何故かぐっと拳を握って応援するアリス。
「ほ、ほら‥‥せっかく助かった命だから‥‥もっと有効に」
「問答無用ですわぁぁぁぁぁっ!!」
「いにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 ここで何が行われたのか―――仲間の口から語られることはなかったという。

 〜Fin〜