●リプレイ本文
鳳 湊(
ga0109)の銀髪に降りしきる雪がかかる。飛行艇から降り立った彼女を出迎えるボリス特務曹長であった。
「また世話をかけてしまったな」
「千歳防衛ラインへの援軍も二度目です。前回同様に軍の指揮下に入るのですから軍の礼儀には従います。
とは言っても、少し気になるのが千歳防衛ラインの状況悪化です。やはりエミタの力が無くてはキメラには対抗し難いみたいですね。もし私で良かったら、防衛ラインに残って戦線の維持の手伝いをしたいのですが‥‥」
「そうは言っても、契約の都合上仕方ないのでな───」
後は口早なロシア語で何かを呟く。普通ならば聞き取れない筈の言葉であったが、湊の聞き取ったフレーズは───。
(‥‥千歳基地放棄シークエンス?)
その言葉に気づかなかった事が幸か不幸かはさておいて、リリアーナ・ウォレス(
ga0350)は微妙にボリスをスルーすると。
「相変わらずコッチは激戦区だねぇ‥‥兵隊さんも大変だ。
曹長さんもあの調子だし、皆も苦労が絶えないね。
でもまぁ‥‥エビ人間にはやられたくないよね」
と、言葉を投げる。
しかし、実際に当の『エビ人間』にやられた仲間を持つ、彼らからは明るい笑みなど漏れる筈が無く、そのリアクションに対して、更に追い打ちをかけるように───。
「何て言うかさー‥‥皆堅いよー? もっと気楽にいこうよー気楽にさー」
リリアーナをフォローする訳ではないが、鳴神 伊織(
ga0421)は和服に身を包んで優雅に一礼すると。
「前線も限界が近く私達がここで敵を退けても、その後の状況次第では一気に押し込まれてしまうでしょうね‥‥」
その言葉にボリスは一瞬、悲痛な表情を浮かべるのであった。
それに気づかずに
(二度目の北海道か───。
前回は自分の力不足を実感したので、自分の中のそれを払拭したい。
そのための訓練もしてきたしな。
それから、前回、共に参加したが、今回はスケジュールの関係で参加出来なかった、友人のナレインの分まで頑張らないといけないな)
と、華奢な体に似合わぬトゥハンドソードを携えたクラウス・シンクレイ(
ga1161)が誓いを新たにする。
一方、比留間・トナリノ(
ga1355)がいた。
幸薄そうでパッとしない雰囲気。物腰は丁寧だが、いまいち積極性に欠ける少女であったが、更に、半ば強引に能力者にならされた経緯のせいか、戦い慣れしていない。
コートとニット帽で寒さに対抗。寒冷地戦用の装備みたいである、とは彼女自身の弁。もう、冬将軍は来ているのだが。
「なんだか久しぶりの日本です‥‥! ‥‥北海道は地元じゃないけれど。それにしても‥‥。うっうー! も、物凄く寒いです‥‥!」
ぷるぷるぷると震えながら、彼女はボリスの目が自分に向けられているのに気づくと、
「ひ、比留間トナリノです。
なりはこんなですが、ちゃんと戦えます‥‥! よろしくお願いします」
兵站もおぼつかない中、バグアに対しての防衛なんて‥‥。
以前はもう遅滞行動ができれば御の字の状況で、すごい人達だと思っていたが、ただ単に必死になって、外聞も構わずに傭兵に頼らざるを得ない、ただの人間だと思い知らされる。自分たちの様な能力者ではない。比留間自身は望んで得た力ではないが。
「弾を切らして近代よろしく銃剣突撃か‥‥。ここも長く無いな」
オルランド・イブラヒム(
ga2438)は比留間トナリノの動向を一番心配して気を配っていたが、ボリスとのファーストコンタクトをうまくこなした事で一安心していた。なにしろ、苦手意識があって素人臭さが残ると来たら当然目が離せない。
最年長の性というやつだろう。
ゴンタ(
ga2177)は殺伐とした防衛ラインを眺めながら───。
(相変わらず絶望的な戦い繰り広げてるなぁ。
いや‥‥私が望むのはそういう戦いだから問題ないけどさ。
コールドシュリンプ‥‥‥‥めんどくさいな、エビ人間で充分だ。
エビ人間だろうがなんだろうが相手になってやるさ。
それにしても、エビ人間ってどんな外見なんだろうな
バグアにも随分物好きがいるもんだ)
送られてきた資料にはエビの頭部を持ち、胴体と四肢をキチン質の甲殻で覆われているとしか書かれていなかった。
「‥‥初めての依頼です! 緊張します!
‥‥‥‥激戦区なんですか!?
‥‥‥‥‥‥生きて帰れるんでしょうか‥‥?」
と、エクスクラメーションマーク&クエスチョンマークを乱打しながら、三田 好子(
ga4192)が輸送艇から降りてきた。
保健の先生である彼女は、性格はおっとりとした天然で、少し(?)思い込みが激しい面がある、常識人であるが。
そんな彼女の後ろからサングラスをもてあそびつつ、クリストフ・ミュンツァ(
ga2636)が降りてくる。
見た目は、白色人種の金髪に翆眼の十代はじめの細身の美少年であった。
後、ひと月もすれば誕生日を迎えるというのに童顔で年相応に見てもらえず、しかし利発げな雰囲気が漂い、優等生な言動で人当たりが如何にもよさそうである。
「ヴァルター、おいていきますよ?」
「クリストフ様、お待ち下さいでおざる」
と、最後にクリストフの分の荷物を抱えて降りてくるヴァルター・ネヴァン(
ga2634)であった。
その背中にはバトルアックスがつるされていた。
クリストフを見て当初絶句していた、ボリスであったが、掌のエミタ制御AIを見せると、彼自身も納得した様であった。
エミタが使えないベテランより、エミタが使える子供の方が戦力的に有効だと、そういう事なのであろう。
「塹壕に誘い込んだ所を爆破して埋めてある。この程度で死んでいると考えられるほど楽観主義者にはなれない」
ボリスに率いられ、一同は激しい戦いの跡を伺わせる塹壕のブロックに誘導される。
まだ、逃げ出してはいない。逃げ出していたら、出迎えていたのはボリスの亡霊という事だろう。
鳳が照明弾を構え、オルランドが散々な嫌みの末に一個だけ支給されたスタングレネードをグレネードランチャーに装填する。一同等は予め決めておいたハンドサインの再度確認。
鳳からは対閃光器具と無線機の貸し出しを依頼していたが、この防衛ラインにそんな贅沢品はない、と対閃光器具の貸し出しは却下されていた。
ボリスの合図で塹壕が爆破されると、同時に総員が覚醒、生き埋めになりかかったエビ人間が飛び出す。
そこをサイト・イン、鳳が照明銃を打ちはなつ。
「敵、捕捉。仕掛けます」
オルランドが続けて遠距離から、スタングレネードを放物線上に投擲する。
閃光と大音声が乱立する。
しかし、危険を感じたエビ男は口吻から凍気をコーン上に吹き荒れさせる。
オルランドはとっさに好子を庇う。もし被っていなければ好子は死亡していただろう。
「うっうー! め、めちゃくちゃ素早いですっ!?」
比留間がエビ人間の足にかき回される。
「この間みたいな事には‥‥ならない!」
クラウスは相手の動きをギリギリで捉えながらも寒さを堪え忍ぶ。先ほどのブレスは効いたが、それでもだ。
「ちょこまかと忙しないな‥‥!」
トゥハンドソードで割り切った甲殻は意外に脆かった。
「あらまあ、陸の上でエビだなんて空気の読めない人ですね?
でも海産物だから空気が読めないのは当然かしらね、うふふふ」
一方、好子はS全開である。
「痛くなければ止まりませぬ〜♪ やっぱりエビの顔だと分かりにくいわねえ」
それでも周囲のスナイパーにこちらのサポートを受けてから攻撃に入った方が有利と進言、超機械を稼働させるのであった。
ヴァルターは塹壕から飛び降りながら大切断! バトルアックスは伊達じゃない!
サングラスを吹き飛ばされたクリストフの瞳が赤くなるのが見える。スコーピオンが謡い。ヴァルターを微妙に照準から外しつつ、連打を入れる。足下狙いで攻撃を封じる積もりが、ファイター陣の動きも計算に入れる必要がある。クリストフはこの生と死の方程式を見事に解き明かした!
リリアーナはエビ人間の動きを封じながら───。
「もうちょっと威力が欲しいところだけど、素早い相手には機関銃のが当て易いかもね」
その動きが止まった瞬間、ゴンタが練力全開で、乱打に入る。
「別に一撃必殺なんて思わない、死ぬまで殺してやる!」
エビ人間は乱打の末に倒される。
「ま、怪人は正義の味方に倒されるのが運命、ってね♪」
リリアーナの言葉の末にクラウスは───。
「これで‥‥終わらせる!」
───と、つなげる。
「何とか勝てましたね・・」
オルランドは戦いの果てを見ながら思う。
こんな戦術的勝利など、少々重ねた程度では意味が無い。
何か劇的な策が無ければ早晩バグアにひき潰されるのがオチだ。
‥‥‥‥自分で望んだ事とは言え、こんな時一兵卒の身の上はどうしようもなくもどかしいな。
ともあれ、ミッション3クリアー。