●リプレイ本文
ドクター・ウェスト(
ga0241)は試作型XN−01を目前にして奇声を上げる。XN−01のAIへのプロモーションも兼ねているのだろう───‥‥多分。
「けひゃひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェストだ〜。これが今回のテスト機かね? 聞いた話では、既に先行量産型が実戦投入されているそうだが? 我が輩の祖国ながら迂遠であるな」
「『シェイドを狩れるマシーン』というコンセプトに共鳴して頂いたそうですが?」
と、スーツ姿のエージェント。
「その通りだ〜! シェイドの機体を解析しなくては、1世紀も2世紀も進んでいるようなバグアを撃退することは出来ないね〜。
相手は恒星間航行、もしかしたら平行宇宙間航行も可能かもしれないのだよ、そのくらい進んでてもおかしくはないね〜」
続けてウェストは───。
「ただ攻撃力を上げても、マッハ8で機動するシェイドに命中しなくては意味がないね〜。レーザーなどを主要兵装にするという選択もあったのではないかね? ま、誰も乗れないほど、高価では意味がないが」
自分はXN−01のテストパイロットになれなかった───いや、テストパイロットの座を譲ったのだ───と麓みゆり(
ga2049)は思いつつも、口に出しては。
「ナイチンゲール‥‥素敵な名前ね」
と賛美する。
崎森 玲於奈(
ga2010)も腕を組みながら。
「新たなる小夜啼鳥、か‥‥‥。
正直、私は同族を手に入れた身としては先行量産機の性能を自他共に確認させたい気分なのだがね。
シェイドを狩る鳥‥‥‥試させて貰う」
玲於奈は不敵な笑みを浮かべつつ、エージェントに語る。
「さて、私も新型ナイチンゲールの実戦テストに加わるとしよう。
仮想敵としてXN−01を動かすからな、既存機種と比較してどのような性能となっているのかを皆の目で確認させるいい機会だとは思うが」
(‥‥‥何であろうと、私の戦い方に機体が合うかどうかを。
そしてそれが相手に通じるかどうかを確かめる機会だ。
真似事の戦闘とはいえ、味方に牙を向く事でさえも渇望を満たせるという感慨を覚えてしまう。
つくづく度し難いものだよ‥‥‥)
一方で、ヒカル・スローター(
ga0535)は最も遅れてやってきた参加者として、試験機要員にも選ばれず、ミーティングには参加できなかったが、フライトプランにはすべて目を通したと主張する。
前回のテスト云々に関しては知らないが、機体の特性(攻撃力の高さと防御力の貧弱さ)から推して、弱点を敵に知られることなく、必殺の一撃、つまり奇襲攻撃からの一撃離脱がもっとも効果的な戦闘プランと類推した上での行動をとる事とした。
すなわち、本当の意味での奇襲を行うことになる。突発参加があるとの事前通達は流して置くがタイミングまでは明かさない───と、ヒカル自身は思っているが、実際は各機体は大賀 龍一(
ga3786)の発案によって、実際の迎撃を想定した混戦を想定。敵位置情報のデータは試験機、対抗部隊共に連接する。という案により却下された。
「インターセプター向きではあるが、素で使える戦場は‥‥あまりないやもしれんな」
それが彼女のXN−01への個人評である。
ヒカル自身が義理を欠いていると思うくらい、ミーティングに参加しておらず、彼女が意見出しする頃には既に機体のセッティングは終わっていた。なお、試験機部隊は基地管制塔を防衛目標とし、対抗部隊は防衛目標機をローテーションで設定。
それぞれを攻撃した回数は評価の対象とし、更に廃滅せしめた回数もカウントするというものであった。
対抗部隊が基地管制塔への攻撃に成功した場合は、試験機部隊の防衛線突破と判定し、試験機部隊が全滅した際は基地廃滅と判定する。
それを聞かされて尚、胸中でグラハルト・ミルズ(
ga6737)は───試作機の性能を試したい、試作機が本当に通用するのか試してみたいと考え、それで更に自己の機体のデータ収集がしたいという事だけが渦巻いていた。勝負については特に言及しない───一種の求道者めいた心境がそこにあった。
テスト空域へと展開するナイトフォーゲル達は宙に舞う。
そこへ熊谷真帆(
ga3826)の声が皆の無線機から響いてきた。
「こちらシリウス12『Gabera』うぎゃぁ! やられた」
「何だ、何が起きたのかね?」
ウェストのうわずった声が響く。
「いや、ボケないと死んでしまうんで」
真帆のいらえに対しウェストは───。
「こちら、『Doctor』。管制塔『ケンネル』聞こえているか? けひゃひゃひゃ。装備を実包に変更。いやー、こんな所で地上待機時間の短さの実験が出来るとはね。シリウス12、被検体冥利に尽きるのではないかね?」
「た、頼む、峰うちにしてくれ」
「安心したまえ、骨は拾ってやるからね、ひゅ〜む」
「いらんわ、死して屍拾う者無し、隙あり!」
真帆の紫の眼が輝く。
「レーザー発射! カチカチ。あれ? 湿ってるよ」
そのボケの間隙を縫って、ウェストのXN−01のFCSに一連のコマンドが入力され、真帆のナイトフォーゲルの左翼に重大なトラブルが発生したと見なされ、以降、左翼を使う機動にはリミッターが課せられる。
「見事な攻撃だドクター!」
「若い女がその名で私を呼ぶな!」
「まあまあ、そうは言わず、ミサイル1本行っとく?」
「却下である」
「まぁまぁご遠慮なさらず。ぐーっとガドリングを!」
「情け無用ファイヤーである」
真帆───さようなら。来週まで君の事を忘れないよ。
かたや、ヒカルは点での制圧ではなく、面での制圧を試みようとXN−01と、F−104で軌道を交差させるが、さすがはF−104と言った所か、一撃でXN−01を撃破する。
「装甲を削っての軽量化が裏目に出たようね───こちらも無傷ではなかったけど、戦場だったら、相打ちかな」
次のカードはXN−01、VS、XN−01。先行量産型の玲於奈VS試作改造型のウエストのドリームマッチである。
玲於奈の機体理念は高速機動格闘戦仕様にある。
機動力を駆使して相手の攻撃を掻い潜り懐に飛び込んで白兵戦を仕掛ける。
「シリウス14───参る」
対シェイド及び運用思想の高機動目標用に、玲於奈はバルカンの掃射で牽制や足止めをかます。
「くっくっくっく、こういう同一機対決にはつい熱くなってしまうのだよ!」
「無粋だが、乱入させてもらおう!」
龍一がR−01で混戦にもつれこむ。格闘戦の際、玲於奈を囮としてウェストを貼り付かせ、囮機にクルビットや木の葉落としでオーバーシュートを実施、一斉攻撃を加える。
それに対し、ウェストもハイマニューバを発動、めまぐるしく動く機体のフラップ。バルカンは銃身を灼き、レーザーは砲身を加熱させ、冷却剤を次々と蒸発させていく。闘争の限界ギリギリまでAIが演算を続け、ECMが生と死の協奏曲を奏でる。十字砲火を龍一とで合わせようとするが、互いの軌道が複雑な曲線を描き、思うに任せない。
ウェストもホーミングミサイルのロックオン、ガトリングの命中率と続ける内に“アラ”が目立ち始める。
「う〜ん、センサー系の反応がちょっと心もとないかな〜。揚力維持不可能、8秒後に着地であるか! ならば───」
「変形! 陸戦形態」
ラストホープの滑走路上を高速走行しながら玲於奈が十分な距離まで肉薄し、ビームコーティングアクスでの近接格闘に入る。
「AIより先にこちらの脳みそがシェイクされる〜」
と、口からウェストは自己申告に依る所のエクトプラズムを流出させながら、機体の損傷状況が全て真っ赤になったのを見て、失神しかける。
ラストホープの桜とか、沙羅双樹とか、約束の木っぽい大木の下で敗戦の将として真帆は白無垢に身を包み、介錯を待つ。
「逝く春や、大和を思ふ恋心、あにまほろばの風の吹くらん───って、やっぱりNG! ほら、シミュレーションだし、ね?」
誰も突っ込みのないまま、真帆は樹の下から駈け出していった。
最後に航空工学の観点から送られたみゆりのレポートには一文が添付されたいた。
シェイドに対抗するには‥‥初回テスト機以上の性能がいると思うの。お値段は高くても、性能限界を追求した基礎能力では追随を許さない高級機として差別化した方がいいかも。弱装甲で攻撃性を高めた機体はK−111と類似してるから‥‥。
例えるなら、前世紀のF−15イーグルの様な一度も撃墜された事のない機体。
貧者のバイパーではなく、富める者のナイチンゲール。これが相応しい未来かもしれない。