●リプレイ本文
●暗闇の仮想空間
真っ白な空間に、すっと浮かび上がる人影。
「パルマさん、久しぶりー♪」
頭上へ向けレヴィ・ネコノミロクン(
gc3182)がにこやかに手を振る。
続けてベーオウルフ(
ga3640)が現れた。
特に言葉を発することなく、淡々と感触を確かめるように体を馴らし始める。
「大剣使いなキメラは‥‥ねえよな‥‥」
大剣を携えた守剣 京助(
gc0920)があたりを見回す。
直後、レヴィの傍に2人、姿を現した。
「シミュレータなんて久々、だな」
黒瀬 レオ(
gb9668)と、
「かわいいキメラだといいなー」
相澤 真夜(
gb8203)だ。
和気藹々とした雰囲気の中、最後にジャック・ジェリア(
gc0672)がゆったりと現れた。
『それでは』
6人の傭兵が揃ったのを確認し、パルマがアナウンスを始める。
『今回は明かりのない要塞。6人の一般人を連れて、南東と南西のいずれかから脱出します』
辺りが暗く、闇に包まれていく。周囲に6人の男性が現れた。
『なお、強力なキメラがあちこちに潜んでいます。ご注意を』
「‥‥はてさて、どんなキメラが出てくるのやら」
京助は懐中電灯を取り出し、周囲を照らす。
「あのね、つけてると、いい的だとおもうんですー」
と、真夜がそれを遮った。
「それもそうだな」
一旦明かりを消す京助。
「あ、パルマさーん。一般人さん、美形にしてね♪」
『美形、ですか?』
レヴィのリクエストに、唸り始めるパルマ。
「そーそー、美形美形‥‥お?」
男の顔が変わっていく。
「‥‥び、けい?」
角刈りで眉の太い、キリッとした顔立ちの日本人。
「えーと、じゃあ‥‥サブちゃん、で‥‥」
渋い、の間違いだろうか。パルマの好みらしい美形男性に、名前を付けるレヴィ。
壁がせり上がりはじめ、通路が形成される。
半数ずつ傭兵たちが分たれた。
「ちょっと厄介なニオイ‥‥さて、がんばりますか!」
「おー!!」
引き続き、レオと真夜は朗らかに。
「今までの努力が実を結ぶんだもの。今回も頑張っちゃうわ」
少し表情を引き締め、レヴィは真夜たちと準備を始める。
「それじゃ行くとしますか」
余裕の笑みを浮かべ、ジャック達も初期位置へと進む。
●キメラ準備
大型キメラがスクリーンに映し出される。
「このようになりました」
突然、口から何かを吐き出すキメラ。
「下位の存在を生むキメラの報告は稀少ですが‥‥よしとしましょう」
説明を続けるパルマに絶斗(
ga9337)が頷きながらスクリーンを眺める。
少し離れた位置に腰掛けるエメルト・ヴェンツェル(
gc4185)。
(自分にも使えるのでしょうか‥)
じっと手元を見つめていた。
「それをこう、順番に巻いていくみたいだね」
エメルトの脇に屈み、旭(
ga6764)は微笑交じりに手本を見せる。
「どうにも精密機器というものは、緊張しますね‥‥」
ぎこちなく巻きつけていくエメルト。
一方、春夏秋冬 ユニ(
gc4765)は慣れた手つきで準備を進めていく。
「甘く見たら痛い思いをするので、気をつけて下さいね」
ミッション参加の傭兵たちへと目を向ける。
やがてユニはモニターのキメラを一目見、
「今回もよろしくね、蜘蛛さん」
そっとつぶやいた。ユニは瞳を閉じ、集中し始める。
無言のまま、機器を取り付け終えた絶斗。
「傭兵昇天☆トカゲMIX盛り――出撃するぜえええええ!!」
カッとその目が見開かれる。
●ミッション開始
――ゲロオオオオオオオォォォ
「‥‥なんだ?」
開始直後の東からの妙な音に、思わず漏らすジャック。
「先へ進もう」
特に気にした様子もなく、ベーオウルフは角を曲がった。
矢が闇を切り裂き、飛んでいく。暫く耳を傾ける。
「いない、かな?」
索敵に、矢を放った真夜。特に反応は見られない。
「レヴィさん、なにかキメラについてわかります?」
小声で尋ねるレオ。
「今のところは何も。まぁ知ってるのが出たら教えるね」
と、無線機を取り出すレヴィ。
「そっちも東へ進んで、北へ行く通路があれば合流しましょ」
『わかった』
京助と連絡を取り合う。北西出発の3人は、まずは別班との合流を目指して通路を東へと進む。2班の距離は、そう離れてはいない。
「はい、ストップ!」
突然、真夜が立ち止まった。前方に向け照明弾を撃ち出す。
通路を照らしながらゆっくりと突き進み、やがて角で衝突。
「あれは‥‥ソドムね」
2つ先の曲り角、レヴィは見覚えのある大蜘蛛を視認する。以前より少し大きいような気がした。
「とりあえず、あの蜘蛛は糸を――って!?」
「レオ! とばすよーっ!」
いきなりレオを抱え上げた真夜。
「ごめん、真夜。重いけどがんばって!」
瞬間、2人の姿が消えた。
ほんの一瞬、点灯する光。
「よし、何もいないな」
通路の確認を終え、京助は懐中電灯の明かりを即座に消す。この先は北と南のT字路になっており、南側は瓦礫で道が塞がれていた。
京助、ベーオウルフ、ジャックの3人は護衛対象に進行速度をあわせ、やや前に立って進む。
「待った。何か聞こえる」
瓦礫の方を注視していたジャック。
「おいでなすった、かな?」
ジャックが言い終わる前に粉砕音がした。
T字路を照らす京助。
塞がれていた道が開いている。
――グボオオオォォォ
北東からまた、声が聞こえた。
「お‥俺はねー、やることやるためには手段選ばないんだ!」
誰に向けてか、真夜の腕の中、抱っこされたレオが弁解する。
瞬天速で現れた2人の前には、口を開けた大蜘蛛。
レオは手にした大太刀を構え、
「いけー! レオー! ‥‥れ?」
られず、ごろごろと密着したまま転がる2人。全身に蜘蛛の糸が絡み付いていた。
(甘いですわよ)
ユニの操作するソドムからなおも捕縛糸が吐き出される。
「‥‥真夜、後ろにもいる」
ユニの背後、黄の両眼が闇に輝く。
暗闇に飛び込んでいったレオと真夜。
「捕縛糸を吐く蜘蛛が出たわ」
別班へ連絡する。
(どうする‥?)
背には護衛対象が3人。レヴィは身動きが取れないでいた。
●対決
三角跳びでユニのソドムを飛び越え、巨大な影が降り立つ。
「ダメだ、取れない‥‥!」
レオと真夜の目前には、黒色の装甲を施された紅蓮の猟犬――ティンダロス。唸り、獰猛な牙を覗かせた。
「きゃーっ! きゃーっ!!」
真夜は転がって回避。ティンダロスの牙が空を切る。
「っと!」
続く爪を器用にも太刀で受けたレオ。
(あらあらまぁまぁ、頑張りますわね)
ユニは近寄らずに糸を吐き続け、2人を固定する。
と、そのとき――甲高い音。
続けざまに横から猟犬の頭に銃弾が命中、装甲に傷をつけていく。
覚醒でレオの手から立ち昇る光が、ティンダロスの顔を仄かに浮かび上がらせていた。
「紅いわんこは三角跳びに注意してね」
連絡を済ませ、レヴィは拳銃の引き金を引く。
音速のカノン砲。前に立ちはだかり、ジャックが砲撃を弾く。
懐中電灯に照らされるのは、機械化された深緑色の大山猫の姿――クロムビーストが背にしたカノン砲を一般人に向け、連射する。
輝く盾の紋章。別の非能力者へと目標を変えたカノン砲から、ジャックは庇い続ける。
――ふっと、大山猫の目前に人影。
クロムビーストは即座に頭を砲撃、が掲げられた屠竜刀が弾道を逸らし、弾は肩を掠める。
瞬天速で距離を詰めたベーオウルフ、その屠竜刀が振り下ろされた。
俊敏な大山猫の肩を抉る。続けざまに刀の横薙ぎ。
がきりと音が響く。クロムビーストの牙が受け止めた。
「はっはー!」
隙をつき、接近していた京助。大剣を振り上げる。
「を?」
そのまま固まった。瞬間、京助の体が勢い良く宙を舞い、北の通路へ落下する。
見上げた京助の前には、糸を手繰り寄せたソドムの巨体があった。
さらにベーオウルフの頭上、続き背後の地を蹴る足音。
「――三角跳び、ティンダロスだ」
山猫の前足を受けながら、ベーオウルフは警告を発する。
「ぐお‥‥!」
京助を切り裂くティンダロスの両爪。
エメルトの操縦する紅蓮の猟犬が牙を剥く。
「1対3かよ‥‥」
なおも、天井から蜥蜴が着地。京助を見下ろし、キメラが襲い掛かる。
が、蜥蜴は壁に激突。無数の弾丸に撃ち抜かれて沈黙する。
「2対2だね」
続けて、ジャックのSMGがエメルトとソドムに向けられた。
「さて、戦場をコントロールしてみようか」
制圧射撃。弾丸がばら撒かれる。
闇に放たれた銃撃がティンダロスとソドムを牽制。
「飛び道具は‥‥あんまり好みじゃないんだけどね」
レヴィの拳銃から硝煙が立ち昇る。
「よし」
「やっとだー!」
捕縛糸から抜け出した真夜とレオ。
「――いくよ」
立ち上がり、前に構えた大太刀。レオの全身から炎のオーラが立ち昇る。
(これはちょっと危険かしら?)
後退、ユニのソドムが闇に溶け込んでいく。
「いけー!」
即射。レオの背後から放たれた矢が、ティンダロスの顔を掠めた。
「ほらほらっこっちもそっちもだよっ!」
瞬く間に真夜から放たれる矢。猟犬は避けきれず、うち2本が前足を貫く。
ティンダロスのかわした先、真上に紅の刀身が浮かび上がった。
陽炎のように軌跡がゆらめく。黒色の装甲がごとりと落ちる。
「おやすみ」
レオに貫かれたティンダロスは横たわり、その眼光が消えた。
「きゃっ!」
刹那、糸がしゅるりと足首に巻きつき、真夜の体が暗闇に消える。
「うっ‥‥!」
槍のような蜘蛛の足が真夜の肩に食い込む。
――レオたちの後方。
「なんなのよこれは‥‥」
見上げるレヴィ。明らかに、これまでのキメラとは異なる巨大な影がそびえ立っていた。
「グァッゲォッ」
声を発した、直後――
「ぐっ!」
薙ぎ払うような超重量の一撃が襲った。
盾で受けたレヴィが後方へ弾け飛ぶ。
赤黒い光。浮かび上がるのは竜の頭。その口に炎がゆらめき、収束していた。
「グボアアアアアアアアアア!!」
絶斗の操るドラゴンヘッドが火炎弾を吐き出す。
ジャックの貫通弾で沈黙するソドム。
エメルトのティンダロスが後転、大剣が空を切った。
「痛ってー‥‥」
京助についた数々の爪跡。エメルトがじわじわと京助の命を削っていた。
屠竜刀の一閃。機械の体が火花を散らす。
爪の反撃が頬を掠め、ぱらりと髪の束が落ちる。
切り傷を負ったベーオウルフ。そして、満身創痍のクロムビースト。
ふいに、カノン砲が後方の一般人へ向けられ――速射。
苦し紛れの砲撃が撃ち抜く。
刀では受けきれず、ベーオウルフの右腕がだらりと垂れ下がった。
ベーオウルフは左手で刀を返す。
振り下ろされた刀。屠竜刀がクロムビーストにトドメを刺した。
遅れて弾丸が壁に穴を空ける。ジャックのSMGをかわすエメルトのティンダロス。
壁を蹴り、紅蓮の猟犬が京助に跳びかかった。
突進、すれ違う京助。
ティンダロスが着地する。その胴を京助の大剣が流し斬りで傷つけていた。
ジャックの弾丸を装甲で受けながら、なおも襲い来る猟犬。
――三角跳び。エメルトのティンダロスが天井から京助の首を狙う。
しかし、ティンダロスが跳ね飛び、地面にもんどり打つ。瞬天速で駆けつけ、装甲の隙間を屠竜刀が強打していた。
ベーオウルフはティンダロスを見下ろす。
「ふぅ‥‥」
傷口を押さえ、京助は立ち上がった。
「面倒なキメラが並んだもんだ」
やれやれ、とジャックは肩を竦める。
「真夜!」
駆けつけたレオの太刀が蜘蛛の足を切り裂く。
「うぐぐっ!」
ソドムの真下、真夜がぎりぎりと矢を引き絞る。
「いっけー!!」
至近距離から放たれる矢。大蜘蛛の中心を突き抜けていく。
(ここまで、ですわね)
ひっくり返ったユニのソドムが、その動きを止めた。
消し飛んだ盾。燃え上がる周囲。
「くっ‥‥」
起き上がったレヴィの前に、さらなる炎が竜人の口に収束していく。
「グェッ?」
ドラゴンヘッドは、背に何か刺さった気がした。
「レヴィさーん!」
竜人の後方から真夜の叫び声。
刹那、左からジャックの貫通弾が突き抜ける。
「グガッ!」
バランスを崩すドラゴンヘッド。いち早く駆けつけたベーオウルフが屠竜刀で足を切りつけていた。
――剣の紋章が煌く。
「ブボルゲッ!」
レオが両断剣・絶で尾を両断。
「卵も潰しといたぜ!」
さらに京助の大剣で流し斬り。勢いのまま大きく振りかぶり、
「ガッハ!」
側面から思い切り大剣が振り下ろされた。ついにはベーオウルフに足を落とされ、転がる竜人。
「やってくれたわね‥‥」
ふらふらとレヴィが近寄る。手にした剣がぎらりと鈍い光りを放つ。
「これで――おしまい!」
ドラゴンヘッドの絶叫が止んだ。
「‥‥ま、簡単に負けてやるわけにもいかないよね」
ジャックは苦笑を浮かべる。
「傷の手当てをしよう」
半数以上が傷だらけ。ベーオウルフは休憩を促した。
●出口
瓦礫の上に弾頭矢を放つ真夜。爆発で周囲が照らされる。
「なにもいませんですー」
合図を聞き、レオと京助が瓦礫を除ける。
障害物の向こうを警戒し続けるジャック。
何事もなく瓦礫が取り除かれた。
「あぶないから、隠れていてくださいね!」
と、真夜。護衛対象を両班で挟み、左手を壁に付けながら進行。
やがて広い空間に出る。外の明かりが見えていた。
「何も‥‥いないわね」
動くものはいないが慎重に歩を進めた。
一般人が1人、外へ出る。また1人と外へ。
「終わりかな」
と、そのとき――音速の連射。
「え〜っ!」
「最後の最後に‥‥!」
真夜と、咄嗟に一般人をかばったレヴィが消える。
「あそこか‥‥!」
西の隅、瓦礫に紛れた機械の体。
(ちょっと意地悪だったかな?)
さらに旭の操作するクロムビーストが護衛対象を狙う。
が、すべてジャックが弾いた。
迫り来るベーオウルフと京助、そして鬼の形相のレオ。
(うわっ、なんかすごい威圧感)
瞬く間に、旭のクロムビーストは瓦礫ごと粉砕された。
●協力者
シミュレーションを終えた傭兵たちを尻目に、報告をまとめ上げるパルマ。
(これなら大丈夫、かな)
特に問題はみられない。これでスケジュール通り進むだろう。
はっと、パルマは顔を上げる。
「めりめりくりすます☆」
いつの間にか横に立っていたレヴィ。
「ちょっと早いけど、プレゼント」
と、パルマに包みを手渡す。
「あぁ、そういえば‥‥ありがとうございます」
クリスマスなどすっかり忘れていたパルマ。
「まあこの香水でー、角刈りの彼氏でもゲットしたりとか?」
思いもよらない出来事に、パルマはお返しを思いつくはずもなく。
「また助けが必要になったら、いつでも手伝いにくるから」
手を振り、レヴィは開発室を後にした。
後ろ姿を見送るパルマ。
(落ち着いたら、何かお礼をしようかな‥‥?)
脳裏には、世話になった傭兵たちが思い浮かぶ。
(そのうち、たぶん、きっと、いつか‥‥)
とはいえ、パルマの仕事はまだまだこれから。
来る新兵装実験まで、あとわずかだ。