タイトル:愛があふれる街マスター:無名新人

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/04 19:29

●オープニング本文


 のどかで穏やかな午後のひととき。閑静な住宅街の一角。
 老人はなにをするでもなく、少し秋めいてきた庭を見つめていた。
「なあ、ばあさんや」
「‥‥なんだね、じいさん」
 奥の居間から答える声。老人と長年連れ添った妻だ。
「わしらが結婚して何年になるかね」
「‥‥いきなりどうしただ、じいさんや」
 軒先に老人と同じように腰掛ける。
 子供たちが自立してから、すでに長い年月が経っている。いまだこの広い家には老夫婦だけが住んでいた。
 ただの空気。互いにそんな存在となって久しい。
「愛しとるぞ」
「なにを言うとるかね‥‥こん人は」
 まんざらでもない。老妻はこれまで一度もそのようなことを言われたことはなかった。しわだらけになった顔は、そんな表情にも取れた。
「愛しとるのだ!」
 ゆらりと立ち上がる老人。
「ど、どうしただ、じいさん」
 老人の様子にたじろぐ老妻。思わず後退っていく。
「わしは今、もうれつに愛を感じておる!!」
 老人が肩に掴みかかる。その目が血走っているように見えた。
「や、やめれ‥‥」
 明らかにおかしい。老妻は首を横に振る。
「さあ、ばあさんや!」
 抱き寄せ、しわがれた顔が近付く。
「やめれというとろうに!」
「ふごぅっ!!」
 入れ歯が宙を舞う。強烈な肘うちを浴び、老人はくの字に倒れ伏した。

 その上空。くすくすと、楽しげに小さな天使が飛び去っていく。


 ――UPC本部――
 じっと電光掲示板を眺めていた女が振り返る。
「ミリア、この依頼を受けましょう」
 いつになく意気揚々と率先する女傭兵――ターニャ・クロイツェン。
「ふ〜ん、なになに‥‥」
 隣から覗き込むミリア・ハイロゥ。2人は傭兵のコンビである。
「ん、このキメラって捕獲するの?」
「ええ、どこかの研究施設に送られるのではないでしょうか」
「捕まえるだけってツマンナイのよね〜」
 何気なく横に並ぶターニャに目をやるミリア。
(「‥‥あ。なんか企んでる」)
 同じように依頼内容を見る横顔。だが、その口の端が吊り上っていた。
「え〜‥‥っと。わたし、パス」
 あっさり拒否するミリア。彼女の直感が、この依頼には関わらないほうがいいと警告する。
 仕方ないですね、とターニャもやけにあっさりと返した。
「今回は私ひとりでやりましょう」
 くるりと踵を返すターニャ。その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
 人を思いのままに操るキメラ――彼女はこのキメラで一儲けしようと目論んでいた。

●参加者一覧

新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
k(ga9027
17歳・♀・SN
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
八尾師 命(gb9785
18歳・♀・ER
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
秦本 新(gc3832
21歳・♂・HD
和泉 恭也(gc3978
16歳・♂・GD
ダンテ・トスターナ(gc4409
18歳・♂・GP

●リプレイ本文

●求愛の弓矢
「キューピッド型、ですか」
 捕獲依頼を受けた秦本 新(gc3832)。
「どんな目的でそのようなキメラを作ったんですかね〜?」
 八尾師 命(gb9785)は首を傾げる。
「目的はともかく、場合によっては社会的に死にますね‥‥」
 恐ろしい、と新は身を竦める。
「ほう、射抜かれると厄介な事態になる‥‥と?」
 鋭く光る眼光。
「ふ‥‥心配いらん。その程度のバットステータスなど――」
 ジャケットを羽織り、クールに背を向ける。
「標準装備だ」
 ガスマスクも標準装備、紅月・焔(gb1386)。おもむろに歩き出す。
「そこのお嬢さん? ちょっと俺と軽くそこで結婚式挙げない? ぐへへ‥‥」
 街行く女性に声をかける焔。やだなにあのガスマスク? などと言われても問題ない。大丈夫だ。
「なかなか見つかりませんね〜。何処に隠れてるかな〜?」
 方位磁石を手に、双眼鏡であたりを見回す命。
「矢の性質を考えると、キメラの近くで騒ぎが起きているはず」
 同じく、新もタクティカルゴーグルの望遠レンズでキメラの姿を探す。

 一方そのころ、人通りのない裏通り――。
「さてさて、一人で来てしまいましたが」
 貸し出されたキメラ捕獲用の網を手に、周囲を見回す。
「ドラマでいうなら、最初の被害者といったところですか」
 和泉 恭也(gc3978)は遊撃を担う。
 ふと、正面に似たような網を持った少女を見つけた。歩み寄り、声をかけてみる。
「あなたもキメラの捕獲ですか?」
「ええ」
 もう片方の手には籠、そしてタクティカルゴーグルといういでたちだった。
「どうでしょう、ここはひとつ協力してみませんか?」
「いいですよ」
 快い返事に、恭也はほっと胸を撫で下ろす。
「私はターニャ」
「あ、はい、自分は――」
 小さく頭を下げるターニャに、恭也が名乗ろうとした、そのとき。
「タ、ターニャさん‥‥?」
 いきなり両肩をつかまれる。
「悪く思わないでくださいね」
 にっこりと笑うターニャ、そして――
「ふにょっ!」
 恭也から意図しない妙な声が漏れ出る。背を見ると、矢が突き刺さっていた。
 ――盾代わりにされた‥‥?
 そう気付いたときには、すでにターニャは隣を通り過ぎていた。くるくると背のライフルがその手に収まる。
「ふふふ」
 上空のキメラの翼へと狙いを定め、ターニャは引き金を引く。
「む、はやいですね」
 空に吸い込まれていく銃弾。
 ターニャはビルの陰へと身を隠し、振り返る。
(「なるほど、ああなるのですか」)
「花、花‥‥」
 その一方で、恭也は操られるようにどこかへ向かっていた。 
「はっ――」
 ふいに、ターニャの視界に逆光を浴びる白い翼。弓の矢尻が光る。
「うにゃっ!」

「う、頭が‥‥」
 洗脳の解けた恭也。こめかみを押さえつつ、照明弾を頭上へ撃ち出した。
「あ」
 振り向くと――天使がいた。


「なんですかね、あれ‥‥」
 急行した新と命。
「花は良いですよねー。観賞するもよし、香りで安らぐもよし。数があればアクセサリーも出来ますし。良いですね、花ー」
 あはは、と恭也が花壇に座り込んでいる。
「そうですよね、観賞用に育てて儲けるもよし、香水にして儲けるもよし。数があればアクセサリーにして儲けられますし。良いですね、花」
 ふふふ、とターニャがうっとりとなにかを思い浮かべていた。
 2人の頭にお花が咲いているようだ。
「うっ‥‥」
「くぅっ」
 洗脳が解け、2人はふらふらと立ち上がる。
「どうもこんにちは。あなたもキメラ狙いですか?」
 ターニャへと声をかける新。
「ええ、ターニャさんと言って、さっき自分は盾代わりにさ――痛ッ」
「そうです、私も捕まえに来たんですよ」
「?」
 微笑むターニャ。しかして、恭也の背を気付かれないように小突いていた。
「まだこのあたりにいるはずです、急ぎましょう」
 道路に置きっぱなしだった網と籠を取りにもどるターニャ。だが、
「あれ〜? こんな所に籠が〜」
 しゃがみこみ、命は籠を持ち上げて去っていこうとする。
「いや、それは私の」
 言いかけてターニャはやめる。‥‥この子、確信犯だ、と。
「あ! あそこ! キメ――ぴきょ!」
 突如、空を指差した新が倒れ込んだ。
 すぐにむくりと起き上がり、首をふりふり。やがてただ一点を見つめる。
「ああ、パイドロス‥‥。お前は、素晴しい‥‥!」
 頬をすりすり、自身のAU−KVにしがみつく新。
「美しいフォルム、破格の静音性! 最高です!」
(「メカ愛が溢れ‥‥あれ?」)
 はっと顔を離し、きょろきょろとあたりを見回す。と、命のつぶらな瞳が見つめ、恭也が苦笑いを浮かべている。
 くすくすと笑い、空を舞うキメラ。
「コロス‥‥キメラ、コロス」
 新の目的が、変わった。半泣きでAU−KVを装着する。
(「いまのうちに――」)
 ターニャは最適な位置へと移動。スコープがキメラの翼を捉える。
 が、いきなりガスマスクが映りこんだ。
「げへへ‥‥ターニャ嬢、お揉みしやしょうか?」
 この男、どこから湧いてきたのか。
「その手つき‥‥いったいなにをですか」
 ライフルを下ろす。このガスマスク、どこかで見覚えが――と、そのとき。
「えぺっ!」
 前を塞いでいた焔がどすんと倒れる。背には突き刺さった光る矢。
(「なにがしたかったんでしょうか」)
 焔を脇目に、ターニャは移動し始めたキメラを追う。

 キメラに最も近い位置にいた命。
「覚悟〜!」
 こっそり近付き、跳び上がってキメラの下から網を伸ばす。がしかし、高さが足りずに空を切った。
 着地した命の背後に、すっと影が差す。
 振り返ると、焔がいた。ゆらり、ゆらり。無言のまま、ガスマスクの男が命へ歩み寄る。全身から邪悪なオーラが立ち昇っているかのようだ。
「‥‥〜〜!」
 かつて感じたことのない危機感に、後退りをはじめる命。
「あっ」
 植え込みに足を取られ、尻餅をつく。
「‥‥‥‥‥‥」
 沈黙。ガスマスクだけが不気味に反光する。
「ふぉう!」
 次の瞬間、猛烈なスピードで両手を振り上げ掴みかかった。
「ぎゃぁぁっぁぁぁ!」
 命の巨大注射器が焔にぷっすり突き刺さる。と同時に焔の洗脳が解けた。
 オモチャであるため痛くはない。おそらく精神的なダメージだろう。
「そんなとこで遊んでたら危なっ‥‥!」
 恭也が2人の元へ飛び出す。
「へにょんっ!」
「げひっ!」
 構えた盾も虚しく、折り重なって倒れる男が2人。

 ――後方。
 美しいフォルムと破格の静音性が最高らしいパイドロスを纏い、新が一気に駆け抜ける。
 美しいフォ(以下略)の脚部に電流が流れる。抹殺対象はすぐ目の前だ。
「うおりゃあぁぁ!」
 が、殺気を読まれ、新の振り回した網がすかすかと空を切った。
「この、ちょこまかとっ!」
 美しい(以下略)の頭部がスパークする。渾身の斜め回転振り回し(そんなスキルはない)が炸裂。
「よっしゃぁぁ!」
 すっぽりとキメラを覆い、アスファルトに叩きつけた。
 まずは焼き鳥にしてくれるわ、と荒々しく網を引き寄せる。
「――ぺにょ!」
 が、網を突きぬけ、矢が新を貫いた。
 網を破り、倒れた新の頭を踏みつけてキメラが飛び去っていく。
「花、花‥‥あはははは」
「ぐへへへへ‥‥」
「ひぃぃぃぃ〜!」
「ああ‥‥パイドロス!!」
 こうして天使が飛び去った後には、なんだか色々な愛が満ちあふれた。


●両手に花?
「キューピット型キメラ‥‥なかなか粋なヤツッス!」
 無線で事の顛末を教えられたダンテ・トスターナ(gc4409)。その手にはやはり網と籠。心なしか服装や髪型にも気を配っているようだ。
「とても、楽しそうな、弓、ですね」
 その隣、車椅子のk(ga9027)は他に目的があるらしい。
「しっかし平和な街ッスねー」
 このあたりは人通りも多い。さきほどからアーケード街を楽しげに歩いていたダンテ。
「‥‥お? あれが噂のターニャさんみたいッスね」
 裏手の路地からライフルを構えた少女が走ってくるのが見える。
「随分、愛らしい、キメラ、ですね」
 その先には、逃げ回る小さな天使のキメラ。
「まぁ、私は、人型のほうが、撃ちやすくて、いいのですけど」
 言い終える前に連射。が、さっと進路を変えてかわすキメラ。
「む」
 首を傾ける。はずれた銃弾がターニャの頭をかすめていった。キメラの後を追って左へと曲がろうとする。
「させないッス!」
 T字路でダンテがターニャの足をかける。
「あいて!」
 あっさりかわし、ライフルで小突くターニャ。
「――きゃふっ!」
 しかし、ダンテに気をとられている隙に、またしてもターニャは矢で射抜かれる。
「やーいッス!」
 倒れたターニャを尻目に、ダンテはkとともにキメラを追う。
 kがキメラの翼に狙いを絞った。
「随分、素早い、ですね」
 かすりもしない。射撃音だけが木霊していく。
「あっ、――ちんっ!」
 電子レンジのような声を上げ、kが沈黙。胸に矢が突き刺さり、だらりと首を下げる。
「だ、大丈夫ッスか!?」
 駆け寄るダンテ。するといきなり、kの顔がぐるりとダンテを向いた。
「ダンテさん、私を、今すぐ、ピィーて、もらえますか」
 嗚呼、モザイクが‥‥kの目に怪しい光が宿る。たじろぎ、引いていくダンテ。――と、何かにぶつかった。
 振り向けば、うつむいたターニャ。
「あの、私‥‥なんだかすごく、好きなんです」
 頬を赤らめる少女。
「いや、えっあ、ちょっ! 2人とも、何言ってるッスか!?」
 ちっうらやま、パニックに陥るダンテ。
「車椅子の、私を、ピィーなんて、簡単でしょう?」
「私と一緒に‥‥その‥‥」
 迫る女2人に追い込まれていく。電柱に背をぶつけるダンテ。
「さあ、ピィーに、ピィーのピィーを――」
「あの、私のことは‥‥どう思いますか?」
 にじり寄る車椅子と少女。
「うぁぁあ、あ、あ‥‥ご、ごめんなさいッス!」
 猛ダッシュでダンテは逃げ去っていった。


●狂運
「またぞろ色物キメラが出てきたもんだ」
 高層マンションの最上階、双眼鏡を下ろす新条 拓那(ga1294)。
「持っている武器はそれとは裏腹に凶悪ですね」
 ソウマ(gc0505)が冷静に分析する。
「でもまぁ、皆を幸せにしてくれそうなら悪くない気も」
 拓那はそう気楽に考えていた。
「UPCによると、複数はいなさそうですね」
 へぇ、と再び階下を見下ろす拓那。彼らはずっとソウマの車でぐるぐると見回っていたが、結局何もなかった。
「‥‥ん? 来たかな?」
 銃声。公園へと向かう、ライフルを持った少女。
 ようやくですね、とソウマは溜め息をついて降りていく。

 公園へと到着した2人。
「ターニャさんですよね?」
 あたりを見回していた少女に声をかけるソウマ。
「他の人から聞きましたか」
 言うターニャに頷き、ソウマは続ける。
「キメラを捕まえてどうするつもりです?」
「それは‥‥教えられません」
 ふふふ、と笑みを浮かべるターニャ。
「まぁ目的はともかく協力して捕まえよう、うん」
 大人の対応を見せる拓那。
「じゃ、向こうに飛んでったから、ターニャちゃんはそっちをお願いできるかな?」
 西の方角を指し示すと、こくりと頷き、ターニャが走り去っていく。
「‥‥ふふふ、計画通り」
 そう、キメラが飛んでいったのは逆側だった。
「なにが計画通りなんですか?」
 はっと振り返る拓那。走り去ったはずのターニャが微笑を浮かべている。いつの間にか拓那の背後に忍び寄っていた。と、そのとき。
「「「あ」」」
 ほぼ3人同時にキメラを発見。公園の中央、ジャングルジムに腰掛け、羽を休めるようだ。
「お先!」
 先手必勝、瞬天速で加速する拓那。ターニャも後へ続く。
 翼の紋章が輝く。慌てて飛び立とうとするキメラに網を振り抜いた。
「よっし」
 一発でキメラを捕獲。そのまま砂の上に叩き下ろす。
「はきゅん!」
 しかし、矢が網を突き抜けた。拓那が倒れ、ひらひらと天使が飛びあがっていく。
 起き上がった拓那の目の前には――どこから現れたのか、だんでぃーなおじさまがいた。背には突き刺さった矢。
「ちょ、やめ! 俺はそういう趣味はないから!」
 矢おっさんが這い寄る。
「でも、何だろうこの気持ち。胸が、苦しい‥‥」
 くたびれたスーツからなにかいい香りがする、ような気がした。思わずクラクラッ――
「って、だめだめだめ、落ち着け俺!?」
 頭を振る拓那。おっさんにコロリといきそうになった拓那。なおもおっさんに迫られる拓那。すでにがっちりと両肩を掴まれている。
「いやぁぁあぁあああ」
 拓那は、このキメラの恐ろしさを知ることとなった。

 弓を警戒。ジグザグ移動で接近していたソウマ。
 挟撃。ターニャの網をかわして飛び上がるキメラに、瞬天速で一気に距離を詰める。目指すは横にある木。その幹を蹴り、三角跳びで――
「うわっ!」
 腐っていたのか、木が折れる。網と籠を放り投げて落下するソウマ。
 瞬間、地に突き刺さる2本の矢。落下したことで、運良く射線から逸れた。
「がっ!?」
 そのままシーソーに激突、顔面を強打する。しかし、
「なんですかその技は‥‥」
 唖然とするターニャ。シーソーの対面に落ちていた網。それが勢い良く跳ね上がり、すっぽりとキメラを覆って落ちていた。
 もぞもぞと網から這い出るキメラ。と、そこへ影が差し込む。
「ぐ、はぁ‥‥」
 おっさんを背負って這い進み、拓那がキメラに籠をかぶせた。
「‥‥ぐふ」
 拓那は最後の力を振り絞り、がっくりと息絶えた。精神的に。


●ディナー
「時間ですね。あとは軍に任せましょうか」
 ソウマが終了を告げ、集合する傭兵たち。
 と、おもむろにkは籠からキメラの弓矢を取り出した。ぎりぎりと引き絞って発射する。
「いて」
 焔の後頭部に命中。すたすたと歩き出す焔。
「へいそこのナイスボインな彼女! 俺とどっか出かけない? そうだなぁ‥‥ハネムーンとか?」
 ガスマスクに矢‥‥? と何度も振り返って足早に去っていく女性。
「効果、ありませんか」
 kは残念そうに籠へ戻す。
「あ? 違ぇし? 矢の効果だし? 俺刺さってるし?」
 最初から百本ぐらい刺さってるかもしれない。
「せっかくッスから、夜景が綺麗なとこでメシでもどうッスかー?」
 提案するダンテ。
「あー‥‥その、ターニャさんもどうッスか?」
 ちらりと横目にする。
「ありがとう、ごちそうになりますね」
 満面の笑みのターニャ。
「お、悪いね」
「ごちそうさまです〜」
 次々と肩を叩かれていく。
「フフフ」
 ターニャを見、ダンテを見て恭也も続く。
「いや、おごるとは一言も言ってない‥‥ッス」
 まあいいか、とダンテもついていく。

 ――が、すぐに後悔することになった。
「ん、んぐ」
 皿が積み上げられる。
「あ、すいませんおかわりください」
 ここぞとばかりに食べるターニャ。夜景など微塵も見ていない。
「は、ははは‥‥いや〜‥‥ッス」
 乾いた笑いを浮かべるダンテ。
 こうして、傭兵たちは楽しいディナーで幕を閉じた。