タイトル:音マスター:猫乃卵
シナリオ形態: ショート |
難易度: 易しい |
参加人数: 5 人 |
サポート人数: 0 人 |
リプレイ完成日時: 2008/07/08 10:35 |
●オープニング本文
あなたは、数日間、音楽や会話の無い世界で生きられるだろうか?
バグアとの戦闘をおこなう殺伐とした戦場に、心癒すものは無い。日常の風景ですらない事もある。
いつもの日々。友人と笑いあう、取り留めの無い会話。四方から聞こえてくる街の喧騒。その有り難味を感じもしなかった、それらが突然無くなったら‥‥
ここは、とある施設の休憩室。
研究員の女性が、丸い小さな一本足のテーブルにもたれながらコーヒーを飲んでいると、同じ年頃の、しかしがたいの良い女性が、それまで着ていただろうジャケットを丸めて抱え、くたびれた様子で入って来た。コーヒーの匂いを目当てにしたのだろうか、背中を丸めてうつむいているわりにはテーブルまで迷わず一直線に歩き、テーブルの上に投げ出したジャケットに顔を埋め、うなった。
「しんどかった‥‥」
「くさいから、どっか行ってよ。コーヒーまずくなる」
一気に飲み干そうとするコーヒーを奪い取り、乾いた口の中に放り込む。上着をハンカチで拭きながら観察するに、確かに精神的にまいっている様に見える。
「どこ行ってきたのよ。部品工場じゃなかったの?」
「まだ来ていない材料積んだトラック探しに行くはめになって‥‥一日中飛んで探したわよ」
「そんなんでまいってるの? 年取ったわね」
「疲れてないわよ。それよか、精神的にまいったの。独り自分だけ、気分転換なんて出来ない、騒音だけ聞こえる中で流れていく地面をひたすらジィ〜と見つめて‥‥」
「工場の人達とは連絡取ってたんでしょ?」
「『沢沿いに南下してみます』とか、『大型車2台発見、目視確認願います』とか、何の癒しにも成らないわよ」
「まぁまぁ。人助けしたんだし」
「したんならね。結局行方不明。何が起きたか判らずじまい。最悪の状況は頭の中に浮かんでくるし‥‥ふう〜」
2本買った炭酸飲料の片方を頬に当てて手渡しした後、研究員の女性がふと思い出した。
「あ。そういえば、精神的な負担を軽減させる事を目指す研究会が発足したらしいわよ」
「なにそれ」
「他の人から遮断されて孤独な状況に置かれた時の精神ダメージの軽減を対策するみたい」
「あるある。昔、2日間独りでひたすら荒野を車で通過してた時、あたし、思い出せる限りの歌を口ずさみまくったわ。『うーん! 70点! おしい!』とか、自分で自分の歌を採点しだした時は、あたし、どこへいっちゃうんだろうって思ったものよ」
「行ってみる? 現場の人間の意見、聞いているそうよ。何か参考にしてくれるかもよ?」
●募集内容
私達の研究会では、単独行動時の孤独感から来る精神ダメージを軽減させる方法を研究しています。
現場で活躍されている皆様のご意見を参考にさせていただきたく、募集いたします。
行動の妨げにならないとなると、思考を乱さない程度の音を聞かせる事になるのでしょうか? 心を落ち着かせる音や言葉などを我々は考えていますが、皆様のご意見をいただければと思います。
提案内容は、我々の無響室にてその効果を試してみる事が出来ます。無響室内で独り雑音のシャワーを浴びながら孤独感を生じさせ、無響室据付のスピーカーから提案内容を流し、それを聞いて心理効果を試していただく事になります。ぜひ、どうぞ。
なお、結果は、その時の精神状態に拠るでしょうから、参考程度となります。
●リプレイ本文
●集合中
水浴びに行く日、参加ブリーダーがマルグリットの家に集まる予定になっている。マルグリットは朝からブリーダーを訪ねる為に出かけていた。
しばらくしてブリーダーが集まり始めた。
風神(ha0241)が、マルグリットに腕を引っ張られながら玄関をくぐる。
「水浴びしましょうよ〜」
「私が水辺で水遊びか‥‥? 川や湖というのは、水を摂取する為のものだと‥‥」
「暑い日には水遊びですよ〜 川や湖はその為にこの世界に生まれて来たんです」
「まあ‥‥」
マルグリットは戸惑う風神の肘の辺りに両手を絡ませて引っ張っていたが、心決めた風神が歩みを速めて家の中に入って行くと、反対にマルグリットがぶら下がったまま体ごとズルズル引っ張られる。
「きゃあ〜」
「まあ、何事も経験だ。私も同行させていただこう」
部屋の中にはフランソワ・ウィングロード(ha0412)が何故か既に居た。
部屋の中央に、腕を組んで仁王立ちしている。
「あなたは?」
「フランソワぞよ。おぬしがマルグリットか。ふむ。これは暑い夏の日には願ったり叶ったりの依頼であるな。マルグリット殿、感謝するぞ」
「はっ! ありがたき幸せ!」
フランソワが頷くと、マルグリットは何故か思わずかしこまった。
その後、黄桜喜八(ha0565)と、華鈴(ha1070)がやって来て‥‥
(「初めて会う人ばかりだから、仲良くなれるといいなぁ」)
ポチポチ(ha0264)がドキドキしながら玄関のドアを叩く。
「は〜い。どうぞ、入って〜」
ポチポチがドアから顔を覗かせると、賑やかそうな参加者達の姿が見える。
ポチポチは笑顔で皆に挨拶した。
マルグリットが行き先の打ち合わせの口火を切る。
「で、どこ行きます?」
最初に、喜八が挙手して提案する。
「『河童の川流れ』って言う‥‥。だから‥‥行先は川だ。川に流されたら‥‥楽しそうだ」
「先人に学べってやつですね」
マルグリットが理解し納得した様だが、それで正しいのだろうか?
「あの‥‥釣り‥‥とかしたい‥‥ので、川がいいです」
華鈴は、自己主張した事にちょっと照れたが、それを表に出さない様自制しながら発言する。
「ボクも行き先は川がいいです!」
ポチポチも賛成する。フランソワと風神も同意した。
「では、川に行きますか!」
一行はマルグリットの家を出て、川の水浴び場へと向かった。
●一行は、川へ
そして一行は、色々会話を弾ませながらしばらく歩き、目的地に着いた。水浴びに適した深さと流れの穏やかさで知られている場所だ。
フランソワは、周囲に大きな木がないか探す。休憩場所となりそうな木陰を探しているのだ。
しばらくしてフランソワは、少し離れた所から片手をひらひらさせて皆を大声で呼ぶ。
「皆の者! こっちに来るのじゃ!」
三本の木が詰まって立っている。その木陰にフランソワは居た。黒い布を巻き付けながら、着替えを始めている。
「着替え中じゃ。スタイルに自信ないからこっち見るでない」
「ええっ!? 今呼ばなかった!?」
「そう、皆、この木陰を休憩場にするぞよ。日差しの強い昼過ぎは休むが良い」
確かに休むには頃合の日陰だ。ここを集合場所とする事とした。
風神のペットの馬は木につなぎ、自由に体を休められる様にする。
皆、フランソワに続いて、水浴びの為の着替えを始めた。華鈴は釣りがメインの予定だったが、水浴びの誘いがあってもよい様に一応の準備をする。
着替えの終わったフランソワは準備体操を始める。両腕を回したり、体を反らしたりしている。
「準備運動を忘れずに。では、いざ、着水!」
それだけ言い残し、川の中へ入っていく。
華鈴は、釣りの道具となりそうな物を探しに行った。
「おりゃ!」
喜八は着替えもそこそこに、川に勢い良く飛び込む。ここに向かう道中の日差しで火照った身体と皿にとって、川の水は十分に冷たかった。
「ふぅ〜。美味い水だ‥‥皿に‥‥しみる‥‥」
喜八は、ペットの柴犬、トシオを呼ぶと、一緒に泳ぐ。
「オイラと一緒にいると‥‥泳ぎが達者じゃねぇと困るかもしれねぇ」
トシオとのんびり泳ぐ。トシオが泳ぎ疲れると、陸に戻した。喜八自身は、川の中に潜ると水中散策に出かけていく
ポチポチは、風神に手のひらですくった水をかけて遊んでいる。戻ってきた華鈴を見つけると、水遊びに誘った。
「‥‥私でよければ‥‥よろしく‥‥お願いします」
華鈴は照れた表情をしながらも嬉しそうに水遊びに加わった。そこにフランソワも加わる。
最初はバラバラに水を掛け合う程度だったが、それは次第に、ポチポチと風神とマルグリットがフランソワを集中攻撃する形に変わっていく。
ついに堪忍袋の緒が切れたフランソワが魔法で逆襲しようとしたが、風神に羽交い絞めにされてあえなく撃沈した。
「なかなか水遊びも面白いものだ。はっはっは‥‥ん?」
風神は、川の向こう岸付近に白っぽく丸い物がゆらゆらと水の中を漂っているのを見つけた。
「あれは、何だ?」
風神は漂っている物が気になって、もっとよく見ようと、フランソワを放し、そちらに向かって歩き出した。
「あれ? 足元が‥‥」
足元に違和感を感じる。風神は、自分が急に川底が深くなる場所に踏み込んでしまった様に思えた。
ゆらりと体が傾く。あっという間に、体を立て直すのが無理な姿勢になったと自覚する。
「わ、わ、わ」
上半身が水に浸かる。手をばたばたさせてみる。首の付近まで水が迫る。肩を上下させて、頭が沈まない様に必死にもがく。
「わ‥‥私は泳げないんだ! 助けてぇー!!」
ゆらゆらと水の中を漂っていた白っぽく丸い物が、風神に近付いて来る。
それは、風神の叫びを聞いて寄って来た喜八の頭の皿だった。喜八は潜りっぱなしで水中の様子を楽しんでいたのだ。
「風神‥‥泳げないか?」
喜八は立ち上がると、斜めに傾いている風神の体を両手で支える。
「あれ?」
体を立て直し、垂直に立ってみると、意外に、腰の辺りまでしか水に浸かってない。
「風神‥‥転んだ。泳ぎ覚えておくといい」
「そ、そうだな‥‥ぜひ教えてほしい」
風神は、赤らめた頬をポリポリかく。喜八先生の水泳の勉強会が始まった。
ポチポチは、ペットの柴犬、太郎を呼んで、犬かきする彼と一緒に泳いで遊ぶ。太郎が泳ぎに飽きて陸に上がった後は、ポチポチは自分の泳ぎに専念した。
フランソワはペットの猫、スズニャンを水浴びに誘ったが、スズニャンはあまり水に触れる事を好かない様だった。地面に下ろし、好きな様にさせる。
スズニャンは華鈴の釣りの成果が気になる様で、華鈴にまとわりついては華鈴を困らせていた。
●お腹すいた
各自が思う存分に泳いだ後‥‥
スズニャンが、魚を持っている喜八の体にまとわり付いている。喜八は短槍で魚を幾つかとらえて陸に上がって来たのだった。
ポチポチは木の枝を集めて、火をおこしていた。
「魚、焼くのか? オイラはこのまんまでも食える」
「焼いて食べたいんだ。おいしいよ」
やがて、皆が元の服に着替え終わった頃、魚の焼けるおいしそうな匂いが周囲に漂い始めた。皆、水遊びで体を動かして、お腹をすかしていた様だ。焼けた魚からブリーダー達が遠慮なくかぶりつく。
「ん〜、うまっ!」
ポチポチは満面の笑みを浮かべている。
「これ、華鈴さんが釣った魚?」
華鈴はマルグリットに向かって少し照れながらうなずく。
賑やかな談笑は、夕暮れになるまで続いていた。