タイトル:キメラの猟場マスター:二宮 はるあき

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/07 16:00

●オープニング本文


 痕跡は見つけることができた。折れた小枝や土の窪み。そこだけ荒れた落ち葉。それらは猟師にとって、1本の長く赤い絨毯だ。
 初めは、単に自分の勘が鈍ったのだと思った。しかし収穫のない日が二日、三日と重なるにつれ、山に異変が起きているのではと考えるようになった。獲物がいる痕跡はある。ただ、肝心の獲物が決して見つからないのだ。
 ナタを片手に、必要とあれば自ら道を切り開きながら猟師は山の奥深くを行く。いつもの自分の猟場を超えてみれば、何かがわかるかもしれないと思ったからだ。
 案の定、獲物はそこにいた。足音を殺し、獲物に詰め寄る。一度足を止め、猟銃のセーフティを外した。
 瞬間、獲物が動きを見せた。獲物と自分との間合いは、離れるどころか、縮まっていた。
 そして男は、獲物は自分の方であったことを理解した。


「ある村落の周辺の山で、中型キメラ数体の出現が報告された。君達の任務はそれらキメラの殲滅だ。村人の避難は既に完了している。楽な任務だろう。ただ‥‥」
 作戦司令官はそこで一度言葉を切った。
「ただ、山に入ったきり行方のわからない猟師がいるらしい。彼の救出も任務の一つだ」
 もし生きていればだが。再び言葉を切り、彼はそう付け加えた。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
水瀬 深夏(gb2048
18歳・♀・DG
ブロント・アルフォード(gb5351
20歳・♂・PN
キヨシ(gb5991
26歳・♂・JG

●リプレイ本文

●心配事は先に
「連中よりも早く見つけなければ‥‥動くものを見つけた。早くいかないとな」
 双眼鏡で猟師を捜索していたブロント・アルフォード(gb5351)は森の中で動く人影を確認して一足先にと動き出す。
 手当てが出来るように救急セットも持ち、キメラに追われているであろう猟師の元へ駆けた。
「うむ、一刻も早く猟師君の安否を確認しないとね〜」
 ブロントが覗き込んでいた森の中まで来ると、ドクター・ウェスト(ga0241)が<電波増幅>を使い自らの知覚を強化する。
 研ぎ澄まされた感覚が耳に届く音の一つ一つを聞き分け、その中から猟師の靴音や息遣いを探ろう試みた。
「なんかでてきそうな雰囲気や‥‥森がざわついとるわ」
 キヨシ(gb5991)もドクターと共に周囲に気を配り足を進めている。
 緑の香り漂う森にキヨシの電子煙草のローズの香りが混じりあい緊張感が程よくほぐれた。
 ぐるりと顔を回し、動いていた人影を一同は探し続ける。
「おい、こっちにいたぞ! 早く来い!」
 一人別ルートでAL−011「ミカエル」を走らせて捜索をしていた水瀬 深夏(gb2048)が木陰で休む猟師を発見した。
「うぅ‥‥だれ‥‥だ?」
 全身から出血をしている猟師は息も絶え絶えに声をだす。
「けひゃひゃ、我が輩はドクター・ウェストだ〜。まぁまぁコノ程度の怪我なら任せたまえ〜」
「だ、大丈夫‥‥なの、か?」
 奇妙な笑い声を上げながらエネルギーガンを構えるドクターを見て、不安になった猟師が水瀬に顔を向けた。
「ん〜、大丈夫だと思うぜ」
 少し悩んだ水瀬だったが、断言する。
 その言葉どおりサイエンティストの<練成治療>で猟師の傷は見る見る癒えていった。
「能力者‥‥だったのか」
 傷が治り普通に話せるようになった猟師は自分の体に起きた変化に驚く。
「ああ、俺たちはULTから派遣された能力者だ。キメラがこの辺に出たと聞いてその処理とお前の救出を頼まれてきた」
 ブロントは猟師を立ち上がらせ、歩けるかどうかの具合を確認しながら状況を軽く説明しだした。
「そういうことやな、すぐに安全なところに連れて行ったるからなぁ」
 猟師を安心させるようにキヨシは肩を叩き、ニヤっと笑う。
 そのとき、ザワッと森が騒ぎ周囲に殺気が充満した。
「血の臭いは消せなかったみたいだぜ。ここは俺とドクターで何とかする。キヨシとブロントは猟師のオッサンをちゃんと逃がせよ」
 乗っていたミカエルを変形させて身に纏った水瀬が猟師を庇うように立つ。
「任せとき、いくでおっさん」
 キヨシはローズの香りのする電子煙草を消してポケットに入れるとクルメタルP−38を持ちながら手を引いて坂を駆け下りた。
 ブロントも後ろから追いかけてくるキメラを雲隠とイリアスで迎撃しながら森から抜けていく。
『俺達がいる限り、誰も死なせはしねぇ!』
 激熱を構えた水瀬は大きく叫ぶとキメラに向かっていくのだった。

●キメラの生態観察
「ではミナツ君、我々も行こうか〜。サポートなら任せたまえ〜。もちろん攻撃もね〜」
 去っていく仲間を見送りながらドクターは伊達眼鏡を光らせる。
 <練成強化>を一度水瀬にかけると自らも<電波増幅>で強化した上でエネルギーガンで襲い掛かってくる熊のようなキメラへ照準を合わせた。
 狂気にも満ちた眼球が強く輝き、睨んだ対象である熊キメラの肩を撃ちぬく。
 熊キメラを貫いた光は後ろの木にも黒い穴を開けた
「フォースフィールドはそれほど強くないかね。大きさは2mほどと体力はありそうだね〜それが3体とはサンプル回収に困りそうにないね」
 貫かれた肩の痛みを呻きで表した熊キメラが豪爪でもってドクターと水瀬を狙う。
 グオッと空気を震わす一撃が繰り出されるも水瀬は激熱で受け止め、ドクターは転がるようにして避けた。
 グッと踏み込んだ足が地面に沈むが巨木のような腕は水瀬を薙ぎ倒すことはできない。
『反撃いくぜぇっ! うりゃうりゃうりゃうりゃぁっ!』
 ファイヤーパターンの描かれた両拳が熊キメラの胴体に連続で叩きこまれ、傷ついた熊キメラを沈黙させた。
「まずは一体だね〜、物理は多少強い方かもしれないね〜」
 倒れたキメラを気にせずドクターは次の敵にエネルギーガンを向ける。
 外見からすれば熊そのもののキメラの急所を目で狙い、トリガーを引いた。
 体格の大きい相手に臆することなく放たれたエネルギーの弾丸は熊キメラの体を貫通して向こうの景色を見せる。
「ふむ、やはり知覚武器の方が聞くのかね? 急所を潰してもまだ息があるのは中々に好ましい」
 相手をサンプルとしか見ていないドクターの言動は怪しかった。
『だったら、俺のほうも変えていくぜ。イィィクィップ!』
 激熱から装着式超機械に装備を交換した水瀬がこぶしを握ると強力な電磁波が目に見えない力をもって纏わり付く。
『うぉりゃっ!』
 ドクターが穴だらけにしたキメラとの間合いを詰めて水瀬は勢いをつけるために拳を後ろに引いた。
 体に穴があこうと防衛本能を働かせた熊キメラは口から涎や血を吐き出しながら両手を上げて迎えうつ。
 ミカエルの体がそのままキメラにぶつかり押し出した。
 突撃してくる鋼人を受け止めた熊キメラは水瀬を押しつぶそうとサバ折りを仕掛ける。
『でやぁぁぁあっ!』
 引いた拳を前に突き出すと拳周りの電磁波が肉を焼き焦がし内部へと進ませた。
 ズブズブと減り込んだ拳は熊キメラの背中から抜け出る。
『残り一体! 俺の場合は物理の方が相性よさそうだぜ』
 サバ折りは途中で止まりだらんと腕を下げるキメラから離れた水瀬はそのまま次のキメラへと動く。
 <竜の翼>キメラを蹴り上げ宙にあがると激熱へと装備を切り替えた。
 熊キメラが獣の瞳で水瀬を追いかける。
 木々の広がる森の中の上青い空で水瀬のミカエルが日の光りを反射して視力を奪った。
『くらえっ! 俺の必殺の一撃!』
 空中から降下すると共に水瀬は<竜の爪>で激熱を強化し怯んだ熊キメラの頭部へと突き立てる。
 グシャッと落下速度をあわせた一撃がフォースフィールドを貫いて熊キメラの頭蓋骨を砕き、その内部をも破砕した。
 頭部を失ったキメラは揺らめきながら地面に倒れこみ、水瀬も飛び上がって着地する。
「派手なアクションをするね〜ミナツ君は」
「はんっ、これくらい普通だぜ? こいつらの死体に次のがよってこないうちに俺たちも逃げるか?」
「いやいや、折角のサンプルを見つけたのだからね。このまま逃げるのは惜しいというものだよ」
 バイザーを上げて息をつく水瀬が撤退を提案するとドクターは機械剣αを使って熊キメラの腕を一本斬りおとした。
「おまえ変わってるな」
「けひゃひゃ、褒め言葉として取っておくよ」
 ドクターは水瀬からの冷めた視線を笑いで流して細身の体で熊キメラの大木のような腕から細胞サンプルを摂取する。
 だが、このサンプルをもってかえって調べても、普通の熊のものとしかドクターの所持する設備では判断できないとわかるのは後の話だ。
 
●狼の群れを書き分けて
「来い、化け物! 俺の一撃をくらえっ!」
 ブロントが雲隠で<スマッシュ>を使い一瞬の太刀筋のもと襲い掛かってきた狼キメラを斬りふせる。
 猟師を連れて山を駆け下りているブロントとキヨシだったが、キメラの縄張り[テリトリー]にいるため、簡単に脱出とはいかなかった。
 狼キメラが多くの足音共に3人に近づき、隙を見ては飛び掛ってくる。
「きりがないぜ‥‥」
「ほんまやな」
「俺が足手まといなら置いていってくれ、あんた達だけなら逃げれるはずだ‥‥」
 疲労の色を見せ始めたブロントとキヨシがため息交じりに呟いていると猟師が弱気に答えた。
 ただ、ついていっているだけだとしても一般人である猟師を守るために二人の負担になっているのは猟師にもわかる。
「はいそうですか‥‥なんて言うわけないやろ? キメラを倒すよりも俺らはおっさんを助けるためにきとんねん」
「目覚めの悪くなりそうなことはこれ以上いうな‥‥ちぃっ、回り込まれたか」
 疲れながらも希望を忘れない二人は猟師を元気付けるが、絶望は確実に彼らを追い詰めていた。
「モテモテやな」
 緑色になった左目で茂みから出てくる狼キメラを見ながらキヨシは悪態をつく。
「狙いは若い俺の方かもしれないぞ? 二刀流‥‥飛燕の斬!」
 ヒロシの悪態を軽く流しながらブロントは<円閃>で近づいてきた狼キメラを斬り裂いた。
「すまない‥‥」
 猟師は希望を捨てない二人の姿をみて自らの不甲斐なさを悔いる。
 疲労は肉体だけでなく精神も蝕み、マイナス方向へと思考をもっていくものだ。
 弱気になってしまう可能性も二人にはあるのだが、そうならないためにも意識を目の前に向ける。
 避難所まではもう少しだ。
「全力で走ってついてくるんやで」
 キヨシは持っている棒を振り降ろして正面の狼キメラの頭部を狙う。
 狼キメラは危険を察知してかバックステップで後ろに下がって間合いを取ろうとした。
 だが、キヨシが棒の握り部を動かすとガシャリという音と共に棒に筋が入りいくつもの節に別れた多節棍へと変化する。
 変則的な軌道を描く攻撃に狼キメラの一頭は頭部を叩かれ動きが止まった。
「走れっ!」
 仲間がやられたことを感じた周囲の狼キメラ達も一斉に飛び掛って攻めてくる。
 利き手に握られたクルメタルP−38を弾幕を張るようにばら撒き、キヨシは叫びながら走った。
 その後ろを猟師がついていき、追ってこようとする狼キメラをブロントが斬り払っていく。
 しかし、最後の1体になった狼キメラが猟師の頭上から飛び掛り食いつこうとしていた。
「危ないっ!」
 狼キメラの牙が猟師に届こうとしたとき、ブロントは猟師を突き飛ばして庇う。
 噛み付かれた腕から血が溢れだし、茶けた土を赤く染めた。
「‥‥くっ、さすがはバグアの尖兵といったところか、だがっ!」
 噛み付かれた腕をそのままに空いている手に握られた雲隠で狼キメラの眉間を貫く。
「多少骨があったが、相手が悪かったな‥‥」
 傷口を押さえつつブロントは猟師たちの後を追いかけた。
 一直線に道を進んで麓にある避難所へとついに到着する。
「おっさんはここでゆっくりしときな? 俺たちはちょっと手当てしたら、仲間のところに戻れるから大人しくしとるんやで?」
「無茶をするとは思えないが、ここで外に出て命を粗末にするなよ」
 キヨシもブロントも自らの傷の手当てを手持ちの救急キットで行いながらひと時の休憩を済ませるのだった。

●仕事の終わり
「おう、おっさんも無事でなによりだぜ」
「あ、ああ‥‥今回は本当に助かったよ。たいした物じゃないが気持ちとして受け取ってくれ」
 避難所で合流を果たした能力者達は猟師から振舞われるスープを味わい疲れを癒している。
「逃げていく先でもキメラが襲ってきたのかね? 詳しくその辺の話も聞かせてもらいたいものだね〜」
 ドクターはスープを飲みながらも興味はキメラに向けられていて、キヨシとブロントに聞き始めた。
「狼型の奴だったで? ブロントは腕かまれてたようやけど大丈夫かいな?」
 ローズの香りが漂う電子煙草を吸い直しながらキヨシは隣のブロントを横目で見る。
「応急手当はしているし、問題はない」
 ブロントは猟師の入れてくれたコーヒーを飲みながら答えた。
「狼型キメラに噛まれたのかね? ふむ、伝染病を持っていないとも限らないし我輩が見てやろう、サンプルとして噛まれた箇所の肉を少々もらえれば嬉しいがね〜、けひゃっひゃっ」
「フツーに<練成治癒>で治してやれよ。あぁ〜マジでうめぇ‥‥こういう飯のためにあんたは狩りをしているのか?」
 肉でダシをとり、山菜が彩られたスープを飲んだ水瀬はドクターをたしなめて猟師に素朴な疑問をぶつけだす。
「ああ、今日も普通に獲物を取って飯の種を勘を頼りに探してこの猟銃とナタを相棒に戦うつもり‥‥だった」
 しかし、猟師が出会ったのは獲物ではなく己の命を脅かす敵だった。
 銃弾を弾き、ナタの刃がボロボロになる相手にぶつかり、死を間近に感じたのである。
「生きた心地がしなかったな、後はただ逃げるだけだった。情けないと思ったが、体と直感が『逃げろ』といっていたんだ」
 いつしか猟師の話にキヨシもブロントもドクターも聞き入っていた。
「力の差というかそういうものを感じたよ。越えられない壁が俺とあんた達の間にはあるんだってな」
 火にかけた鍋をかき混ぜつつ猟師は語り、お代わりを各自に注ぐ。
「おっさんはこれからどうするんや? キメラは倒したけど、また同じようなことがあるかどうかもわからへんし」
「俺にもわからん‥‥だが、俺は猟師だ。直感と長年の勘で生きるすべしか知らない。
 新たな狩場を探すかこの狩場でがんばってみるかは俺の直感が『やめろ』と言うまでは続けるだろうな」
 一時は恐怖に負けて自らを犠牲にしようとした猟師だったが、本当の気持ちが落ち着いたこのときあふれ出てきた。
「おまえの気持ちはわかったぜ。何かあれば俺達を呼べばいい。俺達がいる限り誰も死なせはしねぇよ!」
 猟師の強い気持ちを聞いた水瀬は背中をバシンと叩いて不敵に笑う。
「その通りだ。生きてさえいれば、いい事は幾らでもある‥‥さっきのように自分を犠牲にするなどというなよ?」
 水瀬と違いコーヒーを口にしながらブロントは猟師に忠告をつきつけた。
「きっつい言い方すんな〜。おっちゃんもプライドもって仕事しているようやからわかるけどな。安心して狩りができるように俺らもやれることはやるからたよってな」
 ローズの香りを出し続けるキヨシはブロントの言い方に苦笑しながらも猟師を応援するようにウィンクしながらサムズアップをする。
「そろそろ時間だねぇ、帰りの高速移動艇が出る前に我輩達も次の仕事に向かおうではないか」
 スープを飲み終えたドクターが白衣を翻しながら立ち上がる。
 小さな出会いだったが、互いに得られるもののあった一日となった。
 互いに進む道は違っていても交差するときはまた来るだろう。
 生き延びたこの日、この出会いに感謝しつつも能力者達は避難所を去っていった。

<代筆:橘真斗>