●リプレイ本文
「すいません、少々お聞きしたいんですが」
動きやすいカジュアルな服装の旅行者と思われる女性、櫻杜・眞耶(
ga8467)が、町の図書館、市役所に現れこう尋ねた。
「美味しい『もんじゃ焼き』の店って、何処にありますか?」
うん? もんじゃ焼き?
礼儀正しく尋ねる謎の旅行者に、頭に疑問符を浮かべながら市役所の職員は街のチラシを手渡したのだった。
●道すがら
町の中に乾いた風が吹きすさぶ―――
枯葉が風に巻かれて何処かへと消えていった。其処に能力者である女性八人がある場所を目指し歩いている。
謎の噂、RUNNER―――
―――いつ頃からメニューに「RUNNER」が出始めたのか、その辺も気になるところでありやがるです
―――店への道尋ねながら、店の評判聞いてみるです。
その内の一人、シーヴ・フェルセン(
ga5638)がそう囁く。
「あの」
すると絢文 桜子(
ga6137)が道行く若者二人に声を掛けた。
「美味しいと噂を聞きましたの」
美ッ!
たおやかな女性に声を掛けられた二人は素直に足を止め、そして素直に質問に応じた。
「どのメニューが美味しかったですかしら?」
「焼いて食えっすよね? お勧めはRUNNERっすよ。高い具頼んでも料金変わらないし」
「そうそう、高い具のもんじゃ喰うんだったらあれ頼んだ方が得だよな。好きなだけ乗せられるし」
「まあ、そうですの」
桜子は柔らかな笑顔を浮かべ丁寧に礼を述べた。情報提供者は何も知らず道の彼方へと消えていく。
―――な、なんだかスパイ映画の世界みたいですね‥‥!
藤宮紅緒(
ga5157)が口を開く。
―――RUNNER、うーん‥‥普通ではない頼み方をしたら秘密の場所へ連れて行かれる‥‥のかも‥‥例えば‥バグアが取り仕切る闇もんじゃの会場とか‥‥
―――恐ろしいですね‥‥
確かにえらく恐ろしい事を口にしながら一行は調査現場「焼いて食え」に歩いて行った‥‥
○調査現場
テーブルには既にある程度料理が並べてある。そこに一人立つ者がいた。
「えーー今日はRUNNER調査という事で皆さんお集まり頂き有難う御座います。というわけで‥‥」
金髪の碧眼、NDA曹長ことフレアモルゲンが大きく息を吸う。
「調査開始!」
う゛いぇえええええええ!!
声が掛かるなりその場にいた全員が声を張り上げ騒ぎだした。
「もんじゃを美味しく食べ‥‥じゃなかった、調査をがんばりますっ!」
弓亜・美月(
ga0471)が真剣な眼差しで割り箸を割り、サラダに慎重に箸を差し込む。
「良い感じになったらコテを上手く使って食べるのニャ〜☆」
その横でアヤカ(
ga4624)は具で土手を作り、器用に小麦粉を流し込んでいる。此処で一瞬ある筈のない猫耳が嬉しそうにパタパタ揺れているのが見え、一同我が目を擦った。
「みずほはね〜もんじゃって初めて食べるなの〜だからとても楽しみなの〜」
葵瑞穂(
gb0001)がそう言い楽しそうにもんじゃ焼きを眺めると、アヤカが目をやった。そして「こうして、こうするのニャ」と焼き方を教わると、
「分かったなの〜☆」
初めてのもんじゃ焼に挑戦する。
「RUNNERの謎、トッピングの頭文字かしら?」
箸でタコの足を摘みまじまじと見詰めながら浴衣姿の野之垣・亜希穂(
gb0516)が呟いた。
「RUNNER‥‥そうですね、それじゃそろそろいきますか」
それに眞耶が頷く。
「すいません、RUNNER下さーい」
眞耶がそう注文すると、その会場に参加していた能力者達の眼が待っていましたとばかりに輝く。
「私はうめぼし、さくらエビ、切りイカ、スナック麺のもんじゃを食べてみたいですね。うめぼしが入ってるのはおいしいって聞いてたので一度食べてみたいなぁって」
こちらは美月。
「もんじゃは餅メンタイニャかね〜?」
こちらはアヤカである。
「えっと‥‥トッピングは桜海老とイカでお願いします‥‥!」
こちらは紅緒。
「ホタテ、エビ、イカ、明太子、ツナ、最後にRUNNERの文字に合わせ、6つ目は‥‥パイナップル」
こちらはシーヴ、ちなみに以前のRUNNER調査で、沖縄のバグアが裏に潜んでいた事が発覚。よって『沖縄=海』という事でのラインナップらしい。
「お野菜やシーフード中心が好きなのですけれど、どんな具が入っているのかしら。お勧めあります?」
こちらは桜子。
「餅明太子ってのを食べてみるなの☆ 美味しいなの〜☆」
こちらは瑞穂。
「え? あ、ちょっと‥‥」
スポンサーであるフレアが注文しまくる能力者達にあたふたと泣きそうに見渡す、ちらりと眞耶に縋る様な眼を向けた。しかし、
「私は普通の明太子で」
「ひぃ!」
更にフレアが亜希穂に視線を向けると、彼女はメニューをまじまじと見つめ、
「R・U・N・Eが頭に来るトッピングでお願いするわ」
「あんたまで―――」
がっくしと肩を落とすフレアを尻目に、定員がサラサラと注文を伝票に纏めていく。笑顔で伝票を書いているが、少々狼狽しているように見えなくもない。
「(店のモンの動揺、見逃さねぇです)」
冷静なシーヴの目が、パイナップル? と呟く店員の顔を射抜いた。
「あんたら勘弁してよ!? 少しは遠慮ってもんを‥‥」
そしてその横で慌てるフレアに、八人がちらりと視線をやるとふっと息をついて貫録たっぷりに言い切る。
『調査だから』
「‥‥‥」
室内なのに風が吹いた気がした。
気がしただけだった。
●RUNNER
「‥‥うーん、び、ビール欲しいかなぁ。ジョッキ1杯だけでいいから‥‥ほら、何か暗号が含まれているかもしれないじゃないですか。ビールの頼み方とか飲み方で何かあるとか、未成年の方が多いから駄目?」
焼き上がったもんじゃ焼きを突きながら美月が言うが、酔っ払ったフレアが割り込み断言する。飲まなきゃやってられないのだろう。
「いーえ!! 飲みたいもんは飲みたいのよ! ダメって事はないわっ! でもお子様はサイダー! 頭パーになるから!」
こうならない為にも、未成年はお酒ではなくサイダーで。
「あ、おせんべも作るニャ〜☆ 小麦粉の液をわざとうすーく鉄板の上に焦がすように焼いてぺりぺりと剥がすと香ばしくて美味しいのニャ☆」
アヤカが鉄板にタネを垂らすと、それを紅緒が口に入れる。
「わぁ‥‥香ばしくて‥‥美味しいですね‥‥」
「そう言えば豚キムチはどうかしら? 沖縄といえば豚だし、沖縄バグアが絡んでいるのなら、ね」
亜希穂が豚キムチを追加する。
「キムチのという組み合わせにもなにかあるかもしれませんしね」
眞耶も大真面目に頷いた。きっと食べたいのだろう。
「えう〜〜〜〜」
瑞穂が涙交じりの声を上げる。もんじゃ焼きに挑戦しているのだが、土手から小麦粉が流れ出してしまい上手く焼けないのである。それをアヤカと桜子に手伝ってもらい、何とか焼き上げると、
「美味しいなの〜☆ おかわりなの〜☆」
一気に笑顔になる。
「うふふ、懐かしいような味が致しますわね」
桜子も小さいヘラを上品に口に運んだ。
「『焼いて食え』だから自力で焼かねぇと‥‥」
シーヴがきょろきょろしながら呟く。店内にシーサーがあるか探しているのだ。ちなみに店名の焼いて食えは別に自力で焼けという意味では勿論ない。
だが、焼き方の解らないシーヴは店長を呼ぼうとし、
そしてどういうタイミングだか
おじさーーん!!
能力者八人の声が、ピッタリ揃って店内に響く。
「はーい」
そして現れたのは白衣を着た人の良さそうな店長だった。
『!』
その店長を見るなり、能力者同士が小声で話しあう。
「何だか、本当に普通のおじさんだわ」
「アロハも着てやがらねぇです」
「噂に違わず良い人そうですわね」
「餅明太子も一杯盛ってあったの〜、サービスとっても嬉しいの☆」
亜希穂、シーヴ、桜子、瑞穂が囁き合った。
「どうした? 焼き方でも解らないかい?」
そして何も知らない店長はにこにこと愛想よく笑っている。その笑顔を見て、
「な、何か本当にいい人ですよ!?」
「ニャ、もんじゃ焼きも変な味とかしないで普通に美味しかったニャ」
「疑うのが申し訳なる程ですね‥‥」
「はい‥‥さっきもジュースおまけして貰いましたし」
美月、アヤカ、眞耶、紅緒が順に呟いた。
「美味いだろう? うちのRUNNER。一杯食べてってくれよ。サービスするから」
善意の笑顔が眩しい。
が、
「あの、私達に焼き方を教えてくれませんか?」
眞耶がそういうと、店長は快く頷いて座敷に上がった。どうやら本当に良い人そうだ。
「まずは具を鉄板に乗せて―――」
そして慣れた手つきで焼き方を披露していく。鉄板を眺めながらも、桜子が切り出す。
「そういえば、RUNNERというメニューの名前、今流行の商品とそっくりな名前ですのね」
笑顔で無邪気に聞いてみる。
「ああ、そうらしいね。おじさん良く解らないけどね」
「どうしてその名前を付けられましたの?」
「それはね」
一同、固唾をのんで耳をそばだてると、
「実はね、お客さんのアイディアなんだよこのRUNNERは」
「お客さんのアイディア?」
亜希穂が聞き返すと、店長は「ああ」と頷いた。
「お客さんにね、決まったものじゃなくて好きなものを乗せて食べたいって言う人がいて、じゃあそれをメニューに置こうって話になってね。そのお客さんに『どんな名前にする?』って聞いたら、英語で『RUNNER』が良いって言ったからそれにしたんだよ」
それにシーヴが反応し、確認する様に問い質した。。
「店長、出身沖縄じゃねぇです? RUNNERって流行ってるから便乗しやがったじゃねぇですか?」
「いやぁ、オジサンは地元は此処で沖縄じゃないよ。名前の由来は今言った通りさ」
さあ出来た! と言うと、鉄板の上には焼かれたもんじゃ焼きが出来上がっていた。
おじさんの話を要約するとこうである。
まずRUNNERは店長が考案したものでなく、客の希望から生まれたメニューである。
そしてその名前はその客が付けたものだという。
その客は帽子を目深に被った若者だった。
話を聞けばどうやら占領地から命からがら逃げ出してきた民間人で、どういう事情だか知らないがRUNNERを広めないと追手が来て連れ戻されてしまうのだという。
だからメニューはRUNNERと名付けたいと懇願したとか‥‥
『‥‥‥‥‥』
ちょっと待て。
一同、ここに来て初めて真顔になる。
「いや、泣いて必死に言うもんだから、まあ別に大したことじゃないしね名前なんて。それでRUNNERって‥‥」
ポリポリと無邪気に頭など掻いている場合ではない。決してない。
「薬のRUNNERの時の売人も、ニット帽を目深に被って居やがったです」
「ああ、そうなの‥‥にしても、鈍感ねぇ〜このおじさん。その人きっと逃げてきたんじゃなくて送り込まれてきた人よ」
「にゃははは♪ それでRUNNERを広めろって言われたニャ。思いもがけない所から繋がったにゃ!」
シーヴが見よう見まねでもんじゃを焼きながら、怪訝そうな亜希穂と話し、アヤカは酒が入り顔を真っ赤にしていた。ちなみに彼女、見た目は十七だが実年齢は二十二だ。 一方では桜子と眞耶が頷き合っている。
「それにしても、こんな所でバグアが絡むとは思いませんでしたわ」
「でも、こういう小さな所から噂って流れるのかもしれませんし‥‥侮れませんね」
そして汗をたらしつつ、美月が踊り狂うフレアに声を掛けた。
「曹長さん?」
「へ?」
「あの、話‥‥聞いてませんね。あのですね」
美月が経緯をフレアに話すと、フレアの顔色がみるみる変わっていった。そして同胞全員に向き直る。
「皆!」
RUNNER、沖縄、バグア、それは即ち―――
「経費出るわよ!!」
う゛い゛ぇええええええい!!!
やんや やんや
「ちょっと違うと思うの〜」
以上に盛り上がるNDA部隊に瑞穂がおろおろと呟く。今回の八人には余り関係ないが、フレアは報酬までは出ずとも今回飲み食いした分の、少なくとも半額位は手当がでるだろうと踏んだのだ。
「さーそうと決まったらじゃんじゃん追加するわよー」
目を輝かしたフレアが生き生きと追加していく。それで経費出なかったらどうするんだろ‥‥
「いたたた‥‥す、すいません‥‥お役にたてず‥」
紅緒が腹を抱えている。とうとう食べすぎでリタイアしたようだ。その後はスポンサーであるNDAの面々に酒を酌して回った。
「そういえばデザートもんじゃっていうのがあるって聞いたことありますけど、このお店にもあるのかな?」
すいませーん、と美月の声が店内にこだまする。
「こっちもサラダ追加ニャ」
アヤカの声もそれに重なった。
「ただでもんじゃ食べられるんなら、あたしも満足だしね」
「つーわけで、曹長ゴチでありやがるです」
最強の一言を亜希穂が呟き、シーヴもフレアの所まで歩いて行くと、そのままペコリと頭を下げた。その後も次々と料理が運ばれ、全員が文字通り満足いくまで料理を平らげ、その総量は店始まって以来の大食い記録として名を残す事になったのだった。
●傭兵により提出された「焼いて食え」に関するレポート。監修・絢文 桜子
*バグアと直接は関与していないが、沖縄から送り込まれた人間により「RUNNER」をメニューの名前にしていた様子。もんじゃ焼き自体に問題は無し。
*店主に自覚は無し。
以下、「焼いて食え」についてのレポート
上から準に紅緒、シーヴ、美月、亜希穂
*もんじゃ焼き‥‥美味しかったです。ULTの皆さんも年末の忘年会なんかに使うと良いかと
*アロハもシーサーも「〜さぁ」もありやがらなかったですが、バグアとの関係はあったです。無いと思ってた所に繋がりがあったっつー事で、今後の参考にするが良し
*とっても美味しかったです。お値段も手頃で、どれだけ具を乗せても変わらなくて‥‥ただ乗せすぎるとタネとのバランスが取れなくなっちゃうので気をつけて下さいね
*楽しく食べさせても貰ったわ。店の雰囲気も馴染み易いし、鉄板ものだけど一人でも気軽に入れるわね
*要約すると、「焼いて食え」は庶民的で馴染み易く、値段もリーズナブル。サービスも良く味もいい。忘年会や宴会には持ってこいであり、店員並びに店長が焼き方も教えてくれるので、初心者にも安心である。
以下、上から準にアヤカ、桜子、眞耶、瑞穂
*もんじゃ以外の料理も中々いけるのニャ。お酒もサラダもおいしく食べたのニャ☆
*とろりとした舌ざわり、香ばしい香り。そしてこのお値段。わたくしからは言う事がありませんわ。是非皆さん一度お試しになって
*事前の図書館、市役所等の評判も上々です。ですがお客さんが詰めかけている、というのでもないので、穴場とも言えるかもしれませんね
*美味しかったの☆ 楽しかったの〜
報告内容は以上。
NDA並びに今回任務に参加した能力者一同より。