●リプレイ本文
!?
それは突然にやってきた。突如警報音が鳴り響き、緊急事態を知らせる赤いランプが室内にやかましく点滅する。
「敵襲!?」
白衣を着た人間が齧りつく様に無数のモニターに目を走らせた。すると画面の中の人物と不意に目が合う。
その人物、緋室 神音(
ga3576)は画面越しに覚醒した金の瞳を向け、微かに冷たく微笑した。
●監視
「よし、荷物の到着時間は予定通りだな。しかし」
「どうした?」
「いや、気のせいか、さっきから何か誰かに見られている気が‥‥‥」
―――AM10:00、物資搬入車両、拠点に到着
拠点から数十メートル離れたその場所で、双眼鏡を覗きながらホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)が時間を確認しそう呟く。
「人質は乗ってそうですか?」
ULTから借用した福岡の道路地図を確認しながら旭(
ga6764)が尋ねると、神音に双眼鏡を借り覗いていたアズメリア・カンス(
ga8233)が「その様子はないわね」と切り返した。それに更に付け足す様にホアキンが報告する。
「入口は簡単な門番の通過審査だけだな。これなら当初予定していたとおり、運転手が友好的ならそいつに運転、非、友好的なら脅して運転させるでいけそうだ」
双眼鏡を降ろすと、彼のその緑の相貌が露わになった。
「なら車を止めさせるなら此処かしら」
神音が地図の上にトン、と指を立てる。拠点から少し離れた交差点である。
「そうね、それじゃ、拠点の中は潜入班、頼むわね」
アズメリアがそういうと、見張りをしている四人の後ろで各々武器の整備やウォームアップしていた三人、リディス(
ga0022)、瓜生 巴(
ga5119)、ロジャー・ハイマン(
ga7073)が手を止め此方に顔を向けた。
そしてAM10:15、物心搬入車両が再度敵拠点から出発する。
●ジャック
長い一本道である。そこに一台のトラックを走らせる。後ろの荷台には物ならぬ、「この星の生き物」を詰め込み拠点目指し運行中である。まぁ、それを運んでいる自分達とて同じ生き物なわけだが‥‥‥
そして交差点に差し掛かった時、
「すいませーん」
前方で合図するように手を振りながら黒髪の若い男が声を上げている。その声にゆっくりとトラックを止めると、
「すみません、今どかしますので‥‥」
その男が申し訳なさそうに笑いながら此方に寄ってきた。爽やかな好印象の青年である。その前方を見ると車でも故障したのか、道を塞ぐ様に車が止まっていた。
「すみません。すぐに道開けますんで‥‥」
その車の前で、茶髪の男がそう言っている。その男に目をやっていると、
突然近寄ってきていた好青年、旭が素早く開いていた窓から手を突っ込み表情一つ変えずに助手席の男を引き摺り出す。
「!?」
旭が素早い手つきで窓から車の鍵を外すと、神音が扉を開け中に侵入し助手席の男に月詠を突き付けた。
「なっ!」
「動くな」
冷たく言い放つと、後ろの荷台に三人の能力者が乗り込んでいく。
「それじゃ、中の警備兵の数、他セキュリティ体制を教えてもらうか」
近寄って来た茶髪の男ホアキンの後ろで、
「下準備はきっちりしておかないと、ね」
色の白い細身の女、アズメリアが呟きながら壊れている筈の車にあっさりエンジンを掛ける。そして各々の時計の時間をこの場で合わせる様に合図した。
AM10:30、ドーム状の無機質な建物にトラックが到着。運転手が見張りの男に通行証を見せると、見張りの男が運転手の震えに気づき声を掛ける。
「どうした? 顔色が悪いぞ」
「う‥‥あ、の、の」
がくがくと震えながら運転手が目を白黒させる。そして思い切った様に発した言葉が、
「能力者だ!」
その言葉と同時に、運転席に潜んでいたホアキンが冷静に素早く運転手の男にあて身を喰らわせ黙らせると、後方に付いてきていたアズメリアが派手にトラックと見張りの間に車を割り込ませ急ブレーキを踏む。
同時に車から陽動班が、トラックからホアキンが降り覚醒、事前に吐かせておいた監視カメラやセキュリティにわざと触れる様に攻撃を開始する。
「何だこいつらは!?」
耳をつんざく警報音が鳴り響き、一気に緊張が広がった。応援を呼ぶ無線が取られ辺りが物騒な雰囲気に包まれる。そして、
その異常事態に、敵がトラックの中の人質達の移動を急がせた。
敵は慌てた様子で人質達をトラックから降ろし、身体検査もせずに拠点内へと急がせる。無論その中には従順に指示に従うリディス、巴、ロジャーの姿があった。
●潜入
無機質な廊下を人質達に混じって三人が歩く。どうやら外では陽動班が相当派手にやられているらしく、途中酷く焦った兵士やキメラを連れた人間なんかとすれ違う。
1、2、3、‥‥
(「カメラの数はそれ程多くありませんね」)
肩を落とし歩いておきながら、リディスが胸中でこれまでの道に仕掛けられていたカメラの数をカウントしていく。
(「他、赤外線などのセキュリティも見当たりませんし、ここはあくまで人質や物資が通る道、重要な施設等は近くにないという事でしょうね」)
―――ならば逆に脱出には好都合でしょう
そして素早く目を走らせ、この殺風景で隠れる所など無さそうな道の中、死角となりそうな所まで目星をつけていく。
これは相当嫌な人質である。
(「通常の見学所要時間から、成功に必要な余裕をもった時限設定ができるはずなのに。私達傭兵を誘う罠にしては手が込んでいるし、意味もない。敵側の何者かが発覚を狙って時限装置を早すぎにセットした?」)
不安そうに俯きつつ、その実時計へと視線を落としているのは巴である。
彼女は作戦開始前の段階で「民間人を利用して不確かな破壊工作をするために、機械的爆弾を外科手術で埋め込むのは手間、寄生キメラか、本人の頭部のキメラ化では?」と思い至り爆弾の欠片を調査させている。
だが、調査結果は予想に反し爆弾は外科手術により埋め込まれる機械爆弾と判明、だが、
「だから」現在今の様な事件が二件で済んでいるのではなかろうかという予測がそこではじめてたてられた。
もしこちらより先に相手がそれに気付いていたら、事態は深刻を極めただろう。
「入れ!」
先行していた敵兵士の声に三人が顔を上げる。鍵の付いた扉を一つ隔て、更に思い扉の鍵が開けられた。
『‥‥‥』
中には、やつれきった人々が数人絶望した目で空を見つめている。その中には居るだけでどうにかなってしまいそうな淀んだ停滞した空気に満ちていた。
そんな中、すえた臭いのするその場所に凛とした声が通る。
「自分達はULTから来ました能力者です。皆さん、脱出しますからまず話を聞いて下さい」
『!』
ロジャーのその声に今まで自分と歩いていた人質達、並びに監禁されていた人々の瞳に、光がさした。
そして能力者同士、無線が入る。
―――こちら潜入班のリディス、人質は確保しました。これより脱出します。
―――こちら陽動班の神音、了解、ならこっちは敵を入口付近から遠ざける様にするわ。
ぶつり
その無線の切れる短い音と共に、
轟音―――
覚醒し、全身からオーラを漂わせたロジャーと両手に光る亀裂を生じさせた巴がSES武器で鍵の掛った扉を吹っ飛ばした音である。
「ん、大丈夫みたいですね‥‥行きましょう」
コンクリートの砂塵を上げながら、先程より若干険しい口調でロジャーが言う。その轟音に驚いた見張りがロジャーの姿を確認すると、
「何!? ここにも能力者だと!?」
「!」
姿を見られるなり、驚く見張りの男に一瞬にして近づき軽く昏倒させる。そして気絶させた男の腰からもう一つの扉の鍵を探った。さすがにここから先今の様な音を出して脱出などしていられない。
「この中で走れない人は?」
見つけた鍵を握りしめ、民間人に確認を取る。だが狼狽する彼等から返事はない。が、彼が軽く目を走らせると、
(「いた‥‥」)
見るからに衰弱していて、歩く事は出来ても走る事など出来そうにない者をすぐに見つけた。
―――人質救出の任務でなんだが、どうしたって人質は闘う者にとって足手纏い以外の何物でもない。それが自由に動けないとなると尚更だ。
だが、それでも見捨てはしない。
Life guard
今現在の彼の称号。
いざとなれば、自分の体を盾にする覚悟などとっくに出来ている。
●脱出
「どういう事だ!? いつ能力者を中にまで侵入させた!」
監視カメラが見渡せるその部屋で、白衣の男が怒号を上げる。
「恐らく、今回の『物資』の中に紛れていたものかと‥‥‥」
「検査はしなかったのか!?」
「それが、中に入れるのに急いで‥‥」
「くそっ!」
一つ、又一つと監視カメラの映像が消えていく。そうでないものは死角に隠れているのか、人影らしいものは何も映らない。
その中の一つの小さな画面に、青い眼の女、リディスが一瞬どアップに映ってすぐそれも砂嵐へと変わった。
「あいつらがいるのは物資搬送路だ! 至急そこにキメラを配置しろ!」
「!」
廊下を進行中、民間人の先頭を切っていたのはロジャーである。その目の前には凶悪な目つきをした獣型キメラが低い声で唸っていた。
ロジャーがアーミーナイフで牽制すると、後ろから巴が飛び出し忍ばせていた菖蒲で攻撃、そのまま鬩ぎ合う。その間にリディスとロジャーで民間人を促すと、攻撃をはじき返しダメージを与えた巴がついでにさっき投げたアーミーナイフを鮮やかに回収する。
だが、走れない民間人二人が逃げ遅れているとキメラが民間人に襲いかかる。それは殿のリディスが止めたが、後方より更に新手のキメラ二体が猛烈な勢いで此方目がけて走って来ているのを確認。
「!」
その一体に構っていたリディスに二匹が飛びかかり、一体はロジャーが瞬天速で詰めより防御に成功するが、もう一匹の体当たりをまともに受けた。
「くっ」
全身に襲う打撃、だが彼女は怯むことなく拳を引くと、真っ直ぐに急所突を打ち込む。
キメラがもんどり打ち、倒れた。
だが前方にまたもキメラ出現、壁に一体、天井に二体、スライム型キメラがゲル状の体を滴らせている。
「いっきに突っ切りますよ。歩けない人は場合によっては担いで下さい」
目を細めて巴が言う。陽動班のおかげで警備は薄くなっているが、それでも恐らく、これから幾らでもキメラは出てくるだろう。一体一体相手にしていては此処は抜け出せない。そして時間を喰えば相手から次の手が来る。
巴とロジャーで道を開き、民間人をフォロー。殿はリディス。
走れない民間人も含め、守りながら‥‥‥
無傷じゃあ済まないな―――
そう確信しながらも、三人の顔には微塵も悲壮さは浮かんではいなかった。
一方陽動班では、アズメリアがSMGから月詠に武器を持ちかえ敵に斬りかかる。
「人間とは言え、洗脳されてるか親バグア派。手加減する余裕はないかしらね」
と言いながらも、人間相手の戦闘は手足の攻撃を主とし、今になっても人は一人も殺してはいない。
そして彼女は身を躍らせると、狙撃隊に突っ込み撹乱する。
「人間に爆弾を埋め込んでなんとも思わないのでしょうか。いや、なんとも思わないように洗脳されている人もいるんでしたね」
そう言いながら、なるべく敵を倒さないように蛍火で挑発しているのは旭である。
敵に「投入戦力を増やせば倒せる」という希望を持たせ陽動班に注意を引き付ける為、極力殺さず軽やかに敵を捌いていく。
「人を唯の駒としか扱わないなら情けは無用ね‥‥」
アズメリアの蹴散らした狙撃隊の狙撃が止み、神音が再度攻撃へと転じる。二連撃を繰り出し紅蓮衝撃で絶大な威力でもって月詠を叩きつける。
二連撃、これはどうしても命中率を大きく損なってしまう攻撃だが、此処では命中ではなく注意を引く派手さが目的なので当たらなくとも何ら問題はない。
その時、神音に小動物型キメラが飛び掛かる。だがそれは、突然空中で何かに弾かれた様に軌道を逸らした。
「刻まれる1秒1秒が、終末へのカウントダウン。時限爆弾にされた人の恐怖は、計り知れない」
遮蔽をとり、ホアキンがホォルトゥナ・マヨールーで神音に援護射撃を繰り出したのだ。続けて発砲、今度は旭に近寄ろうとしていたネズミによく似たキメラに弾を命中させた。
「潜入班からの連絡は?」
言いながら、自分の時計を確認する。現在AM10:47、見張り時は十五分程度でトラックが出ていたが、あれは恐らく空のトラックだ。もしかしたら人質は建物の奥まった場所にでも閉じ込められているのかもしれない。
何にせよ、潜入班が出てこない事には次の手が打てない。
「人質は確保した、という連絡は神音さんを通してとれてるわ。奥まった場所にいるとしても、それも無線の届く範囲という事」
アズメリアが身を引き、着地しながらホアキンに告げ、またすぐ構え戦線へと出ていく。
その時である
―――こちら潜入班の瓜生です。じき脱出しますので、車両の確保をお願いします
無線である。
―――こちら陽動班の神音、了解。車両確保、開始するわ
―――‥‥それから拠点内からも多数のキメラが追ってきてますので入口直ぐに車両があるとまずいかも、配慮をお願いします
―――解ったわ
『!』
その連絡を受けるなり陽動班の動きが変わる。
退路と車両を確保し、脱出の準備に取り掛かる。
幸いトラックは此処に乗って来た時そのままで放置されている。人質はそれに乗せれば良いだろう。此処に来た人達に加え、監禁されていた人達‥‥恐らくすし詰め状態にはなるだろうがそれは我慢してもらう他ない。
アズメリアが素早くそのトラックに乗ると、入口から少し離した所に停車する。それからは、そのトラックから引き離す様に立ち回り、足であるこのトラックを死守する。
そこに民間人を連れた潜入班が民間人を連れ拠点を脱出した。
「ロジャーさん! こっちです!」
旭がそれを先導し、トラックの止めてある方向を示す為声を上げ手を振る。
「今行きます! 直ぐにこの人達が乗れるよう出入口を開放しておいて下さい!」
それにロジャーが答える。
「民間人が乗り入れるまでの援護は引き続き私達が引き受けます」
言いながら、拠点出口から湧いて出るキメラの一匹を巴が薙ぎ倒した。
だが、ここには元々外にいたキメラ、並びに新バグア、洗脳された人間の兵士もいる。
「民間人を乗せた車両さえ脱出させてしまえばこちらの勝ちです」
瞬天速で敵を抑えながら最後に出てきたのはリディスだ。
民間人がトラックに乗り込む間、陽動班が民間人にキメラを近づけないようにし、潜入班がそれを掻い潜って来たキメラをなぎ倒し、
そしてAM10:50、なおも追ってくるキメラを振り払いながら、
そのトラックは砂煙をあげて発射した。
―――潜入してから脱出までの所要時間約二十分、無事人質解放。
―――任務完了