●リプレイ本文
夜、蒸し暑い、背後には墓地を控える寺の中、歪んだ空気の漂うその場所に子供達は集まっていた。
百物語。
暗闇の中に蝋燭を灯し、一話終わる毎に息を吹きかけ消していく。
そしてそのすべてが消えた時何かが起こるという。
私の勤めている所とは別の神社のお話です
暗闇の中、一本の蝋燭に顔を照らされ、石動 小夜子(
ga0121)が静かに語り始める。
そこは無名ですが由緒正しい、ごく普通の神社なのですが‥‥参拝に訪れる人達は皆、身だしなみをきちんとした人ばかりです。
なぜかというと、神様に気に入られないようなだらしの無い格好の人は、石段を登っても登っても、境内へたどり着かなくなるという不思議な神社なのです。
(「随分高い石段だな」)
レティ・クリムゾン(
ga8679)は石段を見上げていた。ちなみにお話の中に出てくる能力者は、あくまでイメージです。
(「ふむ、私はこの先の神社に行けばいいのだな?」)
白い光に包まれる夏の真昼時、彼女は踏みしめる様に石段を登っていく。そしてそろそろ着くだろうと顔を上げると、
「?」
自分はまだ石段の中腹におり境内は先にある。だが登っても登っても一向に境内には近づけない。
(「おかしい、何故?」)
確かに自分は上へと石段を上がっている筈なのに、それでも尚いつまでたってもてっぺんが近くならないのだ。
次第に身体が汗だくになっていく。もうかれこれ数十分は上り続けている筈なのに、それでも自分は階段の真ん中から先に動いていない。
やかましい蝉の声が、やけに強い日差しと共に白々しく耳をつんざいた。
異変に気付いたレティが、今度は境内を降りようと階段を下り始める。一歩一歩、確かに自分は階段を下りていた。だが‥‥
(「嘘だろう?」)
今度は、何故か降りられない。降りても降りても、
下の地面が近付かない。
運悪く迷い込んだ人は、一日中鳥居の下で迷い続ける事になってしまうのです
「皆さんも参拝に行く時は気を付けましょうね」
そう言うと小夜子はにこりと笑いふっと蝋燭を吹き消した。
この話のイメージになってもらったレティならまず普通に境内に辿り着けるだろうが、その不可思議な話に空気が染まる。
「じゃあ次は俺がいくぜ」
蝋燭一本分暗くなり、小夜子の不思議な話により雰囲気の出た部屋の中、今度はジェス・レッドフォード(
ga3470)が話し始める。
ああ、こんなのあったな。とあるホテルの風呂場の話なんだけど
シャンプーする時って目閉じるだろ? それで、シャワーでこう‥‥泡すすいでる時に何か頭に違和感があったんだ。目を閉じてるからとりあえず手探りで違和感の原因を探ろうと思ったら‥‥
水の音が反響する浴室内、各務・翔(
gb2025)が腰にタオルを巻き頭にシャンプーを泡立てる。目を閉じ、念入りに洗いあげる。
「?」
だが、その頭に違和感を感じ、そのまま洗う手を頭に這わせ探ると、
手だ。
「!?」
手だったんだ。女の人の手。細かったら直ぐにわかった。しかもその手、両手で頭の両脇を押さえつけるみたいにあって‥‥
ビックリして直ぐに目を開けて鏡見たら、
「!!」
翔の顔が驚きに凍りつく。幾ら女性好きで、女性を見ると口説かずにはいられなくて、更には女性に何かと運命を感じる彼でも、こんな訳の解らない女性は範疇外(という事でお願いします!)だ。
湯気に曇り、雫の玉に濡れたその鏡の中から、
―――背後に‥‥白い顔で濡れた髪の知らない女の人がこっち見てるんだよ!
そこで子供達から悲鳴が上がった。ついでに実は怖い話の苦手な柚井 ソラ(
ga0187)もすぐ側の子供と手を固く握りあい震えている。
「俺、なんで今こんな所にいるんだろ‥‥」
呟きながらも、手を握っている子供には一生懸命「怖くないからね!」と笑いかけているあたり涙ぐましい。だが、ここにいるのは子供達の世話と百物語を盛り上げる為なので、ソラにはもう少し頑張って頂きます。
「そこで急に意識が無くなったんだ‥‥気付いた時はベッドにいて、友人が心配そうに覗き込んでたっけ」
ぼんやりと話すジェスがそこで何かに気づき「ん?」と声を上げる。
「あれ、何か聞こえね?」
その場にいた全員が静まり返り耳を澄ませると、何か小さく音がしていた。
ぴちょん、ぴちょん、
水の滴る音。そしてそれは徐々に勢いを増していくとやがて、
びちゃびちゃびちゃ!!!
天井裏から液体が垂れて地面に打ち付けられる音が聞こえてきた。
小夜子が悲鳴を上げて見せると、子供だけでなく、大人からも悲鳴が上がる。だが素早くネオリーフ(
ga6261)レティ・クリムゾン(
ga8679)が泣き出しそうな子供の手を握り大丈夫と笑顔を見せる。だが、
「この俺が付いている。安心しろ、頼り甲斐があるだろう?」
翔は苦笑いをする小夜子を抱き寄せようとしている。それより子供をお願いします。というより彼ならば、例えジェスの話の様な状況でもめげずへこたれず浴室の女性を口説きかねない。そうして一通り皆が怯えた所で、
「いやー、おっかなかったね!!」
ジェスが自分の蝋燭を吹き消した。
全員静まり返り、すっかり場が盛り上がった所で今度は穏やかな口調でネオリーフが口を開いた。
「それじゃあ、次は僕が」
緊張に震えるその場に、ネオリーフの声が淡々と通る。
とある展覧会に来ていた少年は、絵を外そうとしている館員を見かけましたが、動く気配がありません。
不思議に思って近づくと、それは壁に描かれた絵、トロンプ・ルイユ(騙し絵)だったのです。
「うわぁ、ビックリした」
まじまじとその絵を見ながらソラが声を上げる。ここは騙し絵が展示されているコーナー、辺りはそうした騙し絵に囲まれており、一種異様な空間とも言えなくない。
「すごいなぁ、一瞬本物かと思ったよ」
そしてその絵から振り返り背後を向くと、
「?」
ソラがきょとんと瞬きをする。
「あれ?」
(「さっきまであそこにいたお客さんも、騙し絵だったっけ?」)
さらに辺りを見回せば、周りのお客もいつの間にかトロンプ・ルイユに代わっていました。
「!?」
得体のしれない悪寒が一気に背筋を駆け抜ける。嫌な予感に突き動かされ、ソラは出口へと走った。が、しかし‥‥
「何で‥‥?」
ソラの表情が凍り付いた。
怖くなった少年は外に出ようとしましたが、その出口すらもトロンプ・ルイユ、ただの壁になっていたのです。
そして次の瞬間、少年の目の前に何の絵も入っていない額縁が現れて‥‥
「!」
ある日、とある少年が展覧会にやってきました。
その壁には、恐怖で顔が引きつった少年の絵が飾ってありました。
「‥‥おしまい」
しんと静まり返る寺の中、ネオリーフの声が止み静寂が舞い戻る。それと共に気づかされること。
ネオリーフが語っている間、さっきからずっと囁く様な声がしていたのだ。それから何かを運ぶような物音。それにネオリーフが呟く。
「あれ、この音」
まるで誰かが何かを作るための準備でもしてるみたいですね
「ヒイイィ! ママママジで!!」
今度はジェスが声を上げると、そばにいる子供が悲鳴を上げて彼に抱きつく。それを抱き返すと膝に乗せた。一方今回登場人物をやってもらったソラは涙目で側にいる人に抱きついている。
「わ、あ、あの、ご、ごめんなさい‥‥っ」
そして恥ずかしさ半分、恐れ半分で我に返るとそそくさと座りなおした。だがしかし、
「俺は全ての女性の為に存在する男‥‥運命の相手を庇うのは当たり前だ」
これまた一方では、翔がレティと小夜子に向ってうぇーるかーむと言わんばかりに抱きしめられるよう構えている。無論、二人が腕に納まろうとする筈もないが。
その横では、泣き出し、トイレに行きたがる子供をレティがこっそり促す。
「よし、こっそり行こうか。皆の邪魔をしては悪いからな。大丈夫。怖く無いぞ」
そして怯える子供の手を引き席を立ったが、丁度レティ達が席を立った所で折よく休憩が入れられた。全員が束の間の休息に胸をなでおろす。
が、その外でその様子をうかがう人物が一人。
「休憩に入ったか」
イヤホンに耳を澄ませ呟くのは、こんな季節でも涼しげにフロックコートを着こなすUNKNOWN(
ga4276)である。
「ふふっ‥‥子供の頃の体験はいいものだ。それが一生の糧になる――現実ばかりではない。夢を、忘れてはいかんから、ね?」
そう何を隠そう先程から水音を立てたり人の声のテープを流したりと演出し、念入りの下準備、あまつULTより盗聴器まで拝借した上その他の道具はお寺に協力して貰いかき集め、話を盛り上げてきたのはこの人UNKNOWNである。
「ふふっ‥‥ひと夏の思い出を、だな」
渋く呟かれるその声とともにその手に掲げられたのは、てろりとした蒟蒻だった。
そして子供が戻ってきたところで、
百物語、再開。
その後は能力者以外の参加者が何話か話し、蝋燭を消していく。そして蝋燭が消える度、風の音が聞こえたり、何者かが四つん這いで這いまわる様な音が聞こえたり、参加者数人に奇妙な感触が走ったりと、暗さが増すにつれおかしな現象も増えていった。
そして残された最後の一本。
これが消えれば真っ暗闇である。そして何かが起こるのだ。
その重圧に耐えきれなくなった子供の一人が泣きだした。
「この俺が付いていれば何も恐れる事はない」
翔がそれの頭にぽんと手を置くと、宥める様に言う。
そして最後の語り手は、
さて、最後は私だな。
レティが正座し、語り出す。
さて、これは比較的昔からある話なのだが、ある所に美しい女性が居た。その女性は夫を持っていたが、夫は出世の為にその女性が邪魔になってしまったのだ。そしてとうとう夫はその女性を殺してしまったのだ。
「そんな、何故!? どうしてこんな事を!」
いじめられ役で申し訳ないが、小夜子が、自分の顔半分を手で覆いながら叫ぶ。信じられないという思いから、目が見開かれ目の前の男と女を交互に見やった。
女が意地悪く笑う。夫であった男も嘲笑うように自分を見下ろしている。
「私が邪魔ならばどうしてそう言わなかったのです!? 何故きちんと話してくれなかったのですか! 話してくれさえすれば、私は‥‥」
「面倒な女だ」
「!」
あまりの言葉に、小夜子が絶句する。
「あんたはもう用済みなんだよ。ただそれだけさ」
女も嫌みたっぷりにそう言い放つ。
この二人が何故人をなぶるような真似をするのか、普通に捨てられただけで十分傷つくものを何故こんな真似をするのか。
それは簡単。楽しんでいるからだ。
小夜子の手が顔から滑り落ちる。その顔は無残にも爛れていた。
それからというもの、その男がおかしな事を言い出すようになる。死んだはずの前の妻が夜に自分の所にやってくる、と、そしてやがてはその男の新しい妻まで前の妻が自分の所に来る、と言いだすのだ。
そしてある日、その男とその妻は家で共に冷たくなっている所を発見される。
と、言う訳で皆も誰かを苛めたりすると‥‥
そこでレティが髪をかきあげると、子供も大人も悲鳴を上げた。
こんな顔をした女性に呪われてしまうかもしれないな。
レティの顔には、いつの間にやら爛れたメイクが施されていた。そして微笑を浮かべ、
最後の一本の炎を消す。それと同時に当たりが真っ暗闇に包まれた。
と、同時に天井より何かがボトリと落とされる。参加者は「何? 何?」とどよめくが能力者達はこれもUNKNOWNの演出かと微動だにしない、
が、
暗闇の中落ちてきたそれは、気配から察するに動き回っている。そして、
「え!?」
「うわ!」
「わぁっ!」
真っ暗闇の中ソラ、ジェス、ネオリーフが何者かの攻撃を受ける。
「何!?」
「うぉっ!」
「危ないっ!」
レティ、各務、が更に何者かに攻撃され、石動だけが奇跡的にそれを回避する。
「何事だ!?」
天井裏から明かりを持ったUNKNOWNも異変を察知し降りてくるが、その降りてきた瞬間を見計らって「それ」が攻撃を繰り出しヒットする。
そして明かりに照らされたものは、
『スイカ?』
スイカ、スイカである。寺の差し入れかとも思われたが、それがくるーりと回転すると、
『顔がある!?』
顔が掘りこまれたスイカだ。それが赤マントをたなびかせ紺色の海パンをはき立っている。
最近出現が報告されるようになった夏の風物詩キメラ(?)すいかんである。小柄故、どこか愛嬌があり可愛らしい。
『‥‥‥』
蝋燭が消えると何かが起こる。
もしやそれは、恐ろしい惨劇か?
数秒後、すいかんはその場にいた能力者全員により完膚なきまでにボコボコにされた。
「今度来るときには、もっと怖い話を用意しておきますね」
小夜子が、お話の中の様に爛れさせなどしたら切腹ものの美しい顔に微笑を浮かべ子供達に語りかける。
「終わったー、怖かったね。でももう大丈夫だよ」
ソラも子供の頭を撫でながら笑いかける。子供も勢い良くソラに抱き付いた。
「どうだ怖かったか? でもあの鏡にうつる女の人な、実はあれ、夢で見た話なんだ」
そう言うジェスに子供が安心したように「なんだよ」と返し、服をつかんだり腕に纏わりついたりとじゃれついてくる。
「楽しんで頂けたかな?」
この時ばかりは演出のUNKNOWNも顔を出し、親や寺の人に挨拶をしていた。その横で小夜子とレティの手の甲に接吻し、生き生きと翔が囁く。
「いずれまた運命の元、巡り合うだろう」
そしてくるりと小さい女の子達に振り向くと、
「十年後に俺に相応しい女性になるよう努力するがいい」
そうして話し合う能力者たち、それを一息おき、遠巻きから眺めているレティがのんびりと口を開いた。
「今回の件がきっかけで子供達が更に仲良くなれればな」
「そうだね」
それにネオリーフも呟く。
暑い夏の夜の、ぞくりとする怪談話。
怖いもの見たさの、とある夏休みの一幕。