●リプレイ本文
ソハイル、タゴールの合流地点までの道のりの中、小笠原 恋(
gb4844)の運転するトラックの荷台に揺られながら、ぽつりとカルマ・シュタット(
ga6302)が呟く。
「守れなかったものが俺にもある。けど、今も守りたいものがある」
まだ誰も乗っていないがらんと荷台の中に、その言葉が妙に力強く響いたのは決して人や物が無いからばかりではない。
カルマ・シュタット、彼の両親はすでに他界、そして彼には守るべき只一人の病弱な弟が残されているのだ。
●合流地点
指定された合流地点に着くまでに既に二匹ブラインビートルに遭遇しながら能力者達はその場所に辿り着く。その場所ではソハイルとタゴール、それから他数名の能力者に護衛されている避難民が一か所に座り込んでいた。
「おい、こっちだ!」
タゴールが合図を出し、能力者達を誘導する。三台のトラックが止まりそこに真っ先に降り立つのは風代 律子(
ga7966)である。
「今回の任務は彼等の護送ね。命に代えても守り抜いて見せるわ」
AU−KVをアーマー形態にし周囲を伺いながらヨグ=ニグラス(
gb1949)も人々を促す。
「さ、皆早く乗るです!」
そんな中、常 雲雁(
gb3000)がソハイルとタゴールに運転するトラックを指定。
「タゴールさんは俺と同じトラックです。敵は多数と厳しいですが、守り抜いてみせます。‥‥避難民の皆さんに不安な顔なんて見せられないしね」
そう言う雲雁の肩をタゴールが軽く笑い力強く叩くと指定されたトラックへと歩く。そして、七海真(
gb2668)と目が合うなりにやりと笑うと口を開いた。
「何だお前か、何だってまたこんなとこまで。物好きな奴だな」
「理由なんてねえよ、なんとなくだ」
タゴールの軽口に真がぞんざいにそう言い放つ。それを見、ソハイルも軽く驚くと口を開く。
「君か、あの時は」
「昔話に華咲かせる暇ねえだろ」
面倒そうにそう言って目を逸らす真をソハイルが「相変わらずだな」と笑みを浮かべ指定されたトラックに乗り込む。そこに現地担当の能力者の護衛を縫って、一匹の虫型キメラが此方へ向かい飛び込んできた。
「虫、虫か‥‥」
覚醒した彩倉 能主(
gb3618)が軽く跳躍するなり独り言を呟きながらセリアティスで接近してきた虫型キメラを仕留める。それを串刺しの状態にしどこか楽しそうに眺めた。
「さあ急ぎましょう、よいしょっと」
GIN(
gb1904)がこれ以上キメラが寄らないうちにと、子供をトラックの荷台へと引っ張り上げていた。そして全ての人々が乗り込むと運転席より恋が声を上げた。
「全員乗りましたか?」
すると、現地の能力者が大きく手を振りOKの合図を出す。
「では出発します!」
恋のその言葉と同時に、現地担当の能力者は各々の持ち場へ散り、ドラグーンはバイク形態へ。そして恋達のトラックはアクセルを踏んだ。
●護送
「怪我をしている人は此方へ!」
トラックの荷台の中、先程とは打って変わって人でごった返したその空間にカルマが声を上げる。押し出された怪我人達をざっと見渡し、重症の人からエマージェンシーキットのミネラルウォーターで傷口を洗い、止血し手当、又水が必要な人には自分のミネラルウォーターを渡し飲ませる。
「もう少しですから頑張りましょう!」
うめき声を上げる人々にそう言葉を掛け、意識をしっかり保つ様に呼びかける。そして無線機を片手に呼びかけた。
『現在の敵の状態は?』
『上空先程から追い縋ってくる虫型キメラ二体。後は前方に虫型が一匹と‥‥皆さん、三時の方角に敵が潜んでいます!気をつけて』
答えたのは覚醒し、探査の目にて待ち伏せを発見した恋である。
『解ったです』
前方能主がセリアティスを構え身構える。斜め右から飛び込んできた虫型キメラに身構えていた能主が迎え撃つ形でそれを仕留めると無線機に呼びかけた。
『前方は仕留めたです。そっちは?』
『ボクに任せるです!』
それに答えたのはドラグーンのヨグである。アーマーを装着し前方、能主の後ろを走る恋達のトラックのサイドに付き真デヴァステイターを構え待機。すると恋の言った通りの場所から獣型キメラが猛烈な勢いで此方に向かってくるが、先制を制したヨグが竜の息で射程を補正、竜の瞳で命中を高め引き金を引く。
「よし、そのまま引け!」
そこに更にアーマーを装着し詰めていた真がヨグにそう呼びかけ後退したヨグを確認するなり敵にスパークマシンaを発動させ止めを刺す。獣型キメラは動かなくなるがそこに虫型キメラがヨグと真目がけ急降下、肩や背中に張り付いた。そこに後方二台目のトラックの荷台から顔を出した律子が叫ぶ。
「二人共そのまま減速して!」
減速する二人のドラグーンの、まずヨグとすれ違い様に律子がアーミーナイフで張り付いたキメラの足を切り、更に、
「そのまま動かないで下さい」
三代目のトラックのすれ違いざま、その荷台に乗る雲雁がエクリュの爪で真の虫型キメラを薙ぎ倒す。ボトボトと地面に虫型キメラの落ちる音がした。それを確認すると雲雁も荷台に戻り救急セットを取り出し怪我人の治療に当たる。更に無線機を取り出し前方と連絡を取った。
『こちらは片付けました。GINさん。そちらの状況はどうですか?』
『こちら前方』
出たのはトラック周辺の更に約百メートル程前を走り斥候を務めているGINだ。ゆっくりとバイクを止め辺りの音に耳を澄ましながら双眼鏡を構え見渡す。
そこで確認できたものだけでも前方ハーピー三体、獣型キメラ二体、それから無数の黒い点の様に見えるものは恐らくキメラだろう。やはり、最初に報告されたものよりも若干数が多い。
『キメラを多数発見、一度合流します。恐らく真っ先に戦闘になる能主さんはすぐに対応できるよう待機していて下さい』
そう告げてから自分の確認したキメラの居る位置、数を手短に告げる。そしてトラックに詰められていた子供達の顔を思い出し、エンジンを掛けながらぽつりとGINが呟いた。
「―――いや、まだ子供の頃にね。オレもこうやってトラックの荷台で膝を抱えていたことがあるんです。あの頃のオレは今のオレになって、戦ったり守ったりする力を得て‥‥うん、なんだかこう、色んな感情が入り混じってるんですが」
「今伝えたいのはこんな言葉になりますね――絶対、大丈夫だよ」
軽く笑みを浮かべると、バイクが低いエンジン音を立てながら軽やかに走り出す。
●切りぬけろ!
「これを飲んで、体が温まるわ」
人でひしめき合う荷台の中、律子が暖かいコーンポタージュを手渡し、更にエマージェンシーキットを使い手際良く怪我人の手当をする。その様子を見て不安そうに瞳を揺らす子供達に気付くと如才なく笑いかけ、リネーアとリーフ・ハイエラのフィギュアを与えた。
「もう大丈夫よ、気を楽にしてね」
顔を綻ばせる子供にそう言うと、子供は無邪気に人形で遊び始める。律子はそれを眺め、怪我人の手当てを終えるとさりげなく武器を手に取った。
そして何かを覚悟し武器を構え前を見据えると、
「心配しないで、貴方達は私が必ず守るから」
美しくも強い笑みを浮かべた。
「皆さん! ちょっと揺れるかもしれません。しっかり掴まっていてください!」
そう言って恋が鋭くハンドルを切る。前方一番前を走るトラックが切りもみする様に大きく揺れた。それと同時に能力者は全員再度覚醒、荷台のカルマも動けない人がその揺れに転がってしまわないよう身体を支えてやる。そしてその場に居る全員に呼びかけた。
「もう少しですから頑張りましょう!」
怯えた人々をそう元気づけながらショットガンを構える。どうやら先程GINが言っていたキメラの群れと遭遇したようだ。すぐ側で能主の攻撃する音が響いてきた。
「くっ!」
だがトラック前方を守護する能主にハーピーが突進。すぐに上空に舞うハーピーに向かい恋がS−01で強弾撃、そして射撃。命中。
「近寄らせません!」
そしてすぐに止まらぬ様アクセルを踏む。そこにカルマが更にショットガンで止めを刺す。だが上空にはまだハーピーが二体。三台のトラックの上を飛び回っていた。
「ここに俺が居る限り、近づけると思うなよ」
それにカルマが再度ショットガンを構え狙いを定める。だがそこに群がる虫型キメラブラインビートル。三体が一台目のトラックに突っ込んできた。
「させるか!」
そこに真が竜の鱗で防御を高め盾になり、更にGINもトラックを庇う形で攻撃を受ける。だがそのうち一体が恋の顔にぴとりと張り付いた。
「キャー! な、なんですかコレ?何も見えないですぅ〜! なんか生暖かくて気持ち悪いですぅ〜〜!!」
惰性で張り付いただけなので、どうやら攻撃にはなっていない様だが騒ぎまくる恋。引っぺがすなり車外にでたそれを能主が止めを刺す。
「本当に顔に張り付いた‥‥」
そしてまじまじと見た。
一方三台目、後方車のトラックでは雲雁が入口付近、突っ込んできた獣型キメラをエクリュの爪で受け止め一撃入れ吹っ飛ばした。疾風脚を使った足の膝から下は無職透明の光に包まれている。
「無粋な乗客には御引き取り願いましょうか」
武器を構えるが、隙を狙ったもう一匹の獣型キメラに体当たりを受ける。だが、
「やっ!」
接近していたヨグがイアリスで攻撃、キメラが唸り声を上げると動かなくなりトラックとどんどん距離が開いて行く。
だが、二台目と三台目のトラックの間に二匹の獣型キメラが左右から入り込んでくる。その内の一体はハンドガンで撃退するが、もう一体に律子が攻撃を受けた。
「やったわね」
言いながらも、律子はキメラに致命傷は避けるよう攻撃、足を奪い無力化。車外に叩きだす。
「‥‥これが当たればいいんだけど、な」
更に上空を飛ぶ残り二体のうちのハーピーの翼を狙い、カルマが発砲。命中、悲鳴の様な声を上げながら落ちるハーピーがその勢いのままカルマに突っ込み腹に一発くらう。だが、相手が再度動き出す前に真が止めを刺し、もう一体をGINがアサルトライフルで撃ち落とす。そして無線機を手に取り、
『これで後は虫型キメラが残るだけです』
それに答えたのはヨグだ。
『なら、後は構ないで適当に攻撃しながら振り切るですよ!』
三台のトラックと四台のバイクは、たかる虫型キメラを振り払いながらその地を駆け安全地帯へと走って行った。
●護衛完了
キメラを振り切り、ほぼ安全地域へと入り、後は目的地へと向かうまでの短い道のり。
「もうキメラは切り抜けました。安心して下さい」
荷台の雲雁が人々に声を掛ける。すると重傷者が傷が苦しいのか息を荒くしながら哀しそうな眼で雲雁の目を見るが彼は安心させる様に軽く微笑んでやる。
「怪我で心細いのは解ります。ですがもうすぐ着きますから気をしっかり持って下さい」
するとそんな彼の元に床に置いておいた無線から何やら声が聞こえてくる。
『‥‥乱暴な運転ですみませんでした。でも、もう安全ですからね』
『確かにな。あんたあんな運転して中の奴等とかまずかったんじゃねえのか?』
『だ、だ大丈夫ですよ!』
慌てた様な恋の声に、真の声、そこに荷台のカルマの声も参加する。
『大丈夫、皆無事ですよ。傷口が開いてしまった人もいませんでした』
恐らく、皆無線をつけっぱなしにしながら運転しているのだろう。
『ふふ、こっちも重傷者が居るから早く病院に行かしてあげたいとこだけど、取り敢えず大丈夫よ』
そこに律子の声が流れる。どうやら彼女の居るトラックも無事だったようだ。三台とも中で適切な手当が行われた事が幸いしたのだろう。この分なら犠牲者は出そうにない。
『首尾良く行ったみたいだな』
そこに満足げなタゴールの声がした。
『ああ、上手く振りきったみたいだ』
ソハイルも呟く。そこにヨグが思いついた様に声を上げる。
『お二人とも初めましてです! さっきは急いでいて挨拶も出来ませんでしたし。そういえば‥‥えと、ソハイルさんと初ですので何かこう、呼び名をつけて欲しいですねー』
『呼び名?』
その可愛らしい申し出に場の空気が和んだ。沈黙が走ると、
『よ、よ、ヨグリン‥‥』
瞬間、一気に無線が沈黙した。
『駄目か?』
そこにおろおろとしたソハイルの声が響くと、
『駄目、とは言わない‥‥です、が』
そこに逡巡したような能主の声が響く。
『他は、何か無いですか、ね?』
GINがフォローする様に言葉を紡ぐ。
『ヨグリン‥‥何か小型のキメラみたいな名前よね‥‥』
こちら律子。
『まあ呼ばれる奴が良けりゃ‥‥良いんじゃねえか?』
こちら真。
『‥‥』
そして何か言いたげなソハイルの様子が無線越しからもヒシヒシと伝わって来ていた。それを雲雁が軽く笑みを浮かべるとそっと手を伸ばし切る。同時に目的地に着いたのかゆっくりとトラックが止められた。
トラックが止められるとGINとヨグが、
パンっ!
にやりと笑うとハイタッチ、その場に景気の良い音が心地よく響く。
「やりましたね!」
「はい!」
GINが言い、ヨグが頷く。
その後ろでは待機していた救急隊が怪我人を運び出し、後の安全な人々はこの地滞在の手続きと人数の確認を取られている。列の後ろの時間の掛かりそうな人は恋がココアを振舞っていた。
すると子供が何か言いたげに恋をじっと見上げる。
「怖かったね。でももう大丈夫よ。お家に帰りたい? うん、何時かお姉ちゃんが怪物からあなた達の家を取り返してあげるね。うん、約束するわ」
だが恋は笑顔でそう言うと、子供の頭をそっと撫でた。
「上手くいきましたね」
雲雁がそう言うとカルマが「はい」と頷く。そこに歩きながら此方に近寄って来ていた律子が足を止め二人の横に口を開く。
「さっき救急隊の人に言われたんだけど、『人数にしてトラック三台分。よくあの大軍から護衛しながら早いうちに全員の応急処置をやってくれたな。じゃなきゃこうは行かなかった』‥‥ですって」
「トラックの運転席だけじゃなく荷台にも一台に一人護衛を付けたので、それが功を奏したです」
能主の言葉にタゴールが「ああ」と頷く。
「その全員が何かしら手当の道具を持っていたのも幸いしたな」
「昔話する暇もないほど、行動も迅速だったしな」
からかうように笑いながらソハイルがちらりと真を見やる。だが真はそっぽを向くとどこかへ行ってしまった。
避難民護衛任務。重傷者数名、軽傷者多数。されど犠牲者なし。
重傷者も早い段階での手当てのお陰で、その被害も最小限に留められた。
だからこそ、此処にいる人々は例え一時家を失おうともこれから互いに手を携えて立ち直っていくだろう。
今回、一つとしてその手が失われることがなかったのだから。
そんな中、ソハイルとタゴールの背中を見て呟く者が一人。
「‥‥ま、こんな縁も悪くはねぇか」
真が離れた場所で人知れず、穏やかな表情で呟いた。