タイトル:零したもの残されたものマスター:仁科 あずみ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/19 20:04

●オープニング本文


 荒涼とした広場に、女が立たされている。
 その眼は恐怖に見開かれ、体は委縮し小さく震えていた。呼吸は荒いが、それでも女は直立不動でその場に立ち尽くしている。
 ―――十秒以内に返事がないようならば、この女を射殺する
 一瞬、ビクリと女の身体が引き攣る。動悸が強くなり、呼吸も荒くなる。それでも、女は岩の様にその場所から動かずにいた。
 一、二、――――――
 カウントが始まる。数える声が一つ増える度に震えが大きくなり、呼吸だけが乱れ、気道を通る空気の音が自分の耳に大きく響いてくる。

 ――――――八、九、十
 ばすっ

 そんな間抜けな音がしたと同時に、立っていた女は前のめりにパタリと倒れて動かなくなった。


●不法に滞在されている空き家―――無機質で箱の様な部屋の中
 無表情、無感動、無気力を絵にかいたような、年の頃17、8と見られる少女がぼんやりとした目で男の背中を眺めていた。
 その口が「ばっかだなぁ」と声を出さずに吐き捨てる。

 ―――目の前に居る男は私の父親である。座って、無線機の様なものでしきりに何かを喋っている。
 私はそれをただ座って呆然と眺めていた。
 まあそれはいつもの事だ。私がまだ幼かった頃に母が死に、それからはずっと毎日こんな感じですごしてきている。
 馬っ鹿だなぁ‥‥と父の背中を見つめる。
 父はもう人間らしさを捨てている。
 母が―――居なくなってからだ。
 母が殺されてから父は変わって、というよりへそを曲げてしまったのだ。
 母は、まだ私が子供だったころ、今人類と交戦中のバグアに射殺された。
 ―――が、何とビックリ、父は現在バグアと仲良しこよしである。‥‥向こうはそんなつもりさらさらないだろうけど。
 なんでも、能力者なんて人質になった母を助けてくれなかったから宛てにならないらしい。ならいっそ敵側に着けばとかなんとか。人を見殺しするような機関なんて潰れちまえとか、あとは‥‥そうしていたら、取り敢えず私は死なないとか、そんな事を思ったらしい。
 馬っ鹿だなぁ‥‥

「あのさ父さん」
「なんだ、レン」
「‥‥能力者だって、万能じゃあないって」

 昔一度だけそう言った時、父の張り手が私の頬にさく裂した。
 母は‥‥
 「必ず助ける」と言った能力者達の作戦行動の結果、犠牲者少数名の中の一人になったのだ。


●ラストホープ―――UPC本部
 ―――本部のモニタが明滅し、文字が羅列する。バグアに手を貸す民間人の家族がバグアの作戦をリーク。以下、その文章である。

 市街地にキメラ出現予定の情報を入手、タイプはハーピー二体。混乱し逃げ惑う人々が密集した所を狙って上空より攻撃する。
 しかし、これらは単なる囮で、本命は暴れるキメラに混乱する人々に紛れ、バグアに手を貸す男が街に爆弾を仕掛け街一帯の機能を停止に追い込む事が目的。街の農業生産プラントを筆頭に、主に交通網をマヒさせ、警察、高層ビル、大企業の手足になる支社や支店を中心に破壊。
 旅行にでも行くような、中身の詰まったドラムバッグにリュックサックを背負った中年の男がいたら要注意。厳戒態勢を求める。
 ―――追伸、できたらでいい。男は殺さないで。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
夕凪 沙良(ga3920
18歳・♀・JG
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
佐竹 優理(ga4607
31歳・♂・GD
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
レールズ(ga5293
22歳・♂・AA

●リプレイ本文

 肌も髪も白い女、リン=アスターナ(ga4615)の唯一黒い印象的な相貌が此方を射抜いた。
「‥‥はっきりと答えて。『できれば』ではなく‥‥貴女が父親を本気で助けたいのか、否か」
 空を切り裂くようなキメラの声が遠く聞こえる。


●娘と能力者と

 ラストホープUPC本部。その個室に少女はいた。
「風貌は短い黒髪で、四十五、六位で実年齢より若く見えます」
 目を伏せたまま、レンが淡々と答える無機質な部屋に幾分気圧されているのか、時々落着かない様に視線がさ迷う。
 能力者に出頭を依頼された彼女は素直に本部に顔を出した。そして父親の風貌、その他知っている事を話はするが、始終委縮した様な態度を取りまともに本部の人間と目を合わそうとしない。
 そんな彼女の手を、藤田あやこ(ga0204)がそっと取った。
「!」
 びくりと身体を引きつらせ、レンは幾分怯えた様子であやこの顔を見る。
「やっと顔を上げてくれたわね」
 にこりとあやこが笑う。そして明るい声でレンに話しかけた。
「―――いい良く聞いて、私もね、家族をバグアに殺されているの」
「‥‥‥」
「私の目の前でバグアは指折り数えて殺しました‥‥父と母と妹よ」
 綾子の目には涙が滲んでいた。それをどうしたらいいのか解らないような顔をしてレンは眺めている。そして綾子は更に続けた。
「そして勝誇って言いました。V3だと」
「ぶいすっ‥‥‥」
 つんのめったのは遠石 一千風(ga3970)である。
「それはほんとにバグアかっ!?」
 米神に手を当てながら吐き捨てる。が、あやこはお構いなしだ。
「だから私は、あなたのお父さんを助けたいのよ」
 俯き、黙りこくってしまったレンに今度は一千風が近寄った。
「とにかくっ、―――レンさん。私もあなたの父さんは救いたい。けどその為にはあなたの協力が不可欠なんだ。辛いとは思うけど‥‥その」
「はい」
 弱々しくも、しっかり頷くレンに一千風が顔を緩める。
「‥‥それじゃあ、まずはあなたの父親の事をもっと話してもらおうか」
 こくんと頷き、訥々と語る彼女の話を二人は辛抱強く聞いていた。


 レンより得た情報を無線で街に紛れた能力者達に流していく。以下その内容である。
 *男の容貌を確認、四十五、六の、黒髪の頭。痩せ型で背の高い男。リュックサックとドラムバッグの色は共に深緑。使用される爆弾の形態は不明だが、仕掛けた後遠隔操作にて爆破させるタイプの物だと判明。スイッチは男自身が保持している。
 情報提供者からは以上、後、男の娘を連れ合流する。


●市街地―――キメラ討伐A班

「だ、そうですよ」
 いつもの賑やかな喧騒の中を歩きつつ、耳に入れていたイヤホンを指で摘み弄びながら佐竹 優理(ga4607)が呟いた。
「はい、作戦行動直前にはなってしまいましたが、娘さんと接触が取れて何よりです」
 イヤホンの入った片耳を押さえ、眼鏡を持ち上あげながら答えるのは水上・未早(ga0049)である。
「これで私達のグループは藤田さんと合流すれば準備万端ですね。私はキメラが視認でき次第射撃体勢に入ります」
 佐竹もふむ、と頷いた。
「ま、私は人々の退避をお手伝いしてからぼちぼち‥‥って所でしょうかね」
 二人は軽い日常会話の様に喋りながらも、僅かな違和感も見逃さないほどその神経を辺りに張り巡らしていた。


●市街地―――キメラ討伐B班
「写真は‥‥手に居入らなかったみたいですね」
 うーん、と虚空を見上げながら呟くのはリゼット・ランドルフ(ga5171)である。胸元から小さなマイクを取りだすと、
「その情報をプラントの職員にも通達して下さい。プラント周辺に怪しい人物がいないかチェックしてもらい、見かけたら即座に連絡を入れてもらえるようにお願いします」
 イヤホン越しに「了解」と返事が返ってきた。
「黒髪で痩せ型、四十五、六で背の高い男、ですか」
 レールズ(ga5293)が確認するように反復すると、夕凪 沙良(ga3920)が「ええ」と頷き続ける。
「でもそれよりも、持ち物を良く見て探した方が早いかしら」
「そうですねぇ‥‥一番解り易くはありますね」
 のんびりと、レールズが同意したその時である。

 頭上から何かを引っかく様な甲高い声が響き渡った。


●キメラと能力者と父と娘と
 キメラの声が響くと同時に、一人で歩いていたリンが無線に手を伸ばす。
「こちらリン、キメラ出現。私は引き続き男を捜索します。今は農業プラントに向かっています。合流するなら其処で」
「了解」
 無線越しに聞こえたのは一千風の声である。返事が来るなり無線を切り、農業プラントに全力疾走する。と、少し離れた高層ビルから、何かが小さく光った。
 あれは―――

 未早は高層ビルの一室で、スナイパーライフルを構え腹這になっていた。覚醒により上がった視力で真っ直ぐに敵を見据え、
 ―――スナイパーの隠密潜行
 それが今の彼女の冷たい冷静さに拍車を掛けている。
(「鋭覚狙撃で羽を狙ってその飛行能力を削ぐ、射程は狙撃眼で補正」)
 動き回るハーピーの羽に照準があった瞬間、彼女は躊躇いなく引き金を絞る。
 命中。
 爆音と共に、キメラが悲鳴を上げ落ちて行く。
(「成功。後は此処で頭上からキメラを牽制、下には―――」)
 立ち上がり、彼女が視線と銃口をビルの下に向けると、
「さて、やりますか」
 ふらふらと人々めがけて落ちて行くキメラの進行方向を、覚醒した優理がS−01で補正し自分へと促す。
「全く、落ちるのにも、人を巻き込まないと、居られないなんて、迷惑な、キメラですねぇ」
 言葉を切る度に銃の反動で手が小さくはねた。その射撃により、確実にキメラは退避する人の群れから離れていく。
「‥‥といっても、これじゃ碌なダメージにはなりませんけど」
「おまたせー!」
 そこにあちこちへこんだボロボロの車が乱暴な運転で割り込んできた。中から出てきたのはあやこだ。彼女はまだ中にいる一千風に目で合図すると、即座に優理の武器に練成強化を施す。
「かすればいいの。派手に弾を撒いて!」
 彼女の声と同時に、車はすぐに走り出し、ビルの隙間の細い路地浦へと入って行った。

 ―――狭い裏路地に入った車の、はるか上ビルの屋上から屋上の隙間を、素早い動きで何かが通り過ぎる。
「‥‥‥ここは低めのビルが密集しているのね、助かったわ」
 走りながら呟くのは沙良だ。全身に風を纏い、足もとまで伸びた髪を靡かせながら驚異的な身体能力でビルの間、又街路樹など足場になりそうな物を使いキメラを引き寄せる。キメラの進行が人々に向くたびに射撃で注意を引きつけた。
「夕凪さん、そのまま電柱を伝って、下に降りて来て下さい!」
 突如、迷いの無い男の声が辺りに響く。
「!」
 叫んだのはレールズだ。覚醒した彼はブロンドの髪にエメラルドの輝きを目に宿し、S−01を構え地上から油断なく発砲している。
 夕凪が軽やかな身のこなしで地上に降りると、それを追うようにキメラの高度が下がった。
「今ですリゼットさん!」
 その声と共に、キメラの後方から駆けてきたリゼットが刀で豪破斬撃、急所突きで羽根を狙う。羽を切り落とされ、ハーピーが地面に叩きつけられる。
「ぃやったね!」
 覚醒により髪が黒く染まり、左の手の甲に蝶の模様を浮かび上がらせたリゼットが可愛らしく拳を握って見せた。


 道を抜けた車が、街を猛スピードで駆け抜ける。
 その行先は農業生産プラント。
 戦時下にある人々の大切な、いや貴重な食糧元となる施設である。
 運転しているのは一千風だ。免許を持っているのか、それとも勘で運転しているのか、酷く乱暴な運転でハンドルを握っている。
 その車が止まった。
 止まった車に近寄って来たのはリンである。何かを言おうとした一千風にすっと指を立て「静かに」の合図をした。
「来て、いるんだな?」
「はい」
 緊張感の漂うその表情に、一千風の顔も引き締まった。
「状況は?」
「リゼットさんがプラントの職員にも情報を渡すよう言っておいてくれたから、男はそこで職員と揉み合ってます。相当、困惑しているみたいです」
「そうか」
 頷くと、レンに「いくぞ」と促し車を降りた。
 三人は施設の入口に身を隠し中を窺う。中では大荷物を抱えた男が職員に必死に抵抗していた。
「そこをどけ! プラントが一般人立ち入り禁止なんて俺は聞いてない! どけって言ってるだろ!」
「‥‥父さん」
 消え入りそうな声で呟いたのはレンだ。それを横目で一千風が眺めるが、
「あれで、間違いないな」
「はい、特徴とも一致してます」
 わざと気付かないふりをした。
「ならまさに今がチャンスだ。いくぞ!」
 言うなり、一千風が覚醒する。全身を包む様に紋様が現れ、一瞬にしてレンの父親の懐に潜り込んだ。
「!?」
 男の眼が驚愕に見開かれると同時に、鮮やかな手つきでその身体を組み伏せる。同じく覚醒したリンも銀色のオーラを纏いながら瞬天速で移動。むしり取ったドラムバッグとリュックと起爆スイッチを確保した。
「なっ!? 何だお前らは? 離せ!」
 もがく男の前にレンが現れる。
「‥‥レン?」
「‥‥父さん」
 相変わらずの無表情で、レンは父親を眺めていた。


●過去と今と
 無線機越しに声が聞こえる。
「大丈夫か、どこか怪我をしたりはしてないか!? 待ってろ、今能力者達がお前を助けに―――」
 ―――ねえあなた
「‥‥なんだ?」
 ―――私が今此処で死んじゃっても、レンにはあなたが居るから大丈夫ね
 涙交じりの声。でも明るい声。
「‥‥え?」

 その後、要求に応じない能力者達の前で女が一人殺された。

「お前達が見殺しにしたんだ!」
 無抵抗の、自分より若い男の胸倉をつかみ上げる。男は俯きハッキリとこう言った。
「ああそうだ俺達が見殺しにしたんだ」
 そう言ったその時の男の顔は、酷く―――


「離せっ!」
 レンの顔を見るなり、暴れ出した男に一千風が更に力を入れる。
「爆破テロの男は確保しました。各々、キメラが片付き次第農業生産プラントに集まって下さい」
 その横で、リンが事務的に無線を入れる。そして黙っているレンにその視線を向けた。
「レンさん、私一つ気になっていた事があったの。いい?」
「?」
「‥‥はっきりと答えて。『できれば』ではなく‥‥貴女が父親を本気で助けたいのか、否か」
 レンが凍り付き立ち竦んだ。
 遠くでハーピーの声がする。


 ハーピーの声がこだまする。
「じゃんじゃんバリバリ恨み節♪」
 悲鳴のような声を上げキメラに、あやこがS−01を派手に発砲した。頭上からは未早が正確な射撃で援護している。
 優理は蛍火に持ち替え構えを取り、
「――っ!」
 気合いと共に、豪破斬撃と急所突きの同時発動。二人の射撃により追い詰められたキメラに止めをうち、その戦闘は終わった。
「さてこちらは終わりました。リゼットさん達は―――」


 レールズはS−01からソードに持ち替える。ハーピーが鋭い爪で攻撃するも、鮮やかにそれをかわし一撃を浴びせた。
「残念だけど・・あまり長く付き合うわけには行かないの・・さようなら」
 呟いたのは沙良だ。射撃でキメラに傷を負わせ、よろめいた所に二人が止めを刺す。
「こちらも片付きました。プラントに急ぎましょう」
 立ち上がり、リゼットが呟く。


●未来と
「私は」
「リンさん!こっちは終わりました」
 声と共に、長い黒髪を揺らしながら未早が現れた。その後ろから、戦闘を終えた能力者が集まってきた。
「私は」
「レンさん?」
 固まるレンに、未早が心配そうに近寄る。
「殺さないで」
「え?」
 不思議そうな顔をする未早をよそに、リンは静かに頷き、一千風もにっと頬を吊り上げた。
 そんな中沙良がつかつかと前へ出る。そして、

 ぱぁん

 男の頬を引っ叩いた。
「っ! 貴方の計画が成功したとしてそれで貴方の気が晴れるのですか? それが自分と同じ人達を踏み台にしてまでやり遂げたかった事なのですか? 自分に出来る事も考えようともしないでただ逃げるだけで‥‥自分が残された意味をもう一度考えて見なさい!」
 一同、一瞬唖然としたが、レールズも男の前に屈み、言う。
「あなたが俺達能力者を恨むのは構わない。俺達はあなたの大切なものを守れなかったのは事実です。ですが、あなたは少しでもあなたの娘さんの事を考えた事がありますか? 自分の母親を殺した相手の手先となってる父親を持つ少女の気持ちを、あなたは考えた事があるんですか!?」
 男の表情が強張った。
「あなたの娘さんがどんな思いで通報したのか、あなたは考えた事なんてないでしょ?」
「あ‥‥」
 ゆっくりとレンの顔を見上げる。
「あ‥‥」
 男が、叱られた子供様な顔をした。
「ん、そうね」
 そこに、綾子が頷く。
「よしこうしましょう」
 あやこは男の腕を取ると、
「惚れた、結婚して下さい。ほーらレン、お母さんよ」
 はい!?この場の全員の心境を表すのなら、この二文字だろう。
「私一人ぼっちなんです。炊事洗濯掃除も出来ます。戦闘は‥‥一生懸命憶えます。だから一緒になって。能力者は万能じゃないけど‥‥でも、凄い科学で護って見せます」
「あ、あの」
 この時、初めて男がたじろいだ。
「貴方が死んだら娘さんは誰が護るの?」
 その言葉に、はたと男が固まる。
「私には死んでも悲しむ人がいません。でも娘さんを一人ぼっちにしないで」

 ―――私が今此処で死んじゃっても―――大丈夫ね

 男の中で何かが重なる。そして―――

「そんな事‥‥言うな! 聞きたくない!」
「!」
 驚いた様な目をして、あやこが何かを言おうとし言えずにいると、レールズが男に囁く。
「なにはともあれ、娘さんだってきっと悩んで苦しんだ末に決断したんです。一緒に謝りましょう? お互い謝るべき事を謝りに」
 優しいが、どこか悲しげな眼。そうだ、あの時無抵抗だったあの男の顔も、
 酷く―――悲しそうで。

 とん、と優理がレンの背中を軽く押した。
「いいかい? お父さんに言いたい事は全部言うんだよ。遠慮も手加減も要らない。時間がかかっても良いから、今言いたい事を全部ぶつけちまうんだ」
 言われ、レンが発した言葉は。
「父さん」
「‥‥」
「私、謝らないから」

 その後拘束された男は、UPC本部に引き渡された。結局最後まで父親は娘の顔を見ず、娘もそれきり何も言わなかった。能力者と娘を残し、父親は連行されて行く。
「すみません‥‥俺達はあなたから母親だけではなく、父親も奪ってしまいました」
 俯きながら、レールズが呟いた。
「いいえ」
 それに、レンがゆっくりと顔を上げる。そして能力者一人一人の顔を見ると、
 笑った。
「これでいいの」
 唖然とする八人に、空から優しい風が吹く。風は全てを包み込み、それから舞い上がって消えた。
 零したもの残されたもの。
 戦争というものがある限り、それは必ず生み出される。
 だが、一つでも多く救う為、一人でも残されるものを減らす為。
 この八人は此処に居る。