●リプレイ本文
「‥‥こちら生存者保護班、キメラを発見したで! 公園端の東門から道沿いに来てや!」
無線を持ち叫ぶのは要 雪路(
ga6984)である。しかしその無線の向こうから聞こえてきたのは、
「こちらキメラ捜査班、生存者を発見しましてよ。申し訳ありませんが、人命を優先させて頂きますのでそちらには少々遅れそうですわ」
冷静なロジー・ビィ(
ga1031)の声が機械越しに聞こえてくる。
互いの目標が入れ違いに発見された能力者達の経緯はこうである。
○公園:B班
能力者達が立っていたその場所は、既に公園というより深い森と化していた。
キメラが出現するようになってから管理局からも放置され、人手が入らぬ土地となってから暫く経つ。木々や背の高い雑草に遮られた地面は湿り、逆にむき出しになった地は固く荒れている。
そこに居るのは公園内を先行し、行方不明者を保護するチーム、通称B班の四人雪路、夏 炎西(
ga4178)、藤宮紅緒(
ga5157)、フォル=アヴィン(
ga6258)である。
「こりゃまたえっらい事になってんなぁ‥‥」
感心した様に雪路が呟いた。
「人が入らなくなって時間が経ちましたから、しかしこうして放置されているのなら是非とも耕して何か植えたくなりますね」
山育ちの炎西が真直ぐな眼で放置された土地を眺めている。後半部分の台詞に他の三人が「え?」と顔を向けた。
「あ、あの、植えるならじゃが芋にしましょう‥‥どこでも育ちますし」
しかも食べられるし。
「紅緒さん、そこはいいですから、そこじゃないです」
おどおどと言う紅緒に、フォルが汗をたらしつつ手の平でストップを掛ける。
「しかし、けったいな依頼やなぁ。倒したキメラを持ち帰って、食べるーゆうんは。人が行方不明になっとるのに、悠長なモンやで、ホンマ。まぁ、キメラが出没するいうんは本当みたいやし、ええねんけどな」
雪路がそう言うと、フォルも呟く。
「ええ‥‥食べるからキメラ持って帰ってきて、ねぇ‥‥ま、とりあえず行方不明者の捜索が先ですね」
すると突然、四人の元に行方不明者に関する情報の無線が入った。それによると、
*過去この公園で発見されたキメラは虫型のものが一匹と獣型のものが二匹。植物型のものが一匹の計四匹。
*失踪したのは全部で五人、中年の男性と女性が一人ずつ(三十五歳から四十五位の風貌)、二人の少年と一人の少女(両者共に十代前半)
*いずれも家出などの理由は思い当たらず。
「やはり全員巻き込まれたと考えるのが妥当でしょうね」
情報を聞き炎西がそう言うと、紅緒も「はい」と頷いた。
「それで‥‥どうしましょう、どこから探します?」
「そうですね、まずもし自分が助かって、この公園内を逃げ回っていたとしたら―――」
「監禁されてる可能性もあんねんで?」
炎西の発言を指摘した雪路に、フォルが口を開いた。
「それでも、公園の中心部、視界の開けた場所に怯えた人は逃げませんよ。監禁するにしても普通温室とか、深く木々の繁った所とか、取りあえずはですけどそんな所を回ってみませんか?」
せやなぁ、と雪路が呟く。
そして一行は無線でA班に回るエリアを告げると、公園の温室、並びに屋根のある休憩所をポイントに、調べ始めた。
○街:A班
福建省の某所、戦時下にしてはかなり良い治安を保っている地域の為、街にはそれなりに活気があった。
むしろ国や治安というよりこの街の人々が色々逞しい方々の集まり、という事が大きく寄与しているのだろう。なんというのか、ここに住んでいる人々は‥‥めげない。
四人、ロジー、那智・武流(
ga5350)シーヴ・フェルセン(
ga5638)アンドレアス・ラーセン(
ga6523)は公園管理局にて入手した地図を手に入れた時点でB班とは別れ、街で情報を集めている。目の前には地元の警察が座っていた。
「‥‥以上が失踪した五人の年齢と特徴だ。いずれも家出などの理由は見当たらない。他には?」
「過去に出現したキメラにはどんな種類のものがありやがるですか?」
シーヴがそう質問すると、警察の男は淡々と返答する。それを無線を持ったロジーがB班に伝えていた。無線を切ると視線を全員に戻しB班の行動を伝える。
「B班は温室の方向へ向かうそうです。地図で言うのならばこっち、芝生というより木や丈の高い草が茂ったエリアですわね」
「なら俺達はこっちの、並木道やマラソンコースがある方のエリアだな」
地図を指しながらアンドレアスが言った。すると武流が憮然と呟く。
「しっかし‥‥食えるらしいってのは聞いた事あるけどマジで食うのか?」
「キメラ丸ごと原型‥‥一体どんなお料理なんでしょう?」
その横でロジーが興味津々に小首を傾げた。
「肉のあるキメラなら良いんじゃねぇかと思うですが、昆虫型とかは‥‥シュールでやがるです。それでも中国人、食いやがるんでしたか?」
「食うんじゃねえか? まあものにも寄るんだろうけどよ‥‥」
淡々と告げるシーヴに、アンドレアス。虫を食べる文化のない二人がどこか不思議そうにそう話している。
「まあ、要請されりゃ原型のまんま持ち帰るけどな。じゃあ現場へ向かうぞ、アンドレアス、運転頼むな」
武流がそういうと、アンドレアスがおう、と返事をした。
○公園探索
B班に続きA班も公園に到着すると、すぐに探索を始めた。草の茂った場所を探ると、何者かが通った後がある。それを辿るとB班とは反対方向の開けた場所へと出た。
「おーい、誰かいないかー!」
通った何者かが生存者である可能性もある。武流がそう叫びながら一行が膝元まで雑草の伸びた平野を歩いていると、犠牲者と思われる男性が地面に転がっていた。
『!』
一同駆け寄り、息があるかを確かめる。青黒い顔をし意識は少々混濁しているが、呼吸はしている。
「窒息、でありやがりますか」
どうやら喰われた訳ではないらしい。首に跡がない事から見て恐らく口と鼻を塞がれたのだろう。
と、そこに微かにだが少女のものと思われる泣き声が聞こえてきた。
―――木々が生い茂るその場所は、薄暗く足元も湿り、歩きにくい。
「誰かいらっしゃいませんか? 私はUPCから派遣された能力者の炎西と申します。救援に来ました。いらっしゃいましたら返事を!」
「声が出ない場合は傍にあるもので音を鳴らして下さい!」
炎西とフォルが声を上げる。一同は草の別れた場所、人のものと思われる足元を辿っていた。更に言うなら、逃げ込んだであろう人のものと思われる足跡以外何もない。ならば、生きている可能性も上がる。
「!」
と、紅緒が息を飲んだ。
「あ、あの、あれ‥‥!」
紅緒が指をさした先には―――
○保護、捕獲
紅緒が指差したソレは、二匹だった。紅緒に発見されたと思いきや、勢いよく跳ね回る。
「まさか、よりにもよってこいつらやったなんて!」
言いながら雪路がA班に連絡を取るべく無線を入れた。
「成る程、人の足跡しか無いわけですね」
納得した様に呟くと同時に炎西が覚醒する。
「けど、これですよ炎西さん。倒すのはいいですけど、持ち帰るんですか?」
続いて覚醒したフォルの頬に古傷が浮かぶ。それに答えたのは覚醒した紅緒だ。
「いいと‥‥思います。その‥‥食べて食べられない事は、ないかと」
「そうですか!?」
フォルが驚くと、無線を切った雪路が鋭くこちらに振り向く。
「皆聞いてや! A班は生存者を保護しよったから、こっちには遅れるそうやで! それまではうちらだけで気張っていくで!」
『!』
一同の表情が引き締まる。そして強い眼を「その」キメラに向けた。
―――目の前に居る少女は、あちこち逃げる際に付けた擦り傷はあるものの、特に大きな怪我もない。
その少女は保護された瞬間能力者に抱きつき泣き崩れた。そんな彼女を宥め、何があったのかを問いただすと、ゆっくりと少女は語った。
その内容を聞いた能力者達の頬が釣りあがる。
「おい、そりゃお前、マジか?」
怪訝な表情でアンドレアスが言うと、少女は涙を拭いながらこくんと頷いた。
「成る程、って事は何者かの通った形跡を追えば辿り着くのはキメラってより生存者だな」
武流が虚空を見ながら固まり、呟く。
「つーかその話が本当なら追うもんは別にあるです。‥‥でもシーヴ達ここに来るまでにそんな形跡見当たりやがりませんでしたから、そうなればそのキメラが発見されやがりますのは―――」
「B班の方角、というわけですわね」
ふむ、とロジーが軽く頷く。他の能力者も同意する様にロジーに視線を集めた。
その後すぐに能力者達は少女と男を自分達の車に非難させ救急車を呼ぶと、無線で入れられた方角へと走った。
炎西が狙いをすまし弓を射る。余計な傷をつけぬようわざと外し、隙を作る。
続けてフォルが突きを繰り出し、追い詰める。追い詰められたキメラは紅緒の顔面めがけ体当たりを繰り出してきたが、それを鍋の蓋でべちゃりと防ぐと剣を振り下ろした。
「あ、安心して下さい‥‥峰打ちです! あ‥‥でも食べられちゃいますね‥‥」
峰で打たれたキメラは一瞬動きを止めたかに思えたが、今一つ気絶にまでは達さず、再度また動き出す。
「わっ! と」
一匹のキメラに気を取られていると、背後からもう一匹のキメラが雪路を襲う。ギリギリかわし、通り抜けたキメラを今度はフォルが峰打ちした。だが、それもすぐに動き出す。
「なるべく傷をつけないようにって、‥‥中々大変ですね」
そう、そのキメラは物理攻撃が伝わりにくいのだ。気絶させようとしても攻撃を吸収し、中々行動不能にまでは達しない。と、
「頭と胴体斬り離すにゃ問題ねぇだろうです。完全姿焼き希望なら――縫いやがれです」
その台詞と共に巨大な剣が空を切った。
「いや、こいつ等に肩も首もないだろ」
シーヴがキメラに飛び込み、武流がイグニートを構える。
「派手に行くぜ!」
初陣のアンドレアスが攻撃したい気持ちをぐっと抑え、練成弱体に練成強化をかけた。
B版が到着したのだ。
「お待たせ致しました、さあ、捕獲しますわよ!」
その言葉と共に、ロジーが覚醒する。
○そして持ち帰り
能力者八人集まれば、この二匹を始末するのは造作もないことである。
撹乱しつつ弱点を探り、余計な傷はつけずに仕留める。その後すぐに公園を一巡、失踪者を発見、保護し―――
動かなくなったキメラを、八人は見下ろしていた。
「で」
口を開いたのロジーだ。
「持って帰るんですか? 『コレ』」
『‥‥‥』
それを見つめつつ、七人が固まる。そしてすぐにお互い集まり、「これはちょっと」だの「いや、持ってくるってのも依頼だし?」などといった内容でどよめき合う。
「持って帰るなら、フォルさんの袋が使えますね」
炎西がそう言うと、フォルが袋を手にうーん、と考え込む。
「取りあえず持って来いゆーてるんやから、持ってったらええんとちゃう?」
「まあな、持ってこいって言ってんだから、そうした方がいいだろ」
雪路と武流がそう言うと、フォルはそうですね、と頷きソレを袋に入れる。
そしてソレはアンドレアスの運転する車両に乗せられ大急ぎで運び出された。
車両は街の人達の喜びの声と共に迎えられた。家族が戻ってきた人々は歓喜し迎え入れ、犠牲者が出なかった事を心から喜んでいる。
―――そしてその中能力者たちが袋を引っ張り出す。
期待の眼差しを向けられるそれを開けると―――
テーヴルにぶよぶよとしたスライムがぶちまけられた。
場が、一気に水打ったように静まり返る。
そうなのだ。実は能力者達が各々違う目的のものを見つけた理由は、獣型や虫型、それに類するものを想定し行動していたからであり、平野を行くのなら足跡や枝の折れ方等ではなく、すぐに蒸発してしまうが地面に残る湿り気を探す方が妥当なのだ。
そしてその水分の多い身体故、彼等は森にいたのである。こほん、と炎西が咳払いをすると、
「UPCに問い合わせましたところ、通常スライムは酸を吐く為食べられませんが、これは『ピーチゼリー』といいまして食べても害はないそうです」
「味も桃の味がして悪くないそうやで、んー‥‥せやかてうちは、遺伝子組み換え食材はちょっとなぁ」
補足する雪路は微妙にズレた感想を漏らしていた。
「うぅ、ちょっと‥‥可愛いですね‥‥」
ぷよぷよとスライムを突付くのは紅緒である。
「シュールストレンミングとどっちがマシかねぇ、シーヴ?」
アンドレアスが尋ねると、「あれは匂いにさえなれれば普通に食えるです」とシーヴが答える。
「‥‥これをどんなお料理にするんでしょう」
小首を傾げながらロジーが呟いた。
「ほんとに、これ、食うのかな・・・・」
追い討ちをかけたのはフォルだ。
「それ‥‥本当に食うのか? お祓いしたいんだけどいい?」
武流に至っては、既に祝詞を唱え出している。
すると、人々の中から、白い服を着た料理人が意を決した様に飛び出し、スライムを掻っ攫う様に胸に抱くと自分の店へと消えた。「あ」と七人が声を上げ、炎西だけが「待ってください」と料理人の後を追いかけ、暫くすると―――
そこに、可愛らしい「ピーチサンデー」が並べられた。
『!!!』
生、生である。
しかも中華とか既に関係ない。
「あ、うち、味付けは薄目が好みやねん」
眼を逸らし、雪路が物凄い勢いで後退した。‥‥逃げたようだ。
「え? 結構美味しいですよ」
食べたんだ!
さらりと言ってのける炎西に一気に視線が向くと、シーヴがつかつかと前に出る。
そしてシーヴがピーチサンデーを手に取る。絵だけ見ればかなり可愛らしい取り合わせだが、お互いその中身はキメラに毒舌少女である。
一口、ぱくんと口に入れると、
「確かに、普通に美味いでありやがります」
「安全かつ速やかに運んだ甲斐がありました。やはり鮮度が命でしょうし」
ロジーが苦笑する。すると今度は炎西の眼がフォルとアンドレアスに向いた。
「フォルさんにアンドレアスさんは如何です?」
「遠慮します」
「いらねえ」
即答する。
「紅緒さんは?」
「‥‥折角ですので頂きます」
何気に期待していたのか、紅緒はマイレンゲを取り出しピーチサンデーを口に運ぶ。するとレンゲを置き、
「で、出来ましたらスープやチリソース煮を‥‥お願いしたく‥‥」
おどおどと料理まで注文し始める。そして今度はマイ箸を取り出した。
「武流さんは? 是非どうぞ」
「お、俺は‥‥」
武流がたじろぐ。獣でなくスライムである。躊躇だってする。
だが、お払いだってした、確認だってとった、きっときっと大丈夫だ。
「だーーっ! くそっ!」
そういうと、思い切って一口放り込む。
うまい‥‥
悔しいが、それは普通にうまかった。
食えるスライムには美味いものも居る。
能力者と依頼者による、新たな掛け替えのない発見であった。