タイトル:世界の意思少年の意志マスター:仁科 あずみ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/30 03:18

●オープニング本文


「曹長〜、火薬足りませ〜ん」
「んじゃ、そこに鉄球あるからそれ投げつけなさいな」
 ほーい、という返事と共に、ファイターがその腕力でもってバリケードに鉄球を投げつける。
「曹長〜、突破であります」
「んじゃ、念のためもう一個投げてその後突撃しましょうか」
 ほーい、という返事と共にもう一度同じ事が起こる。
「うしOK、んじゃ救護班は人質保護ね。能力者は全員前衛。あ、グラップラーだけ援護に回ってね」
「曹長、前を見て下さい。衝突しますよ」
「うおあ」
 それまで指示を出していた女の目の前には敵が防衛線を超えさせまいと進軍してきた戦車が迫っていた。
 女がそれを軽やかな身のこなしで回避するとそれを見ていた別の能力者が顔を青ざめて声を上げる。
「何なんだよお前らは! いいからもっと真面目に任務に当たれ! よそ見するな! 気の抜けた返事をするな! いい加減な方法で戦うな! 適当に鉄球とか投げるな!」
 それを曹長ことフレア・モルゲンが柔らかに波打つ髪をかきあげながら叫ぶ男を見返す。自信に溢れた、艶っぽい美女の眼が、真っ直ぐ男を捕らえた。ちなみに彼女は正式には軍に所属しておらず、曹長というのは彼女を中心に結成された有志の能力者の部隊、通称NDA部隊内で呼ばれる愛称である。
「ふっ青年。仕事とは楽しんでやるものなのよ」
 きらきらと自信に顔を輝かせ威厳を放つ彼女に向かい、男は素直に「阿呆か!」と返した。

 遊撃部隊NDA、「なんか できること あるんじゃね?」の略。
 能力者非能力者の入り混じった有志の部隊であり、非公式の部隊ながら本部より些末な作戦からそれなりに規模のある作戦まで任されこなす便利屋部隊である。
 そのリーダー格に当たるのが、彼女フレア・モルゲン。ドイツ出身のアジア好きである。
「なーなー曹長ー」
「はーいー?」
「何だか知らんが最近変な話聞いてさー、何か最近能力者の一人がバグア側に寝返ったんだとー」
「へー」
「んでな、そいつ話によると治安の悪い所で生まれて、んでエミタに適合して、本当は能力者になんの嫌だったのに無理やりならされたんだってよ」
「まあ、治安悪けりゃよくある話よねー」
「そいつ十歳位のガキでさー、んで戦闘中にポカして、バグアに捕まって」
「うんうん」
「それからちょくちょくこっちに攻撃してくるんだと」
「へー」
「で、それは無理やりバグアに脅されてやってんのか、それとも臍曲げてやってんのか解かんないから始末に終えないらしいぞ」
「あらあら」
 兵舎で緑茶をすすり、ねっころがりながら海苔煎餅を齧っていたそのときである。

 ―――轟音

「‥‥‥」
 壁が打ち抜かれ、コンクリートの埃まみれになりながらも彼女は寝そべったまま無言で居た。その先には、体中を淡く発光させた十歳位の少年が、強い視線を自分に向けている。
「――――くそっ! しくじった」
 少年は悔しそうに顔を顰めると、足早に去っていった。その後からどかどかと能力者が走りこんでくる。
「おい! 今此処にガキの能力者がいなかったか!?」
「来たわよ、すぐ帰ったけど」
「あいつはスパイだ! はやく追いかけろ!」
「‥‥‥‥」

 噂をすれば、か。
「ねえちょっと」
「なんすか曹長」
「あたしたちの部隊で手が空いてるのは?」
「‥‥‥曹長とあと数人」
「マジ? 皆依頼?」
「基本真面目な奴等だから」
「えーー、しょうがないわねぇ。えーとじゃああの少年のプロフィールだけ貰っといてー」
「くれるかなぁ、個人情報だし」
「渋られてもあそこに居る親父に『隠れて飲む酒は最高ですよね』って言えば喜んで教えてくれるわよ」
「ういー」
 よっこいせ、とフレアが身を起こす。
 そして少年の立ち去った方角をぼんやりと見つめた。

●参加者一覧

幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
吾妻 大和(ga0175
16歳・♂・FT
ルード・ラ・タルト(ga0386
12歳・♀・GP
愛輝(ga3159
23歳・♂・PN
羽鳥・流(ga5232
18歳・♂・BM
ナオ・タカナシ(ga6440
17歳・♂・SN
ミンティア・タブレット(ga6672
18歳・♀・ER
クロスフィールド(ga7029
31歳・♂・SN

●リプレイ本文

「今回は人類に対する能力者の危険性が端的に現れた依頼でしたね。人類は能力者をバグアと闘う為の手段として生み出したようですが、道具や兵器と違って意志を持っています。今回の少年のみたいに周囲の状況に左右され意思決定することもありえます。今はバグアという共通の敵がいるから纏まってますが、将来バグアの危機から脱した時、人類は能力者に対して、又能力者は人類に対して同胞として見る事が出来るでしょうか。仮に能力者にその気はなくても能力者は人類に対して優秀すぎる。NDA部隊の方々とご一緒させて頂きましたが、彼等の一般人にとっての『死地』の中での余裕。その余裕こそが真面目に動いたとしても結果を出していたとしても軍の兵士が感じた疎ましさを生む原因となるものでしょう。より多くの能力者が少年の様に人間に対して敵対の意思を持った場合、一般人が能力者に対する劣等感が高まった場合次の戦いの火種となるのでしょうね。フィクションとしてはよくある設定ですが実際その時私はどちらに着くのでしょうね‥‥」

「独り言が‥‥長い!」
 フレアは横に立つミンティア・タブレット(ga6672)に畏敬の目を向けた。


 ○君と僕とNDA
 「ときめいた」兵舎が壊された騒ぎの時、様子を見に来たクロスフィールド(ga7029)と眼が合うなりフレアと一緒に居た男チャオは二人してそう言った。
「‥‥俺だけ30ってどんな人選だ」
 そういう人選である。
「まぁいい、あいつらと関わった以上、何を言っても無駄ってもんだ」
 良く解っている。
「あほなガキを叩きのめすのだ! 私の力を思い知れ!」
 一方こちらはやる気溢れるルード・ラ・タルト(ga0386)。するとそのままフレア達に走り寄り、「お前達は自分に出来る事を探し、それをやっている。特別に褒めてやるぞ♪」とNDA面々を無邪気に褒めた。「どーもね」とフレアが手を振る。
「むー‥‥話には聞いてましたけど、‥‥なんか、一緒に居ると私まで‥‥ほえーってしそうなぁ‥‥」
 その様子を眺めながら幸臼・小鳥(ga0067)が呟く。その横で羽鳥・流(ga5232)が溜息する。
「あんたらも傭兵なら、真面目にやれよな。まぁ、ここに来たからには協力するけど」
 実は「面白そうじゃん!」という理由で任務に参加した彼だが、そんなもの此処では取り敢えず棚上げだ。いいのだ、これだって一応本音なのだから。
「ああそうそうガキンチョのデータはこれ、興味あったら見といてね」
 そしてフレアが能力者達に一枚の紙を回す。其処にはこう記されていた。

 名前:バラ(自称)
 年齢十歳
 出身地、不明
 クラス:ファイター

『‥‥‥‥‥‥‥』
 一同に沈黙が走った。
 要するにクラスと歳以外は何も解らなかったわけである。それにあっけらかんとフレアが口を開いた。
「解らなかった理由はねー、少年の出身地は『えらい貧しい所』で『治安もすっげぇ悪かった』所だったのよ」
 それこそ、場合によっては人身売買も珍しくない様な、事情により戸籍を持たない子供がいたりするような‥‥そうした場所の出身なのだそうだ。
「10歳の子供を無理やり戦場に送りだすなんて‥‥そんなにも世界は追い詰められているのでしょうか」
 深刻な表情をしつつ、ナオ・タカナシ(ga6440)がそう漏らす。
「力を欲しても手に入れられない者、欲しても無い力を無理やり与えられたもの。いや、世の中上手くいかないもんだってな」
 何とか帳尻合わせと行きますか、と吾妻・大和(ga0175)が腰を上げた。愛輝(ga3159)も手に渡された紙を眺めながら呟いた。
「必ずしも他人が自分の前に敷いたレールの上を走らなきゃいけない、なんてことはない」
 今でこそ自分の事を自分で決める生き方をしている彼だが、幼い頃、社長となるべくそれだけを目的に育てられてきた彼の含蓄ある言葉である。
 そして、一泊おいて全員の顔が自然と上がった。能力者達は互いに目を合わせると、自分達で練ってきた作戦をNDAに持ちかけた。


 ○それでいきましょう
 能力者達が提示した作戦をNDA部隊は「おお、キメラの護衛の事まで考えてある」だの「説得? そうだ、あんま考えてなかった。いいんでねこれ?」だのわいのわいの言いながら採用した。
 その光景に能力者の中には幾らか脱力した者も出たが、取り敢えずは作戦開始である。
 NDAの調査によると、少年は之まで主にスパイとして本部、又はULTに潜り込んでいたが、先日の一件から顔が割れて後は姿を隠しラストホープ内の研究所や図書館をうろつき回り、予測状況や能力者に流通されているアイテムの情報を嗅ぎ回っているという。そして、ラストホープ付近ではキメラを連れている所も発見されている。
「という事は、俺達の作戦に目標の捜索が加えられるわけか」
 大和がそう言うと、それにナオが付け加える。
「でも、スパイとしてラストホープ内潜り込んでいるという事は、少なくともその間少年は一人という事ですね」
「俺達も、ラストホープ内で本気で戦う訳にはいかないからな。だが、逆にその時に抑えてしまえば事は楽に運ぶかもしれない」
 愛輝がそう言うと、クロスフィールドがいや、と漏らす。
「そう簡単に事が運ぶなら、あのガキはとっくに捕まってるだろう。何せ此処は能力者の巣窟だからな」
 それにルードも頷いた。
「相手も子供とは言え能力者だからな。油断は出来ぬだろう」
 ルード自身まだ12と若い。それ故、その言葉には説得力がある。ともあれ、まずは少年を発見しないことには始まらない。
「然し、無理やり能力者にされたガキンチョがバグアに協力かぁ。所謂『反抗期』ってヤツじゃない? そういう奴には、お仕置きとお説教が必要だねぇ」
 そう言って流がニヤリと笑みを浮かべる。
 その後NDAも織り交ぜての話し合いの結果、まずは全員で少年を探しそれから班に分かれ各々対処する。と纏まった。
「そ、それじゃあみなさん‥‥いきますよぉー」
 小鳥がそう言っておどおどと、そして一生懸命皆を促す。その振る舞いに、

 かっわいー‥‥名前まで「小鳥」って、なんか本当に小動物みてぇ。

 NDAの面々がだらしなく和んだ表情を浮かべた。
 仕事しろ。


 ○捜索、攻撃、保護
 一行がラストホープ内を無線機で連絡を取り合いながら目標を探す。主な場所は能力者達に、他の細かな所はNDA部隊が。お互い連絡を取り合い目標の有無を確認する。

 ―――其処に、声を低く殺した大和から連絡が入った。

「こちら大和。目標発見‥‥!このまま追跡する。位置を随時連絡するから、皆集まってくれ‥‥」
 発見場所はドローム社、ナイトフォーゲルの強化パーツを見ていたり職員の目を盗み小さい部品をくすねたり写真を撮ったりしていたのだ。
 道なりに、ルード、ミンティア、ナオ、クロスフィールド、フレア、小鳥、愛輝、流、の順に合流していく。その間にNDA部隊の人間も合流したそして―――
「待て!」

 流が声を上げる。
「‥‥‥‥‥‥‥」
 ラストホープから離れ地上に戻った人気のないその場所で、少年が背中を向けたまま動きを止めた。そして口を開く。
「つけられてた事位分かってたよ‥‥一番最初に僕を見つけたお兄さん、本当は僕が一人の時に逃げ道を塞ぎたかったんでしょ? でもその時には仲間がいなかった。‥‥一対一なら僕だって能力者だ。どういう事になるか位すぐ解る」
 振り返らずにそう言った。と、同時に、獣の唸り声が聞こえたかと思うと、
「うまく此処まで来るのに苦労したよ。でも、僕は捕まらないから」
 犬型のキメラが二体、植物が他のキメラが一体出現した。
「バグアなんか大っ嫌いだ! でも、僕をこんなにした大人なんてもっと嫌いだ! お金がないから売られてくれ、適合したんだから闘ってくれ、僕を何だと思っているんだ!」
 少年が叫ぶと同時に、犬型のキメラ二体が飛びかかる。だが、能力者の方が行動が早い、愛輝がルベウスで難なく一体受け止め弾き飛ばし、小鳥は長弓で射り敵の筋をそらす。
「キメラの方は‥こちらに任せて下さいー。少年は‥‥お任せしましたよぉー」
「今だ‥‥! クロスフィールドさん!」
 愛輝に相図されたクロスフィールドはアサルトライフルから弾を打ち出す。打ち出された弾は犬型キメラに命中した。
「なるべくなら使いたくはないが‥‥」
 そしてそう言うとクロスフィールドは手錠を少年保護に回ったミンティアに放る。
「‥‥もし壊れても、NDAが保証してくれるとは思えねぇなぁ」
 本当に良く解っている。休暇中出て来てくれて有難う。
「迷惑なんだよ!」
 世界中の人々がキメラに対し思っている事をストレートに言いながら、流のカデンサが乱れ尽きにその犬型キメラに止めを刺した。
 その機に乗じてナオが強弾撃に即射を使い、アルファルでもう一匹の犬型キメラを射抜き、
「うー‥‥皆の邪魔はさせませんよぉ」
 小鳥が更に矢を打ち込み、前衛に出ていた流が止めを刺す。
 あとは植物キメラを片付けるだけである。

 ―――一方、少年と能力者は
「私は『たそがれの王』ルード・ラ・タルト! スパイというのはお前か? 名は何という? なぜバグアに付く? お前は闘いたくないんじゃないのか?」
「‥‥‥‥‥」
 ルードの必死の呼びかけにも、少年は答えない。それを見ながら、大和が半眼でちらりとフレアに視線を向けた。
「なぁ軍曹さん、闘いたくない能力者でもNDAかね?」

 NDA―――なんか、出来る事、ある かね?
 大和のその言葉に、フレアの頬がにっと吊り上った。

「勿論闘いたくないだけならNDAよ、ただ―――」
 二人は少年に目を向けた。ミンティアの目も少年を捉えている。NDAの面々はその更に回りで退路を封鎖、少年の保護は能力者達に一任する。
「私が信じられないのか? ‥‥ならば」
 ルードが武器を捨て拳を構える。かかってこい、という意味である。―――だが。
 少年は、無言のまま覚醒しルードに突っ込んできた。
 豪破斬撃を容赦なく打ち込み、回避しきれなかったルードがダメージを受ける。追い討ちを阻む為大和が割り込み、手加減しつつも蛍火で少年を突き飛ばす。
「っ! この馬鹿者が! もういい、好きにしろ!」
 ルードが武器を拾うと共に覚醒、大和も、ミンティアも既に退路を塞ぐように回り込み警戒している。
 が、その更に回りにキメラを片付けた能力者達が続々と包囲してきた。
「あ‥‥」
 流石に能力者九人に囲まれ、少年に逃げ場はない。
 狼狽する少年の脳裏に、諦観とやるせなさがこみ上げる。

 いつもこうである。

 能力者になりたての時も、バグアの言われるままスパイ行為をして居る時も、いつも自分はこんな失敗ばかりしていた。

 そうなのだ、本当は能力者が本気になればあんなキメラなどすぐに片付ける事位解っていたのだ。そして能力者が本気になれば自分などたやすく‥‥


「嫌だ」
「!?」
 目の色が変わった少年がまっすぐに走り流に切り掛かるが軽くかわされ、そしてそのまま逃走を試みるも、大和が先手必勝を使い先に動き、ついで豪力発現をし
 ―――少年をムギュッと抱きしめる様に捕獲した。
 じたばたと少年は暴れるが、少年の力で解けるものではない。やがてそこに愛輝がゆっくり歩み寄ってくる。
「!」
 今度こそ殺される。そう思った時である。
「‥‥何か言いたい事があるんじゃないか?」
 目線を合わせる様にしゃがむ愛輝に、少年がぱちくりと瞬きする。
「口があるなら、力で語るんじゃなく、言いたい事を言え」
「え‥‥あ‥‥」
 愛輝がそう言うと、すると今度はナオが寄って来た。手には救急セットを持っている。一方愛輝も救急セットを取りだしており、お互い「あ」等と呟いている。
 結局手当はナオがする事になったが、少年はそれでも射るような眼でナオを見据えている。だが、ナオは黙々と手当てをすると、
「あなたが無理やり戦場に出されたこと、年上である自分の不甲斐無さを考えるといたたまれません」
 手当が終わりナオがの手が離れるなり、
「う、うるさい!」
はじかれた様に少年が急に駈け出す。が、その首根っこがむんずと掴まれた。
「俺、説得とか説教とか駄目なんで、そういうのは他の仲間にお任せするよ」
 掴んでいるのは流である。悲しきかな、グラップラーの流の瞬速縮地にこれまたファイターの少年がかなう訳がない。
 流は曹長さん、ガキンチョの説得、あんたが責任持てよ、とフレアに振るが、
「少年」
 フレアは切なそうな顔をすると。
「ごめん少年。あたしノリで能力者になって毎日たっのしくて仕方無いから、あんたの気持欠片も解らないの!」
 駄目大人ここに極まれり。
「は、離せ!」
 掴まれていた少年が「お?」と呟く流れの手を振りほどき、又走りだす。が、流が再度瞬速縮地で追いかけた。少年の首根っこはまたも掴まれ、猫の様にだらんとぶらさがる。
「に、逃げたらだめですぅっ‥‥!」
 あたあたと言う小鳥の言葉も虚しく、この不毛なやり取りがもう二度ほど繰り返された。
 そしてやはりだらんと垂れさがったまま、少年がひたすら暴れる。その腕に何かががちゃんと掛けられた。手錠を手に持ったミンティアは片方を自分に繋ぎ、もう一方を少年に繋いだ。これでもう逃げられないだろう。そこでやっとフレアが口を開いた。
「あんたってば任務のときといいスパイといい、‥‥嫌嫌やってる仕事なんてそんなもんよ」
 少年が、まの抜けた様な顔をした。が、一気に引き攣る。
「おいガキ」
 その原因となった少年の顔を覗きこむ人物に、ミンティアは「これ、後で返しますから」と告げている。
 目の前に現れた人物、三十代の、傭兵稼業で育った、それ故威圧感のある―――

「お前、こんな事より他に『なにか 出来る事 あるんじゃね?』」
「!」

 クロスフィールドが少年の顔を見てそう言う。
「僕は‥‥‥」
 クロスフィールドの顔を見つめたまま、ぼろぼろと少年の目から涙が落ちた。
「僕は‥‥」

 言いたい事があるんじゃないか? 口があるなら―――

 ―――闘いたくないんだ。
 でもきっと、そんな僕でも何かできる事があると思うんだ。
 だから‥‥

 ぽつりぽつりと、少年が言葉を落とす。
 これまで幾ら言葉にしても誰もが背を向けた自分の言葉。

 どれだけ言葉にしようとも世界の意思はいつも少年の意思を無視してきた。
 だから言葉を呑み込み、口を閉ざし、己の意思を閉ざしてきた。
 だが―――

 それは、今の自分に出来る何かすらも閉ざしてしまう事なのだ。
 少年は能力者達に付き添われ、ULT並びに本部に出頭した。


 ○余談
 その後、NDAと少年にルードから「私の城に来ないか?」とオファーが掛かる。
 が、双方この申し出を辞退、その返事は「そうか‥‥ん、お前達はお前達の道を行け♪」

 ―――世の中にはこんな世界もあったりするのである。