タイトル:【DR】群狼、相打つマスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/01 12:42

●オープニング本文


 UPCによるウダーチヌイ偵察に対してバグアは東京八王子のラインホールドをロシアに出撃させた。偵察の結果は現時点(3月15日)では不明だが、絶大な戦力を誇る地上要塞の出現に人類はウダーチヌイにバグアにとって死守すべきものがあるのでは考え始める。
 ラインホールドの火砲を支援するアグリッパの破壊するため人類の精鋭が送り込まれ、激闘を繰り広げるなか、ウダーチヌイより南方430キロほどの地域でも戦闘が繰り広げられていた。
 この地域をミールヌイという。今回の大規模作戦とは一見無関係とおもわれる地域だが、この地に建設されている飛行場が戦火を招き寄せた。地上部隊は今回の大規模作戦でも重要だが、極寒のロシアではその移動には大変な労力が伴う。ためにUPCはミールヌイの飛行場を利用してここから直接ウダーチヌイに地上部隊の投入を考えていた。
 かくしてミールヌイ周辺では戦火が立ち上る。その渦中に見慣れない影が暗躍していた。
 それらはAUKVと一目で知られたが、リンドヴルムともミカエルとも違う外観を持ち、狼のような俊敏さで地を駈け、キメラを屠っていた。
 狼の素早さを持ったAUKV、これこそが新型AUKVパイドロスの量産試作型だった。パイドロスを製造した研究室は実戦テストとUPCの戦力を求める命令を兼ねてパイドロス分隊をミールヌイに派遣していた。
 パイドロスを装備したドラグーンの分隊が群れた狼のように荒野を駈ける。自らの力を確かめるため敵を求める彼らに無線が入った。
『こちらはミールヌイ防衛部隊だ。至急、飛行場に応援を頼む。キメラが滑走路に爆弾をまきやがる。防衛しようにも人手がたりん。滑走路が穴だらけになる前にキメラを排除してくれ』
 了解とパイドロス分隊の隊長が答える。同時に分隊全体が方向転換、指定された滑走路へ駈けた。

 一方その頃ミールヌイの飛行場、その滑走路の一本に狼型キメラが殺到していた。
 どの狼型キメラも口に何かを咥えている。
 狼型キメラは黒い洪水のように滑走路に攻め込む。そこに銃弾の熱い水流がぶちまけられるが、フォースフィールドの前では通常弾など無意味も同然だった。
 遮蔽物の代わりにした車の影で警備兵や駆り出された整備兵が唸った。銃が熱くなるばかりで意味がない。だが、攻撃をやめるわけにはいかなかった。
 狼型キメラの群に火線が降り注ぐ。どれもこれも狼型キメラのフォースフィールドを貫くことはできなかったが、銃弾のひとつが狼型キメラの口元に当たった。すると咥えていた物体が爆発、咥えていた本人は目や鼻から血を噴き出して倒れ込んだ。
「‥‥咥えているのは爆弾か。あれを狙えば、だが、あんなもの、俺たちの技量で当たるかよっ」
 毒づく兵士に他の兵士がいった。
「あきらめるな。もうすぐ能力者が応援に来る。彼らならきっとやってくれる!」

●参加者一覧

瞳 豹雅(ga4592
20歳・♀・GP
綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
旭(ga6764
26歳・♂・AA
シフォン・ノワール(gb1531
16歳・♀・JG
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
芹沢ヒロミ(gb2089
17歳・♂・ST
常世・阿頼耶(gb2835
17歳・♀・HD
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD

●リプレイ本文

○獲物

 ウダーチヌイ偵察作戦の結果、極寒のロシアに人類・バグア双方の戦力が集結する。人類の狙いはバグアの建設途中の施設『ゲート』だ。『ゲート』は、完成した場合、バグアにほぼ無尽蔵の補強を可能とする。これは人類の敗北を示す。この建設を阻止するために人類はウダーチヌイへ戦力を投入するが、ロシアの広大な国土、過酷な気候、人類側基地の有無などの障害によって上手くいかない。ために戦力はウダーチヌイから400キロ離れたミールヌイの拠点を一旦経由して送り込まれることとなった。
 ミールヌイ飛行場上空で1機の輸送機が着陸態勢に入った。弾薬、食料、医療品、そして兵士、戦闘に必要なものをぎっしり詰め込んだ機体が地上へ降下していく。しかしそこに管制塔から着陸中止の連絡が入る。管制官は、滑走路上の障害が除去されるまで着陸を不許可とすると告げた。
 パイロットはこれに応じた。許可が下りるまで上空を旋回することに決めた。輸送機は旋回を始める。旋回のために輸送機の姿勢が傾き、コクピットの片側の窓から地上の景色が見えるようになった。パイロットは滑走路の外れに疾走する狼型キメラの群を発見、さらにこれを迎え撃つかのように立ち塞がる人影を見つけた。
 自分の着陸しようとしている滑走路が狙われているらしいとパイロットは気づき、反射的に無線機を操作した。いじっていると航空用に使用する帯から地上に使用する帯に移り、女の声が飛び込んできた。
『こちら空港防衛。突破阻止ラインを敷くが、八人しかいません。こちらのラインを回り込まれないように側面おさえてもらえますか』
 こちらパイドロス分隊という応じる声。女とパイドロス分隊のやり取りが続く。パイロットがみていると、狼型キメラの後方で黒い何かが出現した。それは近頃登場したAUKVに似ていた。
 どうやら滑走路へ迫る狼型キメラを能力者とAUKV部隊が挟み撃ちにしているらしい。パイロットはそうみてとると、上手くやってくれよと独白した。

○群狼

 滑走路を防衛するために能力者は疾走、滑走路を抜け、荒野に到達する。前方には狼型キメラの群が見え、さらにその背後から見慣れないAUKVの姿を見て取れた。見慣れないAUKV部隊、パイドロス分隊と瞳 豹雅(ga4592)が連絡を取っている。
 瞳とパイドロス分隊のやり取りから能力者は共闘が成立したのを知った。
 アレックス(gb3735)がタクティカルゴーグルの望遠機能を使ってパイドロス分隊の様子を探ってみる。敵の背後ということで姿は明瞭ではないが、かなりの速度で移動しているのがわかる。
「‥‥‥‥あれが学園に現れたっていう新型のヤツか?」
 いろいろあって同名のAUKVと交戦したことのある芹沢ヒロミ(gb2089)がうなずいた。
「よく似ている。軍にも部隊があったのか。としたらあの一件は一体? 背景のよくわからない連中だな」
 芹沢と同じく交戦経験のある大神 直人(gb1865)がいった。
「問題は性能です。量産試作型らしいですが、やりますかね?」
「‥‥新型AUKVの性能も気になるけど‥‥」とシフォン・ノワール(gb1531)が弾頭矢を用意していった。
「‥‥相手が特攻で来てる以上、見ている余裕はないわね‥‥」
 能力者はうなずくと、狼型キメラを迎え撃つべく陣形を作った。
 爆弾を咥えた狼型キメラはパイドロス分隊に追い立てられ、罠と知りつつも否応なく陣形に突進する。

○炎の壁

 狼型キメラは前方を能力者に、後方をパイドロス分隊に挟まれてしまった。破壊目標の滑走路は目前だったが、立ち塞がる能力者は見るからに危険そうな大型火器を構え始め、いかにも突破は困難そうにみえた。ために狼型キメラは脇にばらけようとするが、そこにパイドロス分隊から銃撃が飛んできて、阻まれてしまう。狼型キメラは仕方なしに能力者の間合いへ突入していく。
 打撃どころか全滅は必死のこの状況に対して狼型キメラは古代ローマの兵士のように密集隊形を取った。過半数が打ち倒されようとも残った少数が滑走路に打撃を与えればいい。キメラは基本的に知性はないが、動物としての本能が適切な行動を選択させる。
 ノワールが弓を構えた。滑らかな動作で弾頭矢をつがえると、両脇で大神と旭(ga6764)がガトリングガンを狼型キメラの群へ照準した。
 旭が息を巻く。ガトリングガンの弾倉がじゃらりと鳴った。
「来ましたね。配達のお駄賃に鉛玉、たっぷりと弾んであげましょうか」
 そして、
「‥‥通さないッ」
 短い言葉だが、それはノワールの断固とした意思表示。弓が鋭く鳴って弾頭矢が大気を裂いて飛ぶ。同時に2問のガトリングガンが火を噴いた。
「悪いがこっから先は通行止めだっ」という大神の叫びが銃声と空薬莢の落ちた音に紛れて消える。そんな轟音の中で綾野 断真(ga6621)はライフルを構える。耳元で唸る鉄火を意思の力でねじ伏せ、狙撃手特有の極度の集中に入った。
 飛んでくる弾頭矢に対して狼型キメラの1匹は身をひねって回避する。弾頭矢は狼型キメラに着弾せず、そばの地面に落下、同時に爆発した。狼型キメラは弾頭矢から逃れたかのようにみえたが、その破片が咥えている爆弾に接触した。狼型キメラは口元で爆発を起こすともんどり打って倒れた。
 倒れた狼型キメラは密集隊形をとったせいで後続に対する障害となる。後続の狼型キメラは倒れた狼型キメラに衝突する。さらに衝突した狼型キメラに後続が衝突した。玉突き事故状態のキメラに大神と旭のガトリングガンが浴びせられる。
 狼型キメラも無能ではない。群の後半はさらに加速すると、倒れた仲間の直前で跳躍、速度を増しながら滑走路に迫ろうとする。だが、仲間を飛び越えた1匹が空中で撃ち落とされて転がった。
(「そんな単調な動きでは良い的ですよ」)
 綾野はライフルのスコープを覗いた。スコープの中で狼型キメラが跳躍するのがみえた。狼型キメラは障害を越えて移動できたかのようにみえた。だが、陸の生き物が空中をいくということは大きく運動能力を失うということだ。綾野は狼型キメラの着地地点に狙いを合わせて引き金を引いた。
 綾野の銃弾は狼型キメラの咥えている爆弾を突き破り、爆音が響いた。
「‥‥8連鎖、かな」とノワールがもらす。
 能力者の企てでまんまと数を減らした狼型キメラは密集隊形を辞めて今度は散開する。横殴りの雨のような火線をすり抜けて滑走路を目指す。


○左翼

 狼型キメラの群はガトリングガンによる弾幕に突撃してく。SES搭載武器から発射された弾丸はフォースフィールドを貫き、狼型キメラは血を滴らせながら駈ける。被害をものともしない突進におもわず常世・阿頼耶(gb2835)は独白した。
「‥‥カミカゼオオカミ?」
「どっちかといえばレミングの集団自殺か」とアレックス。
「どちらにしろ場所外れには違いありませんね。アレックスさん、来ましたよ!」
 狼型キメラが一斉に散開した。突撃で押し通れなかったから各個で能力者の陣形をすり抜けていくつもりらしかった。
 こちらに跳びかかってくる狼型キメラに対してアレックスは躍りかかった。ミカエルをまとい、3メートル近い長さのランス「エクスプロード」を持つその姿は中世の騎士さながらの重々しい。
(「インテーク開放、ランス『エクスプロード』イグニッション」)
 だが、アレックスのステップはフェンシングの選手のように軽やかだった。もっとも3メートルもあるフルーレを使えるほど器用な選手はいないはずだが。
 狼型キメラの1匹がアレックスに食ってかかるが、フェイントに次ぐフェイントに惑わされて、死角を突かれた。
「灰燼と化せ! 獄炎の一撃(フレイム・ストライク)ッ!」
 高らかな宣言とともに狼型キメラにアレックスのランス「エクスプロード」がめり込む。その一撃はいままでの軽やかな動きとは違い、容赦のない重みと鋭さがあった。穂先がフォースフィールドを貫き、狼型キメラの内臓に達する。同時に穂先の爆発装置が発動、狼型キメラは焼けた肉片をぶちまけながら吹っ飛んだ。
 爆発の余勢でアレックスは方向転換、次なる相手に向かう。狼型ということでリーダーがいるのではと推測していたが、それらしきものはいない。各個撃破するのみだ。
(「常世がカミカゼオオカミとかいっていたが、言い得て妙かもな。使い捨てのキメラを特攻させるってなら統率者は不要だ」)

○右翼 

 散開した狼型キメラは芹沢と瞳のほうにも向かってくる。口角から泡を噴きながらの突進だ。
「通してたまるかよっ」
 芹沢が拳を作る。装備しているAUKVの背中から翼状のオーラが立ち昇り、空打ちした。その刹那、芹沢は電撃的に前進、狼型キメラを突き飛ばした。
「飲み込みやがれ!」
 芹沢は低い姿勢からアッパーのような一撃を繰り出す。あごを一撃されて狼型キメラは咥えていた爆弾を飲み込んでしまいそうになるが、爆弾は大きくて口内でひっかかってしまう。
「おしいっ」
 さらなる芹沢の打撃。狼型キメラの口内にある爆弾を押しつぶすかのような拳撃だ。衝撃で爆弾が起爆、狼型キメラの頭部が弾けた。
 肉色の霧のなかで芹沢の漆黒のAUKVが次なる敵を探す。だが、探す間もなく芹沢のリーチ内に敵が入ってくる。
 すり抜けようとする狼型キメラを瞳は足止め、同じく右翼を守る仲間芹沢のリーチに誘導する。
「おっとだめですよ、お客さん。滑走路に入りたければ、芹沢くんから強烈なのをもらわないとね」
 向かってくる狼型キメラに対して瞳はわざと甘い斬撃を放つ。狼型キメラは得意げに回避して逆襲に転じようとするが、そのときにはもう芹沢の拳が迫っている。
 右翼の守り手は芹沢と瞳の2人だけだが、見事な連携のせいで、狼型キメラは突破できない。
 ぎゃんという悲鳴を聞きながら瞳は視線を投げた。戦場に見慣れないAUKVが加わっている。パイドロス分隊だ。
「やれやれ。ようやく合流しましたね」
 敵を集結させつつ撃破する役目をパイドロス分隊に瞳は譲り、自分は討ち漏らしを処理することにした。そう決めた途端に足下に爆弾が転がってくる。どうやらパイドロスに倒された狼型キメラの口からこぼれたらしい。
 瞳は爆弾を明後日の方向にえいやっと蹴飛ばした。

○着陸

 滑走路の破壊を目論んだ狼型キメラは能力者とパイドロス分隊の攻撃によって目的を果たすことなく撃破された。
「やりましたね」と常世が空を見上げた。AUKVを装備しているが、フェイスガードが下げられおり、顔が露出している。息が白い。
 常世の見上げる空から輸送機が降下してくる。輸送機は着陸を開始、補給物資でいっぱいのお腹を滑走路にすりつけた。
 すぐに作業員が滑走路に飛び出し、物資を各地に移送する準備にかかる。
 戦場の冷たい騒々しさから暖かみのある賑々しさが飛行場に広がっていく。
 アレックスは満足そうに息を吐いた。任務完了、と言葉が漏れる。