タイトル:【庶事】旅行が落とし穴マスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/28 20:07

●オープニング本文


●取材の束
 バグアが跳梁しはじめて20年。とかく、表面に出るのは、派手な大規模作戦や、大掛かりなキメラやワームとの『軍事的な』ことばかり。だが、世の中には、それ以上にぶっとんだキメラだってたくさんいる。ある日突然、隣の住民がバグア派だったなんて事も、今や珍しくはなくなってしまったのだ。
 そんな人目につきにくい事件でも、救援を要する事は多発する。そんな日々の『隣村の大事件』を担当するUPCオペレーター本部に、1人の若者が足を踏み入れていた。受付で彼はこう事情を話す。
「まいどっ! 突撃取材班ですっ! 何か面白そうなネタありませんか!?」
「は!?」
 よくみりゃカンパネラの制服だ。おまけに腕章に『報道部』と書いてある。なんでガッコを飛び出してこんなところにいるんだと、受付の人は思ったが、口には出さずに、オペレーター達の事務室へと案内してくれる。そこにうずたかく積み上げられた報告書から、ネタになりそうなものを捜せと言う事らしい。
「アリガトウございます。じゃ、これ借りて行きますねっ」
 閲覧可と印字されたその束には、こう書かれていた【庶務雑事】と。
 これは、そんな日々起こっている事件をまとめた報告書の束である。

●保養地で
 四国のある場所に保養地がある。
 そこには波の穏やかな海があり、白い砂の海岸が広がり、海岸沿いには居心地の良さそうなペンションが点在していた。
 海岸沿いの道を1台の車が走る。
 運転している初老の男はこの保養地のオーナーだった。この辺りにあるペンションの多くは男の所有物で、そばの街にも影響力を持っていた。
 オーナーが車を走らせるのは、ドライブなのだが、自分の管理する保養地の見回りを兼ねていた。
 時期が合わないこと、それと全世界的に頻発する戦闘の影響で利用者はまばらだった。車窓から人気のない海岸が見える。
「寂しいことだな。商売を置いても寂しい光景だ」
 オーナーは運転しながら独白した。
 そのとき車が衝撃波で揺れた。
 海から訓練中のKVが飛んできた。KVは海岸線を沿って飛び、どうやらオーナーの車が見えているらしく、挨拶するかのように翼を振ってから、彼方へ消えた。
 オーナーは感嘆の声をもらす。
「すごいパワーだ。あのバグアをやっつけるだけある」
 そしてなにかを閃いたらしくハンドルを叩いた。
「がんばる連中にはねぎらいが必要だ」
 オーナーの閃きからしばらくしてカンパネラ学園の掲示板に新しい掲示物が貼られた。この掲示物は格安旅行の広告で、海が間近な保養地で心身を休めようという主旨だった。

 オーナー発案の旅行の広告がカンパネラの学生や聴講生の注目を集めているころ、保養地では1人のサーファーが海から上がったところだった。
 波を楽しんだサーファーは充実した疲労感で満たされた表情で砂浜に座り込んだ。
 するとサーファーの身体がずぼりと沈み込んだ。サーファーは眼を白黒させた。あっという間に首まで砂に埋もれてしまう。
 一方そのころ、子供が犬を連れて海岸を散歩していた。
 犬は首輪から解放されて大はしゃぎだった。力一杯疾走する。濡れた砂地に一直線の足跡が刻まれる。と、犬の姿が消える。
 子供は眼をまん丸にして犬の消えたあたりに走った。
 と、今度は子供の身体が消える。違う。子供の足下が沈み込み、半身が砂にめり込んでしまった。
 濡れた砂は重くて子供は脱出できない。波の音に子供の泣き声が混じるようになった。
 この泣き声が心地よいのか、波間から影が甲殻類じみた形状のハサミをリズミカルに閉じたり開いたりした。
「さて。これでペンションの準備は終わったな。いつ能力者が来ても問題ない。ゆっくり過ごしてもらえるだろう」
 オーナーは保養地を一巡りして能力者の迎え入れの準備が整ったことを確認した。オーナーのもとにキメラ出現と能力者到着の報告が入るまでもう少しだった。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
ミルファリア・クラウソナス(gb4229
21歳・♀・PN
ティム・ウェンライト(gb4274
18歳・♂・GD
ファブニール(gb4785
25歳・♂・GD
神咲 刹那(gb5472
17歳・♂・GD
桂木穣治(gb5595
37歳・♂・ER
諌山美雲(gb5758
21歳・♀・ER
東雲 凪(gb5917
19歳・♀・DG
アンナ・グリム(gb6136
15歳・♀・DF
緋阪 奏(gb6253
22歳・♂・DF

●リプレイ本文

○01
 潮風が海を渡る。砂浜に波が打ち寄せる。初夏の日差しで砂浜は白く輝き、ヤドカリ型キメラを待ち伏せする能力者の影が黒々と砂浜に映った。
 桂木穣治(gb5595)は、用意した釣り具を冴木美雲(gb5758)に渡してから、波間に目を向けた。
「さーて、初夏の海でどんなキメラが釣れるかなっと」
「広い海、白い砂浜。キメラさえ居なければ最高なのに‥‥」釣り具を受け取りながら美雲。「みなさん、キメラなんてとっととしばいて羽を伸ばしましょうね! 一仕事終わったあとの温泉も楽しみです!」
 美雲の後半の台詞に他の能力者がうなずいた。
 今回、能力者は保養旅行に来ているのだが、運悪く旅行先でキメラが出現してしまい、これを排除することになった。
 この状況に対してアンナ・グリム(gb6136)は「折角の旅行なのに邪魔しないでほしいわね。早く倒して休暇の続きを楽しみましょう」ともらしたが、東雲 凪(gb5917)は逆に「いや、今回のキメラにはむしろ感謝。大した被害も出てないみたいだし」と言った。
 というのはヤドカリ退治の返礼として旅費は返上、そのうえ報酬までもらえるからだった。
 海水浴、バーベキュー、そして温泉とお楽しみがキメラ撃破後に控えているせいか、能力者はどこか浮き足立っているように見えた。
「誘い出す準備はできたみたいだな」
 緋阪 奏(gb6253)はそう言うと、落とし穴の埋めたり、落とし穴の有無を確かめたりに使ってたスコップを堤防のほうへ投げ捨てた。
 今回の標的ヤドカリ型キメラに対する作戦は、安全な領域に誘き出してからの撃破だ。ヤドカリ型キメラは砂浜のあちこちに落とし穴を作っている。どこに落とし穴のあるかわからない砂浜でヤドカリ型キメラと戦うのは不利だ。能力者は落とし穴の危険のない場所を用意してここにヤドカリ型キメラを誘き出すことにした。
「そういわけだ。キメラどもを片付けるとしようか」と初夏の砂浜でコートとスーツをきっちり着込んでいる男、UNKNOWN(ga4276)が自前の釣り竿のしなりを確かめた。
 誘い出し要員の桂木、美雲、UNKNOWNが釣り竿を一斉に振る。
 ひゅんと竿が空を切り、にんじんや芋などヤドカリの好みそうな餌のついた針が海に飛び込んだ。
 上手くいけば餌に釣れられてこの場にヤドカリ型キメラが出現するはずだ。
 誘い出されたキメラを撃破する役目を担っている他の能力者、両性的な佳人ティム・ウェンライト(gb4274)は恋人のミルファリア・クラウソナス(gb4229)に言った。
「あとはキメラが現れるのを待つだけね」
 初夏の日差しで海が輝いている。打ち寄せる波は子守歌のようにおだやかだった。
「戦闘前だというのにこれは閑雅ね」とティム。
 日差しの苦手なミルファリアは、フリルのついた日傘の影の中で恋人の言葉にうなずいた。
「さっさと片付けたいですわね。片付けてからそれから‥‥」
 ミルファリアは他の能力者に見えないようにティムの袖を指先で摘んだ。
 UNKNOWNは海に目を向けたまま、桂木を誘った。
「なんならビールを賭けるか」
 たくさんヤドカリ型キメラを釣り上げたほうがおごる、ということだったが、桂木は他に気になることがあるようだった。
「悪くない。だが、今日は鉄板焼きと日本酒の気分でね」
「そうか。‥‥鉄板奉行の噂、聞いているぞ」
 UNKNOWNは楽しげに目を細めた。けれども瞳の奥の色はドラスティックだ。口ぶりは軽くても仕事は徹底的にやる、そういう色合いだった。

○02
 誘い出し要員、というか釣り担当の3人で、まっさきに当たったのは美雲だった。
「あ、あ、なんか来てます、来てますよこれはっ!」
 もっと引きつけるんだなどとアドバイスが飛び交う。
 が、美雲は「これはいける!」と思ったのか、大根でも抜くように一息でやった。
 糸に引かれて海面から犬くらいの大きさのヤドカリ型キメラが飛び出す。
 砂浜では余勢で美雲が尻餅をついた。
 桂木が美雲に手を差し出すが、美雲は、海を背景に砂浜でひっくり返っているヤドカリ型キメラを見据えたまま、跳ね起きた。
 波間に無数の赤い点が輝いた。ヤドカリ型キメラの目だ。打ち上げられた仲間を回収するかのようにヤドカリ型キメラの群が波打ち際に出現する。
「わらわら出てきましたが――さっさと退場してもらいましょうか」とファブニール(gb4785)。
「だね。まぁ、とっとと退治してゆっくりしよう」と神咲 刹那(gb5472
 2人のやり取りが合図となったかのように戦端が開かれる。
 AUKV「ミカエル」を装着した凪が3メートル以上の丈を持つ斧ベオウルフを肩にかけて突撃する。
 初夏の日差しにベオウルフの1メートル近い長さの刃が剣呑に光る。凪が身を捻った。海風が切り裂かれる。長大にして重量のあるその刃は、ギロチンが首を落とすように1匹のヤドカリ型キメラの殻を断ち割った。
「旅費返金と旅行、ありがとっ、しばらくキミの事は忘れないよ!」
 凪はベオウルフを持ち上げ、次の敵を探す。しかし砕かれたヤドカリ型キメラはまだ息があり、凪を狙っていた。
「もう動くなよ‥‥食材」
 銀の光が走り、絶命寸前のヤドカリ型キメラは本当に絶命した。緋阪の斬撃だった。
 歴戦の能力者の手でヤドカリ型キメラは瞬く間に数を減らした。残る数体は恐れをなしたかのように海へ後退する。まるで水中が能力者にとって不利な領域とプログラミングされているかのようだった。
 海が波打ち、ヤドカリ型キメラは打ち寄せる波に紛れるかとみえた。だが、衝撃波が波のベールを打ち払い、ヤドカリ型キメラの退路を遮った。
 それはアンナの放ったソニックーブームだった。
「逃がさない。休暇の憂いはここで断ち切るわ」
 退路を窮したヤドカリ型キメラに能力者が殺到する。ほどなくして戦闘は終了した。

○03
 砂浜にヤドカリ型キメラの残骸が転がる。それらを打ち寄せる波が撫でた。
 残骸の前で緋阪は腕を組んだ。
「‥‥食材だが、いけるか?」
「鮮度抜群なのは保証するぜ」と桂木。「さ、バーべーキューの準備を始めよう」
 緋阪はうなずく。緋阪と桂木はこの旅行ではバーべーキューの係でもあった。
 桂木は腕を広げて仲間に呼びかけた。
「さ、準備はこの鉄板奉行に任せて、遊んできなさい」
「――釣りにいく人へ。調理する準備はしておくので、遠慮せず持ってきてくれ」と緋阪が抜かりなく付け加えた。
 というわけでバーべーキュー係を残して能力者は釣りや海水浴などそれぞれの好みに散っていった。
 はずだったのだが、美雲がその場に残る。落ち着かない様子で散っていく仲間をうかがっている。
 ティムとミルファリアは海水浴と決め込んだらしくプライベートビーチのあるほうへ歩き、「どこが穴場だろうか?」と言い合いながら神咲とアンナそれにUNKNOWNが岩場のほうへ向かい、ファブニールは「お土産お土産」とか「銘菓銘菓」と言い残して姿を消し、凪はツーリングにいくようでバイク形態のAUKV「ミカエル」にまたがっている。
 取り残された美雲は持っていたビーチバレーのボールをぷぅとふくらませてから海に投げた。
「べ、別に仲間外れにされたわけじゃないですからっ」
 波間にぽつんと浮かぶビーチバレーのボールが相づちを打つように揺れた。
 ヤドカリ型キメラを解体していた桂木が顔を上げた。美雲に声をかける。
「いいところに来てくれた。悪いけど、バーべーキューの準備、手伝ってくれない? 材料切るのとか、食材とか飲み物買ってくるのとかいろいろあってさ、手が回らないんだ。ダメかな?」
 桂木は手を回せてにっこり笑いながら首を傾げた。外見年齢35歳の男性によるお願いのポーズ。
 美雲はほほをふくらませた。
「もう。手伝いますっ手伝うからにはおいしいバーべーキューにしちゃいますよっ」
 指示された作業に美雲はさっそく打ち込む。
 その様子をみていた緋阪がこっそり「上手に気持ちを切り替えさせたな」と桂木をつっついた。すると桂木が照れるぜという様子で手を振った。

○04
 バーべーキュー係が準備をしているころ、神咲とアンナは、よく魚の釣れるという岩場にいた。UNKNOWNは、というと、彼は彼の見立ての釣り場に向かったので、この場にはいない。
「‥‥まぁ、夕飯のタシになるものでも釣れれば良いのだがな‥‥」
 神咲は海に目を向けた。周囲を海鳥が飛び交っている。それからアンナのほうを向いた。
「竿と仕掛け等は用意しておいたから、餌をつけて投げ込むだけだ。あとは、当たりの感覚さえ覚えれば‥‥」
「えっと‥‥これで大丈夫なの?」
 アンナが餌をつけた竿を神咲におずおずと差し出した。
「うん。良くできました」と神咲は目を細める。「では次は投げ込みましょうか。その際のポイントは――」
「――なに、その口調、もしかして学校の先生?」
 神咲は普段の口調に戻って、
「今日はアンナちゃんの釣りの先生のつもりだから」
「そう。なら、よろしくご教授下さいませ、先生?」
 スカートを摘む仕草を加えてのお辞儀をアンナは神咲『先生』にして見せた。

 神咲とアンナが2人きりの時間を楽しんでいるころ、プライベートビーチでは、ミルファリアが遠泳から戻ってきた。
 赤髪から水滴を滴らせるミルファリアはパラソルの影にティムを発見した。
 覚醒状態を保っているティムは女性のように長いまつげをぱさりとした。
「すごいね。沖のほうまで泳いでいた」
 ティムの賞賛にミルファリアははにかんだ。
「あ、やっぱり‥僕って意外と泳げますのね」
「疲れたでしょう、少し休んだらどう?」
 そうしますわねというミルファリアの身体をティムはふわふわのタオルで包み込んだ。まるで宝物を扱うように。
 ミルファリアは目を伏せてから、思い切ったようにティムを見上げた。
「‥‥サンオイル、塗ってもらえませんこと? その、良かったら」
 いいよというティムの答えにミルファリアは身体を任せた。
 ミルファリアの身体をサンオイルが滑ってゆく。ティムの柔らかい手つき、波の音、それと遠泳の疲労も手伝ってかミルファリアのまぶたは眠たげに閉ざされた。
 しかし、
「ちょ、ちょ、ちょっと‥‥! ティム!?」
「あら、ごめんなさい」
 悪戯が過ぎたかしらとティムは口元に手をやって笑う。ティムの身体の浮くような悪戯にミルファリアは頬を染め、あとで復讐しますからと口を尖らせた。

○05
「遅れました。バーべーキュー楽しんでいます?」と凪はバイク形態のAUKVを堤防に停めると砂浜に降りた。
「本番はこれからだ」と緋阪が紙皿と紙コップを渡し、飲み物は? と尋ねた。
 夕焼けの砂浜で鉄板がじゅうじゅう音を立てて、美味しそうな煙を立ち上らせている。 鉄板の上では新鮮な肉や海産物や野菜が能力者の口に入るのを待ちかまえていた。
 UNKNOWNが鉄板の下を覗いて感嘆した様子で唸った。
「見事な炭の配置だ。鍋奉行の称号、本物だったな」
 桂木が照れ臭そうに鼻の下をなでた。
「おうよ。さ、みんな揃ったところでメインディッシュのご開帳といこうぜ」
 今日の釣果、神咲とアンナそれにUNKNOWNの釣り上げたもの、そしてヤドカリ型キメラの肉が鉄板でじゅうじゅうと音を立てた。
「――塩茹でに酒蒸しも作ってみました」と美雲が付け加える。
「ん、おいしい」とアンナ。
「海岸でするBBQは美味しいよね」と凪。
 鉄板の上を箸が行き交う。年長者の勧めもあって若手能力者はもりもりと肉や野菜を平らげた。しかしそれだけにヤドカリ型キメラに箸が進んでいないのはよくわかった。
「ヤドカリも誰か食べてみれば?意外に美味しいかもしれないわよ? 意外に」というアンナに、凪は海鮮シシカバブを齧りながら、海岸でするBBQは美味しいよねと繰り返すだけで手を着けない。
「ではでは」とファブニールが肉汁の滴るヤドカリ型キメラの肉を頬張った。
「‥‥で、どう‥‥?」というアンナの質問はこの場にいるみんなの代弁だった。ファブニールにみんなの視線が集まる。
「――――おいしいッ噛めば噛むほど味がしみ出るッでも硬すぎ! 噛みきれません!」
 あごを押さえるファブニールにみんなが吹き出す。
 鉄板奉行の桂木は首を傾げた。
「うーん。やっぱりあの肉は硬かった。味は良いのだけどな。‥‥うん、一晩煮てスープにでもするか」
 BBQの時間はにぎやかに過ぎていく。

○06

 バーべーキューが終わったあと、能力者たちは温泉にいくことになった。
 湯船に浸かるとアンナは「ん、いいお湯ね」ともらした。
「ふぅ」と凪。「‥‥やっぱり温泉って良いねー。露天だし」
 伊達眼鏡を外している凪は星空を見上げた。
 KVで高空で飛んだときにしかみられないような星々が満天に広がっている。
 ゆっくりしますね〜と美雲が仲間と言い合っていると、新たな入浴者が現れた。
「‥‥さてさて‥‥のんびりお風呂にしようかなぁ」と神咲は湯船のアンナと目が合った
「‥‥! ‥‥こんばんは」とアンナ。
「え、ここ男湯じゃなかったっけ?」と神咲は慌てるが、「そういえば、混浴だったわね」とアンナに言われてほっとしたようだった。
「ところで、入ったらどう?」とアンナは立ちつくしている神咲にいった。
 すると神咲は頭をかいて、
「‥‥アンナちゃん。ご、ごめん。あんまり綺麗だから、ぼ〜っとしちゃったよ」
 馬鹿とつぶやいてアンナは湯船に肩まで浸かった。
 神咲に遅れて、緋阪、桂木、ファブニールもまた現れる。
 続々と現れる男性陣に照れたのか、身体を隠すように美雲は口元まで湯に浸かった。
「水着を着てるとはいえ、男の子とお風呂に入るのって何だか恥ずかしいですね」
 緋阪は女性陣と一緒ということになにか思うところがあったようだが、頭を振って桂木に日本酒を突きだした。
「‥‥まぁなんだ‥‥とりあえずせっかくの大人数なんだ。飲もう。うん」
 お、いいねと桂木は相好を崩した。
 のんびりとした酒盛りが始まる。
 緋阪はお湯でとろけてしまっているファブニールに尋ねた。
「ウェンライトさんたちを見かけないが」
「あー、パンフでは壷風呂があるって話でしたよ。そっちじゃないですかね。あー、身体がほぐれるー」
「なるほど」

 深夜、人気のない露天風呂にUNKNOWNが現れる。
 月光と潮騒の露天風呂をUNKNOWNは楽しみ、見事な月に杯を捧げた。
「‥‥こういう時間が、やはり好きだな。だが、あれは邪魔だ」
 月のそばに赤い星が見える。バグアの本星だ。
 UNKNOWNは指で銃を作ると、赤い星を撃った。
 能力者、戦士たちの休暇が過ぎていく。