タイトル:地獄のハイウェイマスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/09 11:16

●オープニング本文


 アメリカのとあるハイウェイに若い女性が立っていた。放出品の軍用コートに袖を通し、同じく埃まみれの軍靴を履いている。頭にはとある州の田舎町の草野球チームの名前が入った野球帽を被っている。腕に抱えているのは一枚のボードで『私をカリフォルニアへ連れていって』と記されている。この女性は、アメリカが人類とバグアの競合地帯になって以来、久しく途絶えたはずのヒッチハイカーだった。
 砂煙の彼方から1台の車がやってくる。女性は白くなった唇をなめると、ロードムーヴィで見たとおりのポーズをとってボードを掲げた。親指を立てる。
 車の運転者は道の脇に人影を認める。ブレーキを踏みながら容貌を観察した。太古の昔にいたヒッチハイカーかもしれないと運転者はおもったが、知り合いのUPC軍人から聞いた話を思い出して、ブレーキから足を上げ、アクセルを踏み込んだ。
 車が女性とすれ違う。巻き起こった砂煙に女性は咳き込んだ。女性は蹴られた犬のように跳ね起きると去っていく車へ中指を突き立てた。転がっていたアスファルトの欠片を拾って投げる。アスファルトの欠片は車に届かず、落下して砕けた。
 女性は舌打ちすると道路の真ん中に大の字に寝そべった。ここまでヒッチハイクで来たが、運転者とケンカをしたのが運の尽きだった。街と街のあいだで放り出され、別の車を掴まえようとしてもどれからも無視されてしまう。女性はだだをこねる子どものようにかかとをアスファルトにぶつけた。そのうちに疲れて寝てしまった。そして大音響に起こされた。
 身体がびりびりするほどの大音響で鳴らされるクラクション。女性は目を覚まし、まどろみに戻ったら命がないことに気づいた。タンクローリーが眼前に迫ってくる。跳ね起きて道路の外へヘッドスライディングした。
 タンクローリーの運転手は女性の跳んだほうとは反対側へハンドルを切っていた。ハイウェイから外れたときにしたたかにハンドルで額を打ったが、すぐに気を取り直して、外へ出る。タンクローリーは埃まみれだったが、血の痕はなかった。安心して人影を探すと、ヒッチハイカーらしい女性が助手席に乗り込もうとしていた。
 運転手と女性の目が合う。女性が先手を打った。
「ドア開けてよ。ロックかかりっぱなしで乗れないよ」
 そういってロードムーヴィで覚えたヒッチハイクのポーズをとってボードを掲げた。
『私をカリフォルニアへ連れていって』
 運転手はため息をついて運転席についた。危険な時勢だからヒッチハイカーなど拾ってはいけないはずだが、ひき殺しかけた引け目があったので、助手席のロックを外した。
 数分後、ハイウェイを走るタンクローリーの中で交わされた会話。女性がいった。
「助かったよ。どの車も拾ってくれなくて困ってたの。どうしてこの辺りの人は拾ってくれないのかしら」
「それはな」と運転手はこのあたりを警戒しているUPC軍人から聞いた話をした。それはヒッチハイカーを乗せて目的地へ到着すると、いつのまにかヒッチハイカーが消えているというものだった。
「フムン。それでシートが濡れていたら日本のゴーストストーリーみたい」
「そうだろ。絶好のロケーションだしな」
「?」
「ああ。この辺りはキメラの大物が出没してトラックやらなんやらを襲うんだ。なんでも牛の頭に人間の胴体、それから翼を生やして、凄まじい速度でハイウェイを飛ぶように走り回るらしい。な、人死に多くていかにも幽霊がでそうだろう?」
 実はこれ運転手の作り話だった。キメラの出没は本当のことだが、人間の胴体に牛の頭を持つキメラ、しかも高速移動するなんてものは出たためしがなかった。運転手はまた作り話をしようとして助手席から反応がないことに気づいた。みると女性はミラーを注視している。なにかとおもって覗くと運転手は自分の頭を疑った。
 運転手は走行中にもかかわらず窓から身を乗り出して後ろをみる。1体の巨大なキメラがハイウェイを滑空するようにしてタンクローリーへ迫ってくるところだった。キメラは牛の頭と人間の胴体を持っていた。その背中からは4対の羽根が生えている。そのうち2対は破れて風に吹かれるままだったが、残りの2対は健在で、みるからに筋肉質な下半身と合わせて凄まじい速度を生み出していた。
 キメラの口が開く。その奥が光るのを運転手はみた。それが運転手のこの世でみる最期の光景となった。

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
鋼 蒼志(ga0165
27歳・♂・GD
藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
高村・綺羅(ga2052
18歳・♀・GP
醐醍 与一(ga2916
45歳・♂・SN
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
葵 宙華(ga4067
20歳・♀・PN

●リプレイ本文

 能力者たちはバフォメットを排除するために行動を開始した。能力者たちはUPCや警察に交通封鎖の実行を取り付けると各自持ち場についた。
 貸与されたジープの1台には藤田あやこ(ga0204)と高村・綺羅(ga2052)が、もう1台には寿 源次(ga3427)と鋼 蒼志(ga0165)が乗り込み、それぞれが囮となった。
 能力者たちはバフォメットの襲撃情報から行動を予測し、ハイウェイのある一点に罠を仕掛けた。以前は食堂とガソリンスタンドを兼ねていたらしい廃墟の2階にスナイパーの月森 花(ga0053)、醐醍 与一(ga2916)、葵 宙華(ga4067)がそれぞれの武器を抱いて待ちかまえる。
 さらに、この裏手では九条・命(ga0148)が輸送車で待ち伏せしている。この輸送車は物理的に道路を塞ぐためのもので、簡易ながら装甲を強化してあった。突貫とはいえ、この改造に力を注いだのは藤田だった。
 作戦当日となった。荒野のハイウェイをジープが走る。範囲を広げるために2台のジープは別行動を取っていた。
 藤田と高村の乗ったジープがよたよたと走る。そのうちに道路から逸れて停車する。手足の露出した服装、かつてコギャル風といわれた格好をした藤田はボンネットを開けた。中を覗き込んで舌打ちする。それからさも機械が苦手ふりをするとタイヤを蹴飛ばし、空をあおいでからハイウェイにでた。そして藤田はヒッチハイカーのポーズを取る。
 ここまでの藤田の演技を高村は興味深く見守っていた。
(「‥‥非常に細かい演技だけど効果あるのかな」)
 演技に熱中している藤田は冷めたようすの高村を叱咤する。
「さあ、高村くんもポージングをしたまえ。恥ずかしがらずに」
「綺羅はいいです」と高村、藤田が残念そうな顔したので付け加える。「ではエンストに呆れて車内でぐったりする演技をします。無線機の番もあるので」
 そこへ無線が入る。寿と鋼からだ。現在2人はバフォメットから追跡を受け、罠を設置したポイントへ誘導していた。
 藤田は名残惜しそうに演技をやめるとジープに乗り込んだ。ジープがハイウェイに乗り上げる。
 一方そのころ、寿と鋼はバフォメットから追跡されていた。
 バフォメットは羽根を広げると道路からわずかに浮かびあがる。太い足でアスファルトにひびを入れながら前進する。その口がカッと開かれる。口の奥が輝いた。
「来ますよ、寿さん」
「了解した。回避運動をとる。発射タイミングを計ってくれ」
「‥‥3、2、1」
 寿がハンドルを切る。ジープがぶれる。右側のミラーが光弾にもっていかれた。
 ジープはバフォメットの放つ光弾を避けながらハイウェイの本線を降り、側道へ入った。寿の目が道路脇に廃墟を認める。罠のポイントだ。
「そろそろですね。私は一足先にいきます」と鋼は槍をとって立ち上がる。ジープはルーフのないタイプだったので頭も槍も引っかかったりはしない。
 寿はアクセルを踏み込む。ジープは加速する。鋼は耳元で風が唸るのを聞きながら、バフォメットの口中が輝くのをみた。また光弾が放たれようとしていた。
 光弾が飛ぶ。
 寿は廃墟を通り過ぎたのを確認するとハンドルを目一杯切った。
 同時に鋼がジープから跳躍する。
 光弾がジープの後部をかすめた。
 廃墟の窓が爆音ともに吹っ飛び、バフォメットがもんどり打った。バフォメットは羽根を穴だらけにされて道路を転がる。腕を突き立て、すべるのを無理やり止めた。アスファルトには赤い線が塗りつけられてしまった。
 九条はバフォメットが転倒すると輸送車を発進させた。輸送車の大きな車体で道路を遮る。これでバフォメットの移動方向が制限された。九条は輸送車から降り立った。
 バフォメットは口から血の泡を吹きながらうなり声をあげる。辺りを見回してから姿勢を低くする。背中の羽根を展開する。
「はッ逃亡は許さんよ!」「お前はココで潰す!」
 鋼と九条がバフォメットの左右から迫る。
 バフォメットの左側から鋼が接近する。バフォメットは鋼に向き直って光弾を放つ。が、鋼は残像を残してバフォメットの側面に回り込む。アスファルトが光弾で吹き飛ぶ。鋼の槍が左側の羽根の根本を狙う。
 しかし矛先はフォースフィールドに弾かれる。鋼はニヤリと笑う。「ならば、この一撃で貴様を穿ち貫く!」
 紅蓮衝撃。鋼の槍が羽根の付け根に突き刺さる。エネルギーの発散される音であたりがビリビリと震えた。
 九条が金色の狼のように近づく。黄金の残像を残しながら羽根の付け根を一撃する。展開したフォースフィールドを狼の紋章の浮かび上がった拳が貫き、さらに分厚い筋肉にめり込んだ。九条の突き入れた手がバフォメットの身体の中で輝く。九条は組織をもぎ取った。
 空にバフォメットの断末魔が響き渡る。
 九条と鋼は「やったか!」とおもう。
 次の瞬間、バフォメットは身体をひねると残っている唯一の羽根で羽ばたき、強靱な下半身で地面を蹴った。九条と鋼が吹き飛ばされて今のでひびの走った道路に落下する。
「高村くん、2人を確保して!」
 藤田がいったときには高村はすでに2人の身体を掴んでいる。藤田が超機械の電撃をバフォメットへ浴びせる。そのすきに高村は2人は後方へ引きずっていく。同時にスナイパーの攻撃が再開する。
 銃弾が羽根に集中する。
「地面に這い蹲る方がお似合いじゃない?」と月森。
「悪魔よ、地獄へ帰れ!」と葵。
 月森と葵の息のあった射撃が確実にバフォメットの身体を削り取る。月森の機関銃がバフォメットにフォースフィールドを展開させ、銃弾を浴びせされて弱くなったそれを葵の自動小銃が撃ち抜いた。道路に肉片が飛び散った。
「硬いな。だが、てめえがぶっ倒れるまで攻撃してやる」と醐醍。「羽根が落ちたらお嬢さん方は脚部を攻撃、わしは目を撃ち抜く。寿、錬成強化を頼む!」
「補助は自分に任せろ」と寿の超機械が稼働、スナイパーたちの武器に力を送り込み始める。
 銃弾は雨でなくて刺突だった。無数の刺突でついに羽根が道路に落ちる。月森と葵は今度は脚部へ銃弾を浴びせる。逃亡を図ろうとしているのか、四つんばいになるバフォメット、その露出したひざ関節の裏側を狙う。
 ついにひざから先が吹っ飛ぶ。しかしバフォメットはあがき、断末魔の光弾を放つ。口から、射抜かれた喉から光弾を放つ。九条、鋼、藤田、高村は手近な遮蔽物に隠れる。藤田は輸送車の影に隠れたが、強化した装甲が砕ける音が聞いた。
 廃墟もなぎ払われている。天井の一部が剥落していた。葵は天井の瓦礫を払って叫ぶ。
「往生際の悪い奴! あれを使う。花、支援して!」
 月森は機関銃の弾倉を交換すると遮蔽物から出て連射し始める。葵もまた身体をさらし、フォルトゥナ・マヨールーを引き抜く。
 空が割れるような轟音、同時にバフォメットの喉が吹っ飛び、光弾の連射が止んだ。
「よくやったぞ、お嬢さん方。あとはまかせな」
 醐醍が射撃姿勢を確保。バフォメットの目を、その後にあるはずの脳を狙う。
 1発の銃声が響き、荒野は静かになった。
 バフォメットの巨体が道路に倒れ、土煙があがるも、風に吹き消された。

 戦闘終了後、寿はバフォメットの死体などの後始末に来たUPC軍人へ敬礼した。
「排除完了、お陰で犠牲を払う事無く任務完了だ。迅速な対処に感謝する」
 軍人は貸与したジープで町まで帰るよういったので、能力者たちは厚意に甘えることにした。
「やれやれ。化け物退治の為に道路封鎖なんてまるで映画でしたね」とジープに乗り込んでいる鋼がもらし、九条が相づちをうった。
「まったくだな。‥‥?」
「ジープにはない」そういったのは醐醍だ。「軍用ジープには無線機はあってもカーラジオはない」
 九条が黙る。このやり取りを寝ぼけ眼でみていた高村がくすりと笑う。みるからに寡黙な九条の顔が残念そうにみえたからだ。もう1台のジープに乗った藤田が「障害物は排除した。さぁ風の赴くままに駆けてみるかね?」と騒いでいる。高村は平和で眠くなるとおもいながら目を閉じた。