タイトル:ゾンビ・ザ・ボンダンスマスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/27 00:16

●オープニング本文


 水平線から太陽が昇る。朝の光が丘の斜面を照らし出す。この斜面は段々をつけて広大な墓地になっていた。墓地の経営者は故人が朝日と潮風で清々しい気持ちになることを願っていた。その経営者も今は土の下だった。
 しかし管理人の老人は毒づいた。
「こんな有様じゃ亡き旦那様もあの世で泣いてござるわ」
 老人は墓石を枕にして寝ている若者を蹴飛ばした。若者はあくびをして目を覚ます。酒臭い息を吐きながら、今何時と老人に訊いてきた。そのひょうひょうとした態度に老人は声ができない。この若者は最近、夜中墓地で大騒ぎしている連中の1人だ。おもわずゴミをとりあげ、ハサミを振り回して叫ぶ。
「ちっとは申し訳ない顔せい!」
「はあ。なんで」
 若者は受け流す。それでも頭から湯気を出している老人に面倒さを感じたのかその場を立ち去る。しかし去り際に「そんなに怒ると血管が切れるぜ!」と吐き捨てる。
 老人は本当に血管が切れそうになった。心臓に手を当てて平静を取り戻そうと努力する。心臓がもとの鼓動を取り戻すと老人はため息を吐いて若者たちの遊んだあと片付ける。ビールの空き缶にスナック菓子の袋、それに爆竹と花火の燃えがらをゴミ袋に放り込む。
 老人はこの先のことをおもって心配だったが、なんと不意に若者たちの騒ぎは収まってしまった。老人は昨今の若者の評価を改めたりしつつ、毎朝の点検に励むのだが、墓地の様子がおかしくなっていることに気づいた。
 というのは白い石を敷き詰めて作った道に土塊がよく落ちている。落ちているといってもないところはまったくない。けれどもあるところはひどい。例えば、モニュメントのある広場は土塊まみれだ。それに土葬の墓場もそうだ。老人は野良犬の類が遺体を掘り返してないか心配になったが、すぐに打ち消した。土葬をするときは2メートルほど掘るので犬では掘り返せないし、仮に犬としても群がいなくてはできない。
 野良犬の群など聞いたことない。それでも念のために土葬の墓地へいってみると別段掘り返されたあとはなかった。代わりにみつけたのは小さな土塊の山だ。どうしていくつかの墓地の脇には膝下くらいの大きさの土があった。老人はモグラを連想した。モグラの穴の周辺にはちょうどこんな山ができるらしかった。老人は不思議におもったが、危険はなさそうだったので、どうともしなかった。
 その夜、墓地の管理事務所へ電話がかかってきた。近くの住民からもので墓地が騒がしくて眠れないそうだった。老人はそんなはずはないとおもったが、また若者が騒いでるのかとおもって墓地へ向かった。
 月明かりで墓地の坂道が照らし出される。老人の耳は騒ぎを捉えた。広場のほうだった。老人は憤慨した。というのはこの広場にあるモニュメントはバグアとの戦争で命を落とした人々のために作られたものだからだ。老人はおもわず坂道を走った。どなりつけてやりたくてたまらなかった。
 しかし広場についたとき、老人は声を出せなくなった。
 広場にはたくさんの人々がいた。しかし若者ではなくそもそも人ですらなかった。それらは土まみれの死体だった。ぼろぼろになった死に装束を引きずり、腐った足でステップを踏み、骨のみえる手で拍子を打ち、腹の中身をぶらぶらさせながらモニュメントの周りを回った。動く死体の幾人かは肺を膨らませて奇妙な音を連続的に鳴らした。
 老人は呆然としていたが、動く死体の鳴らす音ではっとした。怒りがこみ上げてくる。音は盆踊りのリズムにそっくりだった。なにかが死体を動かして踊らせている。よくも辱めやがって。
 とりあえず老人はもっていた懐中電灯で死体のひとつを叩きのめした。すると死体のひざが折れてこてんと倒れた。老人はあっけないとおもった。が、すぐに死体は足をつないで立ち上がってきた。
 懐中電灯の明かりで老人はみた。死体の中になにか液状のものが巣食っていることに。液状のものが死体の手足を動かしているようだった。老人はひょっとしたらとおもってもう一度死体を叩いた。すると赤い障壁が現れた。
 キメラだ!
 老人は胸がむかついて仕方なかったが、自分ではなんともならないと考えて、その場を後にした。
 翌朝、ULTのオペレーターが能力者たちにいった。
「奇妙ですが、シリアスな依頼が入りました。とある墓地で死体が動き、盆踊りを踊るそうです。もちろんここに持ち込まれた以上、バグアがらみのものですよ。どうやら死体の内部にはスライムがいて、無理やり動かしているようです。今のところ動く死体は広場で踊っているだけだそうですが、この先なにが起こるか判ってものではありません。速やかな掃討が望まれます」

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
雪ノ下正和(ga0219
16歳・♂・AA
崎森 玲於奈(ga2010
20歳・♀・FT
クラウド・ストライフ(ga4846
20歳・♂・FT
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
並木仁菜(ga6685
19歳・♀・SN
増田 大五郎(ga6752
25歳・♂・FT

●リプレイ本文

●戦闘前

 風が吹いた。夜空を覆う雲が裂ける。月光が墓地を照らし出した。
 無数の墓標の影から能力者たちが姿を現す。能力者たちは動く死者の集う広場付近に隠れていた。やがて能力者たちの耳に場違いに賑やかな音が聞こえてきた。
 墓石の影に隠れている大男が眉を寄せていった。増田 大五郎(ga6752)だ。
「‥‥これは祭り囃子? 事前情報よりも賑やかになってるな」
 増田は豪胆かつシンプルな気質の持ち主だが、この外れてしまったギャグのような状況には微妙な気分になってしまった。
「春だからな。虫やら蛙やら土中で寝ていた輩が起き上がってくるんだろう」
 と影から声がした。九条・命(ga0148)だ。2メートル近い上背があるのに九条は半ば影に同化していた。
「ツッコミ待ちか。それはツッコミ待ちなのか」と小柄な身体で身長ほどある槍を抱いた少年雪ノ下正和(ga0219)がいった。「今日はツッコミなんざ売り切れだ」
 雪ノ下は闇の揺らぐのをみた。どうやら九条が肩をすくめたらしかった。
 3人のやり取りをきいて、混沌の渇望王という異名で畏怖される女、崎森 玲於奈(ga2010)がこっそりため息を吐く。黒髪が揺れた。
 崎森は刀に手をやりながら呟く。
「戦闘の大部分は地味な待機時間だ。それにしても締まらない気分だ」
 一方、広場の入り口周辺にはカルマ・シュタット(ga6302)と瓜生 巴(ga5119)が隠れていた。
 墓石に影で瓜生は不気味な祭り囃子を耳にした。通路の向こう側へ視線を投げかける。
「シュタットさん、打合せ通りにお願いします。目標の半数が通過したらロープを引いて下さい」
「了解している」
 2人の手元にはロープの端があった。闇に紛れてみえないが、ロープは墓石のあいだを走り、通路の砂利の中に埋められていた。2人が引っ張るとロープがぴんと張られて、ゾンビたちの足をすくい、転倒させるはずだった。
 祭り囃子が大きくなる。足音が近づいてきた。広場中央の慰霊碑の影から長身の男が現れる。クラウド・ストライフ(ga4846)は呼びかけた。
「準備はいいか。この依頼失敗なんてのは億が一であっても許されねぇ、気合入れてくぞ」
「はい! 安眠している人たちを起こすなんて許せません」
 と元気よく応じたのは並木仁菜(ga6685)だ。身の丈よりも頭ひとつ分大きい弓に矢をつがえている。
「安眠ってのはちょっと違うとおもうが」とストライフはもらすが、せっかくの息を挫くのはどうかとおもってやめる。
「ああ!」と並木の叫び。「ストライフさん、あれは一体!?」
「御神輿のつもりだろうよ」
 ストライフは眉間にマッサージの必要を感じた。故人の眠る場所なので遠慮していたが、タバコに火をつける。じりじりと音を立てて肺いっぱいに煙を吸い込むとエミタが高稼働を始めた。

●戦闘開始

「馬鹿らしい」と瓜生は無表情にいった。
 広場への通路をゾンビが歩いている。月明かりに照らされながら全身を屈伸させている。瓜生の見立てでは「わっしょいわっしょい」という動きの変形にみえた。
 ゾンビの集団の中頃には御神輿らしきものがある。らしきというのは御神輿にみえないからだ。石棺を櫓の形に積み上げてゾンビたちは担いでいた。そのようにみえるのは瓜生の考えでは祭り囃子とゾンビ共の動きのせいでおかしな連想をさせられてしまうからだ。
 瓜生は眉間に皺を寄せた。それがみえたわけではないが、シュタットは不機嫌を察知して声をかける。
「目標が接近している。間近だ。大丈夫か、気が散っているようだが」状況は奇妙だが、シュタットはおおらかな性質なので気に病んだりはしない。
「問題ありません。棺を担ぐ目標がロープをまたいだら罠を使いましょう。最低でも担いでいる目標は倒せます。上手くいけば棺の障害物がなって強固にゾンビを分断できます」
「了解した」
 祭り囃子が近づく。ゾンビの集団は身体と御神輿を揺らしながら広場へと入っていく。

 わっしょい。わっしょい。わっしょい。
 わっしょい。わっしょい。わっしょい。

 シュタットは苦笑いをもらした。手元のロープが少しだけ引かれたのを感じる。瓜生のほうをみる。闇ではっきりとわからないが、こちらに注意を向けているのを感じる。
(『3、2、1、0!』)
 ゾンビの御神輿が通った瞬間、シュタットと瓜生はロープを引いた。
 ぴんと棒のようにまっすぐに張られたロープ、ゾンビたちの足がもつれた。
 御神輿を担ぐゾンビ、その前の一体が倒れると、もう一体のひざが肩にかかる重量のせいで崩れた。すると後ろを支えるゾンビもくしゃりと潰れた。
 どしんという音。砂煙が上がる。棺は落下して石の山となった。
 シュタットと瓜生は予定通り墓石の影に隠れる。隠れながら視界の端でゾンビ集団の分断を確認してから目を閉じる。ゾンビ集団は御神輿を境に2つに分断された。後続は分断されたのを理解できずに御神輿を押している。
 入り口の2人以外の能力者も墓石の影に隠れる。
 増田が影から腕だけを突き出す。その手には照明銃が握られている。ぽんと軽い音がして照明弾が射出された。
 しゅうと光の弧を描いて照明弾は飛び、広場に侵攻してきたゾンビの頭に命中する。命中するもフォースフィールドに弾かれて砂利道を転がり、後続のゾンビが踏んだ。
 照明弾が発光を始める。踏んでいるゾンビの足から高熱で煙が立ち上り始めた。
 そして火柱があがった。
 燃えるゾンビは組織を破壊されて転ぶ。転ぶが、前にゾンビがいた。前にいたゾンビにも火が回る。
 先に広場に侵入したゾンビたちは燃えながら踊り始めた。
(「変な方向に照明弾が飛んでしまった。それにしてもホルモン屋の臭いに似ている」)
 そう増田はおもったが、口にしたら最後、ホルモン屋や焼き肉屋に入る資格を喪失しそうだったのでやめた。
 いささか呆然とした能力者たちだったが、崎森が気を取り直す。
「Lasst lustig die Horner erschallen Wir lassen die Horner erschallen(偽者の生ける屍とはいえ、分を弁えろ。オマエ達は渇望の皇の前に居るのだからな)!」
 崎森は踏み込む。黒髪がふわりと浮かぶ。光の筋が走った。
 一体のゾンビが十字に断ち割れる。
「くはあッ、渇くぞ、まだ渇くぞ。そんなものでは、おまえたちでは私の渇きは満たせないッ!」
 いいながら崎森は刀を一振りする。炎上する頭蓋が夜空に舞った。
 もっとも遺体はフレームに過ぎないので動きは止まらない。スライムたちは燃えるのがつらいらしく身体をくねらせる。苦悶が大きくなるにつれてゾンビたちの踊りは激しく高速になっていく。
「はあッ」と気合い一閃、雪ノ下は高速舞踏ゾンビを貫いた。
 雪ノ下の槍は遺体でなくてスライムを貫いている。スライムは燃える身体からよい逃げ場所をみつけたとばかりにからまってくる。
「九条さん、ほいッ」
 雪ノ下は槍をひねりながら引き抜いた。モップの水をきるようにふるう。。
 べちゃりとスライムが砂利に転がる。そこへ九条が拳を打ち込む。クレーターができ、土煙がおきた。スライムは影も形もなくなった。
「こっちにも頼む」と増田がいった。
 雪ノ下はうなずくと槍を繰り出してスライムを投げ飛ばした。
 増田は宙を飛ぶスライムへ突進、紙一重で交わして、その瞬間にナイフで斬りつけた。
 スライムは2分割されて飛び、墓石に引っかかった。
 ゾンビは確実に駆除されていた。一方そのころ並木は、
「ひいいいいいい」
 と悲鳴をあげながら弓を連射していた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
 並木の一撃は遺体に謝りながらのものだったが、確実にゾンビを破壊していた。
 ゾンビの身体が崩れるとスライムは再構築しよう。しかし遺体が燃えているのでスライムもどんどん燃え上がり、縮み、身をくねらせた。
(「並木は一見危なげだが、よくやっている」)
 ストライフは並木の倒したゾンビにとどめを刺して回る。ほどよく焼けてなんだか餅のようになってしまったスライムを切り裂いた。
 分割されたゾンビ集団のうち、後続のゾンビが棺の障害物を突破して広場に侵入する。
 九条が叫ぶ。
「残り半数! Ash To Ash! Dust To Dust!」
 誰かが叫ぶ。
「照明弾、撃ち込むか」
 誰かが応じる。
「視界明瞭なのは戦いやすい」
「了解した」と増田。「照明弾、ぶっ放す」
 増田は再び照明弾を撃った。先の投てきに味をしめて水平に撃つ。
 燃え上がるゾンビをみながら増田の脳裏を何かがよぎった。中のスライムが暴れるせいで高速で盆踊りを繰り出すゾンビ。炎上するそれをみながら増田はようやく思い出す。
(「‥‥パラパラに似てるよな」)
「なあ」と増田。
「なんだ」と雪ノ下はスライムを遺体から引きずり出す。
「ありゃ、あの踊りはパラパラなんじゃないか?」訊きながら増田はスライムを斬り裂いた。
「パラパラか。この時代には珍しい」と九条。「しかし罰当たりには代わりなし!」
 九条の拳が鋭さを増す。刀のようにスライムをぶった切った。

●戦闘終了後

 戦闘は終わった。遺体はフレームにできないほど破壊しつくされ、駆動系になるスライムも粉々にされ、そのうえ焼き尽くされた。能力者たちはそれぞれに死者の冥福を祈ってその場をあとにした。事後処理は墓地の雇っている専門業者が行うことになった。
「ところで」と九条が歩きながらいった。「パラパラとはどんなものだ」
「ダンスだ。あんまりみたことないかも?」と雪ノ下がやってみる。
 増田が首を傾げる。そんなのだったかと。増田も踊ってみる。
「「いや、それは違うだろ」」
 増田と雪ノ下は互いにツッコミを入れた。九条は首をひねって他の能力者をみる。
 シュタットは黒目がちな目を細めている。
 瓜生は冷めた表情をしている。軽蔑しているのかもしれない。
「知らん」と崎森は興味なさそうにいった。
 並木も首をふるふるとさせた。
 増田と雪ノ下がストライフをみた。ストライフはタバコを唇にはりつけながらいう。
「なぜ俺をみる?」
「なんとなく踊れそう」と雪ノ下。「最初期は黒服の芸だったらしいぜ、パラパラは」と増田。
 九条が増田とストライフを交互にみていう。
「クラウド、黒服やってたのか」
 並木がストライフを見上げながら。「似合うかも‥‥?」ともらす。
「まさか」とストライフは手をひらひらさせて否定する。
 瓜生は妙な雰囲気になってきたので話題を変えようとする。
「今回の件ですが、どうして盆踊りなんでしょうか。またどうしてゾンビに踊らせたのでしょうか、骸骨でなくて」
「それは俺も気になった。まったくバグアの思考は理解しがたい。いやできない」九条が腕を組んでいった。「ところでなぜ骸骨か?」
 瓜生はうなづいた。
「ゾンビなのにボーン踊りとはおかしくありませんか」