●リプレイ本文
●先発隊 安全確保
ドローム社より能力者たちは行動を開始、ブリーフィング終了後、先発隊と後発隊の2チームに別れて陣地跡へ侵入した。先発隊はキメラや罠の撤去、後発隊は進路の安全の再確認とエミタ回収部隊の護送を役目とした。
高射砲の残骸の転がる陣地を先発隊は扇状の隊形で進む。先頭をいくのはグラップラーの2人組九条・命(
ga0148)、来栖 晶(
ga6109)で、その両脇はスナイパーのランドルフ・カーター(
ga3888)とエクセレンターの瓜生 巴(
ga5119)が固めている。
先発隊は周囲を警戒しながら進む。爆撃を受けたとはいえ、更地に返ったわけではなく、戦闘のあとが生々しく残っている。爆撃だけでなくキメラの突撃も受けたらしく、焼け焦げた分隊支援火器や地上の標的に使用したらしい高射砲が転がっている。
先頭をいく九条が足を止めると、先発隊全体が止まる。九条の視線の先には弾薬庫の表示があった。九条は落ちていた鉄骨でバッテンを作ってマーキングすると迂回した。
「弾薬は分散保管していたのか」と瓜生。
「不発弾に注意ですね」とカーターが返す。
「地雷原と落とし穴を突破したらさらに地雷原みたいな感じだ。後発隊にはあの程度のマーキングで大丈夫だろうか」
「大丈夫」と来栖がちらりと振り返った。「店長が新人2人を見てくれている」店長というのは後発隊の雑賀 幸輔(
ga6073)のことで、この人物は兵舎の一角でラーメン屋もやっていて、来栖はその店でバイトしている。
「赤霧もいる。問題ない」と九条。後発隊の赤霧・連(
ga0668)は一見物柔らかい人物だが、かなりの手練れだ。
先発隊は陣地跡を進んでいく。いくつか弾薬庫を見つけてマーキングをする。また倒壊の危険のある建物にもマーキングをする。地図上では存在しているが、爆撃で区画ごと潰された一帯を迂回しようとする。
このとき建物の隙間に茶色の染みがこびりついているのに来栖は気づいた。人間の潰れた跡だが、来栖はなにもいわなかった。そこに九条が訊く。
「近くに安全と判っているスペースはあるか」
「前方に公園が。角を曲がって50メートルほど」
「戦闘だ。俺とお前が殿で、瓜生とカーターは公園内へ」
グラップラー2人組が回れ右、その脇をスナイパーとエクセレンターが駆け抜け、同時に瓦礫からキメラの群が飛び降りた。
大型ネズミに似たキメラが地に足を着ける前に九条は一撃を加える。その身体に影がかかる。瓦礫から別の群が飛びかかってくる。しかし来栖が割って入り、攻撃という攻撃をいなす。しかし数が多い。敵の手数に来栖は後ずさり、つまずいた。隙ありとばかりに狙ってくるキメラだったが、九条からの一撃で吹き飛んだ。九条と来栖の立ち位置が入れ替わっていた。
来栖は囮になってキメラを集め、九条が集まったところを蹴散らす。これを繰り返すうちに地面に死体が重なっていく。2人は視線を交わすときびすを返し、公園へ向かう。キメラの群は追いかけてくるが、よほど飢えているのか、大部分はついさっきできた仲間の死体に群がる。
仲間と合流するというよりおぞましい咀嚼音から逃れるようにグラップラー2人組は公園へ走る。その背後には餌にあぶれたらしいキメラが迫る。
九条の背にキメラが跳びかかる。九条はかん高い音を聞いた。銃声、弾丸がそばを通る時の音だ。跳びかかったキメラが弾けて地面に転がる。カーターの公園からの狙撃だった。だが空腹のキメラはまだ追いすがる。しかしこれらを疾風がなぎ払った。瓜生だった。
「ナイスフォロー」と公園に滑り込んで来栖。九条は「すぐに群が来るぞ」
仲間を食い尽くしたキメラ、食い足らないキメラ、血に誘われたキメラ、戦闘音に本能を刺激されたキメラたちが道路を埋め尽くす。民間人なら圧倒されかねないさまにも能力者はたじろがない。
「予定通りの対処を」と事務的な瓜生。「九条さんと来栖さんは前衛を、カーターさんと私はフォローに回ります」
「一方向からの攻撃です。楽な状況ですが、気を抜かないように」と朗らかなカーター。
「キメラよ、ここが地獄の底と知れ!」と突進する九条に「熱い男だねえ、九条さんは」と呟いて来栖は連携する。
●後発隊 回収部隊護送
先発隊から後発隊へ連絡が入る。「進路確保、合流地点に変更有り」
エミタ回収部隊の輸送車を中心にして先頭には赤霧連と雑賀幸輔、輸送車の両側には佐伯 流(
ga6580)と並木仁菜(
ga6685)を配置して後発隊は出発した。
「先発隊は多数のキメラを処理したって」と雑賀「でも油断するなよ」
ここで「了解です!」と元気良いものが並木で、「‥‥了解」と機械のようなものが佐伯だった。
先発隊の進んだ道をなぞるように後発隊は進んだ。安全な道だったが、時間をおいているうえに輸送車も通るので、能力者たちは安全を再確認する。
「雑賀、さっきから何をしてるんだ」と佐伯。問われた雑賀はペイント弾を撃っている最中だった。「念のためにマーキングを。もし奇襲と撤退のコンボになったらけっこう迷子になるからな。目のつく位置に印をつけたのさ」
「なるほど。了解した」
「意外と平和ですね。先発隊、がんばったんですね!」という並木に赤霧は、
「ほむ。油断は禁物ですよ、並木クン。ボクたちはまだ合流すらしてないんですからネ」
合流地点は公園の南部だった。先発隊とキメラの交戦した道へ後発隊はさしかかる。
「実は用意しておいた台詞があるんだ」と雑賀。
「?」と佐伯。
「キメラに遭遇したら『誰か、死に損ないをミンチにしてくれ! ハンバーグは俺が作る!』っていいながらぶっ放すつもりだったんだけどな」
「すでにミンチだ。ミンチというより細切れか」と涼しげな佐伯に対して並木は「うっ‥‥ゲホッゲホッ!」とやっている。その背中をさすっている赤霧がいった。
「あ、九条クンたちですよ!」
赤霧の視線の先には周辺警戒中の九条がいた。こうして後発隊は先発隊と合流し、エミタ回収部隊は活動を開始した。
●エミタ回収、弔銃を執って
エミタ回収部隊が作業を始める。並木の具合はますます悪くなった。エミタ回収部隊が遺体の埋込部位のみを切除して輸送車の荷台に積んでいるからだった。並木はついに崩れ落ちそうになったが、支えたのはカーターと赤霧だった。「ほむ、ほむ」と赤霧はかけるべき言葉が見つからないらしく口ごもり、「大丈夫ですか。といっても大丈夫なはずありませんよね」と案じるカーターだったが、物柔らかい口調の下に沈む悲しみがあらわになっていた。
「限られた資源を有効活用する。‥‥その精神に異論は無い。‥‥だがな、もう少し要らぬ気を利かせても良いんじゃないか?」ともらす九条の視線の先には荷台に腕を投げ込む回収部隊の姿があった。
「こういう扱いは予想できたでしょう?」と瓜生。「それにしても意外ね。あなたほどの傭兵がアマチュアじみた感慨をもらす。ぼやくまえに行動しなさい」
「ふん。わかっている」と九条はカーターを呼ぶ。「カーター、来てくれ。エミタ回収部隊に意見具申する。おれの口ではケンカになってしまう」
「熱血漢って意外に感じやすいのよね」と瓜生は九条を見送って「周辺警戒を行う。手の空いている人は手伝って下さい」
カーターは並木の肩を叩くと九条とともにエミタ回収部隊のもとへ向かった。ついていくのは来栖だった。来栖はなんてこともない顔で「意見具申だろ? 『遺体すべては持ってけねぇからな、せめてドックタグ位は持って帰るさ』っておもったところだ」
能力者の申し出にエミタ回収部隊の隊長は渋い顔をしたが、カーターが手持ちのスブロフをちらつかせ、「遺体回収の改善提案」から「遺体の回収の手伝い」へ意見を変えると態度を改めた。九条たちはエミタの回収をしつつ、戦死者たちの認識票を回収し始めた。
「私だって役目を果たさないと」この様子をみて並木は生まれたばかりのポニーのように立ち上がろうとした。赤霧が支える。
「その意気ですよ、並木クン。今生きる人のことをまず考えなければなりません。酷いかもしれませんが、ボクたちはその生き方をしなければなりません。言い訳は最後にします。弱音は終ってからします。ボクは弱さを飲み込んでいつもの様ににへらと笑ってみせます!」
赤霧は力強く笑った。並木はうなずくと瓜生に従って周辺警戒についた。
こうしてエミタ回収は無事に終わり、エミタ回収部隊は撤退した。どうやらキメラはほとんど駆逐してしまったらしく気配がなかった。それでも念のために能力者たちは輸送車を囲んで移動した。とはいえ半分は新人の訓練も兼ねている。
機械で走査するかのように佐伯は精密に安全を確認する。そして手をあげて並木へ伝える。並木は元気良く誘導する。
「皆さ〜ん、このルートなら比較的安全に帰れますよー」
「元気良くなったな。でも幼稚園の引率の先生みたいだ」と雑賀は苦笑して来た道を振り返った。もうすぐ陣地跡からは抜け出す。太陽は地平線に落ちかけていて、空を赤く染め上げていた。雑賀は銃を空に向けると弔銃として撃った。
銃声が弔鐘のように響いた。