●リプレイ本文
●攻撃用意
輝く海面に戦闘の痕跡がある。油が広がって七色の光沢をみせ、比重の軽い部品が漂っている。
海底にはナイトフォーゲル岩龍の残骸が沈んでいた。水圧で潰されて一回り小さくなっている。小魚が周囲にまとわりついていた。
『やれやれ。まいったね。KVが魚礁になってしまった』と周防 誠(
ga7131)がナイトフォーゲルW−01テンタクルス(巡航形態)のコクピットで呟く。
『戦域が迫っています。水中用キット装備の方は今一度動作確認をお願いします』
如月・由梨(
ga1805)は巡航形態のナイトフォーゲルKF−14のコクピットから仲間へいった。
如月のKF−14は水鏡・シメイ(
ga0523)と周防のテンタクルスと並走している。2機のテンタクルス(ちなみに水鏡機はパーソナルネームを『クルス』という)はともに陸上用のKVを牽引している。醐醍 与一(
ga2916)のナイトフォーゲルS−01『雷電』と夜柴 歩(
ga6172)のナイトフォーゲルLM−01『スカイスクレイパー』だ。
水中用キットを装備しているとはいえ、陸上用KVはやはり水中には適していない。著しく移動力が下がったために水中用KVが戦域まで牽引することになった。
『こちら三月兎。動作問題無し』と夜柴がこたえて唇をなめる。
(「初めての水戦の恐怖と強敵と戦える興奮‥‥さて、どちらが勝るじゃろうな?」)
『こちら醐醍機。水中仕様『雷電』の性能、とくと御覧あれ』
水中用キット装備の陸上用KVは歩行形態で水中にエントリーされる。醐醍機は金属の虎のようだ。光沢のある灰色に黄色のラインが走っている。海面から注いでくる光に機体が淡く光った。
『空中班をより連絡』と水鏡。『配置完了、いつでも攻撃できるそうです』
如月はこたえた。
『了解しました。作戦を開始します。‥‥牽引ワイヤーを排除して下さい』
KVとKVを連結するワイヤーが泡とともに弾けた。切り離されたS−01『雷電』LM−01『スカイスクレイパー』が海底へ着地する。白い砂が舞い上がった。
海が揺れる。空中班の攻撃が始まった。能力者たちはそれぞれのコクピットで衝撃に耐える。機体から衝撃が伝わってきた。
●陽動
空はかげっていた。
煙のあがる空母上でビッグペンギンが空の一点をにらみつけていた。
空中に現れた3つの黒い点は噴射炎の尾を引きながら空母に近づく。3機のKVだ。
KVは三角形の編隊をとっている。キャル・キャニオン(
ga4952)のナイトフォーゲルR−01が先頭で、斑鳩・八雲(
ga8672)のナイトフォーゲルS−01とソード(
ga6675)のナイトフォーゲルF−108ディアブロ・パーソナルネーム『フレイア』が斜後方についている。
キャニオンは仲間にいう。
『護る為の戦いは大切ですわ。でも過剰な母性愛は自己愛の裏返しであり戦争を招きます』
斑鳩がこたえる。
『母性愛ですか。あのペンギンはメスなんでしょうか。不覚にもペンギンの雌雄は判別できません』
『あら。軽口を叩く余裕がおありなのね。でも敵の戦意は高いわ。よく注意しなさい』
斑鳩はKV戦が初体験だ。ソードがいう。
『余裕があるのはOKだね。緊張でガチガチだったら落ちたあと沈んじゃうよ。カナヅチの人が浮かないは緊張し過ぎなんだからね』
『ちょっと!』とキャニオン。『ソードくん、うちのバディにへんなことをいわないで下さい。あとで罰します』
チャンネルを共有している無線からソードは斑鳩の笑い声をきいた。自分の顔をはたいてからいう。
『リラックスしたところでいこうか』
『D02ティアークリアー! 悲しみよバイバイ。攻撃開始!』
編隊からキャニオン機と斑鳩機が外れる。キャニオン機を先頭として2機は空母の側面に回り込む。ソード機は依然として直進する。
空母上のペンギンは首をふるふると動かす。二手に別れたKVにとまどったようだ。
『こちらソード。ペンギンを狙撃する。敵の回避運動に備えろ』
ソード機が歩行形態に変形する。青く塗装された『フレイア』が水上をかける。その腕にはスナイパーライフルがある。
発砲音。空薬莢が海面に落ちる。ビッグペンギンは首をふる。頭の脇を弾がかすめた。
『やるね。こちらがわざと甘く狙ったのがわかったか』
ソードはいう。狙撃の目的はビッグペンギンを空母から離脱させることだ。あえて回避から逆襲の動作をとらせようとしたが、裏目に出る。ペンギンは身体を斜めに傾けて海中にエントリーする姿勢をとる。
ソードは高機動の用意をする。
(「海中にダイブしてから飛びつくつもりだな」)
その瞬間、甲板の炎の雨が注いだ。
回り込んでいたキャニオンの編隊が機首を空母へ向けている。斑鳩機が機銃掃射をおこなっていた。
さらにキャニオン機が飛行形態から歩行形態へ変形、滑空しつつスナイパーライフルを構える。機動が猛禽のような動きからふんわりしたものにかわる。安定した姿勢で狙撃する。
機銃掃射でフォースフィールドが展開してビッグペンギンの全身が赤く発光する。痛いのかビッグペンギンはフリッパーをバタバタと振り回して短い足でドダドタと甲板を踏み砕いた。
そこにキャニオン機の狙撃が命中する。フォースフィールドを突き破って弾がフリッパーの付け根に命中する。
嵐のような発砲音のなかでビッグペンギンは苦痛の声をもらす。全身に弾を撃ち込まれながらダイブする。海から水柱があがった。
ソードは水中班へ報告する。
『目標が水中に移動、迎撃を頼む』
キャニオン機は斑鳩機を引き連れてビッグペンギンを追う。海面越しにビッグペンギンの巨大な姿がみえている。
キャニオンはいった。
『ビッグペンギンの頭を抑えるわ。絶対に水上にあげないで。浮上したらすかさず攻撃よ』
斑鳩がこたえる。
『こちらゼファー、了解しました。空中から潜水艦を捉えるのは簡単と聞いていますが、本当ですね。ビッグペンギンがどれだけ無呼吸で活動できるかみせてもらいましょう』
ソードの『フレイア』がG放電装置を発射、海面が真っ白くなる。息継ぎをしようとしたビッグペンギンは水中にもどった。
●水中戦
如月は薄暗いコクピットのなかでささやく。
「ペンギン、あの容姿に、よちよちと歩く姿。凄く可愛いのですが、今回はそのペンギンを。少し心が痛みますけど、どんな容姿であろうと、キメラはキメラ。しっかり退治しなければ」
『目標が水中に移動、迎撃を頼む』と空中班から連絡が入る。如月はセンサーに目をやる。ディスプレイに高速移動する物体が映る。速さに如月は驚いた。
海面が真っ白になる。『フレイア』のG放電装置だ。海がうねってKVが揺れる。センサーが乱れる。
如月は有視界で敵を探す。その目に流星のように水中を飛ぶビッグペンギンが映った。流血している。血がまるで彗星の尾のようだ。如月はビッグペンギンの怒りを感じた。自分もまた戦意を燃やす。歩行形態に変形してガウスガンで狙う。
『むかってきなさい、私が相手です!』
ビッグペンギンは嘴で水を切るようにして加速する。
『すさまじい怒りだな。恨まれるのは当然か。だが‥‥』
夜柴がトリガーを引く。海底にしがみつくようにしているがバルカンを放った。
『それでもお前たちを根絶やしにせねばならん!』
ビッグペンギンはさらに加速する。バルカンの掃射をさらなる加速と高機動戦闘機のような横滑りで回避する。そして如月機へ突撃する。
如月機もまた突撃、ガウスガンを銃剣のように突き出す。ガウスガンが発射準備の唸りをあげる。
ビッグペンギンは如月機に接触する瞬間、体を真横にして衝突を回避、すれ違った。
同時に如月機が回頭して発砲する。弾が明後日の方向に飛んでいくが、作戦通りなので如月は気にしない。
『みなさん、面で攻撃してください。空母から敵を完全に離すのです』
空中班が空母とビッグペンギンのあいだに移動したのを如月はディスプレイで確認する。センサーが乱れる。
海中を魚雷が飛び始める。
『魚雷の爆発で水中の状態が。センサーが乱れます』と水鏡。
『夜柴、KV同士をデータリンクさせろ。各機データを照合して敵位置を割り出す。クリティカルヒットはまだいい。魚雷の破片や衝撃で翼を傷つけて機動力を奪え』と醐醍。
『了解した。我が相棒が皆の目の代わりとなる。思う存分、ぶっ放すのじゃ』と夜柴。
『魚雷の起爆を遅く設定して下さい』と周防は水鏡にいう。『同時発射でいきたい。タイミング任せます。』
『了解しました。‥‥3、2、1、発射』
周防のテンタクルスと水鏡の『クルス』がDM5B3重量魚雷を連続発射する。
魚雷は横列で海中を飛ぶ。
ビッグペンギンは逃亡を図るのか、戦いの仕切り直しを図るのか距離をとる。しかしペンギンの前方が爆発する。空中班が進行方向を発砲し始めた。
ビッグペンギンは回頭する。魚雷が迫ってくる。爆発に巻き込まれるのを防ぐべく迂回するが、そうはさせないと如月機の放った熱源感知型ホーミングミサイルが飛んでくる。
ビッグペンギンは振り切ろうとするが、1発、2発、3発とホーミングミサイルを撃ち込まれて、王手をかけられた王のようにせわしなく機動する。そしてビッグペンギンは肉を切らせて骨を断つことにした。いまだ起爆していないDM5B3重量魚雷へ突っ込む。
『くっ』『まさか』
周防と水鏡が同時にうめく。ビッグペンギンが飛び込んでくるとは。起爆には時間がある。すり抜けられてしまう。
醐醍、一喝。
『魚雷を狙え!』
能力者たちがそれぞれの機体に装備したガウスガン、バルカンを放つ。
魚雷をよりはるかに速いこれらはDM5B3重量魚雷の一発に命中する。他の魚雷を巻き込んで大爆発した。
『センサーに感なし、センサーに感なし!』
誰かが叫ぶ。
能力者たちは衝撃波に翻弄される。うごめく水は腕のように機体の動きを拘束した。水中用KVは流されていく。戦場にとどまれたのは海底をしっかり掴んでいた『スカイスクレイパー』と『雷電』だけだ。
醐醍はとっさに水中用太刀氷雨を海底に突き立て、流されるのを防いでいた。
空中班から連絡が入る。大丈夫か。こちらは水面下の状況が不明だ。大丈夫か!
敵影はみえない!
これらを聞きながら醐醍は『雷電』に氷雨を引き抜かせる。そしてビッグペンギンにささやく。
『妻子を殺されておまえさんもつらかっただろう。同情する。だからこれで終わりにしようじゃないか』
海底の砂が爆発で舞い上がっている。白い空間の中で『雷電』は氷雨を下段で構える。『さあこい。この氷雨のさびにしてくる』
コクピットのなかで醐醍は目をつぶる。
『雷電』が動いた。斜めに切り上げると赤い障壁にひっかかる。けれどもそのまま押し斬るようにふるった。フォースフィールドが断ち切られて奥から赤色がにじみ出た。
『手応えがあったな』
白い海中が赤く染まる。醐醍は空中班に上空の映像をまわしてもらう。
『こちらキャニオンです。敵ビッグペンギンの撃破を確認しました』
キャニオンは編隊を組みながら海上を回る。海のある一点が赤く染まっている。そこには胴体を袈裟懸けに斬られたビッグペンギンがあった。
『血の海だな』とソードがもらす。
斑鳩もまたいう。
『‥‥考えてみれば、あのペンギンも哀れですね』
キャニオンはKVを歩行形態にする。海上でホバリングしながらキャノピーを展開、献花代わりに花の形をしたブローチを投げる。
「哀しみを洗い流すには沢山の涙が必要でした。目を閉じてお休み下さい。二度と涙が流れないように」
花形のブローチが宙を舞う。