タイトル:遠隔操作KV実験マスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/20 15:51

●オープニング本文


 アメリカ西海岸、バグアの襲撃によって廃墟と化した市街地、その公園のひとつに巨大なトレーラーが停車した。トレーラーの側面にドローム社の社章が記されている。
 ドローム社の作業員がトレーラーから降りて荷台のシートを外した。現れたのは8機のナイトフォーゲルR−01だ。どれも歩行形態で荷台に固定されている。
 作業員たちがKVの固定を解除するなか、作業服を着た男がKVの1機に乗り込んだ。そのKVは他のR−01と違ってアンテナが増設されている。指揮官機だからだ。荷台の他のR−01はこの男の乗ったKVの子機だ。
 指揮官機に乗った男、研究者のサトウはアナウンスした。
『チビスケ共を降ろします。荷台から離れて下さい』
 作業員たちが離れる。すると無人のR−01たちがひとりでに荷台から降りた。そして荷台のコンテナを抱き上げると隊列を組んだ。無人のR−01たちは「次の命令をお願いします」とでもいうように頭部センサーアイを点滅させた。
 これらをみていた作業員たちが歓声をあげた。サトウの研究は遠隔操作だ。今までは研究室でシミュレーションやラジコンのような小規模な機械で実験していたが、ようやく功績をみとめられて大規模な実験が可能となった。サトウは大規模な実験の内容をKVのような高度かつ大型機械の複雑な制御と定めた。
 サトウの指揮官機はR−01を改造したものだ。隊列を組んでいる子機KVはR−01の基本フレームをベースに、戦闘機になるための変形機構や空戦エンジンなどを排除してある。代わりに遠隔操作するための機器を設置した。これらのために4機のKVは通常のものよりやや小さくなってしまった。
 サトウは次なる命令を下す。
「では、チビスケ共、実験の準備だ」といいながらサトウはコクピットに増設したキーボートを叩く。
 チビスケと呼ばれた子機KVたちは各自に割り振られた仕事を始める。
 子機KV1号はコンテナを展開して装備品を床に並べ、その中からKVの身長ほどある旗を取り出すと子機KV2号に渡した。
 子機KV2号は受け取った旗を設置場所へ持っていく。このあいだに他の子機はマウントラッチに装備を始めた。腕や脚部のラッチに銃器や剣、盾を装備する。
 どの装備品も偽物だ。銃が発射するのはペイント弾で、剣の刃はカラーマーカーだ。
 子機KVのてきぱきとした動きをみやってから作業員の1人がサトウに話しかけた。
「おれたちのチビスケ、勝てますかね。このフラグシップバトルに」
 フラグシップバトルとはサバイバルゲームのひとつだ。敵と味方に分かれてお互いの陣地にある旗を奪い合う。旗を先に奪い取ったほうが勝ちだ。
 サトウはこたえた。
「私はチビスケ共に賭けるがね。なんせ可愛い奴らだからな」
「ということはあまり勝利は期待してない?」
「まあこれでも高難易度の試験なんだよ。相手は素人でなくて能力者だから」

 時間は遡る。ULTのオペレーターが能力者に説明した。
「今回の依頼はドローム社です。所属研究室の実験に支援してほしいとのことです。この研究室の研究内容は機械の遠隔操作です。今はKVのような大型かつ精密機械が研究課題としているそうです」
「実験内容は遠隔操作可能に仕様変更したKVによるサバイバルゲームです。極めて複雑な状況での動作を確認するために、この世界でもっとも複雑な状況のひとつ、戦闘状況を選びました。もちろん本当に戦場には出られないので、模した状況としてサバイバルゲームです。それでもできる限り戦場に似せるべく能力者の登場に相成ったそうです」
「‥‥いいたくありませんが、なんというか、これは能力者に仮想キメラを演じさせるということなのかもしれません。私見ですが。よかったらキメラの着ぐるみを貸与します」

●参加者一覧

エリク=ユスト=エンク(ga1072
22歳・♂・SN
リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
NAMELESS(ga3204
18歳・♂・FT
瞳 豹雅(ga4592
20歳・♀・GP
キラ・ミルスキー(ga7275
16歳・♀・SN
一之瀬 大河(ga7397
23歳・♂・FT
煉威(ga7589
20歳・♂・SN
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER

●リプレイ本文

●出撃前

 廃墟と化した市街地、その外れにある公園にKVが旗を立てる。旗はフラグシップバトルのためのものだ。この旗を先に奪ったチームが勝ちになる。今回は遠隔制御されたKVのチームと能力者のチームが対決する。
 KVが初期配置につくと、指揮官機のパイロットにしてドローム社の研究員の佐藤は、コクピットを展開して照明銃を撃った。
 赤い火線が空に昇る。これが戦闘開始の合図だった。
 佐藤はコクピットを閉鎖すると子機KVを操作開始する。
 
●無人機、前進

 煉威(ga7589)はテナントビルの屋上で伏せる。借り物の無線機にいった。
「着ぐるみは着ないのか?」
「用意はしてある。だが、あれはエキシビション用だ」 
 一之瀬 大河(ga7397)がこたえる。民家の屋根に体を貼りつけている。そばの公園には能力者側の旗が設置されている。
 煉威と一ノ瀬の役目は能力者チームの旗の防衛と敵KVの捕捉だ。
「それは残念」と煉威はこたえながら瞳 豹雅(ga4592)の動きをちらりとみた。
 豹型キメラの着ぐるみをまとった瞳が遮蔽物から遮蔽物へ移動していた。胸元と足を大胆に露出したレオタードに丸い耳と尻尾のコスチュームだ。
 一ノ瀬がいう。
「瞳は大丈夫か。あの装備は不適切だ。肌の露出が多いから赤外線センサーに探知されやすい」
「突っ込むところはそこかよ。なんつーか他にもあるだろう」
「そうか? ‥‥ああ、防弾性もないし擦過傷にも弱いな」
 煉威がツッコミを入れようとした。このとき色気よりも戦闘好きのNAMELESS(ga3204)が突っ走っていた。
 NAMELESSの前方にある家屋からKVが姿を現す。
 NAMELESSは頭上で槍を回転させる。笑った。けっけけけけけ。路地に響き渡る。NAMELESSは跳躍する。悪魔の姿をかたどった着ぐるみの背中から翼が展開する。
『先手必勝!』
 槍がKVの脚部を貫く。KVは片膝をつき、次の瞬間、勢い余って前転した。
 とんぼ返りしたKVはひっくり返った亀のようにもがく。
 NAMELESSは笑った。
「1機撃破!」
 けっけけけけというNAMELESSの笑い声が無線機の出力部をビリビリと震わせる。キラ・ミルスキー(ga7275)は目を細める。
「フムン。一番槍というものだな」
 ミルスキーはテナントビルの2階からNAMELESSの挙動を目で追う。突出するNAMELESSを追い払うためか複数のKVが集まっていた。
 KVはペイント弾を連射する。砲撃音が響く。壁やアスファルトが赤く染め上げられる。
 ミルスキーはKV1機を狙撃した。銃弾がKV斜面装甲に命中して火花を散らした。撃たれたKVが伏兵を探すかのように回頭する。
 ミルスキーはKVの接近を待ちながら他のビルを照準する。あのビルにはダミー人形代わりの着ぐるみが設置してある。KVの発砲音に被せてミルスキーは発砲する。ビルの壁面が崩れて着ぐるみが地上に落下する。
 この着ぐるみに対して接近中のKVは反応、ペイント弾を連射、着弾面を赤い水たまりにする。そして剣を模したカラーマーカーを振り上げて着ぐるみを叩いた。
 ミルスキーは着ぐるみにとどめを刺したKVを照準する。
(「獅子は兎にも手を緩めない。そう聞くが、やり過ぎかもな。KVに殴られるのは絶対、痛い」)
 ミルスキーの狙撃がKVの四肢をもぎ取った。KVの胴体部分が転がる。
 けたたましく笑いながらNAMELESSは敵の旗目指して突っ走る。これをKVが追いかける。このKVの前に1人の男が立ち塞がった。エリク=ユスト=エンク(ga1072)だ。
 エンクはKVを差し招いた。
 KVの1機がエンクに反応する。ペイント弾を放った。弾丸が銃口から出た瞬間、エンクの矢によって射抜かれる。さらに矢は発射装置の中に入り込んだ。発射装置の弾倉が吹っ飛び、KVは赤い塗料塗れになる。
 KVはペイント弾発射装置を捨てた。盾と剣のようなカラーマーカーを構えてエンクへ突進する。エンクはうなずきながら後方へ跳躍、路地に入り込む。KVは家屋を粉砕しながらエンクへ突撃した。
 エンクはKVと正対したまま後ずさる。上体を左右に振って飛んでくる瓦礫を回避する。エンクの背中が壁に触れる。
 真っ赤に染まったKVは両断するかのようにカラーマーカーを振り上げた。この下半身が沈み込んだ。金属のひしゃげる音が響く。KVは両腕を突っ張らして落とし穴から出ようとする。
 エンクはKVに罠をかける予定だったが、用意が揃わなかったので、現場にあるもので代用した。瓦礫から水道管を引きずり出すと組み上げて足場にした。これを攻撃によってできたらしい大穴に設置、さらに灰色のシートを被せた。KVは落とし穴から出てくる気配はない。
 一方そのころ瞳 豹雅は2機のKVを相手にしていた。
「あら。もてますね。この格好のせいですか」
 豹型バニー姿の瞳は向かってくるペイント弾に対してわずかに後ずさる。ペイント弾は射線上にあった交通標識に命中して弾ける。この隙を狙って瞳は距離を詰める。赤い霧を突っ切るが、もう1機の援護射撃で失敗する。瞳はビルとビルの間に逃げ込んだ。
 2機のKVは連係攻撃を開始する。1機が跳躍してビルの屋上に昇るとそこから弾幕を張る。もう1機は身体を小路にねじ込み始めた。
 瞳は唇を噛む。外付け式の非常階段を昇って屋上へ上がるとビルからビルへ飛び移る。けれどもKVはデータリンクしているからか、異様な正確さで、ペイント弾を撃ち込んでくる。瞳は壁を滑るようにして落下する。このビルがKVによって蹴られた。ビルが倒壊して瞳は投げ出される。けれども瞳は猫か忍者のように衝撃を殺して着地した。
 KVはこの瞳を狙う。ペイント弾が瞳に迫る。
 一条の光が走ってペイント弾を蒸発させる。リチャード・ガーランド(ga1631)のエネルギーガンだ。
「瞳さん、今度はこちらが連携する番です」 
 廃墟からガーランドはエネルギーガンでKVを狙う。シートで隠された銃身から光が迸った。閃光がKVの腰部をなぎ払った。KVは分断されてアスファルトに転がる。
 もう1機のKVは後退を始める。このカメラアイに瞳の姿が映る。瞳は忍者のようにビルの壁面に立っている。この両腕が交差して弾けた。KVのカメラアイが×印に裂かれる。
 このあいだもNAMELESSの突進は続く。そのまえに2機のKVが立ち塞がる。2機のKVは一斉にペイントを連射する。
 視界を覆い尽くすペイント弾に対してNAMELESSは槍を回転させる。眼前で回転する槍がペイント弾の直撃を防ぐ。これを隙とみたのか2機のKVが発砲しながらNAMELESSの脇を通過する。
 KVは劣勢になったので攻撃に転じる。僚機を見捨て、自分の陣地を見捨て、ひたすらに敵の陣地を目指す。
 NAMELESSもまた目前の旗目がけて走る。
 2機のKVは跳躍する。ビルの屋上から屋上へ移動する。傭兵のKV運用法のひとつを真似した動きだ。
「煉威、着替える時間がない」
「なにさ。実は着たかったとか。着ぐるみを。なら着替える時間つくってやるよ」
 一ノ瀬と煉威は無線を交わした。
 煉威は跳躍した2機のKVからまたがれる。煉威は伏せていた身体を転がして銃を抜く。上空を覆う影、2機のKVを2丁拳銃で攻撃をする。火花を散らしながら通過するKVを追撃するべく煉威は寝た状態から跳ね起きようとした。SES搭載拳銃の巨大な反動と能力者特有の身体能力が煉威の身体を振り回す。煉威は宙返りして跳ね起きると、屋上を蹴って旗のある公園へ降り立った。
 2機のKVは公園に着地した。
 が、1機は地面にめり込む。脚部から股関節がもげている。煉威の攻撃の成果だ。撃ち抜かれた関節は着地の衝撃に耐えられなかった。
 煉威とKVは対峙する。煉威の赤い双眸とKVのカメラアイは互いを睨め付けた。
 KVは旗に腕を伸ばす。煉威の腕が跳ね上がってKVの腕が吹っ飛んだ。しかしそこで終わりだ。煉威は弾切れに気づくと、KVに突進するも、突き飛ばされた。煉威は放物線を描いて公園の外へ落下した。
 緑色の影が煉威を受け止める。落下の勢いを殺すと煉威を見捨てて旗に向かう。今まさにKVが旗に触れようとしていた。だから緑色の影はそのまま突進した。ハルバードを抱いて。
 緑色の影、着ぐるみを着た一ノ瀬から体当たりを受けてKVはよろめく。しかし装輪を使用してやり返そうとする。
 ここで一ノ瀬のハルバードが閃いた。KVはなぎ払いで転倒した。さらにカメラアイを潰されてしまう。そしてコクピットの装甲を切り裂かれ、最後にその内部を貫かれた。KVは機能停止する。
 一ノ瀬は緑色のもこもこを着たまま宣言する。指揮官機の佐藤に報告する。
「こちら能力者チーム。指揮官機を除く全KVの活動停止を確認、実験を終了する、以上」