●リプレイ本文
●実験
青空の下にヒマワリ畑が広がる。一面の黄色にくさびが打ち込まれている。傷だらけのブルドーザーが突っ込んでいる。ブルドーザーの駆動部分にはヒマワリが巻き込まれていた。
巻き込まれているヒマワリはびくんびくんと震えている。ヒマワリ型キメラだ。フォースフィールドは健在で、枝葉をうごめかしてブルドーザーから逃れようとするが、身体がキャタピラに巻き込まれて複雑に絡まってしまい、脱出できない。
ブルドーザーの走った跡を能力者がたどる。能力者はヒマワリ型キメラを撃破するために現れた。
けひゃけひゃと白衣の人物が笑った。首からさげているクロスがキラリと光る。ドクター・ウェスト(
ga0241)だ。能力者のうえに多分野の研究を同時進行している学者でもある。
「さて、動けない今のうちに実験といこうかね。さっさと終わらせないと、ブルドーザーのキャタピラを壊しかねん勢いだしね」とウェスト。
「はい!」と金髪の小柄な少年ティル・エーメスト(
gb0476)がこたえた。
ウェストとエーメストは同時に右手を突き出した。指と指の間からすらりとアーミーナイフが現れた。
属性付きのアーミーナイフだ。ヒマワリ型キメラの弱点属性を調べるために用意した。
ブルドーザーに近づくウェストとエーメストへホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)が声をかける。携帯型ラジオを突き出す。
「音に反応しているかもしれない。こちらも試したい」
「あー、それは私も気になっているところです」
そういったのは金髪に小麦色の肌という夏っぽい容姿の女性瞳 豹雅(
ga4592)だ。さらに言葉を重ねる。
「音に反応としたら、なんか昔のおもちゃみたいですね。なんていいましたっけ?」
ウェストとロサは顔を見合わせた。
「さあ。なんだろうな」とロサ。
「さて。なんだったかねえ」とウェスト。
何の話でしょうかとフィオナ・フレーバー(
gb0176)が瞬きして首を傾げた。手には呼笛とメガホンがある。ヒマワリ型キメラと音の関係を調べるための装備だ。
実験から話のそれつつある能力者をみながら優(
ga8480)はいった。
「実験は彼らに一任して私たちは周辺を警戒しましょう。奇襲を受けてはたまりません。今回は狩りならぬ刈りですが、逆に我々が刈られてしまってはいけない」
青い髪の少女水鏡 空亜(
gb0691)がぴょんと跳ねた。
「賛成! 妖精さんも、みんなを守るんだっていってるの」
了解したと緋室 神音(
ga3576)がうなずいた。わずかな首の動きで長い黒髪が揺れた。
●うねうねと動く
ヒマワリ畑に哀愁漂うメドレーが響く。アップテンポだが、どことなく気怠くて、色っぽい。
ロサは携帯ラジオのスイッチを切った。
「‥‥芳しい反応ではないな」
「ですね」と瞳。「最初はイカかタコみたいにうねうねしてましたけど、音に慣れたら動きが静かになっちゃいましたね」
「目とマップを手がかりに探索するとしよう」
能力者たちはTV局から畑を上空からみた映像を入手していた。事件初期はヒマワリ型キメラはすべて活動している。このときの映像元にだいたいの位置を記載した地図を作っている。
瞳はいった。
「ドクター・ウェストさん、そちらはどんなものでしょうか?」
けひゃけひゃという笑い声がブルドーザーの向こう側から返ってくる。
「‥‥ちょうどサンプルを採取したところだ」
「属性は、ですね」とエーメストの声。「よくわかりませんでした」
「特別に効果のある属性はなかった。無属性として対処だ」
ウェストがけひゃけひゃと笑う。研究の余地があるのが面白いらしい。
周囲を警戒中の水鏡がぴょこんと跳ねた。
「あのね、あのね、妖精さんがあそこにキメラさんがいるって」
「‥‥キメラさんという呼び方はどうなんだろう。ってどこにいる?」
緋室が抜刀しながら水鏡の示す方向へ視線を飛ばした。
「!?」
緋室はヒマワリ型キメラと目が合った。
ヒマワリ型キメラは枝葉をくねらせながらたじたじと後方へ下がっていく。
「‥‥うねうね動くのは不気味ね」
緋室はヒマワリ型キメラに突撃、突きを繰り出した。ヒマワリ型キメラは畑をかきわけながら後へ下がる。他のヒマワリが突きの射線上に現れて的になった。花弁が飛び散った。
「緋室さん。下がってください」と優が警告する。
緋室はヒマワリ畑の中に踏み込んでいた。奇襲を受ける可能性がある。緋室はうなずいて下がった。
「やれやれ。移動可能か」とロサ。「ドクター・ウェスト、移動できる植物というのは植物なのか?」
「ふむん。植物は光合成、堅い細胞壁を持って多細胞で成長すること、世代交代の3要素を持つものを指すのさ。光合成はともかくキメラは生殖しないからひまわり型キメラは植物じゃないね」
さすがドクター・ウェストですねとフレーバーが感激した。
ウェストはけひゃけひゃと笑う。その背後にある農道からひまわり型キメラが首を突き出した。様子をうかがうようにして花弁を巡らせた。能力者たちが声をあげると、ひまわり型キメラは畑に倒れ込むようにして姿を消した。
●ひまわり刈り
ひまわり畑は広いので能力者は2班に別れて行動する。A班は緋室、ウェスト、瞳、水鏡で構成される。B班はロサ、優、フレーバー、エーメストで構成される。能力者たちは畑を半分に別けると、無線で互いの班と連絡をとりつつ、受け持ちの範囲を探索し始めた。
A班のドクター・ウェストがいった。周囲はひまわりが群立っていて視界が通らない。
「‥‥うーん。キメラ探知機の開発は急務かね」
「まあ、いまこのときは自前の目と耳が頼りですね」と瞳。そこへ水鏡がいった。
「うんうん。妖精さんもあそこにいるよって教えてくれるしね」
緋室が小首を傾げた。
「‥‥妖精ね。私のアイテールみたいなものかしら」
緋室がエミタを意識した。覚醒中なので余剰エネルギーでできた光の翼を背負っている。緋室はエミタのAIに「アイテール」と名付けていた。
「‥‥静かにっ」とウェスト。「前方で何か動いたような。我輩の目には歩行タイプのひまわりとみえたが」
瞳がマップに目を走らせた。小声でいう。
「付近にキメラのいる可能性があります。気をつけて」
がさがさという音がする。能力者互いの背中を隠すように立った。がさがさという音は能力者を中心にして回るように動いた。
風が鳴った。
ヒマワリのひとつが身体を倒して回転ノコギリのように振る舞った。
ウェストがうめき声をあげる。
ヒマワリ型キメラがその身体でウェストを打ちのめしていた。
「よくもウェストさんを」と緋室。
「‥‥ッ。我輩に構うな。もう1体いるぞ」
能力者の視線はウェストに集まってきている。この隙を突いて背後から歩けるほうのヒマワリ型キメラが襲いかかった。
光が走った。緋室の振り返りざまの一撃。ヒマワリの首が落ちた。
ウェストを襲ったヒマワリ型キメラを倒した瞳が無線機を取り上げる。B班に連絡しますといった。
一方そのころ、B班もまた陣形を組んでいた。4人で背中合わせになって死角を補っている。優の無線機から瞳の声が流れ出す。歩行タイプと設置タイプのキメラが連携し始めています、歩行タイプの陽動に気をつけて下さい、と。
「ちょっと遅かったですね」とフレーバーがもらす。
能力者のそばには斬り倒されたヒマワリが転がっている。すでに陽動にひっかかっていた。
がさがさという物音がする。音のほうへちらりとロサが視線を向けた。すると別のところからもがさがさと音がした。
「ヒマワリの地雷原だな」とロサ。「周囲に複数の設置タイプが隠れている」
「まずいですね。迂闊に突っ込めば、ヒマワリからめった打ちを受けます」と優。
「でもここで立ち止まっているわけにはいきません。ぼくが歩行タイプ突っ込みます」
そういったのはエーメストだ。エーメストの金髪から色が抜け、双眸が赤色になる。
いいだろう、やってみなさいとロサ。ソードを取り出した。
優もロサの考えを推測して月詠を構える。
フレーバーが胸の前で拳をぎゅっと固めていった。
「ティルくん、がんばって。怪我したら治療してあげるから」
エーメストが緊張気味にうなずいた。
歩行タイプの移動音が辺りに響く。ロサと優は聴覚に集中する。そして敵の動きがわずかに鈍った瞬間、2人同時にソニックブームを放った。
ヒマワリ畑を衝撃波が断ち割った。道ができる。道の先にはムカデのように這っているヒマワリ型キメラがいる。
「いきます!」
エーメストがソニックブームの作った道を走り出す。
歩行タイプのヒマワリが地面に身体を叩きつける。すると道の脇からヒマワリが跳ね上がった。
エーメストは走りながら頭を下げる。頭上をヒマワリのブレードのような葉が過ぎていく。銀髪が千切れて散った。次はすねを狙う下段の一撃が迫る。エーメストは前方に宙返りして回避する。
地面転がりながらエーメストは歩行タイプのキメラにたどり着き、アーミーナイフを突き立てた。キメラは動きを止める。
●終わって
歩行タイプのヒマワリを倒すと残りは簡単に片付いた。能力者は巧みにひまわり型キメラと通常のひまわりを区別し、通常のひまわりにわずかな被害を与えるに止めて、キメラの撃破に成功した。
ブルドーザーの上から緋室は周囲を見回した。ソニックブームの跡や切り払った跡が各所にある。けれどもまだまだ一面ひまわりだ。ひまわりの元気の良い黄色に緋室はくらりときた。
水鏡もまたブルドーザーに上がってくる。背を伸ばして周囲を見まして歓声をあげる。そして閃いたようにいった。
「ね、ね、ね。妖精さんがボクにいったんだ。本当に駆除できたかなって。我慢強い奴が息を潜めてるんじゃないかって」
「そうだな。取りこぼしのチェックが必要ね」
同じようなことをエーメストもウェストにいっている。帰還する前に再チェックしましょう、と。
「ひまわりは背が高いので、あ、えと、上から見てみたいので、その、肩車‥‥してもらっても良いですか」
ウェストは瞬きした。口をわなわなとさせる。胸のクロスに触れる。どっちみち再チェックは必要だからね、と呟く。
「ええい、こんなことホアキン君に頼みたまえ」
ぼやきながらもウェストは膝をついた。エーメストに乗れと促した。
エーメストは歓声をあげる。
フレーバーがうらやましいそうにウェストとエーメストをみた。
「ああ。私もまぜてまぜて」
「ダメですよ、フィオナさん。ドクター・ウェストは1人乗りです」
「我輩は車ではないぞ。だが、希望には応えよう。‥‥ホアキンくん、フィオナくんを肩車したまえっていないじゃないか」
ロサはブルドーザーの影で一服していた。ウェストの声を受け流す。
「なら私が」緋室が進み出た。「さあ遠慮は必要ない」
フレーバーは緋室の申し出にとまどった様子だ。でも厚意に甘えることにしたのか肩車してもらった。
(「うーん。おかしいな。肩車をしようとおもったら自分が肩車されている。どうしてだろう?」)
ひまわり畑には戦いの傷跡が残る。けれども平穏は戻ってきた。一面の黄色のうえを歓声が響いて空へ吸い込まれた。