タイトル:砕け散る空を飛ぶマスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/25 03:10

●オープニング本文


 アメリカの砂漠地帯を1機のKVが遭難者救助のために飛んでいた。
 この辺りは人類とバグアが咬み合っている競合地帯だ。いつ攻撃があってもおかしくない。救助隊が二次遭難するのを防ぐためにKVが動員されている。
 KVの対地レーダーが地上になにか発見した。レーダーだけでは詳細不明だ。パイロットは目視確認するために降下し始めた。
(「‥‥くそう。ひどい有様だ」)
 黄色の砂地にに墜落したヘリの横たわっている。パイロットの鋭い目はヘリの周囲に動くものを捉えた。パイロットがKVの自衛用火器のスコープでのぞくと、砂漠迷彩を施された犬型キメラと判った。犬型のくせに兎のような耳と3つ目を持つのが奇妙だが、一番引きつけられたのは全身の汚れだ。
 犬型キメラはヘリの残骸から引きずり出した人間の死体を奪い合っている。その光景にパイロットは吐き気と怒りを催しながら本部に連絡する。
「探索目標を発見した。周囲には複数のキメラがまとわりついている。遭難者の生存は絶望的だ」
 キメラを吹き飛ばすかパイロットは尋ねる。トリガーにかけられた指が攻撃命令を待つ。けれども本部は帰投を命じる。
 パイロットは舌打ちした。こちらを見上げているキメラに向かって指を向けて『バン!』と撃った。それから帰投しようとした。
「!」
 空が爆発した。機体が大揺れする。ディスプレイにダメージコントロールが表示される。パイロットは反射的に上空の敵を探す。被弾位置が機体上部だったからだ。けれども何もない。みえない敵を殺せるか、逃げての一手だとパイロットはブースターを使用する。
 KVが大気を切り裂くように飛ぶ。それを追跡するかのように上空から何かが降ってくる。

 犬型キメラの1匹は去っていくKVを追いかけたが、さすがにブーストを使用されると追随できなかった。それでもみているとKVは射程外に逃げてしまった。犬型キメラは仲間にその旨を連絡する。
 そのメッセージは伝言ゲームのように複数の犬型キメラを経由して砂漠のある地点に隠れているゴーレムに伝わった。
 そのゴーレムは背中を砂地につけて実体弾を放つライフルを空に向けていた。ゴーレムはライフルを降ろして、配下の犬型キメラたちに索敵を命じた。
 ゴーレムはキメラを自分の目として扱い、実体弾の曲がる性質を利用した狙撃手だった。

 UPC士官は能力者にいった。
「砂漠に潜む狙撃手を撃破してほしい。先日遭難者救助のためにKVを派遣したのだが、曲射砲撃とみられる攻撃を受けた。どうやら敵は砂漠のどこかに隠れて、センサーの類でこちらの位置を察知、奇襲をかけているようだ。‥‥‥‥おそらく遭難者もこの曲射砲撃を受けたのだろう」
「このままで遭難者の回収もままならない。能力者諸君、敵を撃破してくれ」

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
霧島 亜夜(ga3511
19歳・♂・FC
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD

●リプレイ本文

●毒薬一滴

 砂漠を風が渡る。
 赤茶けた大地から砂塵が舞い上がって流れていく。大地に薄い布がかけられたかのようだ。
 1体の巨人が大地から現れた。ゴーレムだ。身長ほどもあるライフルを杖代わりにして立ち上がると、カモフラージュとして被っていた砂が周囲に散った。
 長銃身のライフルを抱いてゴーレムは布を切り裂くのように砂塵を突っ切って歩き始める。その足下では犬型キメラたちがまとわりついている。
 ゴーレムが彼方を指さすと、犬型キメラは一斉にそちらを3個ある目でみつめ、兎のように長い耳を向けた。それから漁師から命令を受けた猟犬のように走り始めた。
 犬型キメラの疾走をゴーレムは見送ると、狙撃ポイントを探し始めた。
 犬型キメラは情報収集と伝達に特化している。敵を発見するとゴーレムに連絡する。ゴーレムはこの連絡をもとに敵の位置を推測し、実体弾を投射するライフルで敵のみえない位置から砲撃を加える。
 毒薬の一滴が杯を毒杯に変えるように1体のゴーレムによって脅威が広がっていく。

●調査 EYE

「エミタのメンテナンス? あとでいいさ。次出撃するあんたらに協力しないと。落とされたら寝覚めが悪い」
 KVのパイロットは例外なく能力者だ。能力を維持するために戦闘後などは未知科学研究所でエミタのメンテナンスを受けることになっている。しかし遭難者の探索中に被弾したKVのパイロットは榊兵衛(ga0388)からの面談の要請を快く引き受けた。
 さっそく榊は質問した。
「砲撃を受ける前にセンサーに類する物と接触・発見しなかったか」
「報告書に書いたとおりだ。その手のものはみかけなかったよ」
「そうか。だが、攻撃を受けたということは敵から捕捉されたということだ」
「俺個人としてはその推論は当たってるとおもうよ。もうフライトレコーダーは閲覧したか?」
 榊はうなずいた。
 フライトレコーダーにはレーダーの反応、ガンカメラの画像、無線のやり取り、パイロットの操作などの様々な情報が記録されていた。
 パイロットは言葉を繋いだ。
「攻撃を受けたからには捕捉者、攻撃者がいる。いるならば、俺にわからなくてもフライトレコーダーに記録されているはずだ。‥‥もっとも機械は推理してくれないし、俺の目もごまかされやすい。そしてあのフライトで俺はたぶらかされたに違いない」
「目撃したが、真実の性能を見抜けなかったというんだな」
「そうだ。そしてあのフライトで遭遇したものは少ないよ。キメラの群と撃墜されたヘリだけだ。それに怪しいとおもわないか、あのキメラの形状、まるで電子戦装備を無理矢理増設させれた戦闘機みたいだった」
「擬装を施されたセンサーがあるという推論はわかった。だが、超遠距離からの狙撃もありうるのではないか。例えば、攻撃衛星からの攻撃などだ。空の高みはまだバグアのものだ」
「それはない。そんな大がかりな攻撃ならばKVのレーダーどころか基地のレーダーに映ってしまう」
「なるほど」と榊はうなずいてその場をあとにした。
(「あのパイロットも俺と同じ推理をしたな。それはそうといささか遠回りな真似をしたかもしれない」)
 UPCから提出された情報をもとに榊はヘリ墜落現場のキメラが怪しいと感じた。しかし確証が持てないので現場をみてきたパイロットと面談したのだった。
 榊はあごにふれた。
(「おそらくセンサーはあのキメラだ。仮になにかが地中に埋まっているとしてもヘリ撃墜現場の周辺にあるはずだ。だったらあの近辺に攻撃を仕掛ければ、何らかの反応を引き出せるだろう。ここまではいい。問題はこちらが相手を捕捉できるかどうかだ」)

●調査 ARM

 シャーリィ・アッシュ(gb1884)は壁のスイッチに触れた。格納庫の照明がつき、破損しているKVが姿を現した。今回の依頼の発端、撃墜されたヘリの捜索に向かったKVで、能力者から調査したいという要請があったためまだ整備所に移送されていなかった。
 鹿嶋 悠(gb1333)がKVに近づき、機体に触れた。
「まだ暖かい。エンジンの余熱が残っているんでしょうか。それはそうと、敵の攻撃がどこから飛んでくるか調べなくてはなりません」
「こちらの手の届く範囲であるといいのですが」
 敵の所在は不明だ。しかし能力者は敵の反応を導き出す方法をすでに考案していた。次に問題となってくるのは能力者が敵を捕捉できるかどうかだ。例えばだが、もしも敵が衛星軌道上から攻撃を行うとしたらKVでは太刀打ちできない、一方的に殲滅されてしまうだろう。敵の反応から所在を把握したあと、こちらが対応可能か確かめなくてはならない。
 アッシュは顔を曇らせた。
「‥‥気に入りません。まるで戦う前から撤退を考えているようです」
「撤退は無念ではありますが、意味あることですよ。我々が対処できないとしたら敵は未知の戦力でしょう。次の戦いのために必ず情報を持ち帰らなくてはなりません」
 鹿島はそういったあと、アッシュに自分のいる側面とは逆の側に回るように頼んだ。
 KVは被弾箇所にテープが貼ってあった。これは損害のある箇所を示すだけでなく、火災や漏電の危険を除去したことを示すものだった。
「こちらの側面にはテープはありません。そちらはどうですか?」と鹿島。
「こちらも同じです。被害箇所は機体上部と下部に集中しています。まるで上から下に攻撃を、もしくは下から上に攻撃を受けたみたいです」とアッシュ。
 アッシュは機体の下に潜り込んだ。小柄なので機体に頭をぶつける心配はない。損害箇所をのぞくと天井の照明がみえた。
 鹿島は被弾箇所に手を触れた。装甲の破れた箇所、穴のふちを指でなぞると引っかかりがあった。
「とても滑らかなとはいえない。ということはレーザーではありませんね」
 アッシュはラダーから機体の上に乗っていた。手で触れると装甲はざらついていた。機体は戦場でよくみる汚れが付着している。爆発物の出す類のものだ。上部と下部を比較すると上部のほうが汚れがおおい。上から攻撃を受けた証拠だ。
「上からの爆発を受けているのか。‥‥これは実体弾、それもグレネードの類ではないでしょうか」
「ほぼ確実でしょう」と鹿島。「敵は曲射で自分の位置を誤魔化している可能性が高い。アッシュさんの懸念は残念ながら外れましたね」
 アッシュは少しだけ眉を寄せた。非実体弾をなんらかの方法で曲げているのではと推測していた。
「いまの段階で判明して良かったです。バグアの技術は人類を越えているはずなのに原始的な手を使いますね」
「裏をかいているつもりなのかもしれませんね。‥‥さてバグアにほえ面をかかせにいきましょう」
 アッシュはうなずくと、機体から降りて、格納庫の照明を落とした。

●攻撃

 ナイトフォーゲルH−114改岩龍のコクピットから霧島 亜夜(ga3511)が仲間に呼びかけた。
『こちら霧島機、戦域に到達した』
 霧島の眼下には砂漠が広がっている。その一点に黒い染みがある。撃墜されたヘリだ。霧島はカメラをズームして画像から目を逸らした。前回のフライトからさほど時間は経過していない。キメラはお行儀悪く食事中だ。
 鹿島のナイトフォーゲルXF−08D雷電が霧島機の左側につき、アッシュのナイトフォーゲルHA−118改翔幻が右側についた。さらに上空から砕牙 九郎(ga7366)のナイトフォーゲルXF−08D雷電が霧島機の前方についた。
 砕牙が仲間に呼びかける。
『これから対地攻撃を行い、敵の攻撃を誘発させる。事前調査で敵の程度は知られたが、油断はできない。各機、霧島機を最優先で防御しろ。霧島の岩龍は今回の作戦の要だ』
 敵の攻撃から敵の所在を突き止めるのは霧島機の役目だ。霧島機が撃墜されるとこの作戦の成功は著しく難しくなってしまう。
『雷電の防御力を活かすチャンスですね』と鹿島。
『了解です。雷電ほどではありませんが、翔幻でも数撃は耐えられるでしょう』とアッシュ。
『というわけだ』と砕牙。『霧島機は索敵に集中してくれ』
『了解した。岩龍の真価をみせてやる』
 地上の配置された班から無線が入った。榊からだ。
『こちら地上班だ。配置についた。いつでもいける。始めてくれ』
 地上のKVは伏兵だ。敵の位置が判明したら急行することになっている。上手くすれば空中のKVを攻撃中の敵に奇襲を仕掛けられる。
『攻撃を開始する』
 砕牙の宣言と同時に空中のKVは撃墜されたヘリを目指して降下した。
 砕牙機と鹿島機がロケットランチャーを起動させる。このあいだにアッシュ機は霧島機を守る。霧島機は僚機に追従しながら敵影に神経を尖らせた。
『地上のヘリには当てたくありませんね。ご遺族に申し訳ない』と鹿島。
『まったくだ。だが、狙っても当たらないだろ。空からでは』と砕牙。
 砕牙機と鹿島機は同時にロケットランチャーを発射した。ロケットランチャーの弾は空と地上のあいだで火球となった。地上に弾の破片が雨のように降り注いだ。
 犬型キメラの何匹かはKVの接近に気づいて空を見上げていたが、ロケットランチャーの炸裂した瞬間、身を翻した。しかし時すでに遅し。破片の雨にずたずたにされてしまった。
 だが、すべての犬型キメラが倒されたわけではない。生き残った何匹かの1匹は腸を引きずりながら遠吠えをした。獲物の出現を報告するためにだ。
 霧島が警告を発する。霧島は電子機器の情報だけでなく地上のキメラの様子も確認していた。
『各機、注意しろ。おれだったらこのタイミングでやる』
 霧島は岩龍の警告音を聞いた。ディスプレイに『正体不明の飛翔体あり』と表示された。霧島は僚機に警告を飛ばしながら飛翔体の発射ポイントを探る。
『真上から飛翔体が降下、各機、衝撃に備えろ!』と霧島。同時に空が爆発した。
 地面に叩きつけられた。真上からの爆発にアッシュは一瞬だけそのように誤解した。アッシュは機体の安定を取り戻しながらいった。
『霧島さん、敵予測位置を地上に』
『やっている。送信済みだ。‥‥第二次飛翔体くるぞ。はっ、どんどん位置予測が正確になるぜ』

 一方地上では、
『派手な花火。‥‥なんていってられませんね』とナイトフォーゲルF−104改バイパーのコクピットで三島玲奈(ga3848)が驚いていた。
『位置予測を受信した。みんないこう。‥‥クロウ君、堕とされるなよ』とナイトフォーゲルF−108ディアブロを操縦するレティ・クリムゾン(ga8679)が僚機を促した。
 須佐 武流(ga1461)のナイトフォーゲルG−43改ハヤブサが先陣をきった。
 榊のナイトフォーゲルXF−08D雷電も機槍「ロンゴミニアト」を携えて走る。
 地上のKVは砂煙をあげながら敵予測位置へ向かう。空中では爆発が連続している。
 クリムゾンは霧島機から送られてくる情報に眉を寄せた。
『バグアめ、狙撃手のセオリーに忠実なつもりか』
 敵予測位置は変化している。どうやら敵は砲撃のたびに移動しているようだ。
『でも、単純な動作、敵は狙撃手のセオリーを徹底していません!』
 スナイパーとして、アンチマテリアルライフルの使いとして狙撃に一言のある三島がいった。敵の移動は単調だ。
『なぜこんな動きをする? 敵はこちらの動きに勘づいていないのか』と榊。
『その油断、後悔させてやるよ』
 須佐がいった。同時に須佐のハヤブサが飛行形態に変形、猛禽のように飛び立った。
『見つけたぞ! ここであったがなんとやら‥‥堕とさせてもらう!』
 ゴーレムは空にライフルを向けながら伏せていた。そのままの姿勢でハヤブサにライフルを向ける。
 須佐はゴーレムの銃口と目があった。
(「‥‥まずは獲物の得物を落とす!」)
『敵はこっちにもいるぞ』『これ以上でお痛はさせません』
 超低空を銃弾が飛ぶ。同時にゴーレムの腕からライフルが吹き飛んだ。クリムゾンと三島の狙撃だ。
『サポートありがとうさんっ!』
 須佐は空中でハヤブサを歩行形態に変形させた。同時に試作剣「雪村」を作動させた。試作剣「雪村」が猛禽の爪をおもわせる輝きを放つ。滑空する須佐機は鷹の鋭さでゴーレムに襲いかかった。

 狙撃手を気取っていたゴーレムは倒され、その配下だった犬型キメラもまた能力者によって排除された。帰投する直前、アッシュは「撃墜されたヘリのもとにいきませんか」と仲間に提案した。
(「せめて遺品の回収だけでもしなければ‥‥浮かばれん‥‥」)
 敵は排除したとはいえ競合地域だ。敵襲の恐れがあったので上空や地上をKVが警戒する。そのなかでアッシュは翔幻から降り立った。