●リプレイ本文
●スパイの眼差
暗い部屋でバグアのスパイは複数のディスプレイに囲まれていた。
ディスプレイには雑多な情報が表示されている。インターネット上の合法なものから警察や会社などの組織から盗視聴しているものまで様々だ。
バグアのスパイは断片的な情報の集積から世界を正確に思い描く才能があった。ディスプレイの表示が瞬く間に変わっていき、バグアのスパイは居ながらにして世界の動向を把握した。しかし例外がある。バグアとUPCだ。
一介のスパイにバグアはその意思を示すことはなく、UPCは厳重にそして強か身を守ってその内情を隠し通していた。
ディスプレイのひとつにニュースが表示された。廃棄された石油採掘施設が南太平洋で発見されたというものだ。情報が伏せられているなとバグアのスパイはおもった。
石油採掘施設はバグアによって改造を施され、航行能力と攻撃能力が付与されている。UPCを誘き出すための囮だった。
バグアのスパイはあごをなぜた。
(「セキュリティをどれほど固めようと人や物の動きは隠せない。ましてKVのような兵器を扱うならばなおさらだ」)
バグアのスパイは断片の積み重ねから実体を正確に推測できる。
暗い部屋から秘密を暴き出す視線が放たれた。
●ブリフィーング 夜雀たちの集い
ブリフィーングルームとしてあてがわれた部屋で鷹代 由稀(
ga1601)は仲間にいった。
「弱点を撃ち抜くのは狙撃の基本っていいたいところだけど、本当のところは戦闘の基本ね。目標を爆撃するまえに対空攻撃を封じるとしよう。では念のために兵器群を確認しましょうか」
テーブルに図面が広げられた。今回の攻撃目標、石油採掘施設に装備されている兵器のものだ。UPCの偵察機からの情報を元に類似品を集めた。
今回の撃破目標は石油採掘施設だ。空母ほどもあるそれは大きすぎて通常の攻撃では手に余る。ために能力者はフレア弾の投下によって崩壊させようとした。もしそれで破壊できないならば施設を支えている柱を破壊して全体を海中に没するつもりだ。
どのように破壊するにしろまずはプラットフォームに設置された対空兵器を破壊する必要がある。バグアのヘルメットワームと違ってKVはフォースフィールドを持たないので、人類側兵器でも撃墜可能だ。プラットフォームに生えた火の針を排除しないと破壊活動に集中できない。
月神陽子(
ga5549)が図面の感想をもらす。
「これはずいぶん旧式ですね。どこかの戦場でみたことありますが、おじいちゃんおばあちゃんって兵士の方が呼んでましたわ」
鹿嶋 悠(
gb1333)が不審そうに首を傾けた。
「UPC発足前の兵器のようですね。リサイクル品で強行偵察とはバグアにも経済観念があるんでしょうか」
三島玲奈(
ga3848)がこの状況の良い点を指摘してみた。
「人類側兵器ならフォースフィールドがありません。ものは大きいので全体潰すのは面倒ですけど、細かいところ潰すのは簡単です」
「そう簡単にいくかよ」と風羽・シン(
ga8190)はあえて注意を喚起してみる。「プラットフォームに備え付けられている兵器群は迎撃してきた。自動化されているってことだ。図面では高射砲にもミサイルにも歯ごたえのありそうな装甲はないけど、なんか面倒な改修を受けているかもしれんぜ」
南部 祐希(
ga4390)がうなずいた。
「同意見です。接敵するまえに敵の様子を偵察しようかとおもいます」
ソード(
ga6675)が不安げに南部をみた。偵察の必要はソードも認めるところだが‥‥。
「ご心配なさらずに。敵の手際をみるならば単機のほうがいいでしょう。ソードさんは周囲の警戒をお願いします。バグアが潜んでいる可能性もあります」
段取りはこんなものですねとアルヴァイム(
ga5051)がいった。アルヴァイムの視線は外に注がれている。
部屋の外は高速道路だ。UPCはバグアの今回の行動を偵察とみなしていた。展開速度や命令系統を探るために騒動を起こしたのではと推測していた。そのため自分の戦力を用いずにULTを介して外部の戦力に協力を求めた。
能力者はこのUPCの意向に配慮してUPCの使用しない空港からの出撃を求めた。UPCはこれを許可したが、適切な位置に空港が存在せず、海岸沿いの高速道路を空港代わりに使用することになった。
能力者たちはそれぞれのヘルメットを手に、愛機へ向かった。
●偵察
フィリピンの東の南太平洋を8機のKVが飛行している。このうち4機はフレア弾を重そうに吊していた。
南雲が仲間にいった。ディスプレイが撃破目標への接近を告げている。
「これより目標を偵察します。鷹代機、風羽機、爆撃班の護衛をお願いします。‥‥ソード機は伏兵に探って下さい」
KVは渡り鳥のように綺麗な編隊を作っていたが、支援班の4機がまえに進み出た。南雲とソードは石油採掘施設へ飛び、鷹代と風羽は高度をとって爆撃班への奇襲に備える。
南部機とソード機は飛ぶ。そのうちに石油採掘施設が点のようにみえてくる。海上の点は波にさらわれて視界から何度も消えたが、確かにそこに存在していた。
南部とソードは言葉を交わす。
「お気を付けて」
「そちらこそ」
2機の編隊からソード機が外れる。南雲は単機となった。ソード機を見送りながら南雲は独白する。
「人類側兵器を満載したプラットフォームか。それを人類の私たちが墜とす。皮肉か嫌みか」
南雲はフリーの傭兵になるまえは軍に所属していた。状況が違えば、まだ軍にいて、プラットフォームに搭載されたような兵器を扱っていたかもしれない。
軍人にとって兵器はただの物体ではない。もっと親しいものだ。
ディスプレイに警告が表示される。ミサイル接近。南雲は嘆息を飲み込んで回避運動をとる。南雲の目には石油採掘施設から白い糸が伸びてくるようにみえた。
発射されたミサイルの製造された当時では決してできなかっただろう、非人間的な高機動を南雲は行い、ミサイルを回避、ついでに石油プラットフォームの懐に飛び込んだ。
南雲は石油プラットフォームを中心に旋回する。ディアブロの後部を追いかけるように高射砲が放たれる。南雲はシートに押しつけられながら、兵器群を観察する。
(「鹿島さんがリサイクル品といっていたが、なるほど、そのとおりだ。本当にプラットフォームに埋め込み、自動化しているだけみたいだ。それに兵器群の連携が上手くいっていない。もっとこちらの行動を阻害するように火線を形成すればいいのに」)
そう判断しながら南雲はブーストを使用する。内蔵が潰れて骨が軋むが、兵器群の射程から逃れる。念のために後方を確認していると、青い海からソードのディアブロが上昇してくる。
ソード機は、問題ないとでもいうように翼をふった。
南雲とソードの偵察結果を受けて能力者たちの本格的な攻撃が始まる。
●兵器群排除
南雲機とソード機が戻ってくるとKVは編隊を組み直した。鷹代機、風羽機、南雲機、ソード機の支援攻撃班と、アルヴァイム機、月神機、三島機、鹿嶋機の爆撃班に別れた。
2つの編隊は平行して石油採掘施設に向けて飛ぶ。飛びながらソードと南雲が偵察の結果を伝達する。
南雲の情報をきいてラージフレアを装備している者が使用優先順位からそれを外した。誘導方法の違いからラージフレアでは避けることができない。長射程を持つ者がミサイルへの狙撃を考えた。
「さてとそろそろ始めるとしますか」と風羽。KV編隊は石油採掘施設へ最初のアプローチをかける。全員がこのアプローチで障害となる兵器群を排除できればと考える。
KVは巨大な兵器で石油採掘施設はそれ以上に巨大だったが、これらのいる海はもっと広大だった。豆粒ような石油採掘施設へ砂粒ようなKVが飛んでいく。
石油採掘施設から白い糸が伸びた。ミサイルだ。
「さすがミサイル、発射位置が丸わかりですよ」と三島。
「ミサイルはうっとうしいわね。一斉攻撃に備えて露払いするわ」と鷹代。
スナイパーライフルを装備したKVが石油採掘施設へ砲弾を撃ち込んでいく。プラットフォームから煙と炎が上がる。
コクピットで月神が上品に眉を寄せた。
「‥‥‥‥こんなものまで兵器に転用されるなんて。向こうにとっては廃品利用のつもりかもしれませんが、人類にはたまった物ではありませんわね」
ミサイルランチャーを破壊されたせいか、高射砲が火を吹き始める。黒い爆炎と銀の断片が空を汚し始める。どれもKV編隊には届かない。手の短い対空砲火に月神は吐き捨てた。
「残念ながら、火力が足りていませんわよ。その程度の攻撃で、わたくし達をどうにかできるとでも?」
KV編隊の一斉攻撃が始まる。KVを阻むように形成されていた弾幕がKVの放つロケット弾や砲弾によって押し返される。
アルヴァイムの放ったロケット弾がミサイルランチャーの生き残りを殺し切り、KV編隊に安全を与える。これを皮切りにKVは、古い時代の兵器に新しい時代の威力を教え込むかのように火力で圧した。
プラットフォームのKVと正対した面から崩壊していく。瓦礫が次々と海面に没して白い柱を立ち上げた。
鹿嶋がトリガーを引きながらいった。
「随分な歓迎をしてくれたわりには脆いですね。我々が攻撃を加えていない面にも威力が伝わっているようです」
ソードが爆撃班に連絡する。
「爆撃班、フレア弾の投下を準備して下さい。支援攻撃班はいまからアプローチする面に最終的な掃除を行います」
いいながらソードは高射砲のひとつにミサイルの照準をつけた。ソードのミサイルが白い線を引いて飛び、プラットフォームに突き刺さる。その一瞬あと爆発が起こって大量の瓦礫が海に落ちた。
上空で月神が仲間に警告を発する。
「これからアルヴァイム機がフレア弾を投下します。各機、巻き込まれないように退避して下さい」
爆撃班のいる高見からだと石油採掘施設はブロックのおもちゃのようにみえた。黒煙を上げるおもちゃから羽虫が飛び散った。同時にアルヴァイム機が悠然と降下を始める。
爆撃班のKVは先行したアルヴァイム機を追って告死天使のように石油採掘施設へ降下した。
告死天使たちのやり方は苛烈だった。
退避していた風羽はアルヴァイムのアプローチと同時に目を閉じたが、爆音よりも速く飛来した閃光に網膜を焼かれてしまった。
風羽は目を開けて呻いた。色の残っている視界には石油採掘施設の崩壊が映っていた。
フレア弾はプラットフォームの中央に命中し、その周辺が完全に吹き飛んでいた。残骸をまとわりつかせた柱は泡立つ海へ傾き始めていた。
背面飛行で様子を観察している三島がいった。下界では石油採掘施設の4本の柱がすべて外側へ倒れようとしている。
「柱は海中にある構造物の上に建っているそうですが、どうやらこの構造物がいまの攻撃で崩壊したみたいですね」
そういっている最中に柱は海面に倒れた。真っ白い水柱が立ち上がって上空にいる能力者から海の様子を奪った。
●帰投
「老兵は去った。任務を完了。みなさん、帰投しましょう」
南部のその台詞をきっかけに能力者は帰投した。その途中で風羽はぼやいた。
「なんつーか、後味が悪いぜ。みんな気にならないか。UPCの情報は守れたけれども、俺たちの戦い方は解析されてしまったんじゃないか」
三島が鼻で笑った。
「私の戦い方は私のギャグ並です」
「解析不要につまらないとか?」
「持ちネタが多いんです! あとで笑わせ殺します。笑い死には窒息死です! つらいですよ!」
鹿嶋が2人にやりとりに軽く吹き出した。戦闘の緊張の抜けたあとではちょっとのことがおもしろく感じられた。
「気にする必要ありません。みせつけてやったのです。我々がどれほどのものかを。」
「だね」と鷹代も同意した。「それに手を読まれたくらいで人類は負けない。その度ごとに新しい手段を創造するわ」