タイトル:【DR】On thin iceマスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/25 00:38

●オープニング本文


 ロシアでの大規模作戦の発動に伴い、UPC北米軍は極東ロシア軍へ援軍を派遣した。
 空路や航路など様々な方法で進攻する援軍のうち、航路を採った援軍、さらにこの一部はオホーツク海を進路に選んだ。
 オホーツク海のその海域は流氷に覆われていた。輸送艦は流氷を掻き分けるようにしてロシアを目指す。
 輸送艦の甲板に物好きな兵士の2人組が姿を現した。
 2人組の片割れ、白人兵士はデジカメを片手に流氷を物珍しそうに撮影始めた。
「うひょう。すげえな。一面氷だらけだぜ。こりゃパパとママに良い土産になるぜ」
「‥‥‥‥さささささ寒いっ。はははは早く中に戻ろうぜ」
 相棒の黒人兵士は歯をガチガチいわせながら縮こまった。
「もうちょっと撮させろよ。あ、ほら、あそこでなにか動いた! アザラシか? 北極クマか? それともペンギンか?」
 白人兵士の歓声も黒人兵士には届かない。彼には流氷のオホーツク海は寒すぎる。甲板にうずくまって風を避けながら、自分を連れてきた相棒に文句を垂れようとした。
「ちくしょう。こんなのでちゃんとにロシアにつけるのかよ。いつだって輸送艦は鈍足だけど今度は氷のせいでちっとも進みやしない」
 そのとき嫌な風が吹いた。
 はっとして黒人兵士は相棒をみた。相棒は立ったままだ。その手の中で速射モードのカメラがシャッターを切り続けている。だが、その首から上がなかった。視線を感じて足下をみると相棒の生首が転がっている。
 生首は「俺、一体どうしたんだろう?」という表情を浮かべている。いままで頭部と胴体を繋いでいた首の一部は炭化している。レーザーで薙がれた跡だ。
 そこまで気がついて黒人兵士は白い海原を見遣る。
 視線を飛ばした先で海が割れた。ヘルメットワームの編隊が海上すれすれの低空を飛び、流氷をまき散らしながら輸送艦に迫ってくる。
 黒人兵士は金切り声で敵襲を知らせながら船内に飛び込んだ。

 ヘルメットワームのパイロットは僚機に命令する。
「人類の輸送艦はまごついている。いまが好機だ。すべて落とせ」
 僚機が隊長に報告する。
「付近に空母を確認、援軍が予測されます」
 隊長は切り返すようにいった。
「援軍が来る前にすべての輸送艦を撃沈する。‥‥‥‥念のために付近のヘルメットワームに応援を要請しろ。輸送艦だけはなんとしてもここで落とすぞ」

 ロシアへの援軍を巡って人類とバグアの戦いが始まった。

●参加者一覧

伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
ファファル(ga0729
21歳・♀・SN
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
ナオミ・セルフィス(ga5325
18歳・♀・FT
並木仁菜(ga6685
19歳・♀・SN
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA

●リプレイ本文

○空を揺るがす

 大規模作戦の発令に伴い、UPCは極東ロシア軍に援軍の派遣を決定した。この援軍のうち進路をオホーツク海に取った輸送艦4隻がヘルメットワームの攻撃に晒されようとしていた。
 輸送艦を発見した3機のヘルメットワームは周囲の自軍に集結を呼びかけながら輸送艦に迫る。
 オホーツク海は流氷に覆われている。氷に阻まれて動けない輸送艦はプロトン砲の良い的だ。3機のヘルメットワームは遠距離からでも輸送艦を破壊可能だったが、致命的部位を狙うことで迅速かつ確実に破壊するため接近する。
 ヘルメットワームは流氷を弾き飛ばすようにしながら低空飛行する。輸送艦の艦橋では眼前に迫るヘルメットワームの姿に凍り付いた。まさに蛇に睨まれた蛙状態だった。艦長が流氷の海の過酷さをおもいながら、総員脱出の命令を発しようとした。
 そのとき、後方監視要員から連絡が入った。
『‥‥‥‥‥‥!』
 連絡のアナウンスが轟音にかき消され、衝撃波に輸送艦が揺れた。クルーたちが周囲のものに掴まる。被弾か!? と誰かが叫び、誰かが神に祈った。そんな中で艦長が脂汗を拭った、助かったぞ、と。
 艦長の視界の中で2本の剣が空を断ち割って現れた。KVワイバーンだ。2機のワイバーンはマイクロブースターの噴射炎を長く引きながらヘルメットワーム編隊に突っ込んでいく。ヘルメットワームの出鼻を挫く意図が誰の目からも明らかだった。
 後方監視要員が、6時の方向よりさらに5機のKVが接近ッと報告すると同時に、その6機は輸送艦隊の上空を通過、衝撃波で輸送艦隊を揺さぶった。
 到着したKVとヘルメットワームの空戦が展開される。収束フェザー砲の火線とロケット弾の爆発が空を焼いていく。そんな中で7機のKVうちの1機、赤色のKVが輸送艦隊を守るように旋回し始めた。このKVディアブロからの無線が艦橋で流れる。
「輸送艦、聞こえるか? センサーやレーダー類が使えるなら有難いが、‥‥目視でもいい。敵影が見えたら連絡をくれ」
 伊佐美 希明(ga0214)の呼びかけに艦橋は慌ただしくなる。すぐに監視要員が組織され、甲板に救命胴衣を着た兵士が並んだ。
 伊佐美のディアブロは守護天使のように輸送艦隊上空を旋回する。
(「‥‥増援がなければ楽なモンだが」)
 簡単にはいかないだろうとおもって伊佐美は口の端を上げた。覚醒したせいで変形した左顔、鬼のようになってしまったそれが歪む。輸送艦隊を護る自分はここに残るとして弟分の六堂源治(ga8154)にハッパをかけることにした。
「ハッ、有人機みたいじゃないか? 輸送艦の護衛なんて、貧乏籤だと思ったが、中々どうして、ツイてるじゃねぇか。ゲンジー、一機くらいは仕留めてみせろよ」

○飛竜の牙

 7機のうち突出する2機のワイバーンは同時にロケット弾を放った。ヘルメットワームは直撃を嫌ったのか拡散フェザー砲で対抗する。ロケット弾に光線が触れると爆炎が膨れあがった。
 燃え上がる空の中でワイバーンは飛竜のように牙を剥いた。
 炎と煙で零視界にも関わらず周防 誠(ga7131)は予測射撃を実行、するとヘルメットワームは前もって打ち合わせしたかのようにスナイパーライフルの射線に出現して被弾した。
「避けられると思いましたか? 甘いですよ」
 被弾したヘルメットワームを置いて残りの2機が前進しようとする。肉を切らせて骨を断つの意地で輸送艦を撃沈しようとする2機に対して並木仁菜(ga6685)は短距離高速型AAMを連続発射した。
 2機のヘルメットワームは並木のAAMを回避運動を行った。AAMはヘルメットのワームの尻を追って抽象画を空に描くばかりで命中しない。
(「‥‥撃墜できなくても輸送艦に近づかせなければ」)
 並木の意図通りAMMはヘルメットワームへの足止めとなった。燃料の切れたAMMが自爆した瞬間、僚機の放つ火線が空を焦がした。

○集中と散開と

 バグア兵はヘルメットワームに慣性制御特有の変則的な機動をとらせた。人類の戦闘機ではあり得ない動きでも人類の操るKVは命中弾を繰り出してくる。出現した8機のKVはどの機体をとっても技量でこちらを圧倒していた。
 締め付けられるような焦燥のなかでバグア兵はセンサーは凝視する。けれどもそれは火線を突破して輸送艦に到達するためでも、回避運動に専念するためにためでもなかった。センサーに味方を示す光点が浮かび上がった瞬間、バグア兵は我知らずに笑みをもらした。

 再び空が割れた。3筋の光条が9時の方向から輸送艦隊に突き断った。ヘルメットワームのプロトン砲だ。4隻の輸送艦のうち1隻が被弾して煙を上げ、大揺れする船体からわらわらと監視要員が流氷の海に落下していく。
「やはり増援が現れたか。‥‥っやりやがったな」
 輸送艦隊を護衛していた伊佐美が9字の方向に牽制射撃を放つ。出現した3機のヘルメットワームはフォースフィールドを輝かせて攻撃を受け止めた。
 12時の方向で威龍(ga3859)が呻いた。六堂とロッテを組んでヘルメットワームと交戦している。
「ここは俺たちで食い止める。並木さん、周防さん、敵の増援へ向かってくれ」
 この戦場にいるKVのなかで周防と並木のワイバーンはずば抜けて足が速い。増援を食い止めるには最適と思われた。
「増援が来たからって折角の援軍を海の藻屑にする訳にゃあいかねぇッす」
 六堂はヘルメットワームに接近戦を挑む。ヘルメットワームは変則的な機動で逃れようとするが、ミサイル以上の粘り強い動きで六堂は追い詰めていく。
 追い詰められたヘルメットワームが共同不審な動きをする。六堂には操縦しているバグア兵の恐怖が感じ取られた。コクピットシェルを開けて手を振ったら見えそうなのがいまの彼我の距離だ。ここまで接近されたことがないに違いない。
 六堂はトリガーを引く。同時にバイパーのヘビーガトリングガンが火を噴き、ヘルメットワームを粉々にした。
 爆散するヘルメットワームに六堂の視界は奪われる。仲間の死を目眩ましとして別のヘルメットワームが攻撃を仕掛けてくるが、加速して回避する。被弾を免れたが、撃ってきたヘルメットワームも加速したのでいままで追う側だった六堂は今度は追われる側になった。
「こんなところでいつまでも時間を潰せるかよ」
 吐き捨てる六堂。その視界の片隅で幡多野 克(ga0444)の雷電が見られた。幡多野は雷電の装甲を活かして輸送艦の盾となっている。雷電の白を基調とした装甲に光の条が降り注いでいる。浴びせられる光線の狙いが散漫のはナオミ・セルフィス(ga5325)が搭機イビルアイズの試作型対バグアロックオンキャンセラーで支援しているからか。
「まったくだ」
 威龍が相づちを打った直後、六堂を追っているヘルメットワームの側面に8式螺旋弾頭ミサイルが回り込んだ。ミサイルの先端に設置されたドリルがフォースフィールドを貫き、内部にめり込んだ。ヘルメットワームは内側から膨れあがるようにして爆散する。
 増援を撃破しなくては。威龍と六堂は焦るが、2人の周囲にはまだヘルメットワームが1機残っていた。残されたヘルメットワームが2人の行く手を阻む。

 9時の方向から現れたヘルメットワーム3機はKVが12時の方向に集中していたのを良いことに輸送艦との距離を詰める。詰めながら射撃を行う。2機は輸送艦自体を狙い、1機は流氷上に落ちた兵士を狙った。
 流氷と流氷の間に救命胴衣の黄色がちらりとした。瞬間、ヘルメットワームから光線が撃ち込まれて黄色の周囲が水蒸気爆発で吹き飛んだ。
 輸送艦を護っている伊佐美は艦を狙うヘルメットワームに対峙しようとしたが、兵士への攻撃におもわず気を取られてしまう。伊佐美は残酷な二択を迫られた。艦を狙う敵を撃てばそのあいだに兵士を殺され、兵士を狙う敵を撃てばそのあいだに艦を沈められる。操縦桿を握る手がわずかに震えた。
 そのためらいにつけ込むようにヘルメットワームの1機が輸送艦にプロトン砲を放った。
(「まずいっ撃沈された!」)
 だが、プロトン砲の射線に幡多野の雷電がねじ入った。輸送艦を撃沈すべく放たれた光の剣を雷電は受け止める。いや逆に、装甲をじりじりと焼かれながら逆襲する。めいっぱい装備したロケット弾とミサイルがヘルメットワームに向けて放たれた。空が爆発、鳴動、さしものヘルメットワームも攻撃を一旦中止して回避運動を取った。
「雷電の装甲と火力を甘く見てもらったら困る」
 幡多野の言葉を伊佐美は無線で聞き取った。覚醒しているために普段より気持ちがこもっているもののやはり淡々とした調子だった。でもこのときばかりは雄々しく聞こえた。
 艦を狙う敵は一旦手を引いた。今度は兵士を狙う敵を対処せねばと伊佐美は光線の降り注ぐ海上へ降下した。
「誰もここでは死なせない。まして抵抗のできない相手を撃つ輩には!」
 海上の兵士を狙うヘルメットワームの前にセルフィスのイビルアイズが立ち塞がっている。イビルアイズは試作型対バグアロックオンキャンセラーを発動、ヘルメットワームの狙いを崩す。ヘルメットワームの光線は支離滅裂な方向に跳び、あちらこちらで水蒸気爆発を起こすものの、兵士を仕留められない。
「助かった。これより攻勢に移る、いいな?」
 伊佐美は合流した幡多野とセルフィスに宣言した。了解、もちろんです! とそれぞれが応じた。
 だが、その前に三度光条が降り注いだ。

○辻斬りのように

 9時方向に出現した増援に向かった並木と周防は3度目の増援の出撃を目撃した。
 2度目と同じく9時方向からヘルメットワーム3機はすでに被弾していた輸送艦に対してプロトン砲を発射、撃沈した。
 ああという並木の力ない呟き、苦い響きを帯びた、まいったねという周防の声が無線に流れた。
 艦を護る伊佐美と初期配置の敵に遅れたことが幸いして増援に対処できた幡多野、セルフィスが2度目、3度目合わせて6機のヘルメットワームと対決する。
「これ以上、やらせるかよ」
 六堂が怒気をはらんだ声でいった。聞いた威龍は六堂の顔が怒りのせいで白刃のように白くなったところを想像した。
 威龍はセンサーをみた。センサー上で6体のヘルメットワームのうち3体が輸送艦に近づく。相手の狙いは輸送艦だ、近づいた3体は囮と推測できた。3体が空中戦を演じているあいだに残りが砲撃を輸送艦に見舞う。
「これ以上、撃たせはしない。六堂、後ろの3機を狙うぞ」
「了解」
 バイパーとウーフーはブースターを使用、極寒の大気を灼熱させて飛翔する。
「まいったね。もうこれ以上は輸送艦を攻撃させるわけにはいかないんですよ」と周防は呟く。ロッテを組んでいる並木とともに輸送艦付近で行われている戦闘に加わる。
 空が燃え上がり、オホーツク海は揺れ、高まった戦闘熱で流氷が融解するかとおもわれた。戦力を集中させた結果、技量で勝っているKVはヘルメットワームを1機1機撃墜していく。
 そこで幡多野は気がついた。装甲と火力を駆使して詰め将棋のように敵を追い詰めていたから幡多野は敵の動きがおかしいことに気がついた。敵は故意に戦闘を長引かせている印象がある。
「総員、周囲を警‥‥‥‥!」
 言葉が終わる前に4度、光条が閃いた。輸送艦に光の槍が突き刺さった。
 6時の方向から新たに3機のヘルメットワームが出現する。ヘルメットワームは高速飛行で輸送艦とすれ違い、辻斬りのようにプロトン砲を発射した。
 唖然とする能力者の前で輸送艦の1隻が沈んでいく。艦から救命胴着の黄色や救難ボートの黄色が周囲に散っていく。
 ヘルメットワームは12時方向に姿を消した。応戦していたヘルメットワームもまた増援の攻撃によって生じた隙に乗じて撤退した。
 撃沈された艦は2隻、生存した艦もまた2隻だが、そのうち1隻はかなりの損害を負っていた。
 誰かが毒づくのが無線に流れた。助けられなかったという事実が能力者にのしかかる。
 沈黙のなか輸送艦から救助支援の要請が行われた。能力者は艦から脱出した人々の探索にあたることになった。
 気温調整されているはずのコクピットで幡多野は寒気を感じた。
(「今度の‥‥戦い‥‥。この寒さのような‥‥厳しさを‥‥予感させる‥‥。でも‥‥やらなきゃ‥‥ね‥‥」)