タイトル:【DR】氷上、熾るマスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/27 07:34

●オープニング本文


「レナ川上流に敵だと?」
 ヤクーツクの作戦司令本部に座するヴェレッタ・オリム(gz0162)中将は、その奇妙な報告に目を細めた。
「はい。比較的少数の戦力のようですが、哨戒中の部隊が発見、ヘルメットワームと交戦したとのことです。その時は大した戦闘もなく、撤退したとのことですが‥‥レナ川流域で、少しずつ位置をずらしながら何度となく同じような報告が来ています」
「つまり追い払われても懲りずに何事かをしているのか」
「はい。また、ヘルメットワームと遭遇したポイントに再度の偵察を行ったところ、そのポイントにキメラが配置されていたとのことです」
 報告にきた本部付参謀の言葉にオリムは考えをめぐらす。
 バグアが何かをレナ川に仕込み、その守りとしてキメラを配置したのは間違いない。
 だが、具体的に何をしているのかがわからない。
 ウダーチヌイへの進軍ルートからも外れるから待ち伏せの線は薄い。交戦してもすぐに逃げるのであれば、拠点を構築しているとも思えない。
 だが、この一大決戦の最中に小規模とはいえ、部隊を遊ばせておく余裕はさすがのバグアとてないはずだ。
「他に分かっていることは?」
 考えのまとまらないオリムは参謀に次の言葉を促す。
「配置されたキメラはいずれも炎をまとうタイプだったと‥‥」
「炎だと? こんな極寒の地では‥‥っ!」
 この極寒の極東ロシアで炎のキメラの話を聞くとは思いもしなかった。河川が凍りついて幹線道路になるような土地柄である。そのことに思いをはせた時、オリムの脳裏にひとつの可能性が浮かんだ。
「水攻めか?」
 凍りついた河川は天然の堰となる。
 この地域の地勢として緯度が低い上流から氷が融け始めるので,下流の融解が遅れると洪水が起きると出発前に読んだ資料にあったはずだ。本来は、それは5月中旬頃からの話であり、勝っても負けてもそこまで作戦が長引くこともあるまいと思っていた。
 しかし、バグアが4月の今の段階で凍りついた河川を融かす手段を持っているとしたら?
「なんであるにせよ、放置はできないか」
 オリムは傭兵を呼び寄せると、当該のヘルメットワーム、並びに炎キメラの撃退を命じるのであった。
 今回の大規模作戦ではヤクーツクが人類側の一大拠点となっており、司令部などを持つヤクーツクはこの大規模作戦において頭脳といえた。ヤクーツクを上空から見下ろすと、全長4000キロ近いレナ川の中程に位置することがわかる。件のヘルメットワームが出没し、火炎キメラを配置したところはヤクーツクからみて上流の複数の箇所だ。現在のところレナ川は氷結しているが、バグアの何らかの手段によって融解した場合、ヤクーツクを洪水が襲うことになる。それはこの大規模作戦における人類側の頭脳が卒中を起こすも同然の事態だ。
 ファームライドの撃破など朗報こそあるもののウダーチヌイではいまだ苦戦の状況だ。これ以上の苦境を招かないためUPCのスノーモービル部隊のひとつが炎キメラの撃破に当たる。
 スノーモービル部隊は凍り付いたレナ川を駆ける。氷河が削れて舞い上がり、スノーモビル部隊は白い一陣の疾風のようになる。
 隊長は2人乗りのスノーモービルの後部座席で双眼鏡を覗いた。前方の氷河にへばりつくような白煙が見える。炎キメラの発する熱のせいで水蒸気が立ち込めている。望遠鏡の設定を変更して視界に赤外線視野を加えるとキメラの姿が高熱の塊として視認できた。隊長は命令を発した。
「全隊員に告ぐ、攻撃開始」
 隊長機を除く全てのスノーモービルが加速、戦況の読みやすい後方に隊長機を置いてキメラに突進していく。この部隊のスノーモービルはすべて2人乗り手で、後部座席には銃手が乗り込んでいる。
 銃手が発砲を始める。これに応じるように四足獣型のキメラが跳び出してくる。
 獣キメラは氷河に雄叫びを轟かせた。同時に切り裂くような冷気が燃え立った。獣キメラは雌ライオンのような姿だったが、咆哮と同時に首周りが炎から吹き出した。獣型キメラは炎のたてがみをまとい、たなびかせながらスノーモービル部隊に襲いかかった。
「ライオンみたいなくせして猪突猛進か。こっちの機動力をなめるな」と隊員の誰か、運転手が呟く。さらに後部座席の銃手を煽った。「機動戦、いくぜ。舌噛むな、銃を取り落とすなよ?」
 なめるなよっという銃手の返答と同時にスノーモービルは獣型キメラの攻撃を回避する。スノーモービルは回避運動を連続する。不安定な体勢のなかで銃手は確実に攻撃を決めていく。
 氷河にキメラの咆哮が、銃声が、スノーモービルの駆動音が響く。火の粉と銃弾が氷河を溶かしていく。
 後方で戦況を見守っている隊長は連続する戦闘音に砲撃音らしきものが混じったことに気がついた。前方の水蒸気の塊から何か飛び出し、獣キメラと追いつ追われつしていたスノーモービルに着弾した。
 なんだと隊長が思った瞬間、炎の柱が生じて空へ立ち上り、氷河が轟いた。
 氷河を突風が渡る。すると水蒸気の塊が流れていく。
 隊長は物体の飛んできたほうへ視線を投げた。水蒸気の塊のせいで白んでいた景色が風のおかげで明瞭さを取り戻す。そこにはモノリスのような形状の物体があり、スノーモービル部隊と交戦しているものより大きめの獣キメラがこれを守るように立っていた。
(「あの物体はバグアの加熱装置か?」)
 隊長はそうおもったが、モノリスを守るキメラに不気味なものを感じ、そちらに注意を奪われる。
 新たなに姿を現したキメラは背中に砲台を連想させる器官を生やしている。
「総員、後方へ退避、敵の出方を見る」
 隊長がそう命じたとき、砲台器官を背負ったキメラは砲撃を始めた。器官の先端を空に向けてスノーモービル部隊に向かって何かを投射してくる。
 弾体のひとつが交戦中のスノーモービルのそばへ降ってくる。スノーモービルに着弾せず、氷河の上を跳ねた。観察していた隊長が安堵した瞬間、弾体は獣キメラのまき散らす火の粉と接触、大爆発した。
 爆風の煽られたスノーモービルは横滑りし、氷河の割れ目につまずき、転倒してしまう。
 砲撃音が連続する。銃手は各自の判断で弾体を撃ち落とそうとする。
 銃手の1人がスコープに弾体を捉えた。引き金に指を触れさせた瞬間、スノーモービルが大揺れする。おもわず運転手に罵声を浴びせようとしたが、運転手の悲鳴で口を噤んだ。
 小鳥のようなキメラが運転手を邪魔している。運転手は片手で小鳥キメラを払おうが、小鳥キメラは翼の先端から炎を吹き出すために成功しない。運転手はあちあちと慌てる。
「何しやがる。邪魔しやがってェ」
 銃手はとっさに零距離から小鳥キメラに攻撃。攻撃は成功するものの、スノーモービルは横転する。
 このような光景が氷河の各所で起こった。隊長は負傷者の回収を命じ、さらに撤退を命ずる。隊長は氷河を駆けながら能力者に支援要請を、と思った。

●参加者一覧

綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
並木仁菜(ga6685
19歳・♀・SN
ガイスト(ga7104
47歳・♂・GP
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
絶斗(ga9337
25歳・♂・GP
五條 朱鳥(gb2964
19歳・♀・DG
リリィ・スノー(gb2996
14歳・♀・JG
宵藍(gb4961
16歳・♂・AA

●リプレイ本文

○01

 UPCのヘリがレナ川近郊に密かに着陸した。風が地表に積もった雪を空へ舞い上げる。雪煙の白に紛れるようにして能力者たちは目標物の埋め込まれたレナ川に向かった。
 冬期なのでレナ川は氷結している。川幅極めて広いのでまるで氷原のようだった。この氷原にバグアの設置した加熱装置とそれを守るキメラが配置されている。これらを排除するのが能力者の今回の目的だった。
 スナイパーの綾野 断真(ga6621)が白む視界から加熱装置と敵影を発見した。
「バグアもいろいろとよく考えるものですね。彼らの好きな様にはさせません、さっさと退場願いましょう」
 ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)もそれらを視認して応じる。呆れたような声音だった。
「河を溶かして水攻め、か。回りくどいが‥‥効果的ではあるな、うん。当然、阻止するけど」
 リリィ・スノー(gb2996)が口を尖らせる。
「作戦の終息間際にそんな事させるわけにはいきません! 絶対に止めます!」
 並木仁菜(ga6685)が憤慨した様子でスノーの言葉に同調する。
「洪水は恐ろしいです。あらゆる物を飲み込んでいきます。そんなことさせてはいけません。許しちゃいけません!」
 聞いていた宵藍(gb4961)が感慨深そうに目を伏せた。宵藍は中国の出身だ。中国は古くから水害に悩まされてきた。
「ん。宵藍、どうした、お腹痛いのか?」と五條 朱鳥(gb2964)が宵藍に訊いた。
「違う。そんなことはない」と宵藍は首を振る。妙な勘違いをと付け加える。
「なら、いいんだけどさ」と五條は仲間から借りた望遠鏡を覗きながら「あれってライオンだよな。ロシアでライオンって‥‥普通、熊だろ?」
「知らん。熊でもライオンでもバグアが使うならキメラには違いあるまい」
 まーねと五條は返す。望遠鏡の視界には2種類のキメラがいる。ライオンのような姿のものと、ライオンのようだが、背中に砲台のようにみえる器官を生やしたものだ。報告では鳥型のキメラがいるはずだが、ここからの視界には映らない。
 ガイスト(ga7104)が口を開く。
「みんなそろそろ行動を開始しよう。作戦は掌握しているな? 俺の班が陽動をかけているうちに砲台を生やしたキメラを排除してくれ」
 UPC部隊がすでに加熱装置の破壊を試みたが、守っている3種類のキメラの連係攻撃のせいで撤退に追い込まれてしまった。
 ヴェルトライゼンがうなずいて得物に触れた。長射程を誇る魔創の弓だ。弦が弾かれて「お任せあれ」とでもいうように鳴いた。
 敵の要は砲撃型キメラだ。砲撃型の苛烈な攻撃力がなければ、ライオン型も鳥型も暑苦しい連中に過ぎない。だから陽動班がライオン型や鳥型を砲撃型から引き離して、がら空きになった砲撃型を他の能力者が撃破する。
 能力者は作戦を再確認すると行動を開始、陽動班と砲台撃破班に別れた。
 と、絶斗(ga9337)があわあわしながら陽動班を追っていく。追いついた絶斗に並木が「どうしたの?」と首を傾げた。
「世の中そんなに甘くねえような」と絶斗が苦笑いを顔に貼り付けた。後ろ手で凍り付いて棍棒のようになってしまったマフラーを捨てた。
 絶斗は砲台型キメラの撃ってくる砲弾を濡らしたマフラーで受け止めようと考えて、さっきまでその準備をしていたのだが、極寒のロシアではすぐに凍ってしまい、濡れた状態を維持できなかった。水がないから持って行くところまでは気がついたのだが。
 並木は不思議がって「なんですかなんですか」と絶斗に訊く。
 絶斗は口笛を吹く。恥ずかしそうだった。
 凍結したレナ川に積もった雪を風が舞い上げ、能力者のお喋りごと吹き散らしていく。

○02 陽動

 ガイストのトランシーバーからヴェルトライゼンの声が流れてきた。
「こちら砲台撃破班、目的地にたどり着いた。いつでもいける。陽動を実行してくれ」
「了解した。さて‥‥ロートルなりにがんばらせてもらおうか」
 ガイストは防寒装備で全身を覆っていた。顔も例外ではない。顔を覆っている防寒装備のひだの奥で双眸が燃えるように輝いた。
 それはかつてレスキュー隊と共同して山火事と炎キメラから少女を救い、Ultimate Rescueと称された男の勇気の現れだった。
 ヴェルトライゼンたち砲撃班の行動開始に合わせてガイストたち陽動班の行動が始まる。
「まずは俺が敵を引き付けるぜ。イヤッホー!」
 絶斗が喚声をあげながら敵に向かって突撃する。絶斗が覚醒した際に生じるエフェクト、龍型のオーラを巻きつけ、赤色のオーラを流星の尾のようにした疾走。
 喚声を聞きつけたらしくキメラが陽動班へ回頭し始める。鳥型キメラが火の粉を散らして空へ昇った。
 並木が絶斗に注意を喚起する。
「敵の進行速度、予想以上です。絶斗さん、突出しないで!」
 獣型キメラが絶斗を迎えうちかのように突撃する。キメラは首から炎のたてがみを生やす。炎の群が絶斗へ殺到する。
「並木、大丈夫だ。彼とは連携をとれる。いくぞ!」とガイストが小銃「シエルクライン」を構えた。絶斗を飲み込もうとする獣型キメラの群に狙いをつける。同時に飛び立つ直前の鳥のように絶斗が跳躍姿勢をとった。
 絶斗の足が氷原を叩き、氷と雪を散らしながら、絶斗の身体が空に舞い上がった。同時に直前まで絶斗の走っていた位置をとおってガイストの銃撃が走った。
 ガイストの小銃「シエルクライン」は20連射が可能だ。引き金を一度引くだけで20発もの発砲できる。ガイストは能力者特有の豪腕で跳ね回る銃身を押さえ込み、連続射撃する。小銃「シエルクライン」が弾幕を形成する。
 獣型キメラは突如出現した銃弾の障壁にぶち当たり、動きを阻まれる。が、そのうち1体が肉体を削り取られることと引き替えに銃弾の障壁を突破した。
 だが空から、
「これを食らいやがれ! 信念の一発、ドラゴンキィィィックッ!」
 跳び上がっていた絶斗が弾幕を突破したキメラのもとへ降下する。その足に装備された脚甲「ペルシュロン」が剣呑に赤く輝いた。
「ブレイカァァァァ!!」
 赤い流星と化した絶斗が獣型キメラに激突。その脚部が獣型キメラの頭部を粉砕した。
「危ないっ」という並木の叫び。
 着地姿勢をとっている絶斗に獣型キメラが躍りかかった。が、一本の矢が滞空する獣型キメラを撃墜した。獣型キメラは氷原に激突、炎のたてがみが消える。
 それは並木の一撃だった。
「私も連携できましたよっ」と並木は次の矢をつがえる。
 絶斗は振り返らず、照れ臭そうに小声で「サンキュウ」といった。
 そこにガイストの警告が響いた。
「――砲撃来るぞ、対ショック姿勢!!」
 氷原が轟音に揺れる。
 炎が能力者を飲み込んで膨れあがり、空へ昇って柱のようになった。

○03砲台撃破

 獣型キメラは陽動班に殺到したのを砲台撃破班の能力者は目撃した。
「やっぱりアレが邪魔だね。一気に潰しちまおーぜ」と五條が走りながらささやいた。これを耳にした能力者がわずかにうなずいた。
「――対ショック姿勢!!」というガイストの叫び。
 砲台型キメラの1匹が砲身を垂直に構えた。
 発砲。
 砲弾が先行する獣型キメラを追うように水平飛翔する。炎のたてがみを唸らせる獣型キメラに砲弾が接触、その場をすべてを飲み込むような爆発が生じる。
 スノーが息を呑んだ。宵藍が片眉をわずかに上げる。五條が呻いた。
 炎の塊が氷原を焦がす。炎の中で獣型キメラの影が何ら支障のない様子で蠢めき、陽動班の影がよろよろと立ち上がった。
「もどる。でもそんなわけには」とスノーが迷うかのようにもらした。その言葉は陽動班の気持ちを代弁するかのようで動きが鈍くなる。
 無線から陽動班の声が流れる。
『Ultimate Rescueは炎など恐れん。炎に打ち勝つ勇気を持つ者だけが、人を救えるのだ! さあ、掛かって来い』
 砲台型キメラの1匹がさらなる攻撃を加えるべく行動を起こした。砲身が垂直に構えられる。陽動班を狙い撃つ様子だった。
「ガイストさん、あなたの言うとおりだ。だからいきますよ」
 綾野はライフルの引き金を引いた。
 銃声とキメラの砲撃音が重なる。
 陽動班を狙ったはずの砲弾が関係のない方向に飛び、氷原で跳ねた。
 綾野が狙った砲台型キメラは片膝をついている。ために砲身が陽動班のいる方向からずれてしまっている。砲台型キメラは傷ついた足で立ち上がり、もう一度陽動班を狙おうとする。血塗れの片足が震えた。
「ですからやらせはしませんよ」と綾野は引き金を引いた。
 銃声が響き、同時に砲台型キメラの片方の肩が弾けた。傷を負って肩が下がる同時に砲身の位置が下がった。
 綾野はスコープ越しに砲撃不可の意思を伝え続ける。だが、キメラもまた妨害無用の意思を伝えるべく一声鳴いた。翼の音が氷原に響き、砲台撃破班に鳥型キメラが飛翔した。
 綾野の作ったチャンスを利用して宵藍と五條が砲台型キメラに突進している。これを阻むように鳥型キメラが2人のもとへ殺到する。
「食い止めます。2人は先を急いで!」
 スノーの言葉と同時に弾幕が展開する。ドローム製SMGによる銃撃だ。弾幕が鳥型キメラを追い散らす。
 ここから離れた場所では陽動班が獣型キメラと交戦している。
 砲台型キメラは鳥型キメラも獣型キメラもはがされて孤立してしまう。迫る能力者に対して砲を構えた。
 ヴェルトライゼンの矢が飛んで照準中の砲台型キメラの1匹に命中した。照準に使用する筋肉を損傷したらしく砲台型キメラの1匹は姿勢を崩した。
 だが、残り2匹は五條と宵藍に照準を完了した。砲撃音が氷原に響く。
「何度も同じ手を食らうかよっ」
 五條は氷原を滑るように走りながらパイルスピアを構えると、水平飛翔する砲弾を明後日の方向へ弾き飛ばした。
「‥‥お前たちに構っている暇はない」
 飛んでくる砲弾に対して宵藍は加速した。このため砲台型キメラの予測と現実にずれが生じる。宵藍は砲弾とすれちがった。その瞬間、「これほど接近すれば砲撃もできまい?」とささやく。
 速度に乗った宵藍はさらに加速して砲台型キメラの眼前に現れる。そして速度を飛剣「ゲイル」に乗せて斬りつけた。まさに飛翔する鳥そのままの俊敏さで飛剣「ゲイル」は砲台型キメラを屠る。
 残った2体の砲台型キメラが焦った様子で宵藍に回頭する。
 振り向きもせずに宵藍は宣言した。
「‥‥これで洪水は防げるな」
 砲台型キメラの1匹が宵藍に砲を向ける。が、その瞬間、五條の影が走って砲台型キメラの身体を二分割にした。
「なに。あんた、足速いじゃないか。陸上やってみない?」
「考えてみよう。だが、その前にここを終わらせる」
「おうよ!」
 砲台型キメラの最後の1匹に宵藍と五條が迫った。

○04

 能力者の活躍によって加熱装置は破壊された。ということで能力者はUPCの回収に来るまで休憩することにした。このときのために並木はコーンポタージュを用意してきたのだが、口にしたおもわず眉を寄せた。
「‥‥ぬるいです」
 冷蔵庫から取り出したばかりのレトルトスープの冷たさだった。みなについで回っているうちに冷えてしまったらしい。
 並木は口を尖らせた。そしてなんとなく加熱装置に触れた。ヴェルトライゼンが熱くありませんかと訊いた。
 だが、加熱装置は早くも冷え始め、手が貼り付いてしまいそうだった。
 洪水でなくて春を呼ぶ機械だったらいいのにと誰かがいった。
 けれどもまだ春は遠そうだった。