●リプレイ本文
○01
キメラの大群の出現に対してUPCは能力者を派遣した。
8機のKVが飛翔する。
上空から能力者が見たのは、赤茶けた大地を覆うキメラの絨毯だった。
キメラの大群の上空を編隊を組んで旋回するKV、その機上から抹竹(
gb1405)が呆れた表情で声をもらした。
「わらわらとまあ‥‥これだけいると逆に壮観だな」
キメラ掃討に当たって抹竹とペアを組む如月・由梨(
ga1805)は日本人形じみた顔の眉を寄せた。
「なるほど。KVの出撃要請が出るだけのことはあります。これはいささか厄介です」
如月の憂い顔の原因はキメラの数だけでなく、キメラの洪水が都市を呑み込んだ場合の懸念もあるようだった。
各機のディスプレイにはタイムリミットが設定されている。
時刻が来たらUPCの増援が到着するのだが、その前にキメラのうち大型のものを排除するのが能力者の任務だった。
リミットを確認してシーヴ・フェルセン(
ga5638)がいった。
「短時間で結構な数を倒す必要がありやがるですね。全力で気合入れていきやがるですよ」
雷電を駆る榊兵衛(
ga0388)が応じた。
「敵の増援をロスに辿り着かせる訳には行かないからな。ここできっちりくい止める事にしようじゃないか」
○02
KVの出現に気がついたキメラ、ケルベロスやバフォメットが空へ火弾を打ち上げるが、KVのいる高度まで届かない。
なぜか混じっている陸戦型ジャイアントペンギンがもどかしそうにフリッパーをばたつかせる。
迫ってくるキメラの群にアーク・ウイング(
gb4432)がふともらした。
「戦果が多ければ報奨金が出るのかー。まあ、無理に欲張ると手痛い目にあいそうだから、いつもどおりがんばろうかな」
その台詞は周防 誠(
ga7131)の耳に入ったらしい。
「生き残った奴が勝ちだ。慎重ってのはわりと自分の好みですね」
「とはいえ」と橘が口を挟んだ。「報奨金はもののふの誉れ‥‥いや金でなくて力を認められるということが、だが」
KVは着陸態勢に入り、戦端が開く。
○03
キメラの群れる大地へ吸い込まれるように降下していくKV編隊。
「‥‥先行する。鳴神さん、ウイングさん、追従して」と紅 アリカ(
ga8708)がいい、「着陸地点の安全を確保します。みなさんは私たちに続いて下さい」と鳴神 伊織(
ga0421)と言い添えた。
「ダイブ、いきますッ」と元気の良いアークの返事。
伊織とアリカとアークのシュテルンがパワーダイブ、3羽の黒鳥は残像を描いて着陸、そして巨人に変じると光条でキメラの大群を薙いだ。
3機のシュテルンによる牽制でキメラに隙ができる。このあいだに他の能力者が続々と着陸する。
アリカは燃えるような目でケルベロスの1匹を見据えた。トリガーに指がかかる。
「‥‥これ以上のさばらせるわけにも、先に進ませるわけにもいかないわ。ここで倒し切って見せる‥‥!」
ケルベロスの1匹、その6つある目の1つが光条で射抜かれた。
○04
キメラの大群は奔流となって8機のKVを呑み込んだ。
アークのシュテルンは流れを掻き分けるようにレーザーガトリング砲を放った。
レーザーの奔流にキメラの群は突き倒されるが、倒れても倒れても、次のキメラが死んだ仲間を踏みつぶして前に出てくる。
「敵の勢いがひどいよ。‥‥報奨金狙いじゃないけど無理と無茶がいるよ」
アークはレーザーガトリング砲で周囲をなぎ払いながら、機刀「玄双羽」を引き抜いた。 レーザーガトリング砲の弾倉が底を尽き、銃身が余勢でカラカラと回る。
その弾幕が途切れた途端、アークのシュテルンの前に大型キメラの群がなだれ込んでくる。
アークのシュテルンはキメラの群に呑み込まれたかのようにみえた。
しかし光の翼が閃き、PRMシステムの支援を受けたシュテルンが機刀を振るう。機刀は旋風となって大型キメラを滅多切りにした。
「ぼくだってやれるんだから!」
アークが歯を剥き、そのシュテルンは力を貯めるように身をかがめた。逆手に構えられた機刀が鋭く光った。
アークのそばで戦っている伊織もまた大型キメラに囲まれている。
「四方を囲んだくらいで私を倒せるつもりですか?」
伊織の冷たい呟きは大型キメラには聞こえなかったらしい。
大型キメラは伊織のシュテルンを四方から同時に襲いかかった。
だが、伊織が機杖を一振りすると、竜巻に巻き込まれたかのように大型キメラは吹き散らされた。
「杖を使うのは久しぶりですね‥‥不得手ではないので問題はありませんが」
杖術の感覚を思い出している様子の伊織に前方からバフォメットが襲いかかる。
伊織はカマキリじみた反応速度で近寄ってきたバフォメットの顔面を機杖で砕いた。しかし伊織の背後に別のバフォメットが迫る。
「‥‥見え透いていますよッ」
伊織はシュテルンの腕を引かせた。するとその動きで機杖の石突きが後方に突き出され、迫ってきたバフォメットを打った。
鮮やかな手際だった。
しかし大型キメラは仲間の血肉が潰れる音に興奮したらしく伊織に迫ってくる。
「あまり時間は掛けられないので‥‥手早く行かせて貰います」
シュテルンの手首から光の剣が生えた。腕が振り上げられると、光の剣は鞭のようにしなって大型キメラに襲いかかった。
○05
アリカをペアとするシーヴは照準装置を覗きながらつぶやく。
「ここで押し止めやがる、です」
津波のように押し寄せてくる大型キメラの群に複数の光の矢が飛びかかった。
シーヴの高分子レーザー砲は大型キメラの脚部間接に命中。負傷した陸戦型ジャイアントペンギンは他の大型キメラや小型キメラを巻き込んで転倒した。
ディスプレイに表示された増援到着時刻を気にした様子でシーヴは、今度は、ヘビーガトリングガンを放つ。
「時間がねぇですから、ぶっ倒れやがれ、です」
鋼鉄の雨にキメラは顔を覆い、進行速度を弱めた。が、群を突き抜けて、陸戦型ジャイアントペンギンが現れる。
陸戦型ジャイアントペンギンは、氷の上で本物がやるように腹ばいになって地面を滑ってくる。どうやら飛び出した勢いを利用したらしい。
コクピットの中でシーヴの眉がぴくりとした。
「だ・か・ら、時間がねぇですからッ」
シーヴの岩龍は陸戦型ジャイアントペンギンの突撃を紙一重で回避、回避の瞬間に雪村を発動させた。
陸戦型ジャイアントペンギンは二枚おろしにされてしまった。
「‥‥ペンギンは硬いですね。まあ錬剣には耐えられないようですが」
そういったのはケルベロスやバフォメットの火弾をあり合わせの盾で受け止めているアリカだった。
盾に火弾が立て続けに命中すると、盾はピイピイと悲鳴を上げ、フリッターをばたつかせる。
それはアリカのハイ・ディフェンダーに串刺しにされた陸戦型ジャイアントペンギンだった。
陸戦型ジャイアントペンギンは胴体が太そうにみえたので、串刺しにしてみたのだが、そこに他のキメラの遠距離攻撃が降り注いだので、盾にしてみたのだった。
アリカはペンギンシールドの脇からレーザーを放ち、確実に大型キメラを減らしていく。
○06
キメラの群の突撃に対して、
「キメラ如きでナイトフォーゲルを止められるのでしたら、止めてみなさい」
覚醒状態の由梨は好戦的な態度を取った。
ディアブロのアグレッシブ・フォースの威力が乗せられたグレネードランチャーが火を噴く。
弾けた榴弾の破片ひとつひとつに機体依存特殊能力の威力できらめき、流星群のようにキメラへ降り注いだ。
グレネードの弾幕が由梨のディアブロにキメラを近づけさせず、弾幕を無理に突破してくる輩はスラスターライフルに挫かれた。
だが、1匹のケルベロスが火線を避けて由梨のディアブロに襲いかかった。
「無策な突撃」
ケルベロスは噛みつく寸前、口にスラスターライフルの銃口をねじ込まれ、その牙をディアブロに到達させることはできなかった。
「所詮は血に飢えた獣ですか。散りなさい」
由梨がトリガーを引くと、ケルベロスの身体が爆発的に膨張して弾けた。
一方そのころ、ペアの抹竹が周囲を見て、ぼやいた。
ぼやきながらも操縦はしっかりしていて、犬頭のKV、アヌビスは滑らかな動きでKVウォーサイズを振り上げた。
「ったく、狼だらけじゃねえか! 俺の機体も似たようなもんだが‥‥」
アヌビスの足下に群がっているキメラは、すべて狼型キメラだ。
「犬コロ同士仲良くしてくれねーか、なに、そんなつもりはない? 残念だ」
機体をはい上がってきた狼型キメラを抹竹は振り払う。この動きを攻撃につなげて、そばに寄ってきたケルベロスを地獄へ送った。
アヌビスはフレキシブル・モーションを可能にする機体構造、さらにウォーサイズの重さと遠心力を利用して、その場で舞うように動く。
舞に誘われたかのように大型キメラが殺到するが、アヌビスはひらりひらりと回避して攻撃の返礼に首を落とした。
抹竹は微妙な操作を繰り返しながら、どこか高揚した印象のある声でつぶやいた。
「こっちから出向かなくても敵さんからやってきやがる。動く必要がねえよ」
○07
「自分たちの担当は‥‥あの辺ですか。では、行くとしますか」
周防のワイバーンが駆ける。
武装ポイントに設置されたファランクス・アテナイが作動して小型キメラを蹴散らし、さらに迎撃に出た大型キメラを蜂の巣にした。
さらにツングースカが吠えた。
周防のワイバーンは、全身から銃弾をばらまきながら、戦場を駆け抜ける。後に残されたのは、赤い霧と肉片の山だけだった。
「楽勝だな。問題は時間内に倒しきれるかどうか、か?」
ファランクス・アテナイをリロードする間に陸戦型ジャイアントペンギンが近付いてきたが、周防はツングースカを浴びせて蹴散らした。
周防は榊に呼びかける。
「そっちは任せますよ? 援護してたら殲滅しきれないかもしれないんでね」
「‥‥無用な心配だ」
榊の雷電が巨体に見舞わない俊敏さで戦場を疾走する。
朱漆色の塗装のため榊の愛機、忠勝は敵陣突入の一番乗りを目指す武者のようだった。
その威容にキメラもまたなにかを幻視したのか、戦きの叫びを上げ、火弾を放った。
しかし榊の雷電、忠勝は歴戦の戦士そのものの動きで、火弾をすり抜け、逆に火線を打ち返す。
大型キメラは遠距離戦が無意味なことに気がついたらしく、距離を詰める。対して榊の雷電は蜻蛉切と名付けた機槍「ロンゴミニアト」を振り上げた。
「ゴーレムならいざ知らず、キメラごときのこの『忠勝』が退くなどと思うな! 我が穂先に掛かるのをせめてもの誉れとして散ってゆくが良い!」
突進の勢いを乗せられた機槍「ロンゴミニアト」が突き出される。
穂先がバフォメットを貫いても、攻撃は止まらず、背後にいたケルベロスを貫く。
それでも止まらず陸戦型ジャイアントペンギンの腹でようやく止まり、穂先に仕込まれていた液体火薬が弾けた。
だが、榊の吶喊はそこで終わりではなかった。榊の雷電、忠勝はキメラの奔流を押し返し始める。
周防と榊の2機は圧倒的な力で戦場を蹂躙し、バグアの手先に地球が誰のものか骨身が砕けるほど教え込んだ。
○08
ディスプレイのカウンターがゼロになった。同時にUPCから通信が入る。
「こちらUPC、いまから小型キメラ掃討部隊を展開する。能力者、ご苦労だった」
数機のリッジウェイが現れて、兵士を吐き出す。
余力の残っているアークが、
「こちらアーク・ウイングです。軍人さん、火力支援ができる程度にはまだ弾薬があります。いかがですか?」
アークの可愛らしい声に返ってきたのは、うめき声だった。
うめいた軍人がいった。
「問題ない。協力に感謝する。‥‥それより、あんたがたは自分のKVを見たほうがいい。傭兵は揃いも揃って手練れと聞いていたが、ここまでするのか」
能力者のKVはどの機体も使い終わった肉斬り包丁のように血肉で汚れていた。