●リプレイ本文
●01
海岸線にKVビーストソウルが現れた。搭乗者は藤田あやこ(
ga0204)だ。
「能力人間藤田参上! 全ての亀を焼きに来た。覚・醒」
上陸するため海上から迫ってくるカメ型キメラに対して藤田は高らかに宣言、そしてヒーローめいたポージングをKVにさせた。
すると、海上のカメ型キメラから砲撃が藤田機のほうに飛んでくるが、砂浜に着弾して砂を巻き上げた。
幡多野 克(
ga0444)野は搭乗機の雷電を遮蔽物に隠している。そこから海のほうをうかがった。
砲撃したカメ型キメラは衝撃で後退、さらに波に引き戻され、じたばたもがいている。
「‥‥このまま放っておいたら疲れて動けなくなるなんてことないか。まだ被害が出てないのは運が良いとも言えるかも? ま、今のうちに片付けてしまおう」
幡多野の口調はどこか脱力していた。
ロボロフスキー・公星(
ga8944)が相づちを打つ。搭乗機はロジーナだ。
「なんだか呑気なキメラね。このままだとカメが急いでも晩までかかりそうね」
シラヌイ・S型に搭乗する戌亥 ユキ(
ga3014)もまた遮蔽物越しに海を伺う。コクピットのディスプレイにはぷかぷかと漂っているカメ型キメラが映っている。
「なんかさ、お風呂に浮かべて遊ぶオモチャみたいだよね」
ユキの声はファンシーグッズを発見した子供のようだった。
シラヌイに搭乗するアンバーがディスプレイで海上と空を監視しながらいった。上空では地堂球基(
ga1094)のシュテルンが海上を旋回している。
「まあ、今のところ実害はないとはいえ、正規軍を拘束されているのは地味に痛いからな。とっとと片付けてしまおうぜ」
そこに地堂からの無線が入った。
「こちら地堂。カメ型キメラの位置は確認した。そちらも攻撃準備を始めてくれ」
地堂は上空から海上を見下ろした結果を仲間に連絡する。海岸の能力者はこれを元に各自が射撃ポイントを取っていく。
上空の地堂機からは海岸の僚機が海の敵を撃ち下ろすような位置取りになったのが見えた。
藤田が地堂に連絡する。
「攻撃を開始するわ。まったく中国で織田の鉄砲隊のまねをするなんてね」
「別にそんな陣形はとっていないようだが。――――こちらはカメ型キメラの背面に回り込み、背後から攻撃を仕掛ける。手はず通り陸へ向かうように追い立てるぞ」
●02
海岸に配置された5機のKVは遮蔽物から飛び出した。海上のカメ型キメラに狙いを定めてそれぞれの武器を連射する。
藤田はスナイパーライフルを用意した。
「ちっ‥‥流石に手堅いわね。故意に反撃させて砲撃の勢いで一箇所に密集させるわ。皆それを狙って頂戴」
発射された砲弾がカメ型キメラの1体に飛ぶ。砲弾はフォースフィールドの障壁をぶち抜いたあと、その甲羅に着弾した。喰らったカメ型キメラがいったん、海に沈み、浮かび上がった。その甲羅には穴が開き、そこから奇妙な色の体液がにじみ出ている。
「敵の反撃が来るぞ」とAnbar(
ga9009)が注意を喚起する。カメ型キメラに対処した部隊から敵砲撃の性能の情報を得ているので「敵の攻撃精度は高くない。だからといって当たるなよ?」
カメ型キメラの数体が口を開く。一斉砲撃が開始、海面が波打ち、砲撃と同時に撃ったカメの何匹かがその反動で沈んだ。
しかし、アンバーの得た情報通り、砲撃精度は大したことなく、明後日の方向に着弾してしまう。
藤田の試みは続くが、なかなかうまくいかず、結局のところ、地堂の空爆に頼ることになった。
「了解した。尻に火を付けてやる」
地堂はシュテルンの機首を海岸のほうに向ける。誤爆を避けるため僚機に注意を与えると、海面目指して降下した。
シュテルンは振り下ろされた剣のように急降下、そのエンジン排気が海面を波打たせる。
カメ型キメラ群の後方は突然の襲撃に動揺したようで、もがくようにしながら海上に首を伸ばそうとする。
「対空砲火がこない。体の構造の都合で上を向けないのか」と地堂は127MM2連装ロケット弾ランチャーの照準を定めた。「上を探っている間なんてない。陸に上がらなきゃ、ここで沈むぜ」
シュテルンにマウントされた投射機からロケット弾がカメ型キメラに発射される。
海面が爆発に包まれる。
アンバーは地堂による空爆をみながらいった。敵がまだ射程に入っていないので海岸の能力者は手持ち無沙汰だ。
「カメ型キメラが浮いたり、沈んだりしているな。あれは、なんだ、水攻めみたいだ、拷問の」
「こちらは暇で参っている」と幡多野。「退屈死にされるのは‥‥なんというものだったっけ‥‥」
そのとき突然、ずっとカメ型キメラの動きを目で追っていたユキが閃いたかのようにいった。
「あっ! もしかしてさ『陸に上がってからが俺の本気!』的なキメラかもね」
幡多野が同意する。
「普通に戦ったら‥‥手強い相手かもしれないけど‥‥。今回は状況が悪かったね。とすると、‥‥上陸されるとまずいか」
大丈夫じゃないかしらとロボが幡多野の懸念に答えた。
「そうね。完全に上陸される前に倒したほうが都合がいいわ。やっぱり地に足がつくと、進行速度も速くなるでしょうしね。でも、心配しすぎはいけないわ。ここの水深はけっこう深いし」とロボは望遠モードでカメ型キメラの足をみて「カメの足は短いから、相当近づかせないと問題ないとおもう」
海岸の能力者がおしゃべりで時間を殺している間に地堂機は爆撃を続けている。
無数のロケット弾が火と断片と爆風でもって海面を歪める。カメ型キメラはシュテルンへの対空放火を取りやめ、破壊の渦から逃れるように陸を目指してあがく。
カメ型キメラにとって陸は苦痛から逃れるための場のように見えたのかもしれない。しかし、その海岸からKV5機による攻撃が始まる。
●03
「敵を陸に追いやった。離脱するから、攻撃を始めてくれ」
地堂はロケット弾を投射すると、シュテルンを急上昇させる。カメ型キメラの群はすでに海岸のKVの射程に入ったようだ。
「よし、最大火力で片付ける!」
幡多野機のショルダーキャノンはすでにカメ型キメラの1匹を照準している。幡多野の雷電は雷を連想させる轟音とともに発砲、砲弾は水平に飛ぶ雷のように飛翔、カメ型キメラのフォースフィールドを、そしてその甲羅をぶち抜いた。
「1匹撃破か」とアンバーがつぶやく。
アンバー機の照準機にカメ型キメラの1匹が補足されている。トリガーが引かれると、火線がカメ型キメラに吸い込まれていく。さらに2条の火線がスラスターライフルから放たれる。
被弾したカメ型キメラは沈み、波間に隠れ、浮かび上がってこない。
「数こそ多いが、倒せない相手じゃないことが救いだな」
アンバーは機体をその場から移動させ、敵の反撃に備えながら、リロードする。
敵が射程に入ったのでユキもまた攻撃を始めている。
「この武器は結構威力あるよ〜♪ ゴッリゴリ削っちゃうんだから!」
ユキ機のスラスターライフルはバリバリバリと音を立てながら火線をカメ型キメラに投じる。
連続しての着弾がカメ型キメラのフォースフィールドを押し破り、その下の甲羅にひびを入れ、砕いていく。そして灼熱の弾丸は甲羅を破り、柔らかい内蔵を引き裂き焼いていく。
「リロード!」というユキの叫び。ユキ機のスラスターライフルは火線を吐き続けているが、弾倉は空に近い。
「支援しますわ、今のうちに!」
ロボはそう応じると、自機のガトリングガンの火線をユキ機の火線に重ねる。
「サンキュー」とユキはこの隙にリロードを始める。
スナイパーライフルを発砲していたあやこはつぶやく。
「せめてブリューナクやレーザーアイの射程まで来れば‥‥って、きたわねッ」
KVの猛攻でカメ型キメラは数を減らしていたが、さすがに頑丈だったのか、それなりに海岸に近づいてくる。
「貰った」
藤田機はカメ型キメラの1匹にスナイパーライフルを当てて動きを鈍らせる。
「レンジで焼くわよ!」
藤田機の頭部から放たれたレーザーがカメ型キメラをかち割った。カプロイア社製武装、メガレーザーアイだ。
そのとき、地堂が上空から注意を喚起する。
「‥‥調子良さそうだな。だが、距離が近づけば、当てやすいもんだ」
その瞬間、カメ型キメラの群のうち、陸に近いものたちが、被弾しながら砲撃してくる。
KVのいる海岸が爆発する。砂が盛大に舞い上がった。
「‥‥いわんこっちゃない」
地堂はそうもらすと、万が一に備えるかのようにシュテルンを急降下させる。
だが、海岸のKVは無事だった。
「わっ! また口から砲弾出してきたよ? あれってさ、ウエッてならないのかな?」とユキ。
「こう、なにか、お腹に堪えそうな攻撃ですわよね」とロボ。
やはり根本的に射撃精度がよくないのか、カメ型キメラの攻撃はKVに命中しなかった。ただし砂浜に着弾したので盛大に砂が吹き上がり、その場にいるKVは砂まみれになってしまっている。
「敵の数は少ない」とアンバー。「たたみかけるぞ。いつまでもつきあってられん」
「同意だ。‥‥そろそろ終わりしたいもんだ」と幡多野は敵を見据えながらいった。
波打ち際に迫るカメ型キメラにKVは攻撃を加える。波のように寄せては返すカメ型キメラに痛烈な一撃が幾度も浴びられ、やがて海から来るものは波と甲羅の破片だけになった。
●04
「‥‥ようやく‥‥終わったね」と幡多野は機上から海岸や海を見下ろしていった。
海に敵の姿はなく、海岸には波が打ち寄せられ、白く泡立っている。海にキメラの死骸があるので、その破片が海岸に打ち上げられつつある。
「バグアって、たまに良く分らないもの作るよね? 責任者出て来い! みたいな‥‥。今まさにそんな気分だよ」
ユキはそういってため息をついた。
ところで、とロボはいった。
「ある程度形の残っているカメの甲羅は軍で有効利用できないかしら?」
「おもしろい発想だな」とアンバー。
「たとえば、テントにならないか、と。やっぱり邪魔?」
「さあな。ま、でも中身があるうちは難しいだろうさ。中身抜くのもあれだけでかいとむずかしいだろうし」
ロボは難しい表情でカメ型キメラの死体をみた。
そうだ、とユキが手を打った。
「キメラの甲羅を使った海の家とか、観光名所になるかもね」
能力者の幾人かが、なるほどとうなずいた。そして誰もがそれはこの戦いが終わったあとのことだと思っているようで、みなが沈黙する。
海は静かだった。けれどもどこからか大砲の音が、ジェットの排気音が響いてくる。