●リプレイ本文
●01
辰巳 空(
ga4698)は用水路の中で身を潜めながらクロスフィールド(
ga7029)にいった。
「大型の鳥型キメラですか。そういうものはいかにもいそうですが、戦うとなると厄介ですね」
「だな。だけどよ、せっかく瀋陽を押さえたんだ、もう一仕事頑張りしようぜ」
クロスフィールドは用水路のふちから望遠鏡を突き出して周囲の様子を探っている。
農耕地帯でうち捨てられた家屋が点在している。そこを狼型キメラがうろつき、一方ではドラグーンとスナイパーの混成部隊が狼型キメラの群に近づきつつあった。
空から不気味な風切り音が降ってくる。鳥型キメラの飛行音。
「それじゃ、しばらくあいつと鬼ごっこでもするか」とクロスフィールド。
辰巳はシグナルミラーを取り出した。これで鳥型キメラにおびき寄せる。
「では別働隊が狼型キメラを倒すあいだ、鳥型キメラを引きつけるとしましょう」
「おうよ」とクロスフィールドは辰巳の肩をこづいた。「あんたはさ、いいえさをやれるぜ、きっと」
「生物毒があるかもしれませんよ」
「なおさら結構じゃねえの」
辰巳は渋い顔をしたものの、用水路から飛び出し、鳥型キメラの気を引くためにシグナルミラーを掲げた。
さらにクロスフィールドがスキル<狙撃眼>を使っての射撃を実行する。
別働隊を狙う動きを見せていた鳥型キメラは大きく旋回して方向を変えると、囮を演じる辰巳たちに急降下した。
●02
銃声が響き、美空(
gb1906)は顔を上げると、農道の影から周囲を伺った。
廃屋のあるほうから狼型キメラの群が飛び出す。どうやら銃声に誘い出されたらしい。
しかし群の進む方向には3人のドラグーン、神宮寺 真理亜(
gb1962)、番場論子(
gb4628)、望月 美汐(
gb6693)が立ちふさがっている。
AUKVをまとった彼女たちは侵攻を阻む鋼鉄の盾であると同時に機動力のある矛でもあり、さらに逃亡を許さない網でもある。この場の狼型キメラを足止めし、後方に控えるスナイパーに倒させるのが役目だ。
AUKVの後方からスナイパーの九十九 嵐導(
ga0051)と篠崎 公司(
ga2413)が控えている。彼らはAUKVの隙間を縫うようにして狼型キメラに射撃を加え始める。銃使いらしい正確かつ相手の呼吸を読んだ射撃だ。
「作戦は順調ですね。私もいきますよ」
美空が大口径ガトリング砲を狼型キメラの群に照準すると、美空の射線とスナイパーの射線は交差して、十字型の射線が形成される。
「いっけぇっ!」
美空がトリガーを引いた。大口径ガトリングガンは弾丸とから薬莢を吐き出しながら銃身を回転させる。
その唸りが美空の叫びをかき消した。
●03
真理亜はM−121ガトリング砲を構えると、後方のスナイパーへ叫んだ。
「敵、発見。状況を開始する。篠崎殿、支援はお任せします」
篠崎は返事を返さない。代わりに長弓を構え、弾頭矢をつがえた。
M−121ガトリング砲が盛大に火を噴く。真理亜は暴れる銃身を巧みに押さえ込み、扇状に弾丸をばらまいく。
狼型キメラの群は能力者に対して突進してくるが、流れてくる弾丸を警戒したり、被弾したりで進撃速度が低下する。
そこに篠崎の放った弾頭矢が飛び込んだ。
爆風。爆発の煙が消えると狼型キメラの1匹が倒れ、口から血の泡を吹いている。
「先ず一つ!」と篠崎は声をもらし、すかさず次の矢をつがえた。
論子はSMG「スコール」を腰だめに構え、そばでは美汐が迫ってくる狼型キメラの群を見据えながらセリアティスという銘の1.7メートルほどの槍を構えている。
「さ、皆が帰る場所を返して貰いましょうか」と美汐。
「人類の勢力圏が広がったといってもバグアの置き土産たるキメラが健在なら拡大したとはいえません。この脅威を除いて足元から固めてこそ、希望が力になるのでしょう」と論子。
人類の希望も決意も根絶やしとするかのように狼型キメラの群が突進してくる。
泡を吹いて駈けてくる狼型キメラに論子はSMG「スコール」を引き、弾幕で群の突進を押し返す。
だが、狼型キメラのうち根性のあるものが弾幕の壁を突き破ると、跳躍して襲いかかる。
美汐は<竜の爪>を発動、まとっているバハムートのSESエンジンが唸り、セリアティスにエネルギーが供給される。そして跳躍中の狼型キメラに突き立てる。
空中で狼型キメラが絶命する。美汐は返り血でバハムートの装甲を染めながらいった。
「九十九さん、右から来ます、注意してください!」
「すでに了解している」と九十九。
狼型キメラの群から幾匹がドラグーンとスナイパーを迂回して辰巳とクロスフィールドのほうへ向かおうとしている。
銃声が響き、そのうちの1匹の横腹に穴が空く。九十九の銃撃だ。創傷が心臓まで到達したらしく、傷口から一度ごぼりと血を出すと、その狼型キメラは動かなくなった。
「心臓の位置は普通のオオカミと大差ないようだが‥‥‥‥?」
九十九はかつて猟師だったという。
九十九は冷静な射撃を繰り返して狼型キメラの群が散開するのを防ぐ。
狼型キメラは散開することを封じられ、さらに美空による側面からの射撃を浴びせられる。狼型キメラの群はじりじりと削り取られていく。
その1匹が助けるように空を仰いだが、彼らを助けるはずの鳥型キメラは取り込み中だった。
●04
物陰でクロスフィールドはドローム製SMGを構えながら叫んだ。
「おーい、こっちに美味そうな獲物がいるぞー」
「あおられると困ってしまいますよ」
辰巳は柔らかい口調とは裏腹に厳しい表情で荒れ果てた農耕地を駈ける。
曇天の空からは大型の鳥型キメラが辰巳を追いかける。
クロスフィールドは鳥型キメラが急降下体勢に入ったのを見た。同時に物陰から飛び出して<援護射撃>を発動する。
「狼が片付くまでの辛抱だ、もうちょい頑張ってくれよ」
急降下中の鳥型キメラは身体をロールさせたりして火線から逃れようとするが、エミタのAIに支援されたクロスフィールドの火線は蛇のように鳥型キメラにからみつく。
けれども鳥型キメラは急降下攻撃をやめはしない。
辰巳は背中にひりつくような感覚を覚えると、<瞬速縮地>を使用、30メートル先へ駆け抜けた。その直後、さっきまで辰巳のいた場所に鳥型キメラが急降下し、土煙が爆発でも起こったかのように巻き起こった。
「翼をもぎます!」
辰巳は振り返りざまに<真音獣斬>を発動、鳥型キメラに衝撃波を発した。
曇天の空の下に鼓膜をひっかくような怪鳥の奇声が響く。
だが、当たりが浅かったのか、土煙の中から怪鳥が飛び立った。
「おしいね」とクロスフィールドはつぶやき、周囲をうかがった。AUKVがこちらに向かってくるのが見えた。「お、辰巳、そろそろいいみたいだぞ」
辰巳はうなずくと、鳥型キメラを廃屋のほうに誘導する。
「廃屋に突っ込んで足止めし、そこを一斉攻撃しましょう」
●05
ドラグーンとスナイパーは鳥型キメラを引きつけている辰巳とクロスフィールドのもとへ走る。
走るが、篠崎と九十九はドラグーンから離れて農道の段差に身を隠し、狙撃体勢をとり、辰巳のほうへ狙いをつけた。別に辰巳を狙いたいわけではなく辰巳のいる位置周辺に鳥型キメラが降下する手はずになっているためだ。
「浮き上がる直前のタイミングを狙えればいけるか‥‥?」と九十九。
「敵の動きが止まるのはその瞬間だけでしょう」と篠崎が返す。
鳥型キメラはスナイパーの見えざる手のなかに入ったことに気がつかない様子で急降下を始める。
辰巳は廃屋を背後にすると、鳥型キメラに振り返った。視界いっぱいに鳥型キメラの姿が広がる。
鳥型キメラが急降下、廃屋が吹き飛び、土煙が上がり、瓦礫が飛び散った。
論子は飛んできたなにかの破片を避けながらドラグーンの仲間に叫ぶ。
「いまです! 包囲して集中攻撃です!」
「了解」「了解」「了解」
だが、「まずいぜ!」とクロスフィールドが警告する。
土煙が晴れるとそこには鳥型キメラの下敷きとなった辰巳がいる。
狙撃体勢の九十九は同時に引き金から指を離し、篠崎もまた弓を構える腕から力を抜き、ドラグーンはとまどい、いや美汐だけがむしろ鳥型キメラに突っ込んだ。
「――――これ以上はやらせませんよ!」
SESエンジンが唸りを上げ、その拳が過剰出力にスパークする。
辰巳は鳥型キメラに組み敷かれたまま、その赤い双眸を輝かせ、拳を作った。
<獣突>、発動!
辰巳の一撃が鳥型キメラを吹き飛ばす。
宙に浮いた鳥型キメラへ美汐は槍を振りかぶる。同時に<竜の咆哮>発動!
鳥型キメラは横殴りされて、吹き飛び、廃屋に突っ込んだ。
クロスフィールドは鳥型キメラに照準する。鳥型キメラは瓦礫をはねのけると、飛ぶ構えを見せる。
「気の早い奴だな、もうちょいゆっくりしていけよ。最後が一番派手ってもんだ」
クロスフィールドの発砲。これに九十九の射撃と篠崎が矢が加わる。
美空と真理亜の視線が交錯する。
「いまが好機、奴から空を奪い取る」と真理亜。
「空は美空たち人類のものです」と美空。
2人は同時にガトリング砲を構えた。
2門のガトリング砲から放たれた火線が鳥型キメラを地面に叩きつける。
篠崎が弓を引き絞り、放つタイミングを見極める。鳥型キメラがガトリングガンの火線に翻弄されて背中を見せた瞬間、放った。
「歪んだ生を受けたモノよ。闇へ還りなさい」
篠崎の矢は鳥型キメラの背中の筋肉、羽ばたくために必須の部位に突き刺さり、鳥型キメラの飛行能力を奪った。
「今度こそ集中攻撃です」と論子が叫び、鳥型キメラは撃破され、戦闘は終了した。
●06
戦闘が終了すると、能力者を回収するためのヘリが現れた。
怪鳥のようなヘリが降下するところを論子は見上げてつぶやいた。
「ここはなんとか無事に終わりましたね」
「まだ後始末しなくちゃならんところはある。いくつもな」と九十九。
クロスフィールドが皮肉そうに唇を曲げる。彼は代々の傭兵一家の出身という。
「あっちこっちに小銭がばらまかれてるようなもんさ。しっかり稼がせてもらうぜ」
ヘリが着陸する。論子は風に髪を乱される。そんな中でいう。
「だからこそ機動力のある我々が必要とされています。いきましょう」
全員がうなずく。
能力者は次の戦場へ向かう。彼らの通ったあとでは希望が芽吹くから。