タイトル:新年凧墜し大会マスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/22 02:00

●オープニング本文


 日本のとある地域では、新年になると凧揚げ大会を催され、たくさんの人々が凧揚げを楽しむのだが、今年はおもわぬ闖入者が現れて、運営員会の人々を驚かせることになった。
 凧揚げ大会の前日、運営委員会の1人が、会場となっている河原を訪れると、その上空では巨大な凧がいくつも舞い上がっていた。
 気の早い連中もいるものだ、大会は明日だというのに、と運営委員は微笑んだ。
 怪鳥のようなカイト型の凧が空を走る。血走った目のデザインの凧だ。
 デザインは鳥が逃げそうな不気味なものだが、その飛翔のさわやかさに運営委員は感心したのだけれども、凧の目がぐるりと動いてにらみ付けてきたので、腰を抜かしてしまった。
 よく見れば河原上空を無数の凧が舞っているのに揚げている人影がない。
 委員がへたり込んでいると、ふと風が止み、凧が降下していく。
 すると、凧の1体がぺらい身体についている球体を投下。
 球体は爆発。
 堤防の高さまで上がる土煙。
 爆風に乗って空の高みへ駆け上る凧型キメラ。
「U、U、ULTを呼ばなくては‥‥‥‥!」
 委員はそう叫んで駆け出そうとしたが、腰が抜けていたので、はいずった。

 オペレーターのハル・ソルトマイン(gz0132)は能力者にいった。
「凧揚げ会場に出現した浮遊型キメラを撃破して下さい」
「あくまで敵は浮遊型です。自力では飛行していません。本物の凧のように風に乗っているだけです。乗れない場合は爆弾を用いて爆風で上昇するようです」
「敵は空中を浮遊しているので、遠距離攻撃を仕掛けるという選択肢があり得ますが、その際の周辺被害への配慮はさほど必要ではないでしょう」
「凧揚げ大会に使用されるだけあって広く、また高圧電線の類はありません。依頼人の話によれば催しには何十人もの人間が協力して揚げる巨大凧もあるそうです。ということは戦闘するにあたって狭くて困ることはないでしょう。もっとも河原なので、上を向いたまま走っていると、冷たいおもいをするかもしれませんが」
「それでは、今年もバグアを打ち倒して地球の空を取り返すとしましょうか」

●参加者一覧

ユーフォルビア(gb9529
16歳・♀・SF
アルストロメリア(gc0112
20歳・♀・ER
夕景 憧(gc0113
15歳・♂・PN
風間 千草(gc0114
19歳・♀・JG

●リプレイ本文

●01
 堤防で1人の少女が凧型キメラの舞う空を眺めていた。ユーフォルビア(gb9529)だ。
 凧型キメラの外見はいささか気色の悪いものだったが、ふわふわと浮遊する様子に。ユーフォルビアはご満悦の様子だ。
「わ〜凧だ〜凧だ楽しそう〜 」とユールフォルビアが目を輝かせていると、不思議と平和な景色に見えてくるから不思議だ。
 しかしやっぱり平和ではなかった。
 どうしてか買い物袋を抱えたアルストロメリア(gc0112)が川岸の遊歩道を歩いていたのが、そこに凧型キメラの1匹が降下する。凧型キメラに攻撃の意志はないようだったが、上昇の意志はあったようで、抱えていた爆弾の1つを投下して、爆風で上昇すると、巻き込まれてアルストロメリアが吹き飛ばされ、買い物袋から食料品などが周囲に吹き散らされた。
「きゃ〜今晩のおかずが〜。‥‥‥‥‥‥もう許しませんよ!」とアルストロメリアの叫び。
 凧型キメラ鑑賞会が能力者VSキメラ鑑賞会に変わりつつあり、ユールフォルビアは慌てた。
「あふあふ 大変なことになっちゃてます!」
 ちょうど風が弱くなったので複数の凧型キメラの高度が下がる。凧型キメラは一斉に爆弾を投下した。それには攻撃の意志はなかったのかもしれないが、重なり合った爆風はアルストロメリアを吹き飛ばす。
 アルストロメリアは吹き飛ばされてしまうが、地面に叩きつけられる直前に、少年の影が走った。
 少年はアルストロメリアを抱き留め、堤防まで駆け上がった。
 アルストロメリアは抱かれたまま少年の顔を上げた。少年は、夕景 憧(gc0113)は凧型キメラに鋭い視線を向けている。
 夕景はなにか凧と因縁があるらしく唸るようにいった。
「くっこいつだけは許せないぞ凧にはいろいろと思い出があるんだぁ絶対にだ。天誅ぅぅぅ!」
 耳元で叫ばれたのでアルストロメリアは少年から離脱、おもわず助けてもらったお礼をいうまえに「一体なにがあったのですか!?」と尋ねるが、少年は自分の思いに没頭しているのか返事をしない。
 どうしてか燃え上がっている少年に対していつの間にか傍らに立っていた女性、風間 千草(gc0114)は落ち着いていた。
「なんだいありゃ悪趣味だね。ま、倒すのに心を痛めなくていいのは結構なこと」
 そういって千草は持っていたトレーニング用具を手放した。たまたま近くの訓練場にいたところでこの事件が起き、依頼を受けたのだった。
 千草はこの場にいる能力者に呼びかける。
「さて皆、訓練がてらこいつらを倒すとしようじゃないか」
 呼びかけに全員がうなずき、凧型キメラはこの様子を不気味な形状の目でぎょろりと見下ろしていた。

●02
 千草の指示のもとで3人は戦闘を開始する。
 攻撃および指揮担当の千草、回復および強化担当のアルストロメリアとユールフォルビアを背後にして、攻撃および囮担当の夕景は凧型キメラのもとに突っ込む。
 アルストロメリアが超機械を手にして叫ぶ。
「強化します! さあ今晩のおかずの仇、覚悟しろ!」
 アルストロメリアのスキル<錬成強化>が発動、夕景の身体に埋め込まれたエミタの出力が増幅する。
 夕景は走りながら返す。
「余計な世話を。だが、感謝する」
 夕景が凧型キメラに近接して拳銃ルドルフを抜き、上空へ銃口を向けると、凧型キメラは一斉に夕景を凝視した。
 邪眼という言葉を連想させる視線だったが、夕景はプレッシャーをはね除けて、発砲する。
「このこのこん畜生!」
 夕景の銃撃はアルストロメリアによって出力を増幅されている。発射の衝撃で夕景の骨がびりびりと震えた。
 銃弾は凧型キメラの1匹に命中、命中箇所は目玉で、凧に風穴を開けた形になる。もっとも凧型キメラはまだ死なず、血の涙を流しながら、敵対者の対応を始め、爆弾を投下した。
「当たるかよ!」
 夕景は爆弾の着弾地点を予測すると、距離をとり、さきほど攻撃したキメラに改めて攻撃を加えるが、回避されてしまう。
 凧型キメラは銃撃が来ると、ある種のエイやマンタがやるように身体を縦にした。被弾の可能性のある部分が最小になり、一瞬前まで身体のあった空間を夕景の銃撃が通り過ぎた。
 後方の3人のうち千草が口を開いた。
「なるほど。簡単にはやらせてくれないようね」
 千草の前で夕景は苦戦に追い込まれていく。
 凧型キメラは連携を始め、何匹かが急降下による体当たり攻撃を始める。急降下した瞬間を夕景は攻撃のチャンスとして狙うが、別のキメラが爆弾を落としているせいで、凧型キメラは爆風に乗ってすぐに夕景の攻撃範囲から離脱してしまう。夕景は傷を負うばかりだ。
 ユーフォルビアがいった。
「まずいです。これでは夕景さんがやられてしまいます。その前に!」
 ユールファルビアは超機械「牡丹灯籠」で凧型キメラに電撃を浴びせようとしたが、アルストロメリアが制止した。
「待ってください。これには理由があります」とアルストロメリアは不安そうな顔になり千草のほうを見た。「そうですよね、千草さん?」
「もちろんよ」と千草はこたえてSMG「スコール」を構える。「支援すべき時ってのを見極めないとね」
 そういって千草はユールファルビアに錬成強化をかけさせると、自身もスキルを行使する。
 千草のスキル、<ブリットストーム>が発動。
 弾丸の雨が凧型キメラの群に降り注ぐ。凧型キメラは夕景に攻撃を仕掛けるために低空に位置していたうえに連携するために個体同士が近距離にいた。そのせいでほとんどの凧型キメラが<ブリットストーム>から被害を受けてしまう。
 千草の手管にフールファルビアとアルストロメリアは感嘆の息をもらした。
 そんな2人を千草はどやす。
「ほらほらしっかりしな支援するよ。超機械の射程をいかすのさ」
 はい! と2人は返事をすると、超機械を作動させ、凧型キメラの群に電撃を放つ。
 超機械の電撃に夕景の銃撃が加わると、凧型キメラは1匹1匹地上に落下し始める。
 「皆、出来るだけ集中攻撃を心がけるんだよ」と千草からの指示が飛ぶ。
 これに千草の銃撃が加わると、夕景は獲物を拳銃「ルドルフ」から直刀の夜刀神に持ち替えて高度を落とした敵に<迅雷>で跳びついてなます斬りにした。
 出会ったばかりのような4人だったが、巧みな連携を生み出して、確実にキメラの数を減らすが、その時、河原が不吉に陰った。
 凧型キメラのうち一際大きい個体が降下してくる。
 夕景が拳銃と真刀を手にして空に歯を剥いた。
「お前がボスかぁ!!」
 降下してくる大型凧型キメラに対して夕景は足を止めて迎え撃つ。
 大型凧型キメラの腹部にも爆弾が装備されている。個体が大きいだけあって爆弾も大きい。
 千草からは夕景の姿は爆撃機に対抗する小型対空機関砲のように見え、即座に支援攻撃を行うことを決める。
「ほらボスがおいでなすった。こいつでしとめるよ。夕景ぃあたんじゃないよ」
 急降下爆撃を行う爆撃機のように降りてくる凧型キメラを夕景は見据えながら、敵が攻撃範囲に入ったらスキルを併用しての近接攻撃を仕掛けるつもりになり、敵の気勢を読み始める。爆撃を回避しての攻撃だからタイミングを間違えると木っ端みじんだ。
 凧型キメラは爆撃機のよう鈍重に降下するようにみえたが、突然、平べったい身体を歪めて、姿勢変化、空気抵抗の少ない形状になって、落下速度をまして降下し始めた。
 速度の変化に夕景はとまどう。
 だが、千草はその行動もまた読んでいた。千草のスキル<強弾撃>が発動、出力を増幅させられたSMG「スコール」からの銃撃が凧型キメラの身体を貫き、その飛行姿勢を傾けさせた。
「いまだ、支援攻撃」と千草がアルストロメリアとユーフォルビアに指示したときには2人の手元から凧型キメラに電撃が投射されている。
「落ちろー落ちろー」とユーフォルビア。
「これで終わりです、晩ご飯の仇」と食べ物の恨みを忘れていないアルストロメリア。
 そして凧型キメラは能力者によって攻撃を封じられたまま下降を続けて、ついに夕景の攻撃範囲に入ってしまう。
 この瞬間、夕景は逃さない、待っていたのだ。
 夕景は河原から跳躍する。青いオーラが空中に残像を描きながら凧型キメラとニアミス、そして着陸した瞬間、凧型キメラは空中で真っ二つに裂け、その片割れは川に墜落して水柱を上げ、もう片割れは河原に墜落して土煙を上げた。
「凧を粗末にするやつは僕が許さない」
 そういって夕景は直刀を収めた。いまのキメラが最後の個体らしく空はまっさらの青が広がっていた。

●03
 戦いが終わったあと、せっかくということで能力者は凧揚げを楽しんだ。正確にいえば凧揚げになにか執着のあるという夕景が楽しみ、凧型キメラの浮遊を楽しんでいたユーフォルビアが今度は本物の凧も楽しんだということだ。
 アルストロメリアといえば、食材を無駄にさせられたことをいまだに悔やんでいるようだった。
 しゅんとしているアルストロメリアに千草は薄く微笑んだ。彼女には悪いが、少々可愛らしい表情と思ったのだ。だからというわけでもないが、千草は今日の戦いをともにした仲間たちに呼びかける。
「ふん 楽勝だったねいい訓練になったわ。さてみんなお腹すいてないかい。どっか食べに行くかい。お姉さんがおごってあげるよ」
 体育座りで「の」の字を書いていたアルストロメリアがぴょんと立ち上がって、わーい、と歓声を上げ、遠くの方で凧を揚げたり、それを鑑賞したりしている夕景とユーフォルビアが千草のほうへ歩いてくる。
 戦いの時間は終わった。