●リプレイ本文
●調査
「此処からでも見えるとは‥‥なんと奇っ怪な‥‥」
大分遠いところに居るはずなのに、黒い毛虫がうぞうぞ動いてるのが確認できる。
それを見て、オットー・メララ(
ga7255)が後ずさった。
その後ろでは、飯島 修司(
ga7951)が妙に感心している。
「おぉ、意外と牧歌的な光景かも‥‥?」
「牧歌的か? 鳥肌が立ちそうだ。‥‥きっつい害虫駆除だなこりゃ」
虫が苦手な鈍名 レイジ(
ga8428)は思ったまま不快感を口にする。
「1mはありますね‥‥」
加賀 弓(
ga8749)の何気ない一言に、ただでさえ引き気味だったオットーが更に後ずさる。
「い、1mの毛虫で御座るか?‥‥普段でも毛虫は苦手で御座るのに‥‥」
っていうか、毛虫が大好きな人って居るんだろうか。
そう思いながら青山 凍綺(
ga3259)が頷く。
「毛虫ですか‥‥私も虫は嫌いだけど、毛虫って、飛んだり、カサカサって素早く動いたりしないから、まあ、いいとこもありますよね!」
‥‥その飛んだりカサカサ素早く動く虫ってのはゴから始まる四文字の名前の虫の事を言っているのだろうか。
だが確かに「あの虫」と毛虫なら毛虫の方が格段に動きは落ちるから、まだこちらの方がやりやすい相手かもしれない。
「私も毛虫‥‥嫌いなのよ。今回は、辛いわ」
「毛虫に苺に木人‥‥バグアの奴らめ、もう何でもありで御座るな」
もぞもぞ動く毛虫を横目で確認しながら神森 静(
ga5165)がため息を吐き、オットーが苦々しげに呟く。
「‥‥毛虫か。緑のじゃなくて良かった‥‥」
アオイラガの幼虫、通称オコゼに指されて痛い目を見たことのあるデル・サル・ロウ(
ga7097)もそう言い、ため息を吐いた。
どうやら、皆そろいもそろって毛虫が苦手なようだ。
「しかし毛虫か‥‥そのままほっといて成虫キメラになったらもっとでかくなるんだろうか?」
龍深城・我斬(
ga8283)がそう言い、傍から見ても何だか黒い桜の木をしげしげと眺める。
「あ、それ、私も思っていたのですが‥‥。毛虫キメラも蛹を経て成虫になるものなのでしょうか」
弓もそう言いながら首を傾げた。
‥‥‥‥。
沈黙が落ちる。
全員真剣に考え込んでいる。
もし成虫になったら機動力が格段に上がるんじゃないだろうか。
酸を吐く能力が残ってたとしたら、頭上から酸を吐ける様になるのでは?
これは、結構危険なんじゃないだろうか。
「あぁ、いえ。単なる個人的な疑問ですので忘れてください」
「いや、早く倒しましょう!」
弓の言葉を制し、ちょっと青ざめた凍綺が慌てて言った。
●VSもしゃもしゃ
遠くから見える毛虫は遠距離攻撃で攻撃する。
「的が大きくて助かったでござる‥‥」
オットーが苦笑しながら呟く。
射撃があまり得意ではないレイジも、スコーピオンを使い、2発3発と毛虫に銃弾を打ち込んでいく。
だが、二匹は地面に落とせたが、他の毛虫は危険を察知して、打たれにくい方へ移動してしまった。
「‥‥仕方ない、囮作戦で行くか」
龍深城がそう呟き、銃を一旦しまった。
その時、静が「えいっ」と掛け声と共にぬいぐるみを桜の木の下に投げた。
「‥‥‥何してるんですか?」
凍綺が首を傾げ、静に尋ねる。
「いえ、囮にならないかな、と思ったんですが‥‥上手くいきませんね」
一向は双眼鏡を使い残ったキメラの位置を確認し、それに従い、囮が駆け抜けるルートや待ち伏せるポイントを決めた。
囮班はオットーと修司。
全速力で木の下を駆け抜け、落ちてきた毛虫を待ち伏せ班が片付ける。
酸の危険が大きかったが、対策はしてあった。
「ほ、本当にこんなんで酸を防げるので御座るか?」
修司に渡されたレインコートを体に巻きつけたオットーが不安気に訊く。
「大丈夫ですよ。‥‥多分」
「多分!?」
UPC本部に連絡し、酸性粘液対策として工業用ゴム製シートを申請しておき、簡素なレインコートを作っておいたのだ。
ちなみに、ゴムシートを渡す時に職員の人が「?」って表情になってたが、まあ、気持ちは分からなくもない。
「じゃ、じゃあ行くでござるよ!」
オットーが意気込み、修司と共に桜の下を全速力で駆け出す。
ぼとぼとぼとぼとぼとぼと。
「ひぃぃ! 毛虫が毛虫が毛虫がぁぁぁ〜!!!」
さり気なく大きい毛虫に混じって普通の毛虫も降ってきていたが、そこに反応する余裕はない。
「飯島殿ぉ〜! 後ろ後ろっ〜!」
オットーが半泣きになりながら修司の背後を指差す。
「うわっ!?」
包囲されそうになったので、慌てて瞬天速を使い脱出する。
泣きそうになりながらオットーがその後に続く。
「囮班が通過した。行くぞ」
レイジの左目が赤銅色に輝き瞼がヒビ割れる。
殲滅班が攻撃できる場所まで距離を詰める。
それに気付いた毛虫がうぞうぞと寄って来る。
「キャアアア!?」
先程自分が投げたぬいぐるみに毛虫がたかったのを見てパニックに陥った静が、悲鳴を上げながら飯島に飛びつく。
「お、ちょっとコレ役得ですか?」
静のナイスバディを押し付けられ、飯島の顔がついにやける。
だが、次の瞬間
「! キャアアアアア!? いいい飯島さん! 顔に毛虫が!?」
静が飯島の髭を見て悲鳴を上げ、飯島の髭をむしり取ろうとした。
「いや、これは髭ですって‥‥」
苦笑して飯島が静を引き剥がす。
「‥‥ぉ、驚かせるなよ」
会話を聞いていたレイジが引き攣った笑みを浮かべた。
何とか呼吸を整えて落ち着き、静も覚醒する。
「見るのも嫌だが、そうも言ってられないな。害虫退治は、すばやく実行あるのみ」
そう言い、武器を構える。
いつもは接近戦だが、今回は弓を使うことにしたらしい。
そんなに毛虫が嫌いなんだろうか。
『ギュィイ!』
毛虫がオットーに向かって酸を吐いてくる。
何とか避けるが、飛沫が若干飛んできてレインコートに当たる。
レインコートの表面が溶け始めるが、まだ保ちそうだ。
それなりに効果があったらしい。
「酸のお返しで御座る! しかと受け取れっ!」
ショットガン20を毛虫に向って撃つ。
毛虫が銃創から体液を撒き散らしながら蠢く姿は、なかなかにエグい。
「うぅ‥‥気持ち悪いで御座るよ〜」
やはり毛虫は好きになれそうになかった。
「加賀さん後ろだ!」
メガホンでデルが弓に注意を促す。
慌てて弓が振り向くと、丁度毛虫が酸を吐こうとした所だった。
「きゃっ!?」
慌ててデヴァステイターから氷雨に持ち替え、応戦しようとした所にシールドを持った龍深城が入って来て、酸をシールドで防いだ。
「盾が溶けなければ良いのだが‥‥」
龍深城がぼやくが、今のシールドの状態を見る限りそこまで心配する必要も無さそうだ。
SESのお陰だろう。しかし、戦闘が終わったら洗浄しなければならないだろうが。
「よし、間合いに入った、後は任せろ!」
デヴァステイターを構え、毛虫に向って撃つ。
一瞬で毛虫の体に無数の穴が開いた。
背後から別の毛虫も迫ってくるが、すかさず弓のデヴァステイターが毛虫の腹を撃ち抜く。
耳障りな喚き声を上げながらのた打ち回る毛虫に、銀髪となった凍綺の蛍火が迫り、一瞬の内に両断される。
「よしっ! 次っ!」
順調に毛虫の数を減らして行く。
デルのライフルが命中した毛虫に、レイジがツーハンドソードを持ち、攻撃を仕掛ける。
できれば酸も体液も浴びたくないため、あまり接近戦に持ち込みたくは無かったが、そうも言っていられない。
「くっそ‥‥仕方ねぇ、覚悟しろよ‥‥ッ」
ため息を吐き、しっかりツーハンドソードを構えた。
●後片付けも大切です
皆色々我慢した甲斐があり、毛虫は殲滅できた。
それで終わりにしたい。
終わりにしたいがそういう訳にも行かない。
「‥‥こりゃ戦闘よりもキツそうだ」
四散した毛虫や、一応原型は留めているが体液をだくだく垂らしている毛虫の死骸を見ながらレイジがぼやく。
「皆様、お疲れ様でした‥‥臭いものには、ふたですね?」
クスクスと笑いながら、静がデル達と一緒に毛虫を埋める。
1匹目を埋め、2匹目が転がってる場所へ移動しようとしたその時、
「きゃんっ!」
静が毛虫の体液をもろに踏み、転ぶ。
その時黒い下着がチラッと見えた。
「‥‥‥‥」
一同が絶句する。
「‥‥」
静も固まる。
「い、いや、何も見てないでござるよ?」
「あ、ああ、何も見てないぜ?」
オットーやデルが口々に否定する。
「な、なら‥‥良いんですけど‥‥」
何となく気まずくなりながらも、皆それぞれの作業に戻った。
「痒い‥‥怖い‥‥かゆ‥‥こわ‥‥」
手がちょびっと(本当にちょびっと)かぶれてしまったオットーがぶつぶつと呟きながら毛虫を埋めていく。
「大丈夫ですかー、オットーさん」
修司が苦笑しながら話しかける。
「‥‥トラウマになりそうで御座るよ‥‥」
「早く帰って着替えたいですね‥。私も暫くは、樹の下を通る事がトラウマになりそうです‥‥」
苦笑しながら凍綺が言う。
「ああ‥‥」
先程接近戦を行ったときに付着したのであろう、衣服の染みを見つけたレイジががっくりと項垂れ、武器を拭きつつ答える。
同時に、武器を拭いていたほうの手の指先に痒みを覚えた。
「‥‥ここでは花見はしたくないな」
思わず苦笑する。
「でもこういうのって毎年恒例とかになりやすそうだよな」
龍深城が呟く。
「‥‥‥‥」
龍深城の呟きに一抹の不安を感じながらも、一向はその場を後にした。
来年は羽化してたらどうしよう‥‥。と、思ったりもしたが、それを口にする者はいなかった。