●リプレイ本文
●謎の言い伝え
九州の離れ小島にて事件が起きたが、キメラが出現したという知らせが本部に入り、8人の傭兵達が現場へと向かっていた。
「今回の依頼では情報が不足していますわ。まずは情報収集するのが先決ですわね」
アリオノーラ・天野(
ga5128)は現場付近に辿り着くと、皆にそう告げた。A班、B班、C班に分れて調査することになった。
「とあるトンネルで化物が出現して、警察官も何人か行方不明になったらしいけど、俺はアリカ君と一緒にまずは地元の交番で聞き込みしてみる」
A班の番 朝(
ga7743)が言うと、紅 アリカ(
ga8708)は無言で頷いた。二人が地元交番へ行くと女性巡査がさわやかな笑顔で出迎えてくれた。
「あら、どうされました?」
「ここら辺で噂のトンネルがあるって聞いたんだ。それってどこにあるか知りたくて」
番の言葉に、女性巡査は怪訝な表情で答えた。
「そう言えば、この間も女の子がトンネルのことを言って‥危険ですから、気をつけて下さいね」
「‥‥女の子?」
紅が呟くと、ひょっこりと一人の少女が姿を現した。
「こんにちは〜」
「瑠美子ちゃん、また来たの? 出歩いてばかりいるとお母さんが心配するわよ」
女性巡査が心配そうに言うが、瑠美子は至って元気だ。
「でもさー、夢トンネルに行った人のことが気になるんだもん」
「‥‥夢トンネル?」
紅は少女の言うことが気になり、番の方へと顔を向けた。すると、番は自己紹介した後、瑠美子に尋ねた。少女の話によると夢トンネルから自分の好きな場所へ行けると言う。
「瑠美子君は行きたい所あるのか?」
「うん、妖精の国。お姉ちゃん達は行きたい所ある?」
「ばっちゃんと友達の所だ。今は約束あるから行けないけどな、それなくなったら行くんだ」
子犬のような笑顔で番は言うが、紅は聞き込みに専念するため黙って二人の話を聞いていた。
「私もねー、お母さんと約束あるから行けないんだ。でもねー、ここの地方には前から夢トンネルの噂があったんだよ。うーんと昔は神様が祭られてたっていう話もあるよ」
瑠美子は無邪気に笑った。番も自然と微笑む。
「海の神様か?」
「そうだよ。よく分かったね」
「この島は漁師が多いって聞いたから海の神様を信仰してたのかなって思ったんだ」
番は瑠美子の話をさらに聞くため、こう告げた。
「海の神様ってどんな姿してるんだ?」
「えーっとね、緑色の巨人だったかな? 肌がね、鱗になってて凄く固いんだって。神様って言っても人をさらうこともあるって聞いたことあるよ」
「‥‥なるほどね」
紅は少女の話を聞いて、現場に出現した緑色の巨人と関係があるのではと思っていた。それは番も同様だった。
「ありがとう、瑠美子君」
「お話の途中、すみませんが、トンネルには絶対に入らないで下さいね」
女性巡査は念を押すように言うが、番と紅は表向きは「はい」と答え、瑠美子を自宅まで送ることにした。
一方、B班の翡焔・東雲(
gb2615)とソルナ.B.R(
gb4449)は本部から貰った地図を頼りにトンネル付近の外側を調べていた。
「大型トラックが一台通れるくらいの幅だね。高さは7メートル、長さは約600メートルで真っ直ぐに伸びてる‥挟み打ちで狙った方が良いかもしれないさね」
ソルナは2つのプランを想定していたが、少しでも効率の良い手段にすることにした。東雲が予想していた通り、トンネルの風抜き穴や外部へと続く通路があることも分かった。
「もしかしたら‥行方不明になった人達は通路から外へ逃げ出したか、最悪の場合‥」
東雲は思わず先の言葉を言うのを少し躊躇った。気取らず男っぽい面もあるが、彼女は他人の心の痛みが分かる故、最悪の場合を想像して内心は心が揺れ動いていた。だが、すぐに気を取り直す。
「いずれにせよ、このトンネルにキメラが出現した可能性が高いって本部からも連絡があったからな。キメラが出るってんなら退治するだけだ」
「そうだね。ま、実際に突入するには全員の情報が集まってからでも遅くはないさ。合流まで時間もあるし、トンネルの外から通路口を調べてみるかい?」
「ああ、念の為、調べてみよう」
二人はトンネルの脇沿いから通路口まで歩く。そこにあったものは喰い尽された『もの』だった。
「どうやら、最悪のケースだね。神隠しの正体は実際、こういうものもあるさ」
ソルナはバグアの企みを思い浮かべ、顔つきが変わっていた。
同じ頃、C班は二手に分れてリサーチしていた。周太郎(
gb5584)は友人の天野と一緒に村人から話を聞いていた。本部から申請した地図を手に持ち、地道に情報を聞き、それをメモに書き止めていた。
「アーリィ、どうやら行方不明になった人達はそれぞれ職業も年齢も共通点がないが、やはり『トンネル』で自宅に帰っていたのは本当だったみたいだな」
「さすがに警察からは守秘義務で行方不明者の住所まで教えてもらえませんでしたけど、村人に聞いた方が早かったですわね」
天野はそう言いつつ、遠くから聞こえる波の音を聞いていた。
「ここの港から見た海は綺麗でしたわ。折角ならゆっくり来たかったですわ」
「とか言いながら、アーリィは熱心に調査してたよな」
「別に私は普通ですわよ」
天野は冷静な表情ではあったが、眼を背け、指で髪をいじっていた。
別のC班‥ノーン・エリオン(
gb6445)と九条・縁(
ga8248)は地元の漁師達を見つけ、海辺付近で聞き込みをしていた。ノーンが親しげに話しかけると、漁師達は「なんだ?」という表情をしていたが、話していくうちに打ち解けてきたのか、いつのまにか港の隅で取り立ての魚を刺身にするから喰っていけと言われてしまった。ノーン達は情報収集のため、漁師達が振舞ってくれた刺身を食べながら、それとなく島の言い伝えを聞いてみた。
「過去に島で神隠しなどが起こったことはないかな? 神隠しに関わらず印象に残るような事件とかあれば教えてくれると有難いな」
ノーンが質問すると、隣にいた漁師が不思議そうな顔で答えた。
「お前さん達、歴史の調査でもしてるんかい? 神隠しの伝説はな、この島には古くからあった。そういや、最近ではトンネルで行方不明者が続出してるらしいな。この現代で、まさかなぁ」
「トンネルか‥別の所も調べてみるかな。縁さん、続きは任せるよ」
ノーンはそう言いながら立ち上がると、走り去ってしまった。縁は引き続き、漁師達から話を聞くことにした。
「トンネルの噂は俺も聞いたことがあるぜ。海でも変ったことはなかったか?」
「いんや、海は特に変わったことはないね。今年も去年と同じくらい魚も取れるしな。最近はもっぱらトンネル騒動で村人も怖がってるな。正直、ワシも怖い」
「そりゃそうだろうな。化物が出たとかも聞いたしな」
「そうそう、逃げ遅れた警察官によると緑色の巨人が出たとか‥昔からの言い伝えだと海の守り神だったんだが、これも天罰かね」
「天罰?」
「ワシら人間は自然を破壊しまくった。それで神様が怒っても不思議ではないと思ってな」
「そういうことか。トンネルの噂は誰が言い出したか分かるか?」
縁が尋ねると、誰一人として知る者はいなかった。
別行動していたノーンは学校で子供達に話を聞こうと思い、門の前に立っていた教師に挨拶したが、最近の騒動で過敏になっているのか、文字通り門前払いされてしまった。そこで広場へと行き、公園で遊んでいる子供達に話しかけてみた。案の定、子供達の間では『夢トンネル』の噂が定番になっていた。ノーンは警察の動向に注意しながら、子供達に『夢トンネル』について色々と聞いてみた。すると、そのトンネルでは好きな所へ移動できるとか、神様にさらわれるとか、化物に食べられるとか、様々な意見が聞けた。
「教えてくれてありがとう」
ノーンが礼を告げた途端、自転車で見回りしていた警察官が近寄ってきた。ノーンが怪しい人物に見えたらしい。職務質問され、ノーンはどう答えようか迷っていた時、天野達がやってきた。適当に誤魔化した後、合流先のトンネルへと向かうことにした。
●突入
全員が合流し情報の整理をした結果、ソルナと天野の提案でトンネルの両側から挟み打ちにしてキメラを退治する作戦にした。トンネル付近は地元警察が警戒していたが、本部から傭兵を派遣する話を聞いていたこともあり、ソルナ達は警察の協力を得て、キメラ退治に専念することができた。
「バグアが裏で手引きしてたって訳か」
縁は腹立ちを抑えきれず、拳を握りしめた。トンネルの入口(警察側)からはA班とC1班、出口(村の反対側からみれば入口)から突入したのはB班とC2班となった。トンネルの照明は全て破壊されていた。それを予想してランタンや提灯を持ってきた者が多かった。中央付近に差し掛かると、ガサガサと何かが蠢いていた。天野がランタンで、周太郎が提灯でその方向へ灯を照らすと、3メートル前後の巨大ムカデが暗闇から不気味に浮かび上がる。
「出ましたわね。緑色の巨人は‥?」
その刹那、前方から銃声が響いた。どうやら緑色の巨人も出現したらしい。ムカデと巨人は傭兵達に挟み撃ちにされ、逃げ出すことができなかったが、本能のままに暴れだした。ノーンは射程内にいる翡焔とソルナに練成強化を施すと、後方へと下がった。まずは牽制でソルナがフォルトゥナ・マヨールーで弾丸を放ち、その銃声を天野達の班が聞いたのだ。
ソルナはさらに銃を連射‥懐中電灯を左手に持ち、緑の巨人に狙いを定める。
「私にも幸せをくれるって言うのなら、貴様の断末魔を聴かせてくれ‥そいつが私の幸せさ」
冷やかな眼差しをキメラに向けるソルナ。九条は東雲から借りたランタンを持ち、皆の援護に入る。すさかず二刀小太刀「疾風迅雷」で流し斬りを放つのは東雲だ。二刀小太刀の使い手でもある東雲の得意技が炸裂する。巨人の鱗が弾け飛び、徐々に壁際へと追い込まれていく。
東雲が攻撃している間にソルナは妖刀「赤光葛葉」を構え、巨人に接近すると円閃を叩き込んだ。それが止めになったのか、巨人の咆哮が響き渡り、血飛沫が飛び散り、地面に重く倒れた。
「良い声、聴かせてもらったよ」
ソルナ自身も巨人の攻撃で右肩を噛み付かれていたが、ノーンが気が付き少し離れた場所から練成治療を施す。
「よーし、よし。傷は治った。俺は隠れて応援しているよ!」
残念ながらトンネルの中には隠れる場所はなかった。ノーンは意外とお茶目なのか、それとも‥? 戦闘中でもノーンはトンネル内部を観察していた。
「巨人は倒れたようだね。後はムカデかな。それにしても妙な組み合わせだな」
ノーンがそう思うのも分かる気がする。巨大ムカデに対しては紅と番、周太郎と天野の4人が応戦していた。紅が中衛位置から真デヴァステイターで威嚇射撃し、周太郎がSTIカスタム「メガロマニア」で足止めしていた。天野はムカデの頭部をエネルギーガンで狙い撃つ。3人の援護攻撃により、番は祖母の形見の大剣「樹」を両手に持ち、豪破斬撃を放つことに成功した。攻撃は命中し、巨大ムカデの動きが止まった。その隙に紅がガラティーンと名刀「羅刹」で二段撃を放つ。
「‥‥誰であろうと、穿ち貫く‥‥それだけよ」
紅の狙いはムカデの首部分であった。切り裂き、キメラの頭部が弾け飛び、ノーンの足元まで転がっていく。思わず隠れる場所を探すノーンであったが、ふとトンネルの中央付近に鉄格子の扉があることに気がついた。そんな彼の動向もあったが、戦闘はまだ続いていた。頭がなくなったムカデは支離滅裂に動き回っていた。天野はレイ・エンチャントを使用しエネルギーガンでムカデの胴体を攻撃する。
「全力、全開‥‥逃がしませんわ!」
攻撃が当たり、周太郎がムカデの胴体に密着しロングソード「パラノイア」でスマッシュを放ち、さらに円閃を叩き込む。止めを刺したのは番の紅蓮衝撃による攻撃であった。瞬間的に体全体が赤いオーラに包まれたが、ムカデが息絶えると同時に番のオーラが消えた。無表情だった番が、いつもの調子に戻った。
「特別な攻撃はされなかったけど、行方不明になった人が気になるな」
番が思い出したように言うと、ノーンが戦闘中に発見した扉を皆に報告した。そこへ行き、扉を開けると‥人工的に作られた長方形の部屋の中に錆びた鉄パイプが並んだ装置が見つかった。何の装置かまでは分からなかったが、行方不明になっていた警察官二人が倒れていた。二人はどうやら気を失っていたが、傷を負っていた。ノーンが練成治療を使うが、それでも完全に治癒できなかった。救急セットを持っていた番が傷口を消毒薬で拭き、包帯を巻いていると一人の警察官が目を覚ました。
行方不明になった警察官2人を助けることができたが、他の者達はキメラの犠牲になっていた。ソルナがトンネルの外に残骸があったことを告げ、無線機で警察達に報告した。
最終日、事件が解決したことが村中に広まった。周太郎は帰る前に紅から瑠美子の自宅の場所を聞き、少女と話したかったが、母親は事件のこともあり、少女を誰にも会わせたくないと丁重に断られてしまった。
「神話やファンタジーとか結構好きだから、色々聞きたかったが‥仕方ないか」
母親の気持ちもよく分かったため、周太郎は無理強いすることはしなかった。キメラを退治することはできたが、犠牲になった者は戻ってこない。だが、番は遺品があれば持ち帰りたいと思い、トンネルの外へと続く通路へと入っていた。そこには指輪、腕時計、靴、ブレスレットなどが落ちていた。それを拾い、番は地元警察へ渡すことにした。
思い出は消えない‥それは番もよく分かっていた。形見の剣を見る度に思い出が蘇る。最初は辛いが、生きている証と想いは消えない。人の心は消えないのだ。たとえ土へと帰る日が来るのが分かっていても‥。